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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第四章 俺と彼女が、剣士の秘密に触れるまで

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竜殺し

お読みいただき、ありがとうございます!

 黎一はラキアとともに炎精獄竜(ヘルカイト)へと迫った。

 火口を背に戦う竜の角には、すでに赤い輝きが戻りつつある。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)水巧結界(デフト・ウォーター)!」


 周囲の水の魔力(マナ)を増幅させる。

 頃は良しと見たか、銀髪をなびかせる蒼乃が炎精獄竜(ヘルカイト)へと肉薄した。


寂寞(せきばく)に哭く風精よ、氷雪纏いて剣となれ! 氷雪風刃(ブリザード・ヴェイン)ッ!」


 鉄紺色の短杖(ワンド)から、冷気の刃が伸びた。

 蒼乃は炎精獄竜(ヘルカイト)の爪牙を、もう一方の短杖(ワンド)から風を撃ち出すことで回避。その動きを利用して、角に冷気の刃を振るった。


「っせぇえいっ!」


 狙い違わず、冷気が赤い角へと直撃する。

 炎精獄竜(ヘルカイト)の顔が、わずかに苦悶に歪んだ。

 その隙に、アイナは竜の足元へと走り込んでいる。


「――荒月(こうげつ)!」


 全身で伸びあがるような斬撃が、角を掠める。


「――潰天(かいてん)ッ!」


 飛び上がった勢いから繰り出す荒々しい一撃にも、角にはヒビひとつ入らない。

 そこへ、ラキアが踏み込んだ。


「――冷閃(れいせん)


 白い軌跡を残す横薙ぎの一撃が、炎精獄竜(ヘルカイト)の角を直撃する。角に、わずかな亀裂が入った。

 アイナの顔が、驚愕の色に染まった。着地するなり、ずかずかとラキアへと近づく。


「ラキア……! 貴様、一体どういう……っ!」


「今だけだよ。あと、言い出しっぺはこいつだからね」


 指で示され、わざとらしく目を逸らす。

 ちなみに蒼乃はというと、大して気にもせず竜の角に冷気の一撃を見舞っていた。ちらと黎一を見たその顔は、「なんかよく分からないけど、とりあえずよくやった」などと言っている気がする。


「角の輝きが戻ると厄介だ。さっさと仕留める」


 ラキアは時間の無駄だとばかりに、ふたたび炎精獄竜(ヘルカイト)を見据えた。

 その一言に、ふとした疑問が脳裏をよぎる。


(こいつ、なんで角のことを知ってる? 遠くから見てた……? まさかな)


 考えている間に、炎精獄竜(ヘルカイト)が大きく首を動かした。吐息(ブレス)の体勢だ。

 魔律慧眼(カラーズ)に切り替えて見てみると、周囲の赤い魔力(マナ)はまだ薄い。威力が落ちてでも薙ぎ払うつもりらしい。

 黎一は、青い鳥に触れて口を開く。


『フィロ、小里! もう一発かましてやれっ!』


『んんぅ! りょーかい!』


 ラキアが、聞こえてきた声に顔をしかめた。


「なにするつもりなの? 魔力(マナ)が収束したら……」


「分かんないなら、黙って見てなさいって。次、一気に仕掛けるよ」


 訝しむラキアを制したのは、飛んで戻ってきた蒼乃だった。小休止のつもりなのか、雷光は纏わず元の黒髪に戻っている。

 そうこうするうちに、炎精獄竜(ヘルカイト)の口に炎が灯った。水巧結界(デフト・ウォーター)で下げた周囲の気温が、ふたたび上がっていく。


『れーいち! あいずしてねっ!』


『射角調整、よしっ! いつでもどうぞっ!』


(ちったあ、連携よくなったな)


