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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第四章 俺と彼女が、剣士の秘密に触れるまで

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焔の武技

お読みいただき、ありがとうございます!

 吼えたオグニエナに向かって、ラキアとアイナが動いた。


「――穿刻(せんこく)


「――冷閃(れいせん)


 渦を巻く斬撃と氷の斬撃が、同時に繰り出される。

 しかしオグニエナはわずかな体捌きで渦を交わすと、ラキアの剣を真っ向から受け止めた。


「二人とも良い剣士ではある。だが少々、華々しさに欠けるのう?」


 ラキアとせめぎ合いながらも、オグニエナの長巻は微動だにしない。

 その脇から、短杖(ワンド)を構えた蒼乃が飛び込んだ。


寂寞(せきばく)に哭く風精よ、氷雪纏いて剣となれッ! 氷雪風刃(ブリザード・ヴェイン)ッ!」


 青水晶を戴く短杖(ワンド)の先端から、冷気を纏った氷の刃が伸びる。

 狙いはオグニエナの額にある、赤い角だ。


児戯(じぎ)は好かぬと言うたであろうがッ!」


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)! 水巧結界(デフト・ウォーター)!」


氷雪風刃(ブリザード・ヴェイン)――二刀(ツヴァイ)!」


 水の魔力(マナ)の増幅を受け、蒼乃が繰る冷気の刃が一回り大きくなる。

 さらに右手の黄水晶の短杖(ワンド)から、もう一筋の冷気の刃が現れた。


「ほうっ⁉」


「はあああっ!」


 二筋の冷気が軌跡を生む。

 一筋はオグニエナの右手に阻まれたが、もう一筋は側頭の角に命中した。

 オグニエナの表情が、わずかに歪む。


「――潰天(かいてん)


「――青月(せいげつ)


 隙を突いたアイナとラキアの一撃が、立て続けに角を叩く。

 だがオグニエナはびくともしない。それどころか、黎一を見てニヤリと笑ってみせた。


「……ソウマの子よ、ずいぶんとおとなしいのう!」


「ッ!」


「そなたの狙いは見えておる! 先ほどの毒の刃であろう⁉」


 愉しげに話すこの間――。

 オグニエナは蒼乃、アイナ、ラキアを相手に剣劇を繰り広げていた。

 正面にいるラキアの剣こそ、長巻で受け止めてはいる。だが蒼乃やアイナの攻撃に関しては、ほとんど意に介していない。

 効かないことが分かっているのだ。蒼乃が角につけた傷も、すでに消えている。タフなどという言葉で片づく相手ではない。


(分かっちゃいる! あれだけ火の魔力(マナ)を吸い込んだんだ……。ガディアンナよりヤバいのは分かってる!)


 ゆえに黎一は、補助に徹した。どのみち今の剣魔法では、オグニエナに届かない。

 水の魔力(マナ)を増幅しつつ、機をうかがう。隙ができた瞬間に、刻命焉刃(デッドリー・エッジ)で角を斬る。どの道、毒の刃を振るえるのは一度だけだ。


(わらわ)の剣を掻い潜るには、いささか剣腕が足りぬかのおッ⁉」


 オグニエナが嘲う。

 周りの者たちも分かっているのだろう。今、オグニエナに届く刃を持っているのは、黎一だけなのだと。

 だが、届かない。


「少々、飽いたわ……。どうれ、剣というものを教えてくれよう」


 オグニエナは周囲から飛びくる刃をあっさり跳ね除けると、大きく後ろへ飛んだ。

 降り立った位置は、火口すれすれの位置だ。噴き上がる熱波を浴びる度、角の輝きが増しているのは気のせいではないだろう。

 あどけない顔をした女傑が、身を屈める。


炎樂(えんがく)――火牙裂(ひがさき)


(やっ……べっ!)


 赤が(はし)る。炎が翔ける。

 反射的に右へと飛んだ。一拍前まで己の身があった場所が、立ち昇る炎に焼かれていくのが、見えた。


()う……っ!」


 声のほうを見てみれば、蒼乃が火に包まれながら飛び退いている。


「蒼乃ッ!」


「だい……じょぶっ!」


 蒼乃は素早く、冷気の風で火を吹き消した。続く動きで懐から細い水薬(ポーション)の瓶を取り出し、頭から振りかける。

 おそらく冷風の結界に活性快体(ヴァイタライズ)、支給されていた耐熱兼用の防寒具が相まって、軽い火傷で済んだのだろう。

 だが水薬(ポーション)が効くまでは時間がかかる。現に蒼乃は、膝を屈したまま動かない。


(えいくそっ!)


『おい、熱くなるなっ! おめえの腕でなんとかなる相手じゃねえ!』


 脳裏に流れるダイダロスの声を振り切って、水の魔力(マナ)を纏った愛剣を構える。

 オグニエナは黎一たちの後方、斜面に差しかかるあたりへと抜けていた。そこへ、アイナとラキアが斬りかかる。


「――銀月(ぎんげつ)白牙(びゃくが)!」


 アイナが繰り出す白い軌跡を描く横薙ぎを、オグニエナの長巻が振り向きざまに受け止める。

 刃が噛み合った側から冷気の弧が放たれる。だがオグニエナは、わずかに笑ったのみだ。


「――冷閃(れいせん)氷柱(つらら)


 ラキアが後背を突く位置から放った氷の(きっさき)が、オグニエナを捕らえた。

 しかしオグニエナがわずかに顔をしかめる間に、大人の背丈ほどもある氷塊が溶け散っていく。


「奴隷の血筋が、大したものよっ!」


 二人との剣舞に興じながら、オグニエナが吼える。


「妾が興した剣を、ここまで昇華するとは!」


「なにっ⁉」


 アイナの動きが、声とともにわずかに鈍った。

 隙を埋めるように、ラキアが割って入る。


「そなたら、東の国の出であろう! 氣の流れで分かるわっ!」


 ラキアを大きく弾いて、オグニエナが距離を取る。

 氷の一撃をもらった防具の個所が、大きく欠けていた。まるでダメージがないというわけでもないらしい。だが火の魔力(マナ)が満ちている以上、回復されるのは時間の問題だ。


「しかしまあ……奴隷の分際どもが、よくぞここまで殖えたものよ。貴様らがなぜこの世界に立っていられるか、分かるか?」


「なに……?」


 前に出る黎一に向けて、オグニエナは表情を険しくする。


「そなたの父、ソウマと我らがっ! 堕ちて異界を牛耳り、覇を唱えた勇者と竜人どもをっ! (ことごと)く誅したがゆえよっ!」


(やっぱり……!)


「ソウマは今も、彼の地にいる! 我らは約した! 我らが目醒めし時、ふたたび”門”を開き、ソウマを解き放つとッ!」


「なら俺に開けさせろっ! 俺は父さんに……」


「……彼の地には、今も堕ちた者どもが眠っている。ソウマの子よ。妾の剣に触れられぬようでは、その資格はない」


 ふたたび、オグニエナが身を屈めた。


「そなたに資格があるというならば、この技を捌いてみせよ。ソウマは、初見で捌いてみせたぞ?」


 炎が、満ちる。


炎樂(えんがく)――火牙裂(ひがさき)


 赤に染まったオグニエナが、黎一を目がけて駆けだした。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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