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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第四章 俺と彼女が、剣士の秘密に触れるまで

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熱、果てて後

お読みいただき、ありがとうございます!

 火口の熱が、引いていく。気温が下がったのが、肌で分かる。

 黎一は愛剣を杖に、膝をつくのをなんとかこらえた。アイナとラキアも、立っているのがやっとの体に見える。

 その時、右肩に誰かの手がかかった。誰のものかは、考えるまでもない。


「終わった……?」


 ほとんど耳元で、蒼乃の可もなく不可もない声が聞こえた。

 女嫌いの性分が、ざわざわと暴れ出す。肌が粟立ち、足がすくむ。

 だが不思議と、嫌ではなかった。肩に掛かる重さが、今は妙に心地よい。

 そんな中、オグニエナはゆっくりと火口ににじり寄っていた。胸には、アイナの剣を突き立てたままだ。


「ッ、アッハッハッハ……。この親にしてこの子あり、か……。これも、ヤツから教わった言葉じゃったかのう……」


 言葉が流れる。

 その四肢は、早くも紅色の霞となりつつあった。


「褒美を、取らさねばならんな……」


 オグニエナが、ゆっくりと右手を掲げる。

 すると仄かな紅色の靄が、球体となって現れた。ふよふよと頼りなく漂った後、ゆっくりと黎一の中へと入っていく。

 ――脳裏に、薄暗い祠堂の風景が映る。

 奥にある六つの大きな石碑のうち、ひとつに赫い光で文字が浮かび上がった。能力(スキル)が覚醒した証だ。


炎帝抹消焔(オブリタレイト)……)


「遣うならば、心して遣えよ。すべてを灰燼(かいじん)に帰す破滅の火……。我がソウマと共に創りし、始祖の(わざ)ぞ」


「始祖の、業?」


 蒼乃がおうむ返しに問う。

 この状況でも、言葉尻には探求への欲が込められている。おそらく瞳は、知的好奇心で輝いているに違いない。


「おうさ……。今、貴様らが遣う魔力(マナ)と魔法の……始原となったものよ」


「父さんが作った……? 魔法を……?」


竜人(われら)には、必要なかったのじゃ。純然魔力(ピュア・マナ)があれば……。火であろうが水であろうが、思いのままであるからのう」


 オグニエナは、火口の際にゆっくり腰を下ろした。

 世之断(よのたち)をその身に突き立てていてもまだ消えぬのは、火口から溢れる火の魔力(マナ)のおかげなのだろうか。


「もっとも各々、想起に得手不得手はあった……。ソウマは我らのそれを元に、属性の概念を創り出し、魔法の型としたのじゃ。純然魔力(ピュア・マナ)をうまく扱えぬ奴隷種(ものたち)のために、の」


 誰も、口を挟まない。

 霞を通り越し陽炎のようになった彼女は、穏やかな炎のように見える。


「ソウマは属性を、さらに追い求めた。その中で属性の……循環を知った」


「属性の相性のことか……?」


「さにあらず。例えばすべての属性が場にあるとして……。それぞれが、まったく同じ量であったならどうなる?」


「喰い合って終わりよ」


「そうじゃのう。だが……各々が無限に生まれるとしたら?」


 身体が震えた。

 肩に掛かる蒼乃の手にも、力が込められた。

 ひとつの場に、すべての属性が均一に存在する――ありえない話だ。

 魔力(マナ)の量は場の環境の他、場に存在する生命の影響も強く受ける。魔律慧眼(カラーズ)で見てきたから、実感がある。


(でも、純然魔力(ピュア・マナ)があれば……?)


 仮にすべての属性が均一に存在したところで、各々の属性が喰らえる魔力(マナ)を食らい、大きくなって終わりだ。

 だが、すべての属性の始原たる魔力(マナ)があれば。すべての属性を無限かつ均一に生み出すことができれば。

 ――それぞれの魔力(マナ)は、際限なく大きくなる。


「すでにこの世に、純然魔力(ピュア・マナ)はない。だが同じ地合いを設えることはできよう。ソウマの子よ……そなたの中で、な」


 己の思考の奥に広がる、祠堂を思い出す。

 最奥にならぶ、六つの石碑。

 光を灯しているのは緑と、今しがた受け取った赤。


「まさか……」


「我らが力を連ね、繋げよ。さすれば門は成ろう。ソウマの元へも辿りつけよう」


 オグニエナが、ゆらりと立ち上がった。

 すでに両の腕は消え、あるのは足と胴、頭だけだ。


「だが門がまたげる垣根はひとつのみ。そなたらが帰郷を果たしたくば……門は、ふたつ要る」


「なんだと……?」


 その視線が、ラキアへと向く。


「男よ、さっきから剣呑な目をしておるのう。そんなにこの鈍刀(なまくら)が恋しいか」


「……ッ」


「さもあろう……。これが残っているということは……。(わらわ)が創らせた、あの我楽多(ガラクタ)も……残っ……おろうからな」


 視線が、黎一の手元に移る。


「ダイ……スよ。東へ、行け。そな、たの求め……ものが……あるやも……知れんぞ」


『オレ様が創った以外にも門がある、だと? まさかお前、そのために……?』


 オグニエナは笑って、天を仰いだ。

 夜の藍が炎に焦がされ、赤に染まっている。


「いい、夜じゃ……。あ……つと()うた……こんな夜じゃっ……のお……」


 オグニエナの身体が、ぐらりと傾いだ。

 倒れ込もうとしているのは、火口のほうだ。


「よく、眠れ……そうじゃ……」


 そう言って、火口から立ち昇る熱へと身をゆだねる。

 胸に、世之断(よのたち)を突き立てたまま。


「あ……」


 零れた言葉は、誰のものだったか。

 気づけば、火口に向けて走る影がふたつあった。


(ラキア……アイナさん!)


 オグニエナの姿が、消える。

 世之断(よのたち)が、火口へと墜ちるのが、見えた。


「――――!!」


 声なき声を上げ。

 ラキアとアイナが、火口に身を躍らせる。


「ちょっと、なにやってんの⁉ あの二人ッ……!」


 蒼乃が震える声で言った時、愛剣が震えた。


『おい、レイイチ。二人を追え』


 思わず、愛剣に視線を落とす。

 冷静な声だった。普段はがなり立てているせいで濁声に聞こえるが、こうして聞くとなかなかいい声だ。


「バカじゃないの、なんで火口に身投げしないといけないのよっ! そりゃ煮魂宿りし雪山の迷宮スィージング・ホワイトはまだ残ってるだろうけど……。オグニエナの魔力(マナ)が消えた以上、いつどうなったって……!」


『帰りたけりゃ、ソウマに会いたけりゃ、追え』


 蒼乃の声を遮った声は、いつになく重々しい。


「……あの剣が、必要なのか」


『オグニエナの言うとおりなら、な。手札は多いに越したことはねえ』


「なんだ。そんなことか」


『なんだ、ってこたぁねえだろ! お前、さっきなにを聞いて……』


「……そんなもんなくたって、やることは決まってるって言ってんだよ」


 なにかあったら、力になる――。そう、約束した。


「蒼乃、動けるようになったら助けを呼べる位置まで行け。いいな」


 ふと見ると、蒼乃はうるんだ目で黎一を見ていた。

 だが、すぐにいつもの呆れた笑顔に戻る。


「はいはい、分かりました。気をつけてね」


「……行ってくる」


 ぽん、と肩を叩かれたのを合図にして。

 黎一は、熱波が渦巻く火口へと走り出した

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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