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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第一章 俺と彼女が、異世界でやることを決めるまで

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消える者、託す者

お読みいただき、ありがとうございます!

 翡翠の輝きを持った角が、宙を舞う。それはくるくると回りながら落ちてきて、やがて遺跡の床へと突き立った。

 黎一はその様を、へたり込んで見つめていた。隣には蒼乃が、やはり無言で呆けている。視界の端からは、アイナが刀を杖に歩いてくるのが見えた。


「寝惚けか油断か……。いずれにせよ、言い訳よな」


 ガディアンナは最後の角を折られても、なお悠然と立っている。

 角が折れた額から、血は流れない。煌めく翡翠色の光と、苔色の靄が噴き出ているのみだ。先ほどの”剣”の言から察するに、この光と靄こそがガディアンナの血肉なのだろう。


「そなたらも大したものだ。女子(おなご)らよ、名を聞こう」


「ルナ。……ルナ・アオノ」


「……アイナだ」


 二人の名を聞いたガディアンナは、ふっと笑った。気品のある顔は、やはりどことなく母に似ている。

 そんなことを考えていると、ガディアンナの背後に巨大な獣が現れた。先ほど打ち倒した地精王獣(ベフィモス)の身体だ。四肢も胴も無数の斬り傷と火傷に覆われ、眼に意志の光はない。しかしふたたびガディアンナが内に宿れば、話は別だ。


(まだやるってのか……?)


「フフッ、そう気負うな。我を愉しませた褒美だ。この身体はくれてやる。好きにするがいい」


 事もなげに言うガディアンナの身体は、徐々に霞んでいた。

 手先や爪先、銀髪の端から翡翠色の輝きが放たれる。それはすぐに、苔色の靄へと姿を変えた。


「その顔、やはり似ているな……ソウマに」


「……ッ!!」


(なんで、その名前が出てくる)


 それは、聞くはずのない名。聞きたくなかった名。だが、どこか繋がっているような気がしていた名。

 ソウマ――八薙(やなぎ)聡真(そうま)。あの夏の日に消えていった、父の名だ。


「なんで、なんでお前が……ッ!」


「フ、ハハッ……知りたくば、探せ。この世界の、何時(いつ)かの何処(どこ)かにいる……あやつをな」


 からからと笑う顔とは裏腹に、ガディアンナの下半身は消えていた。残った上半身も、苔色の靄の中に呑まれていく。


「我、は……しばし、眠る……。時の果てで、ふた、たび、相見(あいまみ)える、ことがあらば……」


 頭部だけになったガディアンナが、微笑む。


「ま、た……死合おう、ぞ」


 言葉は残響となり、すぐにそれも消える。静まり返った遺跡の研究施設には、巨大な獣の骸のみが遺された。


「……終わった、の?」


「そう考えていいだろう。おそらく外の小さな木立の迷宮(リトル・グローブ)と、魔物たちも消えたはずだ」


 アイナが疑問に応えると、蒼乃が勢いよく振り向いた。例によって知的好奇心を刺激されたらしい。


迷宮(ダンジョン)が、消える?」


「そういうものなんだよ。なんでも迷宮(ダンジョン)は、迷宮主(ダンジョン・マスター)の夢らしい」


「夢、ですか? 実体として存在してるのに……?」


「ああ。迷宮主(ダンジョン・マスター)の想い出や大切なもの、想い描いたすべてが具現化されたものが迷宮(ダンジョン)。周囲の動植物が想いや魔力(マナ)()てられ、変異したものが魔物……らしい。まだ仮説の段階だがな」


 アイナの言葉を聞いた蒼乃は、彼方を見つめた。その視線は、かつてガディアンナが眠っていた場所に向けられている。


「きっとあの礼拝堂(チャペル)や自然豊かな土地が、想い出の場所だったんだ……。そこに踏み込まれたら、そりゃ怒るよね。なんか悪いことしちゃったのかも」


 蒼乃の申し訳なさそうな言葉も、黎一の耳にはほとんど届いていなかった。ガディアンナが遺した言葉が、頭の中に何度も繰り返される。


(父さんが、異世界(ここ)に……? しかも、まだ生きてる……?)


『……ずいぶん、お悩みじゃねえか』


 脳裏に、”剣”の声が響いた。

 心なしか、先ほどよりも少し擦れている気がする。


(おい、教えろ! あんたも父さんのこと知ってるのかっ⁉)


『ま……。教え……やっ……いいが……そ……前に、条……が、ある』


「おい、あんた⁉」


 思わず出た声に、蒼乃とアイナが振り向く。だが”剣”の声が聞こえない故か、じっと様子を見守っている。


『チッ、あの牛の影響……消え……ば、いけ……と思……が……。ぶはっ! おいっ、さっさとこのほっかむりを取ってくれっ!』


「な、なんて?」


『黒くこびりついてるヤツだっ! こいつを取ってくれっ!』


「どうやってっ!」


『こまかく教えてる暇はねえっ! とにかく早くしろっ! そし……ら……』


 一度は元の大きさまで戻った”剣”の声が、急激に小さくなっていく。


『お前、たち……知り……たいこ、とを、教え……て……』


 それっきり、声は聞こえなくなった。脳裏で聞き返しても声で問うても、応じる気配はない。

 剣を思いっきり床に叩きつけてやろうか――。そこまで考えた時、蒼乃がすっと寄ってきた。


「声の人、どしたの……?」


「聞こえなくなった。この黒いやつ取ったら、お前らが知りたいこと教えてやる、だとさ」


 ぶっきらぼうに応じると、蒼乃はしばし考えこんだ。だが、すぐに顔を輝かせながら口を開く。


「ねえ。声の人さ……お前ら、って言ったの?」


(だからこっちに話を振るな)


「あんたじゃなくて、お前ら、ってことはさ。私も込みだよね?」


(だからそれがなんだって……)


 相手をするのが面倒になって、無言を貫こうと決意した時――。

 蒼乃が、面白そうな顔で言葉を続けた。

 

「それ、もしかしたら……私たちの世界に帰る方法、じゃないの?」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

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