魔性の緋王
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禍々しい光が、周囲にある魔物たちの死骸を呑み込んだ。
斃された強化種も、火喰赤鵬も、光に触れたと同時に塵となって消えてゆく。
「ちょっと……! なによあれ……っ!」
蒼乃が、フィーロを庇うように抱きしめながら呻いた。
だが黎一は、妙に気分が落ち着いていた。
(なんでだ……? まるで、こうなることが分かってたような……?)
ふと右手の甲に、違和感を覚える。
見れば夜空に浮かぶ三日月を象った勇者紋が、ぼんやりと光っていた。光の明滅に合わせて、右手の甲が脈打つ。
(共鳴? 呼応? ……いや、そんなことはどうでもいい! 今は勾原を……!)
意識を引き戻した途端。
光が、ひとつどころに集まる。ちょうど屋敷の入口、勾原が立っていた場所だ。その中心には、人とも魔性ともつかぬ影がある。
「ハ……ハハハッ……ヒハハハハハッ!!」
影から聞こえてくる声は、たしかに勾原のものだ。
国選勇者隊の面々は魔物との戦いで消耗しているのか、攻撃しようとする者はない。
――やがて、光が収まる。
「……ああ。いい気分だぜ」
声とともに現れたのは、異形の存在だった。
妙に小柄な体格と顔の造形は、勾原のそれを保っている。だが逆に言えば、そこだけだ。はだけた体表は赤く染まって鱗らしきものが現れ、背には体表と同じ色をした翼が生えている。手の爪は鳥の鉤爪を思わせる形に変わり、足に至っては鳥の脚に変貌を遂げている。
(あの姿、火喰赤鵬か)
「魔物の屍を吸収したっ⁉」
「魔獣使役……⁉ そんな能力があるなんて、どこにも……!」
アイナとマリーが呻いた。
同時に、勾原の翼が羽ばたく。次の瞬間には、アイナに肉薄していた。
(速いッ……!)
「シイッ!」
「くっ⁉」
立て続けに繰り出される鉤爪を、アイナが片刃の長剣で受け弾く。
異様な光景だった。勇者となり身体能力が向上したはずのアイナが、防戦一方になっている。
無論、それを見ているだけの者たちではない。黎一が剣に水を纏わせるより早く、アイナの近くにいたマリーが動いた。
「業花飛種ッ!」
振るわれた長杖から飛ぶ闇の礫が、勾原の背に降り注ぐ。だが勾原は、少し顔を歪めただけだ。
「おめえも、あとで可愛がってやるから……!」
目の前のアイナに蹴りを入れて飛び退くと、翼を羽ばたかせてマリーへと襲いかかる。身体からは、火喰赤鵬を思わせる七色の採光が散っている。
「ちょっと黙ってろよッ!」
その寸前、黎一は剣を振るい水の魔力を解き放つ。
「勇紋共鳴、魔力追跡! 蛇水咬!」
「勇紋権能、魔力追跡! 風礫招ッ!」
蒼乃の声が重なった。
見ればすでに両手に短杖を持ちながら、攻撃の体勢に入っている。はだけた胸元に目が行きそうになったところで、目を逸らして勾原に集中した。
水の蛇と風弾が、能力に導かれて勾原に襲いかかる。
「しゃら、くせえッ!」
声とともに、勾原が中空で鉤爪を振るった。
寸前まで迫った水の蛇と風弾が、あっさりと打ち払われる。幸いこの間に、マリーは大きく飛び退いていた。
(思ってた以上に、堅いッ!)
見れば勾原の手のあたりが、かすかに光の膜で覆われている。
先ほど壁となっていた、精銀岩人の強化種が張る結界と同じものだ。
(魔物の身体を吸収することで、特性も吸収する……。魔物使役に、別の力が備わったのか)
自分でも驚くほど、落ち着いた思考だった。
剣に次の魔力を纏わせる間に、アイナがふたたび勾原へと迫る。
「勇紋権能、刻命焉刃ッ!」
火竜の角すら断ち斬る毒の刃だ。勾原もさすがに侮りがたしと見たのか、中空へと逃れようとする。
その時、マリーが黒の長杖を構えた。
「遅い……ッ! 業花蔦縛!」
言葉とともに、勾原の身体から藍色の蔦が生えた。それはまたたく間に勾原の四肢へと伸び、絡みつく。
業花飛種からの派生魔法だ。宿主の魔力を吸い取り成長した闇の種から生まれる蔦が、宿主の身体を縛める。
黎一は頃は良しとばかりに、剣に光の魔力を纏った。
「裂虹環ッ!」
周囲に生まれた五本の虹の剣刃が、勾原を目がけて一斉に飛ぶ。
勾原の動きが止まるのを見越していたか、周囲にいた面々も動く。
「勇紋権能、魔力追跡! 氷竜巻檻ッ!」
「竜呪・水噴爆破っ!」
「――銀月・白牙ッ!」
蒼乃が、フィロが、アイナが放った水の一撃が、中空にいる勾原へと殺到する。
逃れられまい――。誰もがそう思っているのが、空気で分かる。
(いや……。今の、勾原なら……!)
胸が、妙にざわつく。
その予感を、なぞるかのように。
「……ッアアアアアアアッ!!」
勾原が、吼えた。
絡みついていた藍色の蔦が、勾原から放たれる虹の採光によって散り消える。
光は輝く壁を形作り、勾原目がけて放たれた攻撃のすべてを受け止め、弾き散らした。
「うっそでしょ……⁉」
蒼乃の呆然とした声が響く。
光となった輝く壁が勾原に吸収され、その身体が七色の採光を纏っていく。先ほど火喰赤鵬が放った、体当たりと同じだ。
それを察したのか、仲間たちの顔色が変わった。
「チッ! 私が能力で止めるッ! 援護を……!」
「あれ止まるんですかあっ⁉」
「やらずに負けるくらいなら、やった方がマシよッ! フィロ、どーんの準備ッ!」
「んんぅ、あてられるかな……っ!」
皆が構える中。
黎一の心は、凪のごとき静けさだった。
(なんでだ? 攻撃も弾かれて、アホみたいな威力の攻撃してきてるんだぞ。ちょっとは、焦れよ)
まるで自分ではなく、誰かに語り掛けるような心境の中。
右手の甲が、どくりと脈打った
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