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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第四章 俺と彼女が、剣士の秘密に触れるまで

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交わる刃

お読みいただき、ありがとうございます!

 黎一たちは、焼けただれた山肌を蹴って進んだ。蒼乃の補助魔法があれば、山頂までそれほど時間はかからない。

 やがて黎一たちが、熱風吹きすさぶ山頂へと至った時――。

 地に伏していた炎精獄竜(ヘルカイト)が、真紅の巨体をゆっくりと起こした。


『よう来た、人の子よ』


(もう喋れる? 魔力(マナ)を吸い続けたからか……?)


 間近で見ると、その大きさが一層際立って見える。

 城か砦くらいと思っていた身体は、さらに大きくなっていた。両翼を広げれば、ちょっとした町なら覆い尽くすことができるのではなかろうか。


『まさかこの期に及んで、純然魔力(ピュア・マナ)を浴びるとはな。どんな手を遣ったかは知らんが、面食らったわ。褒めてつかわす』


 苦悶の叫びはどこへやら、竜の顔が喜悦に満ちた。

 鼻先から伸びる赤々と輝く巨大な角と、後ろへと伸びる二本の角。どことなく、地精王獣(ベフィモス)に似ている。

 そんな炎精獄竜(ヘルカイト)を前に、黎一は前へと出た。ただそれだけで、肌が焼かれる気がする。


「お褒めのついでに……また寝てもらえると助かるんすけどね。俺が聞きたいこと、答えた上で」


 竜の眼が、ぬらりと光る。


『”力の遣い手”はそなたか。しかし彼の者と違って、冗談は下手と見える』


(父さんの、事か)


(わらわ)は火を喰らい続け、いずれは空を舞う。そうなれば、貴様らの城塞など取るに足りん。故に、そなたの願いを聞き入れる意味はない』


「なぜ焼くんすか。あんたが付き従った人は、そんなこと望んじゃいなかったはずだ」


『フン、見てきたような口を利く。彼の者に従ったのは、力比べで認めたがゆえ。主であり、強敵(とも)でもある……。探すために起きたのよ。決着をつけるためにな』


「なら力を貸してくれっ! その人の居場所を教えろっ! そうすりゃ、俺が会わせてみせる!」


『フッ……フハハハハハハッ!! 感じるぞ……! そうか、ガディアンナの力を得たか』


 炎精獄竜(ヘルカイト)が、嗤った。

 咆哮にも似た声に空気が焦げ、夜天が赤に染まる。


『だが届く、か? 届くと思うてか。なにも知らぬ小童(こわっぱ)が』


「だから、あんたの知ってることを教えて欲しいんすよ。やってみなきゃ分かんないでしょ」


『そうさなぁ、考えぬでもない。ただ……』


 竜の顔が、にたりと笑った。


(わらわ)を、満足させることができたならばなッ!!』


 唐突に吹きつけてきた炎風を、全員が散って躱す。

 周囲の魔力(マナ)を転化せずとも、少量の炎なら吐けるらしい。


「結局、力比べかよっ!」


『つれぬことを言うな、稀人よッ! 汝が振るうその力、我が想うものであるか否か……試すとしようッ!』


 幾度目かの、竜の咆哮が響く。

 フィーロの純然魔力(ピュア・マナ)が効いたのか、鼻先の角は色あせたままだ。魔律慧眼(カラーズ)で見る限り、火の魔力(マナ)による障壁も消えている。

 だが火の魔力(マナ)が漂う場で、このままであるはずもない。

 つまり――。


「速攻勝負よッ! 一気に決めないとヤバいってッ!」


「分かってるッ!」


 蒼乃が心の内を代弁してくれる。説明要らずなのはいいことだ。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)! 水巧結界(デフト・ウォーター)!」


 能力(スキル)に応じて、水の魔力(マナ)の気が強くなる。

 周囲の気温が下がった。相反する火の魔力(マナ)が抑圧されたのだ。


『ほっ! 小細工よのおッ!』


「凍れる空に在りし風精よ、怒り渦巻き檻となれ! 氷竜巻檻(アイス・トルネード)ッ!」


 蒼乃が放つ巨大な氷の竜巻が、紅い竜を包み込む。

 だが炎精獄竜(ヘルカイト)は、身じろぎひとつで氷の檻を弾き散らした。


児戯(じぎ)は好かぬぞ、小娘ッ!』


「はいはいっ! でしょうねっ!」


『なにッ⁉』


 先行した蒼乃とは、逆側から回り込む。

 蒼乃が先手を打った理由は分かっている。炎精獄竜(ヘルカイト)に対する有効火力が限られていることを見越して、囮になったのだ。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)全々全花(オール・ジ・オール)! 蛇水咬(じゃすいこう)八岐(やまた)ッ!」


 意識したのは、炎精獄竜(ヘルカイト)の身体の部位だった。頭、胴、両足、両翼――。巨体ゆえ、別々に攻撃するイメージが湧きやすい。

 果たして、黎一の剣から出でた水蛇が反復する。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)魔力追跡(マナ・チェイス)! いけえっ!」


