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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第五章 俺と彼女が、因縁の相手を斃すまで

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恐れるがゆえに【月】

お読みいただき、ありがとうございます!

 月が尾根を二つほど超えた時、前方の岩場に人影が見えた。

 見える人数は六。皆が村にほど近いこの場に集合している、と小里から伝えられ、大急ぎで飛んできての今である。


「あっ、きたっ! る~な~!」


「おつかれさまでぇ~す!」


 小柄な女子ふたり、光河由佳とマリーが手を振っている。

 月が岩場に降り立つなり、由佳は思いっきりしがみついてきた。


「……んもうっ! 心配したんだからねっ!」


「ごめんごめん。みんなも無事でよかった」


「本当に。マリーさんたちが来てくれなかったら、無事では済まなかったでしょうけど」


 応じたのは四方城だ。道着や防具に多少の傷や汚れているだけで、目立った負傷はない。

 その後ろから、アイナと御船が歩いてきた。


「崖から落ちたくらいで死なないのは分かっていたが、案の定だな」


「そりゃあもう。落ちるのは慣れてますから」


 アイナとにっこり笑い合い、手を打ち合わせる。

 その脇で、御船が神妙な顔をして口を開いた。


「山田は?」


「……倒したよ。私が、やった」


「そうか。ありがとな」


「うん、大丈夫」


 短く告げる御船に、微笑みで応じる。

 御船の防具は傷だらけだった。水薬(ポーション)や回復魔法がなければ、ここまで来ることもできなかっただろう。

 話している間に、天叢がすっと寄ってくる。こちらも防具や服がボロボロだが、回復魔法のおかげか外傷はない。


「蒼乃さん……。八薙くんは?」


「山田が立て籠もってた祭壇でバトってるはず……。多分、戦鬼(オーク)の族長さんと一緒にすぐ追いついてくると思うけど」


「瑞枝ちゃんに聞いたけどさぁ、なんでまた戦鬼(オーク)なんて……。ほんとに大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。いい人っていうか、いい戦鬼(オーク)だから。……あっ、それより! フィロ見なかった⁉」


 ・


 ・


 ・


「……山に来ちゃってんの⁉ ヤバいじゃんっ!」


「魔法の練習をしたいって言うから、竜人の髪飾りを持ってこさせちゃったのがマズかったですね。ここじゃ望郷一縷(アリアドネ)も使えませんし。無事だといいんですけど……」


 慌てふためく光河の横で、マリーが不安げな表情を浮かべる。

 すると黙って話を聞いていたアイナが、頭を振る。


「なに、本気で隠れたフィロならそう見つかることはないさ。なにより……」


 アイナは言葉を切ると、月が来た方角とは逆のほうに目を向けた。その先には、目指す村の跡地が見えている。


「さっさと終わらせてしまえば、問題はない」


「えっ⁉ まだ八薙来てないのに⁉」


「元々の戦力に加えて、マリーと私もいる。協力者も増えたことだしな」


 言いながら、アイナはふたたび視線を移した。

 そこには、園里と外波山が立っている。長い漂流生活のせいか、はたまた別の理由か。制服を着ていた頃と比べると幾分、大人びて見えた。


「あたしたち、勇者紋(サイン)が消えたから戦力にはなれないけど……。回復と浄化の魔法なら、使えるから」


「なんかあれば、言って」


 俯きながら言う二人に、月は険しい視線を向けた。


「命惜しさ、ってこと?」


「……なんとでも言えばいいじゃないっ!」


 声を上げたのは、意外にも園里だった。


「いいよね、あんたたちは……! いい男子(オトコ)に恵まれて、異世界(こっち)でもいいポジション獲って……っ! 所詮、勝ち組はこっちでも勝ち組ってことでしょっ⁉」


「やめなよ、理恵ちゃん……!」


「あたしたちは違ったっ! この世界に来た日……勇紋主命(ことば)で従わされて、その日のうちに何度も、何度もっ……。従うしかなかったのよっ! 生きるにはそうするしかなかったのっ!」


