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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第四章 俺と彼女が、剣士の秘密に触れるまで

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赤き洗礼

お読みいただき、ありがとうございます!

 煮えたぎる赤い山裾に、幾多の青がほとばしる。

 ある場所では水流が(はし)り、またある場所では氷の花が咲く。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)全々全花(オール・ジ・オール)ッ!」


 黎一は愛剣に纏った水の魔力(マナ)を、目の前に立ち塞がる火の魔物の数と同じ数に増やした。

 対象の数だけ事象を反復させる、マリーの能力(スキル)だ。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)魔力追跡(マナ・チェイス)! 蛇水咬(じゃすいこう)八岐(やまた)ッ!」


 イメージを乗せて、剣を振るう。

 反復して産み出された数多の蛇たちが、さらに八つ首へと分裂した。蛇たちは牙をむき、能力(スキル)によって示された標的に向けて中空を這う。


「「キャシャアアッ……」」


「「ンゴッ!」」


「「ヴォワシャアアアアア……」」


 そこかしこから魔物の断末魔が聞こえる。葬ったのは、ざっと二十程度だろうか。


「ヒュゥ~! やるねえっ!」


「なんだありゃ⁉」


「あれが、国選勇者隊(ヴァリアント)……?」


「いや噂にゃ聞いてたけど……噂以上だぞ、あれ」


 ひそひそと聞こえてくる声を斬り裂くように、蒼乃が宙を舞った。

 三体の獄烙鳥(ヘルズ・バード)を氷の風刃で斬り捨てた後、青水晶の短杖(ワンド)を魔物の群れへと向ける。


「凍れる空を駆ける風、怒り渦巻き檻となれ! 氷竜巻檻(アイス・トルネード)!」


 青き氷の竜巻が、五体の炎熱巨人(メルト・ゴーレム)を焼けた土塊に変える。

 どうやら集合を待つ間に、新しい魔法を組み上げたらしい。煮魂宿りし雪山の迷宮スィージング・ホワイトで、手持ちの水属性魔法の威力不足を悟ったのだろう。


「おいおいっ、いけるんじゃねえのこれえっ!」


「いけなきゃ困るんだよッ! さっさと手を動かせえッ!」


(いやまあ、優勢なのはいいんだがなあっ……!)


 蒼乃の強さに湧く周囲の声をよそに、戦況を俯瞰する。

 実際――二国連合での戦は、おおむね優勢で進んでいた。ノスクォーツの旗と陣形を併用した水の結界と、黎一の水巧結界(デフト・ウォーター)の相乗効果によるものだ。おかげで火の魔物たちは近づくそばから弱体化し、片っ端から討ち取られていく。


(まあ、それよかやべえのがいるけど……)


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)! 水流噴出(ハイドロ・ガッシュ)ッ!」


 ちらと視線を左手に向けると、水流が四方八方にぶちまけられている。

 放っているのはフィリパだ。先ほどから前線に立ち、負傷も厭わず水流を放ち続けている。

 暗い表情は変わらない。死に場所を求めている者の顔だった。


(んでもって、こっちはこっちでアレだし……)


「――銀月(ぎんげつ)白牙(びゃくが)ッ!」


 右手に目を向ければ、青白い斬撃が火精蜥蜴(サラマンダー)たちを斬り裂いている。空から獄烙鳥(ヘルズ・バード)が来れば、青き斬撃の渦がその身体をこそげとる。

 水の魔力(マナ)を纏った剣を振るうのは、言うまでもなくアイナだ。いつの間にか、水の魔力(マナ)を付与する焉古装具(アーティファクト)を手に入れていたらしい。

 その表情には、フィリパと同じものが宿っているように見えた。


(いやなんていうか……。気持ちは分かるなんて、とても言えねえ。ってか分かりたくないけど……)


 中央の黎一と蒼乃、左翼のフィリパ、右翼のアイナ。ぱっと見、魔物の七割くらいはこの四人によって討ち取られている。おかげで死者はおろか、負傷者すらほとんど出ていない。

 だが黎一としては、とても、とてもやりにくい。


(ったく……。半分くらいは、お前のせいだからな)


 深いため息を吐きながら、山頂の竜の影を見据えた。補助魔法の恩恵もあって、今はすでに山の中腹くらいに達している。

 あとひと息――そう思った時。

 竜の影が動いた。のそりと立ち上がったかと思うと、おもむろに首を大きく逸らす。


(あの動き、まさかッ……!)


