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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第五章 俺と彼女が、因縁の相手を斃すまで

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炎水、相討つ

お読みいただき、ありがとうございます!

 村跡にひしめく魔物の壁は崩れ、乱戦の様相を呈していた。黎一が魔法でこじ開けた場所から、アイナと御船、四方城が回り込んだのだ。

 蒼乃ははだけた胸元を隠しながら、フィーロに水薬(ポーション)を飲ませている。

 そんな中、黎一は屋敷の屋根に留まる巨鳥に目を向けた。


(あいつが火喰赤鵬(シムルグ)か)


 翼を広げれば、五メートルほどになるだろう。ぱっと見の印象は、いわゆる不死鳥(フェニックス)に似ている。違う部分は身体が燃えているわけではないことと、鶏冠(とさか)にあたる部分と尾羽の一部が虹色に染まっていることだ。

 火喰赤鵬(シムルグ)は敵意を見せることなく、じっと黎一を見つめている。


(たとえ使役下にあっても、命令がなければ動かない……。もっとも穏やかでもっとも強い、ってのは伊達じゃねえみたいだな)


 そこまで考えた時。ぶち抜かれた屋敷の玄関から、がらりと音がした。

 胸と左腕を血で真っ赤に染めた勾原が、ゆっくりと歩いてくる。動けるところを見ると、水薬(ポーション)を遣ったのかもしれない。


「よお。左腕、斬り飛ばしたと思ったんだがな」


「テメエッ……! よくも、よくもおおっ……!」


「……どの口でほざく」


 自然と零れた言葉に、勾原の顔が強張った。

 右手の甲が、熱を持つ。


「お前、なにやってんだよ。こんなところで」


「んだと……?」


「人は襲うわ殺すわ、挙句の果てに戦鬼(オーク)の村にまで手出すわ。挙句の果てに……」


 勾原の顔を、強く睨みつける。


「……俺の家族にまで、手を出すのか?」


 ゆっくりと、距離を詰める。その分だけ、勾原が退がる。

 勇者紋(サイン)が、脈を打った気がした。


「ほんと、相変わらずだよな。お前は……ッ!」


「……ッ! クソッ、火喰赤鵬(シムルグ)! 何やってるッ! 八薙(こいつ)を殺せッ!」


 苛立ちを感じさせる羽音とともに、火喰赤鵬(シムルグ)が宙に舞った。心なしか、頬を撫でる風が熱を持っている。

 勾原はその間に、屋敷の中に下がったかと思うと床に手をついた。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)魔獣使役(ビースト・テイマー)! ……出て来いッ!」


 勾原の影から、山脈の魔物たちが湧いて出る。いずれも山道で戦った種とは、色や身体の造りなど細部が違っている。


(強化種か。よくもまあ、こんだけ集めたものだ)


 構えず淡々としていると、勾原の表情が憤怒へと変わった。


「余裕かましやがって……! やれえッ!!」


 火喰赤鵬(シムルグ)が、魔物たちの群れが、黎一へと殺到する。

 黎一は、剣を逆手で突き立てるように構えた。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)魔力追跡(マナ・チェイス)冥水鎖(めいすいさ)


 剣をとん、と地に突き立てる。

 刹那の間を置いて。魔物たちの影から、紫黒(しこく)色の鎖が伸び出た。ある魔物は足を刻まれ、ある魔物は鎖に阻まれ動きが止まる。

 飛翔する火喰赤鵬(シムルグ)もまた、自らの影から伸びた鎖に翼を縛められ、あっさりと地に墜ちた。


「は、はっ……? なん、でだよ……。こいつら全員強化種だぞ? なんで立った一発の魔法で、そんな……」


(複合魔法、見たことないだろうし無理もねえか)


 狼狽する勾原の顔を見て、ため息を吐く。

 ”水底の闇にはなにかがある”――。そんなイメージを元に創り上げた、水と闇の複合魔法だ。

 相手の影から魔力(マナ)でできた鎖を発生させ、動きを止める。斬撃を伴う鎖は、弱い魔物なら絡めとられた端から身体を斬り刻む。


(あとは周りを一掃すれば……!)


