表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第五章 俺と彼女が、因縁の相手を斃すまで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

175/260

かつて見た光

お読みいただき、ありがとうございます!

 黎一たちは、狭い崖道での戦闘を余儀なくされていた。

 なにせ岩を壊した後で、隊列が乱れている。さらに四方城の薙刀や御船の剣状鎚(ソード・メイス)といった長柄物は、こうした狭所での戦いには不向きだ。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)闘気纏装(オーラ・アームド)! 風装(ふうそう)雲雀東風(ひばりこち)!」


 殿(しんがり)を務める四方城の身体が、穏やかな春風のごとき空気の流れを纏った。得物を短く持ち、崖道に仁王立ちになる。


「後ろはわたしが引き受けますっ! 八薙くんは前をっ!」


 四方城の言葉に前の崖道を見れば、すでに魔物たちで埋め尽くされつつあった。最初に幻影で不意打ちをかけてきた群れより、明らかに多い。

 おまけに、見たこともない大型の魔物までいる。群れの(ボス)も出てきたのかもしれない。


全々全花(オール・ジ・オール)は、視認できる対象の数しか反復できない……! ここは前に集中か!)


勇紋共鳴(サインズ・リンク)全々全花(オール・ジ・オール)! 紅炎刃(こうえんじん)ッ!」


 剣から放った炎が、魔物の数に合わせて反復する。もはや数えることすら無数の炎刃が、黎一の頭上で渦を巻いた。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)魔力追跡(マナ・チェイス)……いけえっ!」


 炎刃が赤い雨となり、魔物たちに降り注ぐ。

 素早く後方を振り向き、同じ動作を繰り返す。先ほど炎巧結界(デフト・フレイム)を使った影響で、火の魔力(マナ)が強化されている。炎の魔法で攻めるのが、もっとも都合がよい。

 守護属性が地の光河はやや戦いづらそうだが、両手で長杖(スタッフ)の柄尻を突き立てた。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)精霊召喚(サモニング)! ……おいでっ、ヴルちゃん!」


 色褪せた鈍色の大地に、赤い魔法陣が現れる。

 精霊召喚(サモニング)――契約している精霊を呼び出せる能力(スキル)だ。


『ギギイィ……ッ!』


 金切り声に似た声が、魔法陣から響いた。

 赤色の靄の中から、ゆらりと影が這い出る。四足でのそのそと動く姿は、地を這う竜といっていい。ルビーに似ている鱗に覆われた身体からは、背びれを思わせる炎が噴き出ている。


(炎の精霊、火精小竜(ヴルカン)……!)


「ほぉらヴルちゃんっ! (ゴハン)の時間っ!」


『ギギィッ……? ニンゲン、イナイ……?』


「贅沢言わないのっ! ほら、そこの崖にいっぱい(ゴハン)いるよ!」


(待て、人肉食わせてたのか……?)


 炎刃を放ちながら、己の耳を疑う。

 たしかに迷宮(ダンジョン)なら、野垂れ死んだ冒険者の亡骸には事欠かない。だが他の冒険者たちと鉢合わせすることも多い中で、骸を喰らわせるのはかなりの勇気がいる。


(……聞かなかったことにしておくっ!)


 心の中で振り切る間にも、火精小竜(ヴルカン)は結構な速さで崖上へと這い上がっていく。炎を纏った身体に触れた魔物たちから炎が立ち昇り、崖面はたちまち山火事のようになった。


「熱き風を纏いし(おおとり)よ、その翼で大気を焦がせっ! 熱風鳳破(フェーン・ブラスト)ッ!」


 蒼乃が放った炎の鳳が、崖下を舞う魔物たちを焼き払った。

 御船はと見ると、火精小竜(ヴルカン)が討ち漏らした崖上からの魔物から光河を護っている。

 これで左右と背後の防戦は成った。だが正面には依然として、大型を含む魔物たちがひしめいている。


(正面は俺が圧さねえと無理かッ! クッソ、能力(スキル)の配分ミスったかな……!)