「冷却の魔法の道具(マジック・アイテム)をっ! 炎が来るッ!!」


 思う前に、叫んでいた。

 懐に入れていた水瀑石(アクア・ストーン)を、前方に向けて投げ放つ。


「全軍停止ッ! 防御態勢ッ!!」


 ヴォルフの号令が重なった。

 隣の蒼乃も、なにかを叫んだ。

 瞬間――。


(~~ッ!!)


 視界が、炎で染まる。

 熱さが、痛みが、ひとつになって通り過ぎていく。

 その時は長いようで、一瞬で終わった。


「くっそ、どうなって……ッ⁉」


 広がる光景に、絶句する。

 目の前に、焼けただれた足があった。

 その先には、歪な人の形をした消し炭が見える。

 右にも、左にも、黒い形をしたなにかが、溢れていた。


「クソッ……クソッ!」


 言葉が漏れる。竜の影を、ふたたび見る。

 竜は、嗤っていた。

 矮小なるものを。驕れる牙を持つものを。決して己に、届かぬものを。


「テメエッ……! やって、くれたなッ……!」


 愛剣を構えなおしたところで、背に衝撃が走った。

 見れば、髪を振り乱した蒼乃だ。とっさに水の結界を張ったらしく、外傷はない。だが特注で作ったはずの革防具は、ところどころが黒く焼け焦げている。


「熱くなるんじゃないの」


「……ッ!」


「熱に熱で応じて、どうすんの。あんたが熱くなったら終わりでしょ」


 気づけば、左翼にいたはずのアイナもいた。

 青い貫頭衣のところどころが焦げているが、やはり外傷は見当たらない。とっさに蒼乃が作った結界に飛び込んだのだろう。


「すまない、私も熱くなりすぎた……。進むぞ。そなたの役目は、ここで留まることではあるまい」


 ぎりと、愛剣の柄を握り締める。

 その時、炎の向こうから魔物たちが殺到した。どの魔物たちも吹き飛ぶどころか、その身体から放つ炎は輝きを増している。


(そうか……! さっきの炎で、火の魔力(マナ)が増えて……!)


「総員、陣形を立て直せッ! まだ使える旗があったら持って来いッ!!」


 声は、後方から聞こえた。

 見ればヴォルフが、モルホーン他少数の部隊に囲まれて立っている。その周りに、後方にいて炎の難を逃れた者たちが一斉に集っていく。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)! 水流噴出(ハイドロ・ガッシュ)ッ!!」


 迫る魔物たちの数体を、幾度目かの水流が薙いだ。

 立て続けに水流が放たれた後、フィリパがふたたび前に立った。


「ちんたらやってる暇があったら、とっとと進みなさい。あんたが炎精獄竜(あれ)をやらなきゃ、終わんないんだからさ」


「フィリパさん……」


炎精獄竜(あいつ)は、あたしが獲りたかったんだけど。……仇、討ってよね」


 フィリパはそう言って、少しだけ笑う。優しい、笑顔だ。

 かと思うと、燃え盛る魔物たちの群れへと突っ込んでいく。


「アアアッ……アアアアアアアッ!!!! 勇紋権能(サインズ・ドライヴ)!! 水流噴出(ハイドロ・ガッシュ)ッ!!」


 放たれた水の奔流が、赤き煌めきに(わだち)を作る。その後を埋めるように現れた荒波が、魔物の群れを左右に割っていく。

 その時――。


「ピギャアアアッ!!」


「……ッ」


 斬り揉みに飛んだ獄烙鳥(ヘルズ・バード)のくちばしが、フィリパの身体を貫いた。力が抜けたその身体を、周囲の魔物たちが次々と貪っていく。


「フィリパさんッ!」


「……ゆけえッ! レイイチ・ヤナギッ!!」


 威厳のある声が、背を押した。

 声の主であるヴォルフの周りには、半分ほどまでに減った冒険者たちが集っている。


「貴殿らが先に進めば、炎精獄竜(ヤツ)は貴殿らを狙おうッ! そこに勝機があるッ! ゆけえッ!」


 ヴォルフが吼える。

 その間、冒険者たちは号令を待つまでもなく動き出していた。フィリパが遺した水の轍を背に、魔物たちと交戦している。


「とっとと終わらせて来いッ!」


「ブチ倒せよッ 若いのオッ!」


 自然と、足が動いた。

 ここでは止まれない。六天魔獣(ゼクス・ベスティ)も、元の世界に帰るのも、今はいい。

 自分が動けば守れる人たちが、そこにいるのだ。


「やって、やるよ……!」


 漏れ出た言葉とともに、竜の影を見る。

 紅蓮の巨躯が、応えるように翼を広げた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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