集う精鋭
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黎一たちを乗せた馬車は、小高い丘に近い街道で停まった。
窓から彼方を見れば、丘のふもとに天幕や人だかりが見える。どうやら、ここからは歩きらしい。
「……準備はいいな?」
アイナの言葉に、黎一は己の装備を確かめる。白のチュニックとトラウザ、防具は革のベストに手袋とショートブーツ。腰のベルトには”お焦げちゃん”こと、歯車を仕込んだような鍔を持つ直刃の片手半剣。いかにも冒険者といった出で立ちだ。
蒼乃も黎一とほとんどお揃いだが、下半身はショートキュロットと黒のレギンスでまとめている。腰のベルトには、先端に黄水晶を飾り付けた銀色の短杖を下げていた。
(ま、変えてないのは見た目だけだがな)
二人ともぱっと見は、転移した時に支給された制式装備だ。
だがいずれの品も魔力を宿した水で鞣した革を用いており、急所の部分は裏地に魔法を弾く軽金属である響鳴銀を仕込んである。
級友たちや他の冒険者のやっかみを受けたくないがために、あまりにあまった資金で作らせた特注品だった。
「また、えらく金をかけたな」
アイナがくすりと笑う。モノの良さを、一目で見抜いたらしい。
かく言うアイナの装備はいつも通り、深いスリットが入った貫頭衣に黒のレギンスだった。腰間には、柄が環頭になった片刃の長剣。貫頭衣の下には、胸甲鎧を着込んでいるはずだ。
(前の事件じゃ、ヤバい攻撃食らっても生きてたし……。この人の装備も結構、金かかってるんだろうなあ)
「行きましょ。もうみんな集まってるみたいだし」
蒼乃はそう言うと、さっさと馬車を下りていく。どうやらまだ、機嫌は治っていないらしい。
苦笑するアイナとともに馬車を降り、歩くこと五分ほど――。遠目に見えた人だかりの形が、徐々にはっきりしてくる。
(……っげ、あんなにいるのかよ)
丘のふもとは、ちょっとした駐屯地になっていた。無数の天幕が張られている中に、何人もの冒険者姿が屯している。
外縁部では鍛冶師やら飯屋やらが露店を出しており、さながらお祭りの雰囲気だ。おそらく近隣の村人たちが、人だかりを当て込んで出張ってきたのだろう。
「さて。指揮官殿に、挨拶をしておかないとな」
アイナはそう言いながら、ずんずんと駐屯地へと進んでいく。
その陰に隠れるようにしてついていくと、冒険者たちの視線が一斉に黎一たちへと向いた。
「おい、あれって……」
「国選勇者隊ってやつ? 初めて見たわ」
「あ、蒼乃さんたち着いたみたい」
「おいでなすったか……」
「八薙、ほんと雰囲気変わったな……」
(だからホントこういうの止めてもらっていいすかねマジで)
聞こえてくるのは羨望や珍しさ、そして畏怖の声。屯していた人だかりは、誰からともなく道を空ける。
先の騒動でも散々洗礼を受けたが、未だに慣れることがない――。
「……八薙くん、お疲れっ!」
そこまで考えた時、聞き覚えのある声がした。見れば鉢金帯を巻いた長身茶髪の爽やかイケメンが、笑みを浮かべて近づいてくる。
天叢翔――。ともに異世界へと転移した、黎一の数少ない友人である。ひねくれた黎一すら受け入れる懐の深さも相まって、異世界に来てからも級友たちのまとめ役を担っている。
「おう、天叢も出んのか」
整った顔立ちを見上げながら、挨拶代わりのハイタッチに応じる。ちらと装備を見てみると、制式装備の他、鉢金帯と羽織に似た長衣。両腕には、魔法の発動体と思しき宝石を飾り付けた拳甲を身につけていた。
(装備に金を回すくらいのゆとりはできたみたいだな。で、天叢がいるってことは当然……)
「……あら。皆さま、到着されてたんですね」
予想を裏づける淑やかな声は、天叢の後ろから聞こえた。見れば栗色のウェーブロングをまとめた和風美人が、静々と歩み出てくる。
四方城舞雪――。天叢の一対にして彼女だ。傅くように振舞ってはいるが、実は四方城が主上だったりする。
「よっもしろさぁ~んっ! ひっさしぶり~!」
「蒼乃さん、お久しぶりです。……今日は、皆さまが作戦の主軸なんですよね?」
女子らしく和気藹々とした後、四方城が問うてくる。級友相手にも丁寧語なあたり、いかにも名家のお嬢様らしい。
