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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第五章 俺と彼女が、因縁の相手を斃すまで

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種を超えた盟約

お読みいただき、ありがとうございます!

 石造りの室内に、沈黙が落ちた。

 フォルティスは黙したまま、黎一の答えを待っている。


「なぜ、って……」


「オレは一族を護る義務ガある。この戦いが終わった後、お前たちガオレたちを討たぬとも限らない……。ダから聞いた。そこの者は、我ガ村の(まじな)いに興味ガあるようダしな」


 フォルティスに合わせてちらと横を見ると、蒼乃が果実を頬張ったまま気まずそうな表情を浮かべていた。村の入口に会った岩の仕掛けを気にかけていたのが、バレていたらしい。

 黎一はため息をつくと、右手に刻まれた勇者紋(サイン)をフォルティスに見せた。


「……勇者(おれたち)は違う世界から来た。魔物を操って暴れてる奴らも、俺たちの身内だ。心配する気持ちは分かる」


 フォルティスもイメルダも、黙って黎一の言葉を聞いてる。


勇者(おれたち)は、人間の世界でも扱いが悪い。他の奴らにはない能力(ちから)があるってだけでな。そういう意味じゃ、魔物(あんた)たちとそんなに変わらない」


勇者(ブレイヴ)、というのダったか。山で幾度か戦った。狩ったこともある」


「殺らなかったら殺られるからな、恨みっこなしだ。けどそんなの、どっちも変わらねえよ」


 フォルティスの頬が、ぴくりと動いた。


「生きるために、守るもののために……誰かを害し、害される。俺たちも魔物(あんた)たちも、変わらない」


「その通りダ。故にこそ、お前たちガ我らを裏切らぬか案ジている」


「でも……いやだからこそ、俺は手に届く相手なら守ろうって思ってる。あんたの奥さんを見た時、その周りにも誰かがいるんだって思った。蒼乃(こいつ)だって、きっと同じだ」


 ちらと見ると、蒼乃が肉を頬張りながらこくこくと頷いている。元々、タダ飯には目がない性質(たち)なのだ。

 説得力の欠片もないが、話の腰を折るわけにもいかない。


「こうして関わった以上、あんたたちを害することは絶対にしない。もし人間たちがあんたたちを害するなら……その時は、全力で止める」


 黎一の言葉を聞いたフォルティスは、しばし瞑目した。


「……その言葉、信ズるに足るか見せてもらう」


「見せる? 奴らを討つだけじゃダメなのか」


「オレがこの目デ、見届けるという意味ダ」


 フォルティスは立ち上がると、ふたたび羽根飾りの兜を被る。


「我らも、ともに征く」


 思わぬ提案に、蒼乃と顔を見合わせた。

 我ら、ということは、先ほどの戦鬼(オーク)たちがまるっと援軍として加わるようなものだ。


「それはありがたいけど……なんで?」


同胞(なかま)を取り戻したいのは、我らも同ジ。それにドの道、案内は必要ダろう」


「普通に山の上に出られたら、あとはなんとかするけど……」


 蒼乃は知った相手なら、魔力追跡(マナ・チェイス)魔力波形(マナ・パターン)の位置を探ることができる。山の上に出られさえすれば仲間たちは元より、敵方の位置を掴むのも難しくはない。

 しかしフォルティスは、険しい表情で首を振った。


「潰すベき場所ガもうひとつある。そこに、まやかしを呼ぶ者ガいる」


 その言葉に、脳裏にある顔が思い浮かぶ。

 かつての級友であり、勾原の眷属(ファミリア)である山田香織だ。


「まやかし……! どこにある?」


「お前たちの言う村の跡から、少し離れたところにある。かつて住んデいた人の部族ガ、(まじな)いをしていた祭壇ダ」


「祭壇ってことは、魔力(マナ)を増幅させる機能があるのかもね」


 ようやく食事を終えた蒼乃が、神妙な顔つきで言う。

 一言に祭壇といっても様々だが、大体は魔力(マナ)や魔法の”言葉”の力を増す効果がある。

 そしてほとんどの能力(スキル)は、視界がものを言う。山田が魔力(マナ)を増幅して遠視の魔法を使っているなら、幻影を使っての強襲や、崖道の罠を起動できたのも合点がいく。


「……先に祭壇を潰す。みんなとの合流はその後だ」


「ならバ村の端に来い。山の中腹まデ出られる洞窟ガある。そこから、祭壇を目指す」


 フォルティスの言葉に、黎一と蒼乃は頷いた。



 *  *  *  *



 村の端まで行くと、戦鬼(オーク)たちがぐるりと囲いを作った真ん中で、なにやら言い合っている者たちがある。


「イメルダ! お前は村に残れ!」


「命を救われタ恩を返さずに済ませトいうのか!」


 低い声はフォルティス、鈴の音のような声はイメルダだった。

 フォルティスは、羽根飾りの兜を身に着け大剣を背に負っている。イメルダも先ほどと違い。金属で補強された革の防具を着込んでの完全武装だ。


(おいおい……。勾原たちと一戦交える前に、先にこっちがおっぱじまりそうな……)


 不謹慎なことを考えていると、イメルダの視線が黎一へと向く。

 それだけで、肌が粟立った。戦鬼(オーク)であっても、人の姿をした女性はやはりダメらしい。


「レイイチ、ワタシの同行を認めテほしい。決しテ邪魔にはならない」


「止めてやってくれ。オレは妻を危険に晒したくはない」


「えっ、俺……⁉」


 すっと蒼乃に視線を向けるが、すまし顔で首を振るのみだった。

 その顔は、「ご指名なんだから、あんたが決めなさいよね」とでも言いたげだ。


「……分かった、ついてきていい。ただひとつだけ条件がある」


 怪訝な顔をするイメルダに向けて、言葉を続ける。


「ついてくるのは祭壇までだ。魔物を操る奴が陣取る村までは、ついてこないでほしい。あ、これは他の戦鬼(オーク)たちも同じな」


「なぜだ! ワタシは村でもフォルティスに次ぐ戦士だ! 他の者たちとて、村を守り抜いタ猛者タちぞ!」


「だからこそだよ。イメルダさんが操られたら、戦いづらいなんてもんじゃない。邪魔になるだけだ」


「グ、ッ……」


 イメルダが、口惜し気に黙る。

 先ほどのフォルティスの話では、勾原の魔物使役(ビースト・テイマー)戦鬼(オーク)にも適用される。しかも、”屈服”の条件づけが分からない。この状況下であれば、戦鬼(オーク)たちを勾原の前に立たせない、が最適解となる。

 フォルティスはそのあたりを理解しているのか、得心したように頷いた。


「レイイチの案でよい。だが、オレはヤツらガいる村までデにゆく」


「だからそれは……」


「己の内デ負けを認めなけれバ、ヤツの術は効かん。同胞(なかま)の仇、この手デ討つ」


「……分かったよ。一緒に戦おう」


 黎一の言葉に、フォルティスは満足げに頷いた

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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