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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第五章 俺と彼女が、因縁の相手を斃すまで

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墜ちた先で

お読みいただき、ありがとうございます!

 黎一と蒼乃は手を取り合って、峡谷を下へ下へと落ちていく。

 生き残った勇翼の魔物たちも迫っているが、蒼乃が手を引いているせいか追いつかれる気配はない。


「大気を彩る風精よっ! その身を以って我らを護れっ! 風精纏盾(シルフィ・シールド)ッ!」


 蒼乃の声とともに、風の結界がふたりを包んだ。

 数頭の勇翼天馬(コルヌス)が放った風の刃が、結界を取り巻く銀色の雷光が打ち落とす。

 蒼乃はその隙に、なおも追いすがる魔物たちに向けて短杖(ワンド)をかざした。


「天穿ち、雲を斬り裂く雷光よ! 空に集いて裁きとなれ! 閃光雷招フラッシュ・ライトニングッ!」


 光が収束した一点から、数条の雷が放射状に伸びた。翼を灼かれた魔物の群れが、次々と峡谷へと落下していく。


「このまま降りる! 手、離さないでねっ!」


 左手を握り返してくる蒼乃の右手に、力がこもる。気づけば峡谷の底は、すぐそこまで近づいていた。

 ――ほどなく、風の結界が川面を震わせた。蒼乃が結界を解くと、足が膝の手前くらいまで水に浸かる。幸い、そこまで深くはない。

 黒髪に戻った蒼乃は盛大にため息をつくと、黎一をキッと睨みつけた。


「あんた、もう絶対に先走らないで」


「ッ……仕方ないだろっ! 正面、こじ開けなきゃいけなかったんだから!」


「フォローする身にもなれって言ってんのっ! さっきの岩といい、今といい……もうちょっと周りを信用しなさいっ!」


「互いにやれること、やればいいだけだって……!」


 そう言った瞬間、蒼乃は一気に距離を詰めて黎一の肩を掴んだ。

 ぞくりと肌が粟立つ。足がすくむ。振りほどけるはずなのに、動けない。

 いつもの”女嫌い”の症状だ。普段の蒼乃なら、これが起きる距離を超えて近づくことは絶対にない。


「……ひとりで、抱え込まないで。天叢くんも言ってたでしょ」


 蒼乃は、黎一の目を見ながら言った。


「どうしても気が引けるなら、せめて私を頼って。……一対(ペア)、なんだから」


「……ッ」


 言葉に詰まった時。

 かすかに、水がしぶく音が聞こえた。


「まだ、来るの……⁉」


 蒼乃はさっと黎一から距離を取り、短杖(ワンド)を構える。その視線の先、川の下流のほうから数体の影が現れた。

 ぱっと見は、腕が生えた蛇といった体の魔物である。手には思い思いの得物を持ち、鎌首をもたげた姿で器用に動いている。数、四体。


蛇体兵士(ナーガ・ソルジャー)……だっけ?」


「音を聞きつけてきやがったな」


 蒼乃に背を預ける形で、愛剣を構える。

 黎一の視線の先には、さらに五体の蛇体兵士(ナーガ・ソルジャー)が群れて出ていた。だが陣形を組んでいるわけでなし、動きもバラバラだ。おそらく、勾原が従えた魔物ではない。


「ま、水の魔物ならちょうどいいかな……」


 蒼乃も考えは同じなのだろう。

 二本目の短杖(ワンド)を抜く様子はない。


「シャアアアアッ……!!」


 蛇体兵士(ナーガ・ソルジャー)が、蛇の鳴き声で威嚇してくる。どうやら雰囲気から、侮られていると取ったらしい。

 背を合わせた蒼乃の身体が、かすかに振るえるのが分かった。


「そんなに怒んないの。どうせすぐ終わるんだから……さっ!」


 蒼乃が動く。蛇体兵士(ナーガ・ソルジャー)が、身をくねらせて殺到する。

 瞬間。魔物の群れの前に、五つの黄金の煌めきが浮かんだ。勢いづいた蛇体兵士(ナーガ・ソルジャー)たちが止まれるはずもなく、もろに風弾へと突っ込む。


「ッジャキャアアアアッ⁉」


 弾けた風弾に、魔物たちの動きが止まった。

 微風封罠(ブリーズ・ピラー)。触れるとはじけて強風が吹く風弾を生む魔法だ。一応は攻撃魔法に属するが、殺傷力はないに等しい。

 ――普通なら。


(……ウソだろ⁉)


 黎一は、その威力に驚愕していた。先ほどの微風封罠(ブリーズ・ピラー)は、そこらの魔法士が放つ攻撃魔法をはるかに上回っている。

 水の魔物としては上位に属する蛇体兵士(ナーガ・ソルジャー)が、動きを止めていることがその証拠だ。


(しかも、無詠唱……!)


 この世界の魔法は、術者のイメージによって効果が決まる。

 そのイメージを固めるのに用いるのが”言葉”である。起きる事象を定義する”名づけ”、次いで詠唱の効力が高い。

 今の蒼乃は詠唱どころか、名すら告げていなかった。イメージだけで、魔法事象を呼び起こしたのだ。


(前は俺も、何も知らずに無詠唱でやってたけど……。剣魔法だからやれてたようなもんだし、下級魔法であの威力は出ねえ……!)


 剣に風を纏って振るいながら、戦慄する。

 この剣魔法は異世界に来てから最初の事件で、愛剣に宿る竜人から教わったものだった。得物に魔力(マナ)を蓄えて放つため、妙にやりやすい。

 得物が剣でないとイメージがうまくいかないが、同じ属性であればイメージだけで即座に魔法の形を変えられるメリットは、それを補って余りある。


(でも蒼乃は詠唱から即座に発動する、普通の魔法のはずだ。今までそんなことできなかったはずなのに、なんで……?)


 ――蛇たちの血が川面を染めるまで、それほど時間はかからなかった。

 黎一も蒼乃も、当然のように負傷はない。


「よっし。上まで戻るのは無理そうだから……。どっか上に登れるとこ、探さないとね」


「お前、今の……」


「ん? ああ、無詠唱(ノン・キャスト)?」


 蒼乃は事もなげに言うと、短杖(ワンド)をくるくると手で弄ぶ。


「すぐに飛びかかってこなかったからさ。事前に短杖(ワンド)魔力(マナ)を溜めてたの。あんたの剣魔法みたいにね」


「それだけで、なんとかなるもんなのか……?」


「ついこないだまでなんとかしてた人が、それ言っちゃう……? そりゃ大きい魔法は無理だけどさ。さっきみたいな状況なら使えるかな、って」


「ぶっつけ本番かよ……」


「無茶と閃きだけで、どうにかしてるような人に言われたくないで~す」


 そこまで言うと、蒼乃は微笑んだ。


「久しぶりだね。背中合わせに戦ったの」


「……そう、だな」


 最初に遭遇した事件を思い出す。

 村を魔物が襲撃した時に、たまたま居合わせて。二人で戦い、どうにか鎮圧したのだ。


「前と同じだけど……。強くなったよね、私たち」


 思えば。かつて蒼乃とともに迷宮(ダンジョン)の最深部へ堕ちた時。蒼乃は、魔力枯渇症(マナ・ロスト)を起こして気を失っていた。

 だが先ほどは山の中腹から峡谷の底まで落ちたにもかかわらず、気を失わないばかりか平然と戦闘までこなしている。


(俺だけじゃない。蒼乃(こいつ)も、変わったんだ)


 蒼乃の言葉に、なにか応えようと思った時。


「#$&%¥!!」


 獣じみた雄叫びが、川の上流のほうから響き渡った。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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