装備は天叢とお揃いの鉢金帯に、要所を金属防具で補強した緑の武道着と、袴に似たワイドパンツ。身の丈を超えた薙刀を背に負った姿は、どこぞの軍神に見える。
「あ~……うん、まあね。でも中央の遺跡は魔物出ないはずだから、ほとんどおまけみたいなもんだけど」
「それでも大抜擢でしょ? さっすが国選勇者隊、って感じじゃん」
言葉を濁す蒼乃を、天叢が誉めそやす。
フィーロの作戦参加は、他の参加者には伏せられていた。魔力を打ち消す力が知れ渡れば、必ずやフィーロを狙う者が現れる。万一フィーロが脅されて力を振るうようなことがあれば、どんな惨事が起こるか分からない。故にこそ、二段構えの作戦なのだ。
(ウソついてるわけではねーが……。なんなんだ、この妙な罪悪感は……)
「……あっ、いたいた! る~な~!」
もどかしさに苛まれる思考に、あっけらかんとした女子の声が割り込む。かと思うと、小動物を思わせる茶髪ボブの女子が蒼乃に抱きついた。
光河由佳――。これまた共に転移した、級友のひとりである。上半身こそ制式装備に長衣、右手には木製の長杖と魔法士の基本装備だ。しかし問題は下半身で、丈を限界まで詰めたミニスカートにロングブーツときている。
(冒険者って自覚あるのか……? つーか、光河がいるってことは……)
「ハッ……。集合時間すれすれに到着とは、ずいぶんといい御身分じゃねえか」
厳めしい声とともに、天叢を超える巨漢が歩いてくる。今日は予想がよく当たる日らしい。
御船大剛――光河の彼氏兼、一対の主上だ。クラスどころか、学年のカーストトップに君臨していた男である。
「いいじゃん、別に遅れたわけじゃないし」
「だいご~? そんなにギラギラしてどしたん~?」
蒼乃と光河の言葉は意に介さず、御船は黎一を睨みつけた。
巨躯に纏うは鎖帷子と胸甲鎧、金属で補強した革の篭手具足。背中には、剣を模したシルエットを持つ黒い戦刃槌を負っている。顔の造形のいかつさもあって、勇者よりは巨鬼と呼ぶほうが相応しい。
「……オレは認めてねえからな」
(認めてくれなんて言った覚えはねえよ)
もちろん、口に出して反論する勇気はない。
気だるげに視線のみを送ると、御船の眦がさらにつり上がる。
「この作戦は、国選勇者隊の二次選抜も兼ねてる。今いる級友はみんな希望者ってことだ」
(なるほどね。妙に騒がしいと思ったら、そういうことか……)
国選勇者隊が発足されてこの方、その報酬制度を羨む者は多い。
まして御船は、自身の強さに自信を持っているタイプだ。ハズレの能力を引いた陰キャが、自分の上にいるのが許せないのだろう。
「なにもテメエだけじゃねえ……。すぐに追いついてやる」
それだけ言い捨てると、御船はさっさと人混みの中に消えていく。その様を見た光河は、小さくため息をついた。
「ごめんね、前の事件からずっとこの調子だからさぁ。ま、でも……」
光河は黎一と蒼乃を交互に見ると、面白そうに笑った。
「一応、ライバルポジは狙ってくから。そこんとこ、よろしく」
「ずいぶん、積極的になったじゃん」
「そりゃあもう。どっかの誰かさんたちみたいに、いい暮らししたいですし? すぐに帰れないなら、疑ってかかったって仕方ないしね」
苦笑する蒼乃に、光河はこれまたあっけらかんと応じる。天叢と四方城も、気合十分といった体で黎一たちを見ていた。
国選勇者隊という勇者たちへの飴は、どうやら有効に機能しているらしい。
(報酬はともかく、屋敷は国選勇者隊と関係ねえんだけどなあ)
などと心の中でぼやいていると、いつの間にか離れていたアイナが甲冑を着こんだ女性と歩いてくる。
夏の太陽に照り映える金髪の四連お嬢様ドリルもとい縦ロールには、見覚えがあった。
「国選勇者隊の皆さま、遠路お疲れ様でございました。作戦説明のため、お時間を頂いても?」
「作戦……? えっ、ひょっとして……」
(指揮官って、あんたなの……?)
黎一と蒼乃は、気品ある高い声の甲冑女――ロベルタをまじまじと見つめた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
お気に召しましたら、続きもぜひ。




