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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第四章 俺と彼女が、剣士の秘密に触れるまで

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煮えたぎる歌

お読みいただき、ありがとうございます!

 黎一の視界が、溶岩洞から石碑が並ぶ薄暗い祠堂へと切り替わる。

 脳裏に映る、万霊祠堂(ミュゼアム)の空間。光が灯る石碑たちそれぞれが、能力(スキル)を顕す。その中の望むひとつに、手を伸ばした。

 ――視界が、ふたたび溶岩洞に戻ってくる。


「……無足瞬動(ペネトレイト)ッ!!」


 身体が加速した。圧し掛かる加重に、意識が飛びそうになる。


「なっ!」


「レイイチ君……っ!」


 ヴォルフとレオンの声がする。

 その時、黎一はすでにヴォルフと青銀髪の目の前にいた。


「っらあっ!」


 愛剣を振るう。澄んだ音が響く。

 次の瞬間、ヴォルフは青銀髪の縛めから脱していた。


「チッ……!」


 青銀髪が、片刃の剣を振るう。髪と同じく青みがかった、