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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第五章 俺と彼女が、因縁の相手を斃すまで

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隠れ里

お読みいただき、ありがとうございます!

 黎一と蒼乃は、峡谷を上流に向けて歩いていた。先頭をフォルティスとその妻――イメルダと言うらしい――が行き、黎一と蒼乃を戦鬼(オーク)の戦士団が囲う大移動だ。

 彼からとしては、族長の妻を救った恩人を護衛している体なのだろう。だが傍から見れば間違いなく、狩りの獲物を引き連れているようにしか見えない。


(……あれか)


 崖の陰に建てられた松明を見て、黎一は目的地が近いことを悟った。

 戦鬼(オーク)の一体が、骨の彫刻がついた松明に火を灯す。数拍の間を置いて、松明の脇の岩肌が音を立て始めた。鈍色の岩がゆっくりと奥へ動いたかと思うと、崖面に暗い洞窟が口を開ける。


「行くゾ」


 フォルティスはぽつりと言うと、イメルダを伴って洞窟へと入っていく。言葉は、先ほどよりもはるかに聞き取りやすい。口が慣れたのか、それとも言葉の壁をなくすこの異世界の加護か。

 戦鬼(オーク)たちに手ぶりで促されて、中に入ると――。


「うおぅ……」


「結構、広いんだね……」


 意外にも、開けた空間が広がっていた。地肌剥き出しの壁や天井を見るに、天然の洞窟を少しずつ拡げたらしい。

 入口の脇には先ほど動いた岩とともに、数人の戦鬼(オーク)が立っている。


(え、あの戦鬼(オーク)たちが岩を動かしてんの……? まさか手動……?)


「ね、ね。今の見た?」


 ふとした疑問が脳裏をかすめたところで、蒼乃が弾んだ声で問うてくる。

 その目は、知性と欲望の狭間くらいの輝きを宿している。嫌な予感しかしない。


「……なにをだよ」


 歩きながら、努めて平静な口調で応じた。

 すると蒼乃は、先ほどの岩を指さした。


「あの岩っ! 見たことない術式、刻まれてたよっ! あんな術式、魔法院でも見たことない……!」


「え。自動ドアなの……?」


 たしかに、岩の表面の一部が紋様の形に輝いている。

 脇に立つ戦鬼(オーク)たちの姿も、言われてみれば戦士よりは祈祷師(シャーマン)に近い。


「そうそう! 脇の戦鬼(オーク)たちがみんなで動かしてるのかと思ってたのに……。ひょっとしてさ、外の松明とも連動してたりするのかな? 骨のところに、術式っぽい紋様あったし!」


(松明に火を灯すと、魔力(マナ)が通って岩が動くのか? しっかし、蒼乃(こいつ)もよく見てんなあ……)


 最近――。

 蒼乃はマリーの口利きで、ヴァイスラント王宮内の王立魔法院に、客席魔法士という名目で在籍している。

 主に携わっている研究は”実戦における魔法の利活用”という、趣味と実益を兼ねたアルバイトだ。魔法の組み立てが異常に早かったり、術式に関する知識が増えたのも、この仕事のおかげなのだろう。


(それにしても、戦鬼(オーク)がこんな高度な術式を使ってるなんて……。魔法も使う、ってのは分かっちゃいたけど)


 黎一の中では、いいとこ下級の攻撃魔法や回復魔法といった、(まじな)いの類に近いものを用いる程度の認識だった。

 だが今の岩を動かした術式などは、五百年前の竜人文明である焉古時代(レリック・エイジ)の技術を流用した人間社会ほどではないにせよ、明らかに魔物が用いる範疇を超えている。


(禍の山脈って場所がそうさせたのか……? それとも別の理由が……?)