 万霊祠堂(ミュゼアム)には、眷属(ファミリア)能力(スキル)をひとつだけ貸し出せる力がある。

 今回の作戦は多勢に無勢。ゆえに高峰の能力(スキル)を利用し補給しながらの長期戦を想定していた。このため高火力を出せる短期決戦向けの能力(スキル)を、ふもとで魔物の討伐にあたるマリーとアイナに渡してしまったのだった。


(こんな崖道じゃ、()()は使えねえ)


 一瞬、レオンの言葉が頭をよぎる。しかし狭所で始祖の魔法を放った日には、級友たちは元より自身まで丸焼けになる。

 かといって、下級の剣魔法を反復しているだけでは埒が明かない。数多の雄叫びを聞きつけた他の魔物たちが、今この時も増え続けているからだ。


(ちょい火力高めで一気に穴を空けるなら……! こっちでいくかっ!)


 愛剣に、炎を灯す。その炎を、聖火を思わせる青白い光が包んだ。炎が光と交わり、陽光を思わせる輝きを生む。

 正面にいる魔物たちの群れを目がけて、崖道を走る。先頭を走る魔物まであと数歩のところで、思いっきり地を蹴った。


「……焦天墜(しょうてんつい)ッ!」


 一声とともに振り下ろした剣から、日輪のごとき火球が放たれた。魔物たちがひしめくど真ん中に降り落ちたそれはすぐさま弾け、炎と光を撒き散らす。

 崖道に着地した黎一は、間髪入れず剣を大上段に振り上げた。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)魔力追跡(マナ・チェイス)……業炎刹(ごうえんさつ)ッ!」


 群れの奥に見えた一匹に狙いを定め、剣を振るう。

 飛びゆく赤い弧と、その後を追って噴き上がる血の色の炎が、崖道を埋める魔物たちを舐めとっていく。

 道の先が、わずかに見えた。


「進むぞッ! 崖道を抜けるッ!」


 声を放って、走り出す。背後の級友たちが動いたのが、気配で分かった。

 崖面も崖下も、魔物の数は目に見えて減っている。この機を逃せば次はない。


(よし、いけるッ!)


 なおも迫る魔物たちに向けて、炎を放とうとした時――。

 ふと、足元になにかを感じた。


(……ッ⁉)


 思わず足元を見る。

 変わらぬ鈍色の土の中に、光が見えた。

 なにかが、弾ける音が聞こえる。


魔力(マナ)……? この瘦せた土地に……)


 考えたところで。地がひび割れ、爆ぜる。

 駆け抜けようとした道が、粉々になって崩れ落ちていく。

 遠くで、級友たちがなにかを叫んでいるのが、聞こえた。


「な……っ⁉」


『八薙くんッ! ちょっと、これまずいって……』


 瞬間。先ほどまでの光景が蘇る。

 狭い崖道。仕掛けが施された岩。狙ったように現れた魔物の群れ。

 脳裏に、すべての答えが浮かんだ。


(まさか、ここまで見越して……崖道にも仕掛けてたのか⁉)


 足元が崩れ落ち、中空に放り出される。

 砕けた岩の破片で、肩先の青い鳥が砕け散る。


流浪鳥瞰(ローグ・バード)まで……!)


 高速移動の能力(スキル)――無足瞬動(ペネトレイト)に切り替え、駆け上るか。

 あまりにも小さな希望に縋ろうとした時。視界の端に、銀色の光が見えた。


(あ……)


 雷光を纏った少女が銀色の髪を振り乱し、落盤の中を舞うように翔けてくる。

 かつて同じ光景を、見た。


(あの時も、こうだったな)


 墜ちる中で、口元に笑みを浮かべる。

 黎一は銀髪の少女――蒼乃が伸ばしてきた手を、しっかりと握り締めた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたらブックマークや評価、感想など頂ければ励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