破格の厚遇
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級友たちや聴衆が散開した後、黎一たちは別室に案内された。
ギルド本部とは違う、王宮としての部屋である。一見ただの応接室に見えるが窓はなく、込み入った話のために作られた場所であることが容易に想像できる。調度品の類も一切なく、縦長のソファとテーブルがあるのみだ。
そのソファには、すでに先客がいた。
「息災のようだな」
その先客――アイナは、入ってきた黎一たちを見ると笑顔を見せる。
「おかげさまで。検査、どうだったんですか?」
「見ての通り、なんともない。そなたらの水薬のおかげだ。感謝している」
蒼乃の問いに、アイナは掌を握ってみせながら応えてみせた。その姿に安堵を感じる反面、何故ここにアイナがいるのかという疑問が浮かぶ。
「これで揃ったね。はじめようか」
後から入ってきたレオンとマリーが、悠然と対面のソファに腰かける。
逡巡の末、蒼乃とアイナに挟まれないようソファの端っこに腰かけた。しかし蒼乃に詰めろとばかりに真ん中へと追いやられ、目論見はあっさりご破算となる。
そんな一連の仕草に気づいてか、レオンはふっと微笑んでから口を開いた。
「まずは先ほどの協力、感謝する。おかげで我々も面目が立った。さて、国選勇者隊だが……この場の面々で創設することになる」
「この場にいる、って……アイナさんもですか?」
きょとんとした蒼乃の問いに、レオンは鷹揚な頷きを以って応じる。
「君たち二人は力こそあれど、この世界のことはまったく分からないだろう? そこで、アイナ殿に案内役をお願いした」
「アイナさんは勇者じゃありませんけど、剣の腕は一流ですし、各国の地理や情勢にも詳しいですから! これ以上の適任はいませんよ」
レオンとマリーの言葉に、蒼乃の顔がパッと明るくなる。持ち上げられはしたものの、内心は不安だったのだろう。
「ありがとうございます! よろしくお願いしますね」
「礼を言うのはこちらの方さ。そなたのおかげで、この国に大きな伝手ができた」
「連絡員は当面、マリーディアが担当する。今は君たちだけだから、事実上の専属だ。暇を持て余したら、彼女を通してギルドの依頼を請けてもらっても構わない」
「よろしくお願いしまーす!」
周囲が盛り上がりを見せる中、黎一はさっと手を挙げる。
「……あの、ひとついいっすか」
「ん、どうしたかね?」
「俺、まだ……請ける、って言ってないんすけど」
言った途端、隣の蒼乃が肘を入れてきた。心なしか、「ちょっとなに言ってんのよ定給よ定給っ!」など言っている気がする。
レオンは少しだけ面食らった顔をしたが、すぐに笑顔に戻る。
「ハッハ、確かにそうだね。では条件を提示しよう」
そう言いながら懐からペンらしきなにかを取り出すと、テーブルの上にあった紙にさらさらと走り書きをはじめた。
「肝心の報酬の件だ。一人頭、月あたりこの金額で考えている。一人でも不服があるならば、この件は白紙とするが……どうだろうか」
冗談めかして言いながら、黎一たちに紙を差し出してくる。
覗き込んだ瞬間――。
(う、げっ……)
「……ッ!!」
「フフッ、これはまた……」
蒼乃が息を飲み、アイナが苦笑する。
紙に記された金額は、想像をはるかに超えていた。ギルドの荷運び依頼を何回分、どころの騒ぎではない。王国の依頼以外の仕事をしなくても、それなりの生活ができるだろう。
「ほ、ほんとに一人頭、この金額なんですか? これを三人で割るんじゃなくて?」
おずおずと問う蒼乃に、レオンは首肯を以って応じる。
「六天魔獣を討った者たちの時間を拘束するのだからね。もちろん王国からの依頼や緊急討伐依頼に参加した際は、内容や活躍に見合った報酬を上乗せさせてもらう」
(成果報酬まであんのかよ……)
蒼乃がじろりと睨みつけてくる。まだ文句があるのか、と言わんばかりの顔つきだ。
