表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第五章 俺と彼女が、因縁の相手を斃すまで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

188/260

幻影の城

お読みいただき、ありがとうございます!

 程なくたどり着いた祭壇は、やはり厚い雲で覆われていた。

 うっすらと見えるストーンサークルの石柱に沿うように、雲の壁が渦巻き流れている。中の様子は、杳として知れない。


「思ってたよりデカいな……」


「この雲も幻影だね。祭壇の影響も受けてるのかも」


 黎一のぼやきに、蒼乃が応じる。

 先ほどフォルティスたちがフィーロの捜索を申し出てくれたことで、少し気分が上向いたらしい。


「まやかしを操る者は、おそらく祭壇の中心にいる。中心まデはそれほど距離はない。だガまやかしを仕掛けているならバ、より時を食うダろう」


 フォルティスの言葉に、しばし思案する。

 山にかけた幻影を取り払ってまで創った仕掛けだ。中は迷宮(ダンジョン)さながらになっていると思っていい。そこにありったけの魔物を詰め込んでいると考えると、足があさっての方へと向かいそうになる。


祭壇(ここ)を潰さないわけにはいかない。おまけにフィロも探さないといけない。スピード勝負か。だったら……)


「……蒼乃」


 手を差し出しながら、相方の名を呼ぶ。


「ん、なに?」


 蒼乃が、手を握り返しながら応じてくる。手を繋ぐのは、能力(スキル)を入れ替えるのに必要な動作だ。

 今、蒼乃には体力と魔力(マナ)が徐々に回復する活性快体(ヴァイタライズ)を渡している。


「中に入ったら、一気に突っ切って山田を叩いてくれ。終わったら全速力でフィロを探しにいくんだ」


「はあっ⁉ なんでよ、戦鬼(オーク)のみんなが探してくれるって……!」


「幻影を突っ切るにはそれが一番だ。機動力はお前の方が上なんだから。それに……」


「それに?」


戦鬼(オーク)たちじゃ多分、フィロの魔法を見破れない。あとフィロは多分、村に向かう。魔力(マナ)の濃淡を感じ取れるし、ちょっとくらい道が崩れてたってどうってことない。早く見つけないと、村まで行っちまう」


「……私の魔力追跡(マナ・チェイス)だね?」


「ああ。引っかかってくれるか分からねえが、雑に探すよりはいい」


「分かった。ここはお願いね」


 蒼乃が頷いたのを見て、能力(スキル)を入れ替えた。

 渡したのは術者を高速移動させる能力(スキル)無足瞬動(ペネトレイト)だ。加重によって身体に負荷がかかるのが難点だが、風の結界を併用すると負荷なく使うことができる。戦い方との相性がよいのも相まって、普段も蒼乃に渡すことが多い。


「……準備は終えたか?」


 すでにフォルティスたちは、手に手に武器を携えていた。

 黎一は蒼乃と顔を見合わると、頷きを返した。


「オレガ先頭に立つ。……続けッ!」


 フォルティスに続いてイメルダ、その次に戦鬼(オーク)たちが渦巻く雲へと駆け込んでいく。

 殿で中に入ると、急に正面から風が吹きつけた。


「……っ⁉」


「ねえっ! この風、普通じゃない!」


 蒼乃の言葉に、能力(スキル)魔律慧眼(カラーズ)に切り替える。

 たしかに魔力(マナ)は属性を問わず豊富にある。しかし風が吹いても、風を顕す黄金の魔力(マナ)が動かない。


(魔法じゃない……! こっちの五感に錯覚を起こす幻影、ってことか!)


 そこまで考えた時。

 黎一から見て左側の雲の中で、色が動いた。

 何とはなしに、そちらを見て――。


(……ッ⁉)


 思わず、ぎょっとする。

 太く長いなにかが、鎌首をもたげていた。頭と思しき箇所は、黎一たちのほうに向いている。影の形を追う限り、どうにもそれは祭壇の外周をぐるりと囲んでいるらしい。

 影が、動く。


「……来るぞッ! 左だッ!」


 言うが早いか、雲が割れた。

 裂け目から現れたそれは予想通り、巨大な蛇の頭だった。禍々しい黒緑色の皮膚に覆われた胴体は丸太よりも太く、開かれた顎は大人でもひと呑みにできそうな大きさだ。


(ヌシ)の一匹かッ!!」


「こいつまで屈服させルとは……!」


 フォルティスとイメルダが叫ぶ。

 その間にも、蛇の顎は戦鬼(オーク)の一匹を銜えこんでいた。牙でかみ砕かず、そのままひと息に呑み込む。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)魔力追跡(マナ・チェイス)! 風伯刃(ふうはくじん)ッ!」


