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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第五章 俺と彼女が、因縁の相手を斃すまで

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果て往く先で【月】

お読みいただき、ありがとうございます!

 一方、その頃。

 月たちは魔物と戦いつつ、村跡の中央部まで進んでいた。

 崖の側に楕円形に作られた村のほぼ全域から、ひっきりなしに魔物が溢れてくる。


(思ってたより……!)


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)魔力追跡(マナ・チェイス)! 風、我が意に従い仇なす者を刻め! 旋風刻刃(ウィンド・ラッシュ)ッ!」


 右手の短杖(ワンド)を、群れの一角に突きつけた。白き旋風が巻き起こり、数頭の魔物を刻む。

 反対側で音が聞こえる。見れば先ほど魔物が現れた廃屋から、ふたたび大きな群れが溢れてきていた。


(数がっ! 多いっ!)


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)魔力追跡(マナ・チェイス)! 空を漂う風竜よ! 貪り食らえ、我が敵を! 風竜顎咬(トルネード・ファング)ッ!」


 左手の短杖(ワンド)から放たれた小さな竜巻が、群れの一角を吹き飛ばす。

 御船と、由佳が駆る風精雷鳥(サンダーバード)が残る群れを刈り取らんと突っ込んでいく。

 それを尻目に見ながら、さらに魔法を唱えようとしていると。

 視界が、歪む。


「……ッ!」


 たたらを踏みそうになるのを、すんでのところで堪えた。

 目まいがする。呼吸が荒くなっているのが、自分で分かった。


「ちょっ……月、だいじょぶっ⁉」


 隣にいた由佳が、身体を支えてくる。

 不安げな表情を浮かべる親友に、なんとか作り笑いを浮かべて見せる。


「だい、じょうぶ……。ちょっと、魔力(マナ)がキツイだけだから……」


「大丈夫じゃないって、それ! てか水薬(ポーション)あんの⁉」


「山田と、戦った後に使ったやつが、最後かな……。大丈夫、あと少し、だから……」


「マジ? って、あたしもみんなとはぐれた時に、全部使っちゃったけど……」


 由佳と話して、はじめて気づく。戦鬼(オーク)の村を出てからは、ずっと連戦だった。しかも多勢に無勢ゆえに、大技が多い。

 黎一と別れるまでは活性快体(ヴァイタライズ)をつけていたからまだいいものの、そこから先は水薬(ポーション)だけだ。これで消耗の激しい複合魔法まで使っていたのだから、魔力(マナ)の負担量はさらに増える。


(ここで、倒れるわけにいかない! 黎一(あいつ)が来ればきっと、なんとかなる。だから……!)


 とぎれとぎれになる思考を、なんとか押し止めていると。

 村の端にある大きな屋敷の前から、空に向けて炎の弧が打ちあがり爆ぜた。魔物たちの注意が、音のほうへと逸れる。

 見れば屋敷の入口のところに、緑の道着を着た栗色の髪の女性が、薙刀を構えて立っていた。


「舞雪ちゃんっ!」


(ロベルタさんは見つけた、ってことね……!)


 由佳の快哉に、作戦の成功を悟る。

 魔物の群れのいくつかが、四方城へと向かった。四方城は炎の振袖を纏うと単身、群れの中へと突っ込んでいく。


「マズイ、あれじゃ……!」


「こっちだけ楽になっても意味がありませんよっ!」


 陣の真ん中で闇魔法を放っていたマリーが、悲痛な声を重ねてくる。

 前衛のアイナと御船も状況を察したらしく、なんとか四方城のほうに進もうとしているのが見て取れた。が、目の前の群れに阻まれ、容易にはいかない。


「私が行くっ! 由佳はここを守って!」


「無茶だよっ! もう魔力(マナ)が……!」


「私しか、あそこまで行けないでしょ! ……大気を彩る風精よっ! その身を以て、我を護る鎧となれっ! 風精纏盾(シルフィ・シールド)ッ!」


 詠唱にアレンジを加え強化した風の結界が、月の身体を包み込む。

 その間も、四方城は魔物の群れを相手に一歩も引かず戦っていた。だがその表情には、心なしか見たことのない影が落ちているようにも見える。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)無足瞬動(ペネトレイト)ッ!!」


