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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第五章 俺と彼女が、因縁の相手を斃すまで

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雲霞の檻

お読みいただき、ありがとうございます!

 鈍色の山肌を走り、魔物たちが黎一たちへと迫る。

 希少金属を含んだ岩から成った精銀岩人(ハルモニア・ゴーレム)に翼が生えた一角獣の勇翼天馬(コルヌス)、地を這う食虫植物の妖精である食人妖花(ピンギギュラ)と、種は様々だ。

 彼我の距離が詰まる、その前に――。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)万霊祠堂(ミュゼアム)……」


 黎一は、力の名を告げた。

 視界が、薄暗い祠堂へと移る。魔物たちの属性をざっと思い返し、立ち並ぶ石碑に刻まれた力の中から望むひとつを選び出す。万霊祠堂(ミュゼアム)の『能力(スキル)を選ぶ力』だ。


「……風巧結界(デフト・ウィンド)!」


 選んだ能力(スキル)を解き放った。

 風の魔力(マナ)が勢いを増した証とばかりに、風が吹き荒ぶ。

 引き換えに水の魔力(マナ)が抑圧されるが、守護属性として水を持つのは治癒役(ヒーラー)である天叢のみ。影響は少ない。

 愛剣に風を顕す黄金の魔力(マナ)を纏い、振りかざす。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)全々全花(オール・ジ・オール)! 風伯刃(ふうはくじん)ッ!」


 眷属(ファミリア)であるマリーの能力(スキル)によって、剣から解き放った風の刃が幾重にも反復した。無数の白雲が、黎一の頭上で渦を巻く。

 勇紋共鳴(サインズ・リンク)――。眷属(ファミリア)能力(スキル)を使うことができる、主上(マスター)の特権だ。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)魔力追跡(マナ・チェイス)! ……いけえッ!」


 鈍色の空に、数多の白雲が尾を引いた。

 眷属(ファミリア)である蒼乃の能力(スキル)に導かれ、幾筋もの白雲が魔物たちを斬り裂いた。勢いを残した雲がは後に続いてくる魔物に迫り、同じ運命を辿らせる。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)全々全花(オール・ジ・オール)! 風伯刃(ふうはくじん)ッ!」


 間髪入れず、黎一はふたたび頭上に雲霞(うんか)を創り出した。

 ふたたび魔力追跡(マナ・チェイス)を使って、愛剣を振るう。風巧結界(デフト・ウィンド)によって威力を増した白雲の刃は、足を止めた魔物たちのことごとくを薙ぎ払っていく。


「風の属性を強化した上で、魔律慧眼(カラーズ)に切り替えて……⁉」


勇紋共鳴(サインズ・リンク)って、ふたつ同時に使えるの……⁉」


 四方城と天叢の、呆然とした声が聞こえる。さすがにタネのいくつかを知っているだけあって、やっていることは分かるらしい。

 ちらと蒼乃を見てみると、落ち着き払って抜けてくる魔物がいないかを警戒している。遣っている短杖(ワンド)が一本なあたり、本気を出していないことはすぐ分かる。こうした展開を予想していたのだろう。


「大剛、抜けてくるのだけ警戒しよ?」


「……これを抜けてこれるヤツが、いりゃあな」


 光河の声に、御船がうんざりとした声で応える。

 その時、勇翼天馬(コルヌス)の数体が飛び上がった。他の魔物を盾に白雲の刃を掻い潜りつつ、黎一たちの頭上を取るように迫ってくる。


「うへっ⁉ 真上は聞いてないって……」


 光河が、慌てふためくのを尻目に――。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)剣林斬雨(スラッシュ・レイン)


 黎一はアイナの能力(スキル)の名を告げ、剣を振るった。

 空から、太刀筋を思わせる白い光が降り注ぐ。黎一の剣の動きに合わせ、勇翼天馬(コルヌス)の翼を片っ端から斬り裂いていく。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)万霊祠堂(ミュゼアム)炎巧結界(デフト・フレイム)


 黎一は剣に纏う魔力(マナ)を火に変え、剣魔法を放ち続けた。

 剣が一振りされる度、渦巻く炎が残った魔物を焼き、空から迫る魔物は剣林斬雨(スラッシュ・レイン)によって地に墜ちる。


「……舞雪、温存しよう。八薙くんに癒抱纏鎧(ゆほうてんがい)を」


「はい。勇紋共鳴(サインズ・リンク)万象治癒(トータル・ヒーリング)。……光装(こうそう)癒抱纏鎧(ゆほうてんがい)


 四方城の能力(スキル)によって、黎一の身体が光に包まれた。

 魔力(マナ)が、徐々に回復していくのが分かる。低級魔法を能力(スキル)で複製しているだけなので言うほど消耗もしていないが、先々を考えればありがたい。


(とはいえ、身内に治癒役(ヒーラー)がいるってのはいいもんだ。マリーも最近、別働が多いからな)


 ヤナギ隊もとい黎一の眷属(ファミリア)の中で、回復魔法を使えるのはマリーだけだった。回復はほとんど水薬(ポーション)能力(スキル)頼みだ。そのせいか治癒役(ヒーラー)がいると、殊更にありがたみを感じる。

 ――同じ過程を、二度ほど繰り返した後。


『魔物の反応、消失……。魔力(マナ)の濃度も低下。一旦、お疲れ様』


 青い鳥から聞こえる小里の声は、心なしか畏れの感情が乗っているように思えた。

 言葉の通り、あたりは魔物たちの骸で埋め尽くされていた。動く影は、どこにもない。


「あの数を、ほとんど一人で……」


「前も同じような光景、見たよねえ。ロイド村でさ……」


 天叢と光河のぼやきを聞き流しつつ、あたりを見渡す。

 能力(スキル)の使用者が近くに潜んでいることを期待していたが、周囲にそれらしき気配はない。

 御船もあたりを見回していたが、すぐに舌打ちした。


「……逃げられたみてえだな」


「だな。透明化(トランスパレント)はともかく、幻影創造(イリュージョニスト)はその場にいなけりゃ使えねえはずだ」


 御船に応じていると、青い鳥がふたたび羽ばたいた。


『このあたりの魔物は一掃したみたいだから、中継地点にしちゃうね。みんなは少し待ってて。……高峰くん、お願い』


 小里の声に応じて、級友たちの緊張が解ける。

 察するに、相方の高峰が能力(スキル)を行使しているのだろう。

 心象八景(メモリアル・プレイス)――。見た景色を絵画に描き、その場に転送できる機能を持たせる能力(スキル)だ。高峰は小里の流浪鳥瞰(ローグ・バード)を介して風景を描き出し、いわゆる中継地点(セーブポイント)とするのだった。


「この調子なら案外、楽勝かもね?」


「まだ山に入ったばかりですから。あまり油断はなさらぬように……」


 光河と四方城の会話を聞き流していると、ふと蒼乃の視線に気づいた。

 珍しく、登山道に入ってからあまり言葉を発しない。代わりになにかを咎めるとも、戒めるともつかぬ視線だけを送ってくる。


(分かってるさ。この山には、なんかある)


 黎一は無言で、眼前の景色を見つめた。

 陽光を閉ざす雲に覆われた山々が、黎一をにらみ返すようにそびえていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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