 そう考えた矢先。水を撒いたような、音がした。

 火喰赤鵬(シムルグ)の身体が光を放ち、巻きついていた魔力(マナ)の鎖が煙を立てて消えていく。さながら、高温にさらされ蒸発しているようにも見えた。


(そうか。火喰赤鵬(こいつ)、火だけじゃなくて光の属性も持ってるのか)


 光と闇は、四大属性のように四すくみになっていない。表裏一体ゆえ、互いが弱点属性となる。火喰赤鵬(シムルグ)は本能的に自身の光の魔力(マナ)を解放し、縛めを解いたのだろう。

 感心しているうちに、魔力(マナ)の鎖が消えた。自由の身となった緋色の巨鳥が、空に舞い上がった後に黎一へと突進する。


(その意気や良し、ってか! 飼い主とはえらい違いだねえっ!)


 屋敷の入口にへたり込んだままの勾原を尻目に、黎一は火喰赤鵬(シムルグ)に向けて剣を構えた。纏わせるのは、水と光の魔力(マナ)だ。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)万霊祠堂(ミュゼアム)……! 水巧結界(デフト・ウォーター)!」


 勇者紋(サイン)が、震える。

 能力(スキル)によって、周囲の水の魔力(マナ)が増大し、火の魔力(マナ)が減少する。火喰赤鵬(シムルグ)の速度が、がくりと落ちた。不利を悟ったか翼をはためかせて動きを止めると、口から炎を撒き散らす。


(今度は撃ち合いかっ!)


裂虹環(れっこうかん)!」


 水巧結界(デフト・ウォーター)を維持したまま、剣の魔力(マナ)を解き放つ。煌めく虹の輝きを宿した水の剣刃が五本、黎一の周りを取り巻いた。うち一本が飛び行き、炎とぶつかって消滅する。

 なおも炎を吐いてくるかと思いきや。


「……コオオオオオオッ!!」


 火喰赤鵬(シムルグ)は啼き声とともに、大きく翼を広げた。鶏冠と尾羽が輝き、緋色の身体に虹色の残光が混じっていく。


(大技かい! 上等っ!)


 剣にさらに水の魔力(マナ)を纏わせつつ、虹の剣刃を上空へと向けた。

 光を纏った火喰赤鵬(シムルグ)が、黎一目がけて急降下した。猛禽が獲物を狙う姿勢を取った身体からは、火の粉を思わせる七色の彩光が溢れている。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)魔力追跡(マナ・チェイス)! 蛇水咬(じゃすいこう)八岐(やまた)っ! いけえッ!」


 イメージと能力(スキル)によって八つに別たれた水の蛇頭が、残っていた虹の剣刃のすべてが、襲い来る緋色を目がけて飛翔した。

 蛇の牙と虹の破片が突き立つたびに、火喰赤鵬(シムルグ)は少しずつ輝きと速さを失ってゆく。


(大したもんだ。さすが、山の(ヌシ)だな)


 黎一の目前まで迫った時、すでにその身体に輝きは残っていなかった。


清流纏(せいりゅうてん)


 光の消えぬ目を見て、水を纏った剣を振り抜く。

 黎一を中心に、水流が天へと立ち昇る。火喰赤鵬(シムルグ)の巨体が、流れに突っ込んだ。弾き飛ばされ、どうと地に墜ちると、そのまま動かなくなる。


「さて、と……。どうする?」


 黎一は右手の甲に違和感を覚えつつ、立ち上がった勾原に目を向けた。斬撃の痛みが消えないのか、万策尽きたゆえか、顔を強張らせたままだ。

 新たに使役された強化種たちはもちろん、元からいた魔物たちもほとんどが討ち果たされている。

 そんな中、勾原が顔を伏せた。


「……め、ねえぞ」


「は……?」


「認めねえぞッ! お前が、お前がこんなッ……! オレの上を、行くなんてッ……!」


 勾原が、ゆらりと一歩を踏み出す。

 よく見ると、その右手の甲が禍々しい赤い光を放っている。


「認めて、たまるかアアアアアアアッ!!!!」


 勾原の身体が、勇者紋(サイン)の放つ光に包まれた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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