表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第五章 俺と彼女が、因縁の相手を斃すまで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

199/260

ひとつ上へ

お読みいただき、ありがとうございます!

 村跡を、ふたつの光が照らした。

 ひとつは、勾原の屍から放たれる赤い光。もうひとつは黎一の勇者紋(サイン)から溢れる、透明な光だ。


(この光、知ってる……。ロイド村の時と同じだ)


 うるさいほどの鼓動の音が、聴覚を支配していた。脈打つ音が聞こえる度に、身体の熱量が上がっていく。腕に、脚に、力が漲るのが伝わってくる。

 周囲にいる仲間たちがなにか言っているが、まるで聞こえない。


『小さい時から、そうだった』


 聡真の、声がする。


『大事なものになにかあると、向こう見ずになる。いつもは静かなのにね』


(父さんも、同じじゃないのか)


『いやあ。私っていうより、母さんに似たんじゃないかな』


(俺は、あんな風に……)


『さっきの怒り方は、母さんそっくりだったよ』


 言葉に、詰まる。

 光は徐々に収まりつつあった。

 まばゆい視界の向こう側で、勾原がゆっくりと歩いてくるのが見える。


(……もう、行くよ)


『黎一。ここから先、世界のすべてが君を捨て置きはしないだろう。今見える存在(もの)たちも、まだ見ぬ存在(もの)たちもね』


 聡真の声が、か細くなっていく。


『私が手を尽くして止めたところで、きっと世界が君を私の元へと導く。だから来なさい、私のところへ。分かたれた果ての先へ』


(世界が、導く……? 分かたれた果ての先って……)


『そこで、すべてを話そう――』


 声が、途切れる。

 視覚と聴覚に、目の前の光景が流れ込んできた。すぐ隣には、呆然とした顔で見守る蒼乃とフィーロ。前では、アイナとマリーが身構えている。

 その向こう、屋敷の瓦礫を踏みしだいて立つのは、赤い翼と羽毛で身を鎧う勾原だ。


「その感じ……。八薙(テメエ)もか」


 勾原が、ぽつりと言った。

 その目に狂気はない。代わりに、まったく別の黒く渦巻く感情が宿っているように見えた。


「気に、入らねえんだ。前から」


 瓦礫から、ひょいと飛び降りる。

 背にある赤い翼が、ふぁさりと羽ばたいた。赤い羽毛を模した魔力(マナ)が、天使の梯子が降りる空を舞う。


「目立たねえくせして頭はいい。地味に運動もできる。挙句の果てには、女嫌いのクセして他人(ひと)の女を()る」


「わりい。そのすべてに、まっったく覚えがねえ」


「……だから気に入らねえってんだ、お前は」


 勾原まで、あと数歩の位置まで近づいた。右手の中に在る愛剣は、ぶら下げたままだ。


「ここで、ここで……ッ!」


 勾原の歯が、ギリっと鳴った。赤い両翼が、大きく開かれる。


「テメエのすべてを……ッ! 消してやるッ!!」


 声とともに、勾原が羽ばたき上空へと舞った。その全身が炎に包まれる。

 魔律慧眼(カラーズ)で見てみると、赤い魔力(マナ)に染まりきった中に、一点だけ白い色が見えた。光の魔力(マナ)だ。


(あれが、火喰赤鵬(シムルグ)の力の核か)


 勾原が真っ逆さまに降り落ちる。

 動きが、妙にゆっくりに見えた。はじめて異世界に来た時、白い狼たちに襲われた時と同じだ。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)万霊祠堂(ミュゼアム)……」


 落ち着き払って、能力(スキル)を選ぶ。

 相手の動きが遅いのは気になるが、まずは勢いを削ぐ。

 ――魔律慧眼(カラーズ)を、使いながら。


水巧結界(デフト・ウォーター)


 魔律慧眼(カラーズ)の視界の中で、周囲が水を顕す青に満たされた。火を顕す赤が、青に圧されて薄まっていく。

 勾原の速さが、がくりと落ちた。次の手番のために、剣に青と藍色の魔力(マナ)を纏う。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)魔力追跡(マナ・チェイス)冥水鎖(めいすいさ)


