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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第一章 俺と彼女が、異世界でやることを決めるまで

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選ばれし者たち

お読みいただき、ありがとうございます!

 勾原たちが連れ出された後、ホールは静寂に包まれた。

 しかし、場内にいる聴衆の表情は様々だ。中でも級友たちは、驚く者、不審の目を向ける者、事態を飲み込めていない者と実に豊かである。冒険者たちも、大なり小なり似たようなものだった。

 対照的なのはやはり貴族や騎士たちで、こうなることを予見していたのか取り乱したりはしていない。中には、うっすら笑みを浮かべている者すらいる。


(昔から、公開処刑は娯楽だって話だが……)


 黎一は、気づかれぬように嘆息した。

 勾原たちの捕縛と黎一たちの生還によって、筋書きは最初から決まっていたのだろう。悠々と高みの見物を決めこめる見世物(ショー)というわけだ。


(その上でわざわざ演出したってことは、勇者(ブレイヴ)ってやっぱいい扱いじゃねえんだな)


 苦虫を嚙み潰したような思考を、鋭く固い音がせき止める。壇上のレオンが、靴を鳴らした音だ。


「……ここで、諸君らに詫びねばならないことがある。個人の情報を収集できる魔法技術についてだ」


 級友たちと冒険者たちに、いびつな色をしたざわめきが伝播してゆく。よからぬものであろうことは、想像に難くない。

 その中を、レオンは朗々とした声で言葉を続ける。


「この技術は最近、焉古時代(レリック・エイジ)の遺跡から発掘されたものだ。以来、犯罪調査における奥の手として用いている。……だがこの技術が、国民の安寧と生活を脅かしかねないものであることは、重々承知している」


 ざわめきの中にあったいびつさが、少しだけ薄まった。レオンは機を逃さんとばかりに、一歩前に出て語気を強める。


「技術が確立してから日が浅いことも鑑みて、使用する際は私の承認を得ることとしている。倫理に基づいて用いることを、我が名誉に賭けて約束する。どうか、ご安心頂きたい」


(逆に言えば……お前らが半端なマネするなら問答無用で使うぞ、ってことか)


 遺跡でアイナから聞いた話から察するに、焉古時代(レリック・エイジ)から発掘された技術は王国が寡占しているらしい。今の台詞は、見方を変えれば隷従の強制とも取れる。

 それ故か場内にはびこる感情の色は薄まりはしたものの、収まる気配はない。だが反対や、さらなる説明を求める声が響くわけでもなかった。

 それに満足したのか、レオンは笑顔に戻って場内を見回す。


「さて、暗い話が続いてしまった。本題に戻るとしよう。……ヤナギ殿、アオノ殿、こちらへ」


「ふぇっ⁉ は、はいっ」


 不意打ちで名を呼ばれ、思わず間の抜けた声が出た。

 場内から、微かな笑い声が聞こえる。代わりにいびつな感情の色が、わずかに褪せた気がした。


迷宮主(ダンジョン・マスター)を討伐し、遺跡の最初の発見者(ファースト・シーカー)となり……さらには勇気ある証言と行動によって、かの罪人たちの検挙にも貢献した。その知勇、古今の英雄たちに勝るとも劣らない。陛下もいたくお喜びであり、いずれ御自ら労いの言葉を送りたいと仰せである」


 喜色に満ちた拍手が、そこかしこから湧き起こる。部屋に入ってきた時と比べると幾分おとなしめだが、先ほどの雰囲気のままいられるよりはマシだ。


「また陛下は、彼らを一介の冒険者に留め置くべきではないとお考えであった。私も、考えを同じくしている。だが我が国の法では、勇者(ブレイヴ)はあくまで賓客。騎士として召し抱えることはできない」


(お~お~そうだろう、そうだろう。そうしてくれ。騎士の名誉になんぞ興味はねえ。ついでに扱いも、もうちょい賓客らしく……)


「故に、優秀な勇者(ブレイヴ)を引き立てる機構を新設する」


(……って待てやなんだそのスピード感!)


 意表を突く展開に、心の中で盛大にずっこけた。

 レオンは、ここぞとばかりに両手を広げる。


「名称は、彼らの世界における英雄の意である『国選勇者隊(ヴァリアント)』とした。今ここに、その創設を宣言する!」


 場内が、拍手と歓声で沸いた。あまりの展開に、理解がまったく追いつかない。

 せめて級友たちの視線から意識を逸らすべく、レオンの言葉に耳を傾けた。


「彼らには当面、私の直属として王国からの依頼をこなしてもらう。此度のような有事の際は、率先して参加してもらうことになるだろう。なおその代償として……王国から毎月、定額の報酬を支払う考えでいる」


「わお、定給⁉」


「すっげ。うらやまし~」


「もう荷運びしなくていいじゃんね」


「おいおい、今度から八薙にたかろうぜ」


(いやいやいや要は国のエージェントですよね? 絶対めんどくさいですよね? 汚れ仕事とかもするんですよね?)


 級友たちから巻き起こる羨望と賞賛の声が、ぐだつく思考に突き刺さる。ちなみに隣の蒼乃は気楽なもので、級友たちに手を振って応えている。


「今後も必要に応じて随時、規模を拡大していく方針だ。勇者(ブレイヴ)諸君におかれては、ますます励んでもらいたい。では記念すべき初代の国選勇者隊(ヴァリアント)となった二人に……もう一度、盛大な拍手を!!」


 レオンの言葉に、今日一番の拍手と喝さいが巻き起こる。

 呆然とした顔でひな壇を下りると、級友たちが待ってましたとばかりに押しよせた。


「やったじゃん!」


「今度オゴれっ! いや今すぐオゴれっ!」


「ねね、写真撮ろうよ写真!」


「お、いいねいいね!」


「誰かスマホのバッテリー残ってる人いる?」


(え、嫌なんだけど)


 嫌悪の念を声として出す前に、マリーがばっと手をあげた。


「写真、こちらで撮れますよ~! ささ、皆さん並んでくださいっ! レオン殿下もどうですか?」


「ハッハ、ではせっかくなのでお邪魔させてもらおうかな」


(いや王族(あんたら)ノリ良すぎだろ)


 拒絶の想いが届くことはなく、黎一と蒼乃は級友たちによって真ん中へと押しやられた。いつの間にか、マリーやロベルタまで列に加わっている。

 顔が引きつっているのが、自分で分かった。


「は~い、撮りますよ! 笑って笑って~!」


 撮影役のギルド職員の声がした数秒後――。

 記念写真にもっとも似つかわしくない引きつり顔が、異世界の記録に遺された。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

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