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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第四章 俺と彼女が、剣士の秘密に触れるまで

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その御名は

お読みいただき、ありがとうございます!

 その夜、黎一はフロズフラウ宮殿のバルコニーに佇んでいた。

 中央広場で民衆たちに揉みくちゃにされた後、宮殿でノスクォーツの王侯貴族たちに囲まれ続け。ようやく隙を見つけ、脱出しての今である。

 国の枢要たる面々を紹介してくれたヴォルフには申し訳ないが、さすがに限界だった。


(やっと楽になってきた……。その場で吐かなかっただけ、まだマシか……)


 夜風は冬らしい冷たさだが、人に酔った今は心地が良い。

 ちなみに蒼乃やマリーは、未だ宮殿内の会場で持ち前のコミュ力を存分に振るっている。特に蒼乃は、この異世界で初めてドレスを着て大いにご機嫌だった。放っておいても問題ないだろう。

 フィーロも黎一たちの連れ子として、会場で料理にがっついている。


(コネ作りは蒼乃(ヤツ)に任せる……。ただでさえ、面倒ごとに首を突っ込みすぎた……)


 ノスクォーツ向けの演出は、上手くいったものの――。

 煮魂宿りし雪山の迷宮スィージング・ホワイトの共同管理に漕ぎつけるのは、大変だったらしい。なにせ炎精獄竜(ヘルカイト)の屍を取り込んだ、大陸最大級の火の魔力湧出点(マナ・スポット)である。

 そこをレオンが、二体目の六天魔獣(ゼクス・ベスティ)を討った国選勇者隊(ヴァリアント)の功績をネタに主導権を得て、ヴァイスラント国内の意見を統一したのだそうだ。なかなかの剛腕ぶりである。


(政治ってのは難しいねえ。取り過ぎたらしっぺ返しがくるのは分かるけど、苦労したのは俺らだし。まあフィロのこと誤魔化せたし、いっか)


 炎精獄竜(ヘルカイト)の動きを止めた透明な閃きは、魔物と戦っていたノスクォーツの部隊からも見えていたらしい。

 事後処理の中でその話が出た時、レオンはのらりくらりと躱したそうだ。ノスクォーツ側も魔力湧出点(マナ・スポット)の共同管理権のほうが大事である以上、そこまで追及しなかったのだろう。


(あ~、部屋戻りてえ~。さっさと寝てえ~。でも戻り方、分かんねえ~……)


 気分の悪さが先行して、ろくに道を確認せず来たのがよくなかった。

 今から会場に戻る気はない。かといって下手に道を聞いて、会場に引き戻されるのもいただけない。

 辺りを見回しても、上部に上がるのだろう階段があるだけだ。


(どっか別のとこに進める、渡り廊下とか……ん?)


 ふと階段の先にいる、見覚えのある顔に気づく。

 青みがかった黒髪をポニーテールに纏め、シンプルな青のドレスに身を包んだ女性だ。涼しげな美貌を冬の月明かりが照らす様は、中世の絵画から抜け出てきたかのように美しい。


(アイナ、さん? なんでこんなところに……)


 アイナは元々、各国の要人とのコネを欲しがっている節があった。

 ヴァイスラントでも冒険者ギルドの依頼は言うに及ばず、近衛騎士団の訓練に招聘されても嫌な顔ひとつせず応じている。

 宴の時も、こうして席を外すことはあまりない。


(ちょうどいい。アイナさんに道を聞けば……)


 考えながら階段を昇ると、アイナも気づいて微笑んだ。

 距離があるにもかかわらず、肌がぞくりと粟立った。火山での一件から、笑顔に妙な(つや)が出た気がする。


「宴の主役が席を外すとは、感心しないな」


「それ言ったら、アイナさんもでしょ……。てか珍しいっすね。こういう時に一人でいるなんて」


「そう、だな」


 アイナはくすりと笑うと、ふたたびバルコニーの外に目を向けた。

 本来は極寒の氷雪に閉ざされているはずの大都の街並みは、今や火の魔力(マナ)の街灯によって皓々と照らし出されている。


「……これから、どうしようかと思ってな」


 アイナが、ぽつりと言った。

 その顔に、先ほどまでの微笑みはない。


「これから、って……。なんかあるんすか」


世之断(よのたち)の在り処を知られた。こうなった以上、奴らはいずれこの大陸に攻め込んでこよう。そうなる前に……」


「……やめてください」


 アイナの言葉を制して、眼差しを向ける。


「力になるって言ったじゃないですか。俺、まだなにも聞いてません」


「気持ちは嬉しい。だがそなた達には、今の立場がある。これ以上、巻き込むわけには……」


「なんなら、無理やりにでも聞きだします」


 右手の勇者紋(サイン)を見せると、アイナは小さく呻いた。

 勇紋主命(サインズ・オーダー)――。

 主上(マスター)の特権たる、眷属(ファミリア)に無条件で命令を受け入れさせる”言葉”だ。アイナが黎一の眷属(ファミリア)である以上、この言葉に抗う術はない。

 と、その時。階下に気配が生まれた。


「……その話、私たちも興味あるんですけど」


 階段の下を見れば、めかしこんだ蒼乃とマリーの姿がある。

 蒼乃は急場で用意したのか、シンプルな黒のドレスだ。黒髪をポニーテールに纏めているせいか、雰囲気がいつもと違って見える。

 隣のマリーは、白基調のフリルドレスだった。バレッタで留めたボブカットが、やたら似合う。


「お前ら、なんでここに……」


魔力追跡(マナ・チェイス)なら一発だって。会場にいないから部屋に戻ったのかと思ったら、真逆のほうにいるから心配になって見に来たの」


「……って思って、わたしもついてきたんですけど。逢引きとはさすがですねぇ~?」


「いやだから、これは……」


「ま、そこの言い訳は、あとでとっくり聞かせてもらうとして……」


 蒼乃は言葉を切ると、無言のアイナに視線を移す。


「アイナさん、教えてください。あいつら一体、何なんです?」


「……ッ」


 なおも無言を貫くアイナを前に、蒼乃は髪留めを外した。

 黒髪のミディアムロングが、冬の風にたなびく。


「私たちだって巻き込まれたんです。死にかけたんです。聞く権利、ありますよね?」


「口外はしないと誓います。ですから……」


 蒼乃に続いて、マリーも促すようにアイナを見つめた。

 アイナはしばし俯いていたが、やがて意を決したように顔を上げる。


「そうだな、どこから話したものか。……まず、私の名から教えよう」


「名前……?」


「ああ、ヤナギ殿はもう知っているだろう。私の本当の名は……アイナ・ヒイズル・ズィパーグ」


 その言葉に、マリーが目を見開いた。


「ヒイズル……。ズィパーグ王国の、国主(くにぬし)御名(みな)……」


「さすが、詳しいな」


 アイナは、諦めたように笑う。

 だが同時に、どこか突き抜けたような笑みでもあった。


「そう。私は、旧ズィパーグ王室の……第一王女だ」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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