 放った風の刃が、黒蛇の額を打った。だが黒蛇は大して効いた風もなく、素早く雲の中へと戻っていく。

 同時に、規則正しく並ぶ石柱の陰から、大量の魔物が湧いて出た。


一撃離脱戦法ヒット・アンド・アウェイ、ってやつね……!」


(こす)いマネしやがる。飼い主に似たのかねえ」


 魔法を放つ蒼乃の言葉を、皮肉でもって肯定する。

 なにせ祭壇の外周を取り巻けるほどの大きさだ。標的の動きに合わせて周囲を回り、幻影の向こう側から獲物に食らいつける。

 前から風に紛れて魔物の群れが押し寄せれば、注意は自然とそちらに向く。背後を疎かにした者から、一匹ずつ屠るつもりだろう。


(俺らが突入するまで、幻影の中に隠してやがったんだ……! こりゃ相当、覚悟ガンギマってんな!)


 そうこうする間に、ふたたび黒蛇の顎が戦鬼(オーク)の一匹を喰らった。

 手を打たなければジリ貧になるのは、火を見るよりも明らかだ。


「蒼乃、山田の位置は⁉」


「調べてるけど分かんないっ! 魔物のせいもあるけど、あの蛇が場を囲ってるからだと思う!」


 魔律慧眼(カラーズ)で見ると、現れた魔物たちと周囲を覆う黒蛇の魔力(マナ)によって、さながら万華鏡のような様相を呈している。


(祭壇で魔力(マナ)が強化されるのをいいことに、魔物の魔力(マナ)の中に紛れて自分の位置を誤魔化す、か……! なるほど勉強になるわっ!)


 蒼乃は山田の魔力波形(マナ・パターン)を覚えているだろうが、これだけ魔力(マナ)が乱れると話は別だ。魔物の属性がバラバラなのもさることながら、黒蛇が山田と同じ闇の魔力(マナ)なのが小憎らしい。


「だったら……! 勇紋権能(サインズ・ドライヴ)万霊祠堂(ミュゼアム)!」


 万霊祠堂(ミュゼアム)に意識を切り替え、別の石碑に手を伸ばす。


「……影隷創招シャドウ・サーヴァントッ!」


 能力(スキル)によって、黎一の影が蠢いた。影はぬるりと這い出て黎一に纏わりついたかと思うと、身体と武器の輪郭を写し取った影法師へと姿を変える。全身真っ黒なのっぺらぼう、という点以外は完璧な分身だ。


裂虹環(れっこうかん)!」


 言葉に応じて剣をかざすと、黎一の周りに五つの虹の剣刃が現れた。

 ――編み出したばかりの、水と光の剣魔法である。

 敵意を持った存在の動きや魔法に応じて反撃する、虹の剣刃を生む。

 単体魔法でないゆえ全々全花(オール・ジ・オール)で反復できないのが、少々ネックではある。だが光属性で打ち消し効果まで持っているメリットは、それを補って余りあるものだ。


「……ン」


 影法師が、妙な声音とともに剣を振るった。程なく、黎一と同じく虹の剣刃がその周りに現れる。

 この影法師、術者の動きを真似る力を持つ。能力(スキル)こそマネできないが、魔法はなんでもマネしてくれる。

 その時。黒蛇が三度、雲の中から姿を現した。


「……いけえッ!」


 念じて剣を振るうと、虹の剣刃のひとつが動いた。影法師がそれに倣う。二つの剣刃は七色の軌跡を生みながら飛翔し、突っ込んでくる黒蛇の額に突き立った。


「キシャアアアアッ⁉」


 黒蛇が苦しげな鳴き声をあげる。よほど意外だったか傷が深いか、戦鬼(オーク)たちに手を打さずに頭をひっこめた。


(よっし! あの調子なら、少しの間は出てこねえな! 今のうちに……!)


 頭の中に、とあるイメージを浮かべながら剣を振るう。

 すると、残った虹の剣刃が一斉に飛んだ。上空へ去ったかと思うと、戦鬼(オーク)たちと交戦する魔物を穿った後、地へと突き立つ。

 ちょうど、黎一を中心に十字を描く位置だ。影法師の放った剣刃も並ぶと、あたりがにわかに明るくなった。


(この状態なら……!)


「蒼乃、やれるかッ⁉」


「うんっ、ありがと!」


 意図を察したのか、蒼乃は周囲を見回し始める。

 特定の魔力(マナ)が邪魔なら、対抗する属性の魔力(マナ)を増やせば抑えこめる。

 あいにく光の巧結界(デフト)はないが、こうして滞留する魔法で魔力(マナ)を放てば、魔力(マナ)の均衡を変えることは難しくない。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)魔力追跡(マナ・チェイス)……! オッケ、見つけたっ!」


 蒼乃が快哉を叫ぶ。

 黎一は光に照らされながら、フォルティスたちと満足げに頷いた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたらブックマークや評価、感想など頂ければ励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