 愛剣を、振り抜いた。

 能力(スキル)に導かれ、数多の水蛇が中空を這い進む。狙いは、色を取り戻しつつある赤い角だ。

 しかし炎精獄竜(ヘルカイト)は、なにを思ったかいきなり突進を始めた。


『よいぞッ! 食ろうてみようッ!』


 熱を生む突進の中、水蛇が角へと食らいつく。

 だが炎精獄竜(ヘルカイト)の勢いは止まらない。


『よい、よいぞッ! だがまだ足りぬッ!』


「チイッ!」


 やむなく、さらに右へと飛んだ。自然、巨体の左にいる蒼乃と分断される形になる。しかし炎精獄竜(ヘルカイト)は黎一にも、蒼乃にも興味を示さない。

 進んだ先にいたのは――。隙を突くべく、後方にいたアイナだ。


『そこの女、魔力(マナ)が使えぬな? 上から見ておれば分かるわ』


炎精獄竜(こいつ)、最初からこれを見越して……!)


「――穿刻(せんこく)っ!」


 アイナの声が響く。

 だが、炎精獄竜(ヘルカイト)が揺らぐことはない。


『強きを(くじ)き、弱きを殺す。戦の世の教えぞ?』


(えいくそっ! 間に合えっ!)


 高速移動の能力(スキル)を引っ張り出すべく、万霊祠堂(ミュゼアム)()び出す。

 その前に。


「――氷弧(ひょうこ)


『ガウッ⁉』


 中空に、冷たい色の弧が奔った。

 炎精獄竜(ヘルカイト)の首が、大きく仰け反る。


(今のは、まさか……!)


 竜の両翼が羽ばたき、巨体が下がる。

 開けた視界の先にいるのは蒼乃とアイナ、そして――。


「……ラキアッ!」


 アイナを庇うように立つ、青銀髪の男の名を呼ぶ。

 群青色の外套を纏い、左手には冴え冴えとした色を放つ片刃の長剣。線の細い身体は、どこから竜の巨躯をよろめかせる力が出るのか見当もつかない。


『新手か! 面白いっ!』


「……纏うは閃き、奔るは雷光! 昂る我が身を()く導けっ! 閃雷翔纏ライトニング・アクセルッ!」


 翼を広げる炎精獄竜(ヘルカイト)を前に、左から光が翔ける。

 白き雷光を纏い、髪が銀色に染まった蒼乃だ。その目が、少しだけ黎一の顔を見た。


(俺になんとかしろってかい……)


『ほほう⁉ 次はどんな遊びだ⁉』


 炎精獄竜(ヘルカイト)は顔を輝かせ、宙を舞う蒼乃を追い回す。

 こうしてみると、なんとも人間臭い。


(さて、あっちがなんとかしてる間に……)


 黎一は、背後へと向き直る。

 アイナとラキアは、いつの間にか距離を取り向き合っていた。


「アイナ、オレと来い。今ならまだ間に合うっ!」


 熱を持って言うラキアに、しかしアイナは冷たい視線を返す。


「間に合う? なにがだ。もう終わった……。お前らが、終わらせたんだろうが」


「仕方のないことだった。先に手をあげたのは、お前の父だぞ」


「その”仕方ない”で、何人が死んだ? 一体どれほどの者が犠牲になった⁉」


 ラキアを見つめるアイナの目は、かつて見たことのないものだった。

 憤怒、憎悪、敵意。負の想いを幾重にも積み上げ、悲しみで彩った――そんな目だ。


「ヴェンに伝えろ。いつか必ず、私がお前たちを終わらせる、と」


 そう言って、水の魔力(マナ)を纏った剣を片手に炎精獄竜(ヘルカイト)へと駆けていく。動きに、先ほどまでの迷いはない。

 なおも側に立つ黎一に、ラキアは熱のない視線を向けた。


「……いい気分かい?」


「なにがあったんだ、なんて聞く気はねえっすけど」


「そりゃいいね。オレも話すつもりはない」


「ただこのままいったら……アイナさん、死ぬかもしれないっすよ」


「……ッ!」


 ラキアは、再度アイナに視線を向けた。

 爪牙を振るう炎精獄竜(ヘルカイト)の側を飛び回り、幾度も剣で斬りつけている。

 すれすれのところを爪が通り過ぎる度、ラキアの表情がぴくりと動く。


(やっぱり、そうだ。アイナさんに声を上げた時、魔力(マナ)が少しだけ熱を持った。少なくともこいつは……()()()()()()()()()()()()()


「俺は元の世界に帰るために、手に届く範囲を守るために炎精獄竜(あいつ)を倒す。あんたが守りたいものは、なんですか」


 ラキアはなおも黙していた。が、やがてゆっくりと一歩前に出る。

 そのまま、左手の剣を横薙ぎの形に構えた。


「――青月(せいげつ)


 青い波動が、まっすぐに飛んだ。

 炎精獄竜(ヘルカイト)は、鉤爪のひと薙ぎで斬り散らす。なにかを察したのか、さも面白そうにラキアを見つめた。


「今だけ、だからね」


「……それでいいっすよ」


 黎一は愛剣を構えて、ゆっくりとラキアの横に並んだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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