 くしゃくしゃになった園里の目から、涙があふれ始める。

 右手は、左手の甲にある火傷の跡に似た傷をさすっていた。


「やっと消えてくれた。この忌々しい勇者紋(もの)が……。ここに来るまでだって、何度か楽になろうかと思った。けど、やっぱり死にたくないの。カッコ、悪いよね……」


 外波山が園里の肩を抱いた。

 だが園里は、泣き崩れずに月の目を見据える。


「だから生きられるチャンスがあるなら、少しでも長く生きてみる。笑うんだったら笑えばいい」


「わたしたちを殺す必要があるなら、好きにしてください。文句を言えないくらいのことはしてきたし、従うのも媚びへつらうのも、もう慣れたから。でもここで生かしてくれるなら……後悔は、させない」


 月は園里と、言葉を継ぐ外波山を交互に見た。

 ため息ひとつついて、口を開く。


「……分かった。それでいいよ」


「え……?」


 呆然とする園里に、月は微笑みを向けた。


「私だって死にたくない。ここにいるみんなだって、そうだよ。だからその言葉はなによりも信用できる。命かかってる間は裏切らない、ってことだから」


「蒼乃、さん……」


「もっとも。反省しましたとか、心入れ替えましたとか言ってたら、この場で終わらせてたけどね」


 つぶやく外波山に、通信端末を差し出す。


「二人とも、ここにいて。この近くなら魔物は出ないはずだから。あと私たちといた女の子がいたら、引き留めて。なんかあったら管制室に連絡ね」


「……分かった」


「気をつけて、ね」


 もう一度、二人に視線を向けた後。

 月たちは誰ともなく、村跡に向けて歩き始めた。



 *  *  *  *



 目の前にした村跡は、遠くから見るよりも村の体を保っていた。

 廃屋の数は、大小合わせて二十棟ほどだろうか。申し訳程度に設けられた低い柵と、村の名を示していたのだろうアーチが、わずかに往時を伝えている。


「ひどい臭いだな」


「おえっ、ぷ……。死臭がここまで漂ってくるよ……」


 慣れたものだと言わんばかりのアイナと対照的に、由佳が空いた左手で鼻を覆った。

 村跡の敷地内には、食い散らかされた冒険者たちと思しき屍が大量に転がっている。人と人の戦いでは、こうはならない。

 月は自身も鼻を塞ぎたい気持ちを抑えつつ、陰惨な光景に手をかざした。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)魔力追跡(マナ・チェイス)


 感覚の中で、知った魔力(マナ)を探す。

 廃屋の中には、伏せていると思しき魔物の魔力(マナ)が無数に見て取れた。見える範囲に、勾原らしき反応はない。


「勾原は分からないけど、魔物は家の中にたくさん隠れてる。使役してる魔物は全部、ここに集めてるっぽいね」


(るな)、いつの間にそんなことできるようになったん……。管制室の魔力探知(マナ・サーチ)と変わんなくない……?」


「ん~。色んな魔力波形(マナ・パターン)を覚えといて逆探知、みたいな? 波形(パターン)を知ってる人や魔物なら、そうそう外さない……って、この反応っ!」


 村の最奥、大きな屋敷の中。

 かすかに見える魔力波形(マナ・パターン)は、たしかにロベルタのものだった。


「見つけた、ロベルタさんっ!」


「どこッ⁉」


 掴みかからんばかりの勢いで問うてきたのは、天叢だ。


「村の一番奥の、大きな屋敷……。お邪魔虫がいっぱいだけどね」


「早く助けなきゃ……!」


「配置からすると、村の敷地に入るか廃屋の近くを通ったら、不意打ちしろって命じられてると思う。天叢くん、舞雪ちゃんと一緒に敷地の外から回り込んだら?」


 天叢がわずかに四方城と顔を見合わせた後、ともに頷く。

 それを見た御船が前に立った。


「決まりだな。オレとアイナさんが前衛(まえ)に出る」


後衛(うしろ)はマリーさんとあたし。中衛には風精雷鳥(バドちゃん)、出しとくからね。月は不意打ち警戒でっ!」


 月は由佳の言葉に頷きながら、皆の顔を見る。


「……行こう、みんなっ!」


 頷く面々の顔は、なぜだか妙に力強かった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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