 魔物たちの頭上を突っ切り、四方城の背後へと着地する。本来、彼女の背を護っているはずの男の姿は、今はない。

 すぐに風の補助魔法をかけると、四方城の薙刀が魔物を討つ数が目に見えて増える。


「舞雪ちゃんっ! 無茶しすぎっ!」


「助勢、感謝しますっ!」


「なんで天叢くんと来ないの⁉ ロベルタさんはっ⁉」


「……ご無事です。今は、翔くんが安全なところに」


 途端、四方城の声に張りがなくなった。

 近くで見ると、その視線には沸々とした怒りを感じられる。


(なんか、あったんだね)


 それ以上、聞く気にはなれなかった。

 なにより未だ、魔物の群れは大量に襲いかかってきている。


(合流できればいい……! 大技かまして……!)


 両手の短杖(ワンド)を交差し、風の上級魔法をイメージする。

 だが――。


「……ッ!」


 身体の力が、抜けた。

 穴の空いた風船に空気を入れているかのように、イメージを膨らませても萎んでいく。

 足に力が入らない。視界が歪む。異変に気づいた四方城の声が、妙に遠くに聞こえる。


(こんな、ところで……っ!)


 意識が消えゆく、刹那の間に。


「……竜呪・灰滅炎陣(ぼ~ぼ~)っ!!」


 聞き知った声がした。

 目の前の魔物たちが、噴き上がる炎の柱に飲み込まれた。普通の魔法とは違う色をした炎に焼かれた魔物たちが、立ちどころに灰と化す。


「るなっ! これっ!」


 声とともに、足元に小さな瓶が落ちる。細管魔力水薬(スリム・マナエキス)。携帯性に優れた、魔力(マナ)を回復する水薬(ポーション)だ。

 声のほうを降り仰げば、廃屋の屋根の上に長い黒髪の少女がいた。頭には竜人からもらった、六色の宝石がちりばめられた髪飾り。魔力(マナ)の制御が容易になる紋様が刻まれた特注の防具――。


「……フィロッ!」


 フィーロは屋根から降りることなく、魔法で魔物を次々と屠っていく。

 空から近づく魔物は、背に負った剣で一刀の元に斬り捨てている。

 とある竜人からもらった短剣だった。フィーロの背だと、ちょっとした長剣になる。


(あのバカ……! でもこれなら、いける……っ!)


 月は水薬(ポーション)を呷りながら、戦況を見渡した。

 フィーロのおかげで、四方城の動きにゆとりが出た。中央から進んできたアイナと御船も、はや月と四方城がいる地点に近づきつつある。

 ロベルタは救出した。群れの勢いがどこまで続くか分からないが、天叢も合流してくれば時間の問題だろう。


(けど、勾原は? ひょっとして逃げた……?)


 考えかけた時。


「……勇紋権能(サインズ・ドライヴ)魔獣使役(ビースト・テイマー)!」


 荒々しい声は、後ろから聞こえた。

 月たちが立っている近辺の魔物が、一気に増加した。まるで陰から湧いて出たかのように、月と舞雪を分断する。


「月さんッ! こちらへ……!」


 そう言った四方城の姿と言葉が、幾重にも聞こえる魔物の息遣いに押し流されていく。

 同時に、背後から大きな影が差した。


「いだっ⁉」


 フィーロの声が聞こえる。

 振り向けば、上空に輝く緋色の羽をもった鳥の魔物が羽ばたいていた。その下で、フィーロが男に首を鷲掴みにされている。

 よく知った顔だった。男としては小柄な体格と、そこまで悪くはない顔。毛皮で造ったと思しき貫頭衣の上から、ボロボロの防具を身に着けている。


「勾、原……ッ!」


「よう、蒼乃……。久しぶりだな」


 ぽつりと零れた言葉に、勾原は獰猛な笑みを浮かべた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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