「……そろそろ着く」


 取り留めのない思考を、フォルティスの声が遮った。気づけば洞窟の先に、わずかな光が見えている。

 なおも歩いていくと、視界が開けた。


「わ、ぁ……!」


 蒼乃が、感極まった声を上げる。

 出た先は、洞窟を大きなドーム状にくり抜いた空間の中腹だった。

 眼下では空間を十字に仕切る大きな道を、魔力(マナ)の光を帯びたかがり火が照らす。その道に沿うように、木組みの家や石で造った邸宅と思しき建物が所狭しと並んでいる。


(ちょっと待て。村、なんてもんじゃねえだろ。これ……)


 見える戦鬼(オーク)たちの数からして、人口はちょっとした人間の街ほどもあるだろうと思えた。道の脇には毛皮を絨毯がわりに敷いた市らしきものも、ちらほら見える。


「こっちダ」


 フォルティスは崖道を下ると、奥まったところにある神殿らしき建物に向けて歩いていく。道行く戦鬼(オーク)たちから向けられる、興味と殺気が入り混じった視線がチクチクと痛い。

 程なく着いた神殿は、山の地肌と同じ鈍色の建物だった。研磨された石で組んだ造りは色味も相まって、簡素ながらも(おごそ)かな雰囲気を醸し出している。


「……メシをダせ。酒もダ」


 入口で出迎えた侍従らしき戦鬼(オーク)にそう告げると、フォルティスは奥の上座にどっかりと腰を下ろした。イメルダが、その隣につく。

 黎一たちが上座の前に設えられた席につくと、焼いた肉や川魚が盛られた木の皿が次々に運ばれてくる。少量ながら、野菜や果実を盛った皿もあった。どこかに畑や、採れる場所を持っていることの証だ。


「ここ、集会所かなにかなの……?」


「族長の屋敷ダ。族長は皆、ここに住む」


「やっぱり、あんたが……」


「そうダ。改めて、名乗ろう」


 フォルティスは、羽根飾りのついた兜を外した。

 兜の下から、後ろに撫でつけられた真っ赤な髪が現れる。


「シグムント族、族長……フォルティス・ラージャ・シグムント。我ガ妻を助けてくれたこと、礼を言う」


 フォルティスはそう言うと、イメルダとともに深々と頭を下げた。


「この程度デ報いになるとも思わぬガ、たんと食え」


「……気持ちはありがたいが、こうしてる時間も惜しい」


 卓から身を乗り出すようにして、フォルティスに応じる。


「俺たちは魔物を操ってる奴らの罠で、谷に落ちたんだ。仲間ともはぐれた。早くしないと、手遅れになっちまう」


 ちらと横を見てみれば、蒼乃が皿に盛られた料理を興味深く観察しては口に運んでいる。なかなか大層な神経だが、知的好奇心に釣られてのものと思い、敢えて制することはしない。


「そう()くな。腹ガ減っては動けまい。増して、彼の者ドもを狩るならな」


「……奴らと会ったことがあるのか?」


「魔物を率いて、他の部族の村を襲った時にな。討たれた者、操られた者は数知れぬ。逃れてきた女子供を、我が村に匿えたのガ救いダ」


「なるほどね。いくらなんでも魔物の肉だけじゃ、って思ってたけど……。戦鬼(オーク)たちから略奪してたってわけだ」


 蒼乃が、野菜を頬張りながら口を挟む。

 他の部族の文化レベルがシグムント族と同程度なら、衣類や食糧の類には事欠かないだろう。勾原たちからしてみれば手下が増える上、物資まで手に入る美味しい獲物だ。


「我ガ村は(マジナ)いを使った造りのおかゲデ、奴らに勘ヅかれズニすんデいる。妻ガ捕えられていれバ、ドうなっていたか分らぬガな」


「……谷には降りてこぬト思っテ、油断しテいタ。あなタタチには感謝しテいる」


 フォルティスの言葉を、イメルダが幾分たどたどしい人語で継ぐ。

 端正な見た目を裏切らない、鈴の音を思わせる声だ。


「ここから、山の上に出る道はないか? 奴らが陣取ってるのが、山頂のあたりにある村の跡地なんだ。そこまで行きたい」


「道はある。ダガその前に、問いたいことガある」


 フォルティスはしばし瞑目した後、黎一の目をひたと見つめた。


「お前たち……。なゼ、我らを討たなかった?」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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