表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第一章 俺と彼女が、異世界でやることを決めるまで
3/260

勇者の証

お読みいただき、ありがとうございます!

 空の青に呑まれたかと思うと、意識が急降下する。徐々に一点へと近づいていき――気づけば黎一は、光に満たされた見知らぬ部屋に立っていた。

 白い石でできた天井と床には、青白い光を放つ五芒星の魔法陣が向き合う形で描かれている。背後を見ると蒼乃やマリー、アイナもいた。


(いっそ、はぐれてくれた方が良かったんだが……)


 部屋を見回しながら考えていると、端にある通路から青いスーツらしき上下に身を包んだ美女が歩いてくる。気品を感じる顔立ちと、煌めく金髪で編み上げた四門のお嬢様ドリルこと縦ロールが、彼女が相応の身分であることを教えている。


「お客様がた、ようこそ我が国へ。わたくし、ロベルタ・ヴァン・カストゥーリアと申します」


 微笑みながら礼式をとるお嬢様ドリルことロベルタに、蒼乃が軽く会釈を返す。名前と甲高い声からして、この女性が先ほどマリーと端末越しに話していた女性だろう。

 ロベルタはマリーたちに向き直ると、表情を硬いものに変えた。


「さて、これで最後のはずですね?」


「うん。わたし、兄様をお呼びしてこないと。ロビィ、お二人の案内頼める?」


「だから仕事中にそう呼ぶのはおよしなさいな。……お二方、どうぞこちらへ」


「それじゃレイイチさん、アオノさん、また後で!」


(なんで俺だけ名前……?)


 マリーはアイナとともに、笑顔で反対側の通路へと消えていく。

 ロベルタに先導されるがまま通路に入り階段を登ると、そこは赤絨毯が敷かれた廊下だった。いつぞやネットの画像で見たことがある、西洋風の廊下だ。窓から差し込む暖かい光に照らされた調度品の数々が、格式高い場であることを教えている。窓からは、宮殿や城壁と思しき建造物が建っているのが見えた。


「すっごい……。ほんとに、違う世界なんだ……」


「我が国の王宮ですわ。諸々の説明が終われば、正式に見学することもできますわよ」


 蒼乃とロベルタの会話を聞きながら進むと、やがて右手に兵士二人が守る大扉の前が現れる。ロベルタの合図で開かれた扉の先は、ひな壇が設けられた大広間だった。その中にひしめく見慣れた制服姿たちの視線が、黎一と蒼乃のほうへと向いた。


「おっ、蒼乃さん着いたんだ」


「うっわ、八薙と一緒なの?」


「一緒に連れて来られる基準が分からなくない……?」


(おーおー。相変わらず、好き勝手言ってくれるねえ)


 女子勢の黄色い声には耳を貸さず、ずかずかと制服姿の群れに分け入っていく。広間の端には重武装の騎士たちが整列しており、少々物々しい。

 知った顔を探していると、折よく群れの中からひときわ大柄な茶髪の男子が近づいてきた。


「八薙くんっ! 無事だった!」


「おう、全然無事じゃねえけどな」


 いつもの調子でくるハイタッチに、気だるげに応じる。

 天叢(あまむら)(しょう)――。黎一の数少ない友人である。体育会系の爽やかイケメン、且つひねくれた黎一すら受け入れる懐の深さも相まって、クラスにおけるスクールカーストの頂点に君臨する男子だ。

 天叢の相手をしつつ巧みに男子の群れの中に紛れ込んだ時、部屋の端にある壇上に、マリーとロベルタの姿が現れた。


「静粛にッ! 王太子殿下が御出でになられますッ!」


 ロベルタの甲高くも妙に威厳のある声に、場内が水を打ったように静まり返る。

 わずかな間の後、壇上に現れたのは二十代後半くらいに見える金髪の美丈夫だった。天叢よりもさらに背丈がありそうな身体は、線が細いながらも貧相な印象はない。白いガウン風の外套やその下に着る礼服から、ひと目で然るべき身分の人間であることがわかる。わずかに見える白い光は、なにかの演出だろうか。

 美丈夫は壇の中央まで歩いてくると、深々と礼式を取って見せた。


「異界のお客人がた、ようこそ、我がヴァイスラント王国へ。私はこの国の王太子、レオン・ウル・ヴァイスラントと申します。皆様をお連れしたのは私の妹にして第六王女、マリーディア。転移を担当したのは、カストゥーリア補佐官です」


