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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第五章 俺と彼女が、因縁の相手を斃すまで

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四重奏

お読みいただき、ありがとうございます!

 村跡の上空に、巨大な光の鳥が生まれた。翼を広げた勾原が、七色の光を纏った姿だ。

 雲の切れ目から降りる天使の梯子を背にした姿は画家、たとえば高峰あたりが見ればさぞ喜んだに違いない。だがそれも、相手に殺意に満ちていなければ、の話である。


「ハハッ、ハハハハッ……気持ちいいぜ! 最ッ高に気持ちいいッ!」


 勾原の哄笑が響き渡る。

 だがその間、黎一の視線は勾原ではなく、己の右手の甲に向けられていた。手が脈打った――そんな感覚がしたからだ。


(なんだ、今の……?)


 愛剣を握る手の甲をまじまじと見てみるが、なにもない。勇者紋(サイン)の形も、変わらぬ夜空に浮かぶ三日月のままだ。


(でもさっきの感触、覚えがある。そうだ……蒼乃を助けた時の、あの感じだ)


 内から、身体を叩かれる感覚。

 なにかが、外に出たがっている。そんな風にも感じられた。

 などと考えている間にも、勾原が大きく羽ばたいた。


「こうなりゃ死体で()ろうが構やしねえ……ッ! まとめてッ、くたばりやがれええええッ!」


 空気が爆ぜる音ともに、勾原が一直線に落ちてきた。

 採光が散った後に浮かぶ影は、さながら質量を持った残像に見える。


「フィロッ⁉ 捕まえてる⁉」


 蒼乃が勾原を指しながら、声を張り上げる。

 視線の先にいるのは、短剣の鋒を天に向けて構えるフィーロだ。


「うんっ、ばっちし!」


「よぉ~し! 合図でど~ん、だよっ!」


 勾原が、見る見るうちに迫ってくる。

 その姿が、目前まで来た時。


「フィロッ! せ~のっ……」


「……ど~~んッ!!!!」


 フィーロが、剣の鋒を勾原に向けた。

 刹那。透明な光の粒が、勾原を包む。光はまたたく間にまがはらへと収束し、弾ける。

 途端。勾原の速度が、がくりと落ちた。


「……ッ、がっ⁉ んだよこれはッ⁉」


 ――純然魔力(ピュア・マナ)

 焉古時代(レリック・エイジ)の御代に存在していた、すべての魔力(マナ)の始原にして上位存在である力である。魔力(マナ)の励起も消滅も、あらゆる属性に変換することも思いのままだ。

 竜人の王族たる皇竜(こうりゅう)の血を引くフィーロは、この純然魔力(ピュア・マナ)を身に宿している。今の透明な光は純然魔力(ピュア・マナ)を勾原に収束し、纏う魔力(マナ)を消滅させたのだろう。


「フィロ、いい子……! 今だよっ!」


 蒼乃の号令とともに、マリーが動く。

 その胸元では、虹色に光る宝石が緑の輝きを放っている。

 繁栄虹珠(プロス・プリズム)――。ヴァイスラント王国に伝わる焉古装具(アーティファクト)で、どんな魔力(マナ)でも任意の属性の魔力(マナ)に変える力を持つ。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)魔力喰鬼(ビッグ・イーター)! ……開闢(かいびゃく)を待つ嘆きの地神よ、その涙を今ここに! 地神涙滴(ガイアズ・ティア)ッ!」


 マリーの声とともに、降り来た巨大な岩石が、勾原の背を直撃した。

 火の属性を持つ火喰赤鵬(シムルグ)を取り込んだにもかかわらず、勾原の羽ばたく体勢が大きく崩れる。純然魔力(ピュア・マナ)で火の魔力(マナ)を散らされた証拠だ。


「ッ、があああっ⁉」


 勾原の苦悶の声が聞こえる。

 おそらくマリーは、先ほど展開した水巧結界(デフト・ウォーター)で増加した水の魔力(マナ)魔力喰鬼(ビッグ・イーター)で吸収した。それを繁栄虹珠(プロス・プリズム)で地の魔力(マナ)に変換して、魔法の威力を高めたのだろう。


「……フッ!」


 続いてアイナが、鋭い呼気とともに地を蹴る。およそ人間ではありえない身体能力で、一瞬にして勾原へと肉薄した。アイナの故国に伝わる身体強化法『錬氣』と、勇者(ブレイヴ)の特権である身体能力の向上によって成し得る業だ。

 手にした剣の刀身には、先ほど放たずにいた刻命焉刃(デッドリー・エッジ)の毒を纏っている。


「――穿刻(せんこく)


