連撃
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遺跡の中空に、蒼乃が振り下ろす風の刃が弧を描いた。
「てえええええいっ!」
風刃は、狙い違わずガディアンナの右角を直撃する。だが角は折れるどころか、ヒビひとつ入らない。
「風の力で、我を砕けると思うてかッ!!」
ガディアンナの顔が、ほくそ笑む。
だが蒼乃は中空で風の刃を繰り返し振るうのみで、表情を変えない。なにかを、待っているかのように。
(ああ、そうだろうなッ!)
ガディアンナの正面に立つ黎一は、炎を纏った剣を蒼乃に向けて振るう。
「勇紋共鳴! 魔力追跡!」
黎一の意志に呼応して飛んだ炎刃が、蒼乃が操る風の刃へと吸い込まれた。白き風刃が炎を呑み込み、またたく間に赫い雷光を放つ竜巻と化す。
「紅刃、熱風ッ!!」
焦熱の竜巻が、ガディアンナの右角を捉えた。表面にわずかな、だが確かな亀裂が入る。
「っがッ⁉」
苦悶の表情を浮かべるガディアンナが、戦斧を振るわんともがく。が、黎一の炎剣と、アイナの斬撃によって阻まれる。
しかし蒼乃の赫い雷刃は、未だ角を斬り折るには至らない。
その時、蒼乃が短杖を持つ両手のうち左手を離した。かざした手に、風が集う。
(まさか……! でも魔法は発動体がないと……)
「斬空風刃――二刀!!」
(……マジかよっ!!)
予想を裏切って、蒼乃の左手に二本目の風刃が生まれた。素早く炎刃を飛ばすと、それは赫き旋風の剣へと姿を変える。
「えええええいッ!!」
風と雷。蒼乃が振るうふたつの赫が、ガディアンナの右角を直撃した。
赤き交差が生んだ大きな亀裂が、刹那のうちに角全体へと広がり――右角が、砕け散った。
「ッガッ、アアアアアアッ⁉」
ガディアンナの身体が、ぐらりと傾いだ。蒼乃はさすがに消耗したか、距離を取ってへたり込む。
黎一の炎刃が前角に追撃を入れるうちに、右手のアイナが動いた。大上段から振り降ろされた刀が、左の角を狙う。
しかしガディアンナは、左手でアイナの刀をがっしりと掴んだ。
「小癪、なああああッ!!」
(やべえ、ダメかッ⁉)
炎剣を振るって牽制するが、ガディアンナの振るう戦斧に阻まれ届かない。
刀がひび割れるかと思った時――刀身が、にわかに炎を噴き上げた。
炎は揺らめき、縛鎖のようにガディアンナの掌に絡みつく。アイナが、刀を振り抜いた。
「バカな、なぜ折れ……! ッガアアアアアアッ⁉」
幾度目かの苦悶の声をあがる。ガディアンナの左掌は、指がばっさりと焼けただれてなくなっていた。
「――国断」
凛とした、声が響く。
刀を引いたアイナの右中指からは、赤い輝きが放たれていた。先ほど遺跡で拾った、ルビーの指輪だ。
「貴様……ッ! その光は……ッ!」
(炎の付与魔法が込められてたのかっ!)
ガディアンナは左手を失くしながらも、黎一とアイナを薙ぎ払わんと戦斧を振るう。
黎一がそれを受け止める間に、アイナは体勢を整え宙へと跳んだ。中空で身体を一回転させ、勢いをつけて刀を右の角に叩きつける。
「潰天――ッ!!」
裂帛の気合とともに繰り出された炎の刀が、ガディアンナの左の角を直撃した。折れこそしないものの、翡翠色の表面に大きな亀裂が入る。
アイナは着地するなり刀を返すと、今度は全身で伸びあがるようにして斬り上げた。
「――荒月ッ!!」
「ッ……がぁ……ッ!!」
炎の軌跡が生んだ赤き月の現出と、ガディアンナの声にならぬ声が重なる。宙返りしたアイナが着地した時、左角は綺麗に斬り落とされていた。
(よし、いけるッ……)
ふたたび前角に斬りつけようとした瞬間。
ガディアンナが、笑った。
(ッ……! あいつ、まさかッ……!)
「万霊祠堂――魔律慧眼!」
魔力を見破る眼が、ガディアンナの身体を覆う苔色の靄を映し出す。
黎一が剣にありったけの赤を纏うと同時に、靄が弾けた。それは野を包む霧の如く、しかし確かな衝撃を以って、黎一たちに襲いかかる。
(やら、せる……かあ、っ!)
剣を突き立て、紅蓮を解き放った。苔色と赤、地と炎、ふたつの魔力がぶつかり合い相殺する。
吹き飛ばされそうになるのを、すんでのところで堪える。蒼乃とアイナが、視界の端から消えていくのが見えた。
「ッグッ、ハハ……ハハハハッ! 佳いッ! 大いに佳いぞッ!!」
両角を失ってなお、地の王獣たる存在はからからと笑った。
「この感覚ッ! この衝動ッ! 愉しませてくれるな、人の子らよッ!!」
『チッ、まだくたばらねーか。この緑牛め』
”剣”が嘯くと、ガディアンナは黎一が握る剣に目を向けた。
「先ほどから何者の声かと思えば……久しいな。存在を忘れていたわ」
『ケッ、気づきやがったか。そのままくたばりゃいいものを』
「この者どもも、そなたの差し金か? ……まあよい。寝起き早々、愉しめたわ」
嗤うガディアンナの前角は、徐々に輝きを増していた。雷光に似た光を放ちながら、見る見るうちに伸長していく。
『おい。調子はどーだ相棒? そろそろぶちかまさねえと、やべえぞ』
(分かって、る……ッ!)
心で応えると、幾度目かの万霊祠堂を呼び出した。
やれるだけはやった。おそらくこれが、最後に使う能力だ。
「万霊祠堂――魔力喰鬼ッ!」
言葉に応じるように、周囲の空気が渦巻いた。炎と風が苔色の残滓すら呑み込んで剣へと集っていくのが、感覚で分かる。
周囲の魔力を吸収し自身の魔力として使用する能力である。とはいえ、ため込んだ魔力を一撃に込めて外しては元も子もない。ゆえに剣に魔力を纏うことで、継戦を可能にしたのである。
「ほう……。我が魔力すら取り込むとな」
赤と黄金を綯い交ぜにした竜巻を纏う剣を見て、ガディアンナが笑う。
その笑みに気圧されぬように、黎一は剣を構えて向き合った。
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