 炎精獄竜(ヘルカイト)の口が、黎一たちに向けて開かれる――。


「よおし……撃てぇっ!!」


 ――透明の光が、煌めいた。

 炎が、赤い魔力(マナ)が一瞬にして消滅する。


『グゥオアアアアアアッ……!!』


 炎精獄竜(ヘルカイト)の巨体が、大きく傾いだ。

 六天魔獣(ゼクス・ベスティ)にとって魔力(マナ)を消されるのは、血の流れを止められるのと同義のはずだ。


「なっ……⁉ 氣の流れが、止まった⁉」


 ラキアの口から、声が零れ落ちる。

 はじめて見る、驚愕の表情だった。


「行くぞッ!」


 走り出しす。

 視界の隅で、蒼乃の髪がふたたび銀髪に染まった。

 アイナも、剣に水の魔力(マナ)を纏っている。


「ええいっ……!」


 ラキアも戸惑いの声をあげながら、後に続く。

 フィーロが純然魔力(ピュア・マナ)を撃ち出せる回数には限度がある。ここまでの戦闘時間を考えると、次の一発が最後だ。


(一気に持ってく! なるべく、消耗せずに……!)


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)水巧結界(デフト・ウォーター)!」


 後の展開も踏まえつつ、手番を繰る。

 その間に、蒼乃が雷光を纏って飛んだ。炎精獄竜(ヘルカイト)の眼前まで行くと、右の短杖(ワンド)を振りかざす。


「虚空に眠りし氷嵐の王、煌めき凍てつき業を封ぜよ! 閃氷封絶(サウザンド・フロスト)!」


 無数の冷気が、光とともに弾けた。輝きを失った角が、さらに色褪せる。

 蒼乃は間髪入れず、左の短杖(ワンド)を逆手に構える。


寂寞(せきばく)に哭く風精よ、氷雪纏いて剣となれ! 氷雪風刃(ブリザード・ヴェイン)ッ!」


 冷気の刃の連撃が、角に無数の傷をついた。

 炎精獄竜(ヘルカイト)が、ゆっくりと立ち上がる。その隙に、アイナとラキアが走り込んだ。


「剣舞――空蝉(うつせみ)


「剣舞――霧氷(むひょう)


 視界に、無数の剣閃が走った。

 ふたつの軌跡は重なり合い、埋め合いながら、竜の角に亀裂を入れる。

 しかし、竜の眼にはまだ光がある。


(いい加減に……!)


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)万霊祠堂(ミュゼアム)!」


 眼前に、石碑が立ち並ぶ祠堂が広がった。

 奥で光を灯す、大きな石碑に手を伸ばす。影蠢く城で手に入れた力のひとつ――。


(出てこいやっ!)


刻命焉刃(デッドリー・エッジ)!」


 名を告げると、黎一の愛剣が禍々しい深緑に染まった。

 触れると肉体を壊死させる猛毒のオーラを付与する能力(スキル)である。並の剣では腐食してしまうが、愛剣なら耐えられる。

 だが振るえるのは、一度だけだ。


『ゴアアアアアアッ!!』


 炎精獄竜(ヘルカイト)が叫ぶ。

 残った力を、絞りつくすかのように。

 角が遠のく。巨体が立ち上がり、竜が鎌首をもたげた。


(やっべっ……!)


『お願いっ! いっけええっ!』


 小里の声が響いた。

 肩先に留まっていた青い鳥が飛び、竜の額を直撃する。

 青い身体が、羽が、粉々になって砕け散った。


「風よ、我らを導く翼となれ! 風翼言祝(ウィンディ・ブレス)!」


 蒼乃の声が響く。身体が、風で包まれたのを感じる。


(二回も……)


 地を踏みしめ飛び上がり、炎精獄竜(ヘルカイト)の目の前へと躍り出た。


(神風が吹くとはなッ!)


「おおおおおおおおおおっ!」


 角を目がけて、毒の刃を振り下ろす。

 竜の鉤爪が、黎一に届くより早く――。緑の刃が、巨大な竜の角を断ち切っていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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