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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第二章 俺と彼女が、少女のカタチに気づくまで

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道は続けど

お読みいただき、ありがとうございます!


23/10/11

二章改稿に伴い、旧47部分を分割しました。

話の大筋は変えてませんが、会話の内容は少し変えています。

 結局フィーロは「れーいちといっしょにねる」と言って聞かず、寝かしつけまで黎一がやる羽目になった。

 ようやく寝かしつけて居間に戻ると、蒼乃がソファに突っ伏している。ホットパンツ型の部屋着から覗く白い脚が、妙に艶めかしい。

 

(寝たいけど……。ほったらかして寝たらキレられそうな気がする)


 仕方なく、対面のソファに腰を下ろす。

 すると蒼乃は突っ伏したまま、もぞもぞと動き出した。


「子育てって、こんなに大変なの……? 弟や妹の面倒で、慣れてたつもりなんだけどなあ」


(いやショックなのは分かるけど。お前、今日なにもしてないだろ)


 蒼乃のぼやきを、心の中で斬り捨てる。

 実際、今日の家事分担は逆転どころか、すべて黎一がこなしていた。昼は露店を駆けずり回り、午後は仕事の打ち合わせ。夜は炊事洗濯、掃除に子守。そして今は、相方の愚痴聞き役ときている。中々のハードワークだ。


(これのどこが勇者だよ。現代社会のお父さんと変わんねーぞ……)


 勇者(ブレイヴ)の身体能力も相まって、体力には自信があった。しかし今日ばかりは、活性快体(ヴァイタライズ)がなければ動けなくなっていたかもしれない。魔物討伐や迷宮(ダンジョン)攻略でもしている方が、よほど気楽である。


(つっても、今なんか言ったらまたキレるだろうし)


 母より賜ったありがたい教訓を思い出し、そのまま耳を傾ける。


「はあああ~っ……。こんなことしてて、なんになるんだろ。いつになったら、元の世界に帰れるわけ?」


(少なくとも、生活する金にはなってるぞ)


 この屋敷も、フィーロとの生活のために王国が貸与してくれたものだ。しかも家賃は無料である。

 収入面に関しても国選勇者隊(ヴァリアント)の月次報酬の他、先の騒動で得た報奨金がたんまりと残っていた。おかげで日々の食事や消耗品の類に関しては、値段を気にした記憶がない。


迷宮(ダンジョン)行っても、解析やっても、なんも見つからないし……。あ~もうっ! 全っ然、前に進まないじゃないっ!」


(たしかにそうだけど、フィロのせいじゃない)


 心の中だけで反論しながら、黎一はこの三ヶ月のことを思い出す。


『――もし剣の封印を解いたら、お前たちの知りたいことを教えてやる』


 しゃべる愛剣こと”お焦げちゃん”が遺した言葉に一縷の望みを託し、黎一たちは迷宮(ダンジョン)の攻略や情報収集に勤しんだ。

 迷宮(ダンジョン)を制覇した先には、愛剣が創られたと思しき時代の遺跡が眠っている。そこに、元の世界への手がかりを求めたのだ。


迷宮(ダンジョン)を三つも攻略すりゃ、なんかあると思ったんだがなあ……)


 遺跡こそ発見したものの、役に立つ情報はなにひとつなかった。

 定期で行っている愛剣の調査も、最近はただ面倒なだけだ。


(使える能力(スキル)が三つ増えたことと、追加の報奨金が入ったことが、せめてもの救いか)


 右手の甲にある勇者紋(サイン)をしげしげと眺めていると、不意に蒼乃の顔が黎一を向いた。


「……ねえ。今、能力(スキル)いくつあるんだっけ」


 じろりと見てくる蒼乃の視線には、有無を言わさぬ気迫がある。「せめてなんか喋りなさいよ」とでも言いたげだ。

 黎一はため息ひとつつくと、やたら重く感じる口を開く。


「十……いや、九」


 黎一の答えを聞いた瞬間、蒼乃は顔をしかめた。


「なんで数、言い直したの?」


「使いたくないのがある」


「……ガディアンナさんの能力(やつ)?」


 蒼乃の問いに、首肯を以って応じる。

 六天魔獣(ゼクス・ベスティ)――。迷宮(ダンジョン)の果てで邂逅した伝説の存在の力は、万霊祠堂(ミュゼアム)を介してひとつの能力(スキル)となっていた。だがそれを使ったのは、今までで一度だけだ。


(強力すぎる……。使っちゃいけない力だ)


 使い方を誤れば、街どころか国が(ほろ)ぶ。とある任務で一度だけ使った後、黎一は使用を禁ずることに決めたのだった。

 蒼乃もそれを見た記憶からか、小さくため息を漏らす。


「まあ、あれ見た後じゃ無理もないけど。……ねえ、前から思ってたんだけどさ」


 無言で視線を向けると、蒼乃は疲れた表情で言葉を続ける。


「その能力(スキル)って、あんたのお父さんが使ってたんでしょ? ガディアンナさんの話してた感じだと、そうだよね」


 能力(スキル)を入れ替える時に見える、祠堂の風景。遺跡での死闘の折に聞こえた声。女傑が口にした、知るはずのない名。

 それらは十年前に失踪した父・八薙(やなぎ)聡真(そうま)が、万霊祠堂(ミュゼアム)を用いていたことを暗示している。


「……それがどうした」


「ガディアンナさんもお焦げちゃんも、お父さんのこと知ってた。んで、お焦げちゃんは封印を解いたら、私たちが知りたいこと教えてくれるんだよね」


 蒼乃の顔に輝きが戻り始めた。このクラスのマドンナ様は、こうした考察話が好きなのである。


「この辺ひっくるめて考えるとさ。あんたのお父さん、元の世界に帰る方法を見つけたんじゃないのかな」


(そう考えたくなる気持ちはわかるが……早とちりすぎじゃないのか)


 蒼乃はやおら立ち上がると、笑顔で黎一の隣に座った。

 肌が、ざわりと粟立つ。


「そ・こ・で! 提案がありますっ!」


「な、なんだよ……」


万霊祠堂(ミュゼアム)のことさ、レオンさんやマリーさんに話そ? 王国が持ってる情報で、お父さんのことが分かるかもしれないじゃん。そしたらお焦げちゃんの封印、無理に解かなくてもよくなるでしょ?」


 蒼乃は、我ながら完璧なアイデア、と言わんばかりの顔だ。

 黎一は神妙な顔つきで、珍しく蒼乃の目を見た。


「……断る」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

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