 担ぐように構えた剣の鋒から、斬撃の渦が奔る。

 刻命焉刃(デッドリー・エッジ)は、なんらかの個体に触れるまで効力を発揮することはない。その特性を逆手に取っての、剣気を用いた一撃だ。

 触れたものすべてを刻む渦が、体勢を崩していた勾原の身体を直撃する


「……ッ! っ()えなあッ!!」


 勾原が毒づく間にも、アイナはさらに距離を詰めつつ剣を振りかぶっている。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)剣林斬雨(スラッシュ・レイン)!」


 剣の一振りに合わせ、白き太刀筋を思わせる衝撃波が降り注いだ。

 アイナが剣を振るう度、四筋の衝撃が勾原の翼や四肢を掠めていく。勾原がなんとか体勢を整えた時、アイナはその正面にいた。


「……墜ちろッ!!」


 裂帛の気合とともに、毒の刃が振り下ろされる。禍々しい深緑の刃が、勾原の左の翼を断ち割った。


「ッギャアアアアアアアッ⁉」


 翼を失った勾原が、真っ逆さまに墜ちていく。

 そこに、銀髪に白き雷を纏った蒼乃が突っ込んだ。右手の短杖(ワンド)からは、やはり白い雷光を放つ光の風刃が伸びている。


「空に揺蕩(たゆた)う風精よ、我が手に集いて虚栄の闇を(はら)え! 虚空断刃スラスティング・ヴォイドッ!!」


 本来ならば是空刃と同じく、空間に光の斬撃を発生させる風と光の複合魔法だ。詠唱をアレンジして、短杖(ワンド)から伸びる刃としたのだろう。

 蒼乃と勾原がすれ違った。雷光が、迸る。


「があ、あっ……。あ……」


 横薙ぎに振るわれた光の風刃は、勾原の胸を深々と斬り裂いていた。

 赤い身体が、地に墜ちる。そのまま、ぴくりとも動かない。


「やった……っぽいね」


「そのようだな。珍しくレイイチ殿の手を借りずに済んだか」


「あの赤い鳥を倒したのはレイイチさんですけどねえ。ま、たまにはこういうこともあっていいんじゃないですか?」


「るな~。ふくやぶけてるよ?」


「だあああっ、フィロ黙っててっ! 考えないようにして戦ってたんだから!」


 眷属(ファミリア)たちが、姦しくしていると。


「わっ、わっわ……まだいるの⁉」


 不意に、光河の声がした。

 見れば緑の巨体を羽根つきの兜と金色の防具で鎧った戦鬼(オーク)が、のっしのっしと歩いてくる。


「ああ、大丈夫。味方だよ」


 級友たちに声をかける間に、戦鬼(オーク)――フォルティスは外套を外すと、蒼乃に差し出した。服が裂けていることを気にしたのだろう。


「……すまぬ。思っていたより、手間取った」


「引き受けてくれて助かったよ。こっちもちょうど終わったところだ」


 村跡まで来る道すがら。フォルティスは勾原が放ったと思しき魔物の群れを、一人で引き受けてくれたのだった。


(終わった、のか……? さっきの、脈打つ感じは一体……?)


 などと、考えていると――。

 視界の隅にあった勾原の身体に、火が灯った。それは程なく穏やかな光となり、急激に大きさを増していく。


「はあっ⁉ まだ何かあるの⁉」


 蒼乃の声に、フォルティスが目を見張る。


「あの光、火喰赤鵬(シムルグ)かっ! いかん、蘇るゾっ!」


「なに言って……!」


火喰赤鵬(ヤツ)がこの山でもっとも強かった所以ダ! 殺しても身体に火ガ灯ると、何度デも蘇る……!」


 フォルティスの言葉に、一同の顔に緊張が走った。


「そんなっ! レイイチさんが倒した時は、なんともなかったのに……!」


「あの魔物なりの矜持だったのかもしれんな。力を抑え、敢えて斃されることでマガハラを討たせようとした。だが吸収されたことで、勾原がその力を使えるように……!」


「てかどうすんのよこれっ! 私、さすがにもう魔力(マナ)ないよッ⁉ フィロの純然魔力(ピュア・マナ)だって連発できるわけじゃ……!」


 蒼乃が喚くそばから、勾原がゆらりと立ち上がる。

 顔にはもはや正気のものとは思えない、狂った笑顔が張り付いている。視線はただ、黎一だけに向いていた。


(ケッ、執念だけは大したもんだぜ……! さあ、どうする……⁉)


 考えた瞬間。


『――行きなさい、黎一』


 懐かしい、声が聞こえた。

 勇者紋(サイン)が、震えている。


(父さん……? 行くって、どこへ……?)


『――彼と同じ次元(ところ)へ。お前には、その資格がある』


(なにを……⁉)


 脳裏で、言いかけた時。

 勇者紋(サイン)が、強く輝いた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました! お気に召しましたら、続きもぜひ。

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