 勾原を鋒で示すように、剣を突き出す。

 中空から幾筋もの藍色の鎖が伸びて、勾原を絡めとった。水巧結界(デフト・ウォーター)の恩恵を受けた鎖は、先ほどよりも多く、色も濃くなっている。

 背後で、蒼乃が小さく息を飲む音がした。


水巧結界(デフト・ウォーター)使いながら、魔力追跡(マナ・チェイス)で集中攻撃……って、ちょっと待って⁉ あんた今、魔律慧眼(カラーズ)も使ってんのっ⁉」


 マリーとアイナがいるあたりから、ざわりとした気配がする。ようやく気づいたらしい。

 だが黎一は問いに応じる代わりに、空いた左手を後ろへ伸ばした。


「……みんな。能力(スキル)、戻してくれ」


「へっ⁉ い、いいけど……」


 蒼乃の手が触れた。

 万霊祠堂(ミュゼアム)の中で、無足瞬動(ペネトレイト)の石碑に光が灯る。身体が、脈打つ感覚がした。


「その、なにが起こってるか分かりませんけど……」


「任せるぞ」


 マリー、アイナと、次々に手が触れていく。

 魔力喰鬼(ビッグ・イーター)刻命焉刃(デッドリー・エッジ)の石碑に光が灯った。脈打つ感覚が、さらに強まる。


(この感覚、能力(スキル)の数に応じてる)


 そこまで考えた時、魔律慧眼(カラーズ)の視界に異変が起きた。

 青に圧されていたはずの赤が、みるみるうちに勢いを取り戻していく。

 見れば魔力(マナ)の鎖に縛められている勾原が、赤い光を放っていた。


「なんでだよっ! オレと同じはずだろッ⁉ なんでオレより……オレよりッ!」


水巧結界デフトに似た力も使えるのか。つまり火喰赤鵬(シムルグ)は、自力で火の魔力(マナ)を生み出せる……!)


 刹那の逡巡のうちにも、魔力(マナ)の鎖が消えていく。

 勾原が火の魔力(マナ)の勢いを強め、自らの魔力(マナ)で圧し勝とうとしているのだ。


(圧しあってもいいが、面倒だな)


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)万霊祠堂(ミュゼアム)……」


 方針を決めて、ふたたび能力(スキル)を入れ替える。

 思えば、すべての能力(スキル)を手許に置いて戦うのは初めてだった。


「……無足瞬動(ペネトレイト)ッ!!」


 言葉とともに、空に向かうべく地を蹴る。身体が加速した。以前は意識が飛びそうになった加重も、今はまったく気にならない。

 雲間から射す夕陽の光を突っ切って、またたく間に勾原へと肉薄する。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)万霊祠堂(ミュゼアム)刻命焉刃(デッドリー・エッジ)


 能力(スキル)を入れ替える。

 愛剣の焦げ色をした刀身が、禍々しい深緑に染まった。


「クソッ……!」


 勾原の表情に、焦燥が浮かんだ。毒づきながらも、翼を広げてさらに上空へと距離を取った。

 仮説が当たっているだろうことを確信し、ほくそ笑む。


(やっぱり、核は守るんだな)


 魔律慧眼(カラーズ)を入れ替えない理由がこれだった。

 おそらく火喰赤鵬(シムルグ)は、なんらかの概念を力の源にすることで復活する。さしずめ、”火は永遠(とわ)の命の象徴である”といったあたりだろうか。概念の核は、魔律慧眼(カラーズ)で見えている光だと考えた。


(火は光を生む。破壊の象徴であるとともに、再生の象徴でもある。それらを核にした光を命と見立て、回復力を持った炎を生み出す……。これが無限復活のギミックってわけだ)


 ならば勾原の魔力(マナ)が空になれば、復活はできなくなる。

 だが今の手持ちの能力(スキル)には、周囲の魔力(マナ)を吸い取るものはあっても、一瞬にして失わせるものはない。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)万霊祠堂(ミュゼアム)無足瞬動(ペネトレイト)


 ふたたび能力(スキル)を入れ替えた。勾原を追い、上空へと翔ける。

 愛剣の刀身から毒の色が消えた。元より仮説を確かめるための一手なので、気にしない。


能力(スキル)がない? だったら、創ればいい)


万霊祠堂(ミュゼアム)二絆権能(デュアル・ドライヴ)……!」


 加速しながら、意識を脳裏に映し出される祠堂へと飛ばした。

 魔力(マナ)に干渉するなら、魔力喰鬼(ビッグ・イーター)だ。ここに対象の属性を入れ替える裏面創返(リバーシブル)のイメージを重ねたらどうなるか。

 ふたつの石碑に灯った光が、祠堂を照らす。光の中に、新たな紋様が生み出される。

 不思議な感覚だった。まるで、できて当たり前のような感覚――。


「……魔魂浄爆(ソウル・バーン)ッ!!」


 加速の中、空いた左手を前へと突き出す。

 かすかな歪みが迸った。それは力の波となり、勾原へと収束し――。

 なにかが砕ける音がする。勾原の炎が、消えた。


「がっ、あ、あっ……⁉ 力が、炎、が……ッ」


 狼狽しながらも、飛び回って間合いを取ろうとする。

 加速を繰り返しながら、魔魂浄爆(ソウル・バーン)魔律慧眼(カラーズ)へと付け替えた。

 見ると先ほどまで勾原の中心で輝いていた光が、か細く弱々しいものになっている。


(核に魔力(マナ)がねえんじゃ、さすがに復活はできねえだろ)


 いつの間にか、屋敷の瓦礫を飛び越え崖の上空まで来ていた。

 あとは核を破壊すればいいだけだ。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)魔力追跡(マナ・チェイス)冥水鎖(めいすいさ)


 藍色の鎖が、ふたたび勾原の動きを封じる。

 無足瞬動(ペネトレイト)の加速で眼前まで迫ると、能力(スキル)を付け替える。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)万霊祠堂(ミュゼアム)刻命焉刃(デッドリー・エッジ)


 愛剣の刀身が、ふたたび毒々しい色に包まれた。

 もうひとつの能力(スキル)魔律慧眼(カラーズ)だった。胸のあたりに煌めく、光の核を目がけて毒の刃を振るう。

 瞬間。勾原の目に、光が灯った。

 絶望でも悔悟でもない。生を諦めぬ者の、執念の光だ。


「クソッ……クッソオオオオオオオッ!!!!」


 ふたたび、その赤い全身が炎で包まれた。まるで命そのものが燃えているかのような、血の色をしている。

 炎が、またたく間に藍色の鎖を灼き斬った。勾原は自由になった翼を広げながら、毒の刃を左手で受け止める。毒の刃が音も手応えもなく、赤を斬り裂いていく。

 だが腕の半ばまで斬った時、毒の刃が消えた。愛剣の刀身が止まる。勾原の顔に、笑みが浮かんだ。


「ッガッ……ガアアアアアアッ!!!!」


 剣を縛められた黎一に向けて、勾原の右手が、翼が動いた。

 無足瞬動(ペネトレイト)を付け替える余裕はない。防ぐ手段もない。攻撃を受ければ、仮に生き残ったところで谷底に真っ逆さまだ。


(だろうな。だが……)


 愛剣に、光を灯した。

 勾原の攻撃が届くよりも早く、その輝きは加速度的に増してゆく。刻命焉刃(デッドリー・エッジ)を振るう間、剣に光の魔力(マナ)を集中させていたのだ。


(……本命は、こっちだッ!)


 勾原の顔が、ふたたび歪む。


「なっ、そんなっ……!」


殲光斬(せんこうざん)ッ!!!!」


 光が、弾けた。

 巨大な光剣が伸び、勾原の左腕を消し飛ばす。そのまま、左胸を貫く。その鋒が、勾原の内にある核を貫いたのが、たしかに見えた。

 貫いた身体を、振り捨てる。


「あ、あ、あ……あああああああああっ……」


 勾原の悲鳴が、こだます中。

 崖に降り立った黎一は、剣に纏う残光を振り払った。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたらブックマークや評価、感想など頂ければ励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