いくつかの想定と打算が、泡沫のごとく脳裏に浮かび上がっては消える。それらを綯い交ぜにして、落ち着ける結論になったのを確認し――。深い深いため息をつきながら、言葉を捻り出す。
「……分かりました。お請けします」
「私も、異存はない」
黎一とは対照的に、アイナがあっさりと応じる。笑顔でこくこくと首を振る蒼乃に、異存などあろうはずもない。
「ありがとう。正式な書面は後ほど用意させるから、確認してくれたまえ。さて、次の件だが……」
レオンは爽やかな笑顔で、さっさと話題を変える。蒼乃はともかく、アイナに関しては事前に話をつけていたのだろう。金の話だけなのかは分からないが、手回しのいいことである。
「地精王獣の屍から採れた素材についてだが、国で買い取らせてもらえないだろうか? 研究素材として、大変貴重なものでね」
「……そちらは、おいくらで?」
「そうだな、これでどうだろう」
目を輝かせる蒼乃の言葉に、レオンはまた紙にさらさらと書いて差し出してきた。
先ほど提示された国選勇者隊の月次報酬よりも、桁が二つ多い。三等分となればさすがに桁は下がるが、もはや言葉も出ない。
「……これでいいです」
アイナの頷きを見てから、額面を見たまま硬直している蒼乃に代わって答える。
「賢明な判断だ。個人で卸すとなると、海千山千の商人たちとの交渉が待っているからね。それとヤナギ殿の持っている剣だが……」
(……きた)
蒼乃が不安げに見つめてくる。遺跡での戦利品の話が出た段階で、こうなることは予想できた。用意しておいた言葉を放つために、レオンの目を見据える。
「これは、譲れません」
「その剣はおそらく焉古時代の遺物だ。研究素材として、とても貴重なものなんだよ。もちろん、遜色のない品が手に入るだけの額は用意する」
「理由が、あるんです……」
・
・
・
「……なるほどな。ヤナギ殿の力の一端は、その剣が担っていたということか」
剣に関する話を聞き終えたレオンは、腕を組んで渋面を作った。
ちなみに話したのは剣のことだけだ。父親の件と万霊祠堂の件は伏せてある。不確定要素が多すぎる上、万霊祠堂の力は強大だ。なによりまだ、レオンのことを信用できてはいない。
「身体強化に戦術教示……興味は尽きないが、今の話が本当ならヤナギ殿から引き離すのは少々気が引けるね。しかしその剣もまた、アイナ殿と手に入れたもの。取り分の問題が発生するが……」
「気にしなくて結構。その剣に命を救われたようなものです。それに行動を共にするなら、戦力は多いほうがいい」
これまた事もなげなアイナの言葉に、レオンは困ったように笑う。
伏せた部分をアイナが話した時は仕方なし、と思っていたが、今のところその気配はない。
「やれやれ、五人ではなく六人になったか……。いいだろう、その剣はヤナギ殿に預けよう。代わりに、定期的にヤナギ殿と剣の解析をさせてほしい。もちろん封印の解除に必要と思われる情報が分かったら、すべて共有する。これでどうかな?」
「問題ありません。ありがとう、ございます」
(話がうますぎる……)
剣のことは先方にとっても悪いことではないとはいえ、破格の厚遇に思えた。
その直感を裏づけるかのように、レオンは微笑んだままで口を開く。
「代わりに、と言っては何だが……もうひとつ頼まれてくれないかな?」
(ほらきた)
「そんなに嫌そうな顔をしないでくれたまえ……。君たちにとっても、無関係の話ではないからね」
レオンの表情が苦笑に変わる。よほど顔に出ていたのだろう。
「無関係じゃない? どういうことですか?」
蒼乃が問うと、今まで黙っていたマリーが口を開く。
「……フィロちゃんの、ことなんです」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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