 美丈夫もといレオンの声に合わせて、壇上のマリーとロベルタが礼式を取る。さらっと言ったが、どうやらマリーはこの国の王女らしい。


「これより我々から、皆さまの現在(いま)未来(これから)について、お話をさせていただきます。お疲れとは思いますが、少々お付き合いください」


 落ち着いていながらもよく通る声音に、女子たちからひそひそと黄色い声が上がる。そんな雰囲気の中、黎一はレオンと名乗る男の姿と言葉を、注意深く観察していた。


現在(いま)未来(これから)、ときたか。お前に決められる道理はねえんだけどな)


 疑念をよそに、壇上のレオンが右手を中空にかざす。

 途端、光で描かれた大型のディスプレイが現れ、周囲がにわかにざわつきはじめた。


「まずはじめに……。すでにお聞き及びの方もいるかと思いますが、皆さまはかつていた世界から、この世界へと転移されました。それぞれ、ご自身の手の甲にある紋をご覧ください」


 ディスプレイに映し出された指示に従い、改めて右手の甲を見る。紋様は、変わらずそこにあった。黒いひし形の染みに三日月の模様をくり抜いた形だ。

 ふと周りを見てみると男子も女子も皆、手の甲に何かしらの紋様があった。級友たちは各々の手の甲を見ては、隣の者の紋様を覗き込んだりしている。

 壇上のレオンは場内を見渡すと、微笑みながらふたたび口を開いた。


「その紋様は異なる世界からの転移者にのみ現れる、勇者の証……勇者紋(サイン)と呼ばれるものです。すでに実感された方もいらっしゃるかと思いますが、勇者紋(サイン)を持つ方は身体能力が大幅に引き上がります」


 今度は主に男子から興奮気味の声が上がる。中には飛び跳ねてみる者がいたりなど、暢気なものだ。

 レオンはざわつきを気にもせず、言葉を続ける。


「我々はその力に敬意を表して、転移者の方を”勇者(ブレイヴ)”と呼んでおります。勇者(ブレイヴ)と我々原住の者どもは、ともに支え合うことで繁栄を築き上げてまいりました。この大陸において最大の領土を持つ我が国においても、皆さまの先輩にあたる勇者(ブレイヴ)の方々が、魔物討伐や迷宮(ダンジョン)攻略の最前線で活躍しておられます」


(おーおー、しれっとアピってきやがって。つっても、転移してるのが俺たちだけじゃねえってのは朗報だな)


 魔物との戦いや迷宮(ダンジョン)を探索する映像がディスプレイに映し出され、ざわめきが一層大きくなる。

 

「我々は新たな勇者(ブレイヴ)が現れた際も、この世界に順応していただけるよう、環境を整えてまいりました。皆さまにおかれましては、ぜひこの新たな世界で、栄光を勝ち取って頂きたく思っております。……さて。ここまでで、なにかご質問はありますか?」


(おう、待てや。一番大事な話が抜けてんぞ)


 などと考えてはみるものの、質問する勇気は当然ない。

 そんな中、すっと手をあげた者がいた。天叢だ。


「はい。手をあげた方、どうぞ」


「ありがとうございます。僕らに何が起こったのかは分かりました。ですが、一番知りたいことが抜けてます。……どうすれば、元の世界に帰れますか?」


(おおう、よくぞ聞いてくれた! さすがだ爽やかイケメンッ! 金髪野郎にも引けを取ってないぞ!)


 心の声で賞賛する間にも、どよめきは殊更に大きくなる。

 中には「そうだよ、どうすりゃ帰れんの⁉」だの、「勇者とか栄光とか、そういうのいいんで!」といった声もちらほら混じっている。ここまでの話は、異世界で生きることが前提の話ばかりだ。元の世界のことはなにひとつ分かっていないのだから、無理もない。

 暴発寸前の級友たちを前に、レオンはゆっくりと目を伏せた。


「たしかにそのお話はしておりませんね。ですが……しなかったのではありません。できないのです」


「どういう、意味ですか?」


「……皆さまの世界への帰還方法は、分かりかねます。おそらく、この世界の誰にも分からないでしょう。そういうことです」


 その言葉が終わった瞬間――。

 広間は、怒りと非難の声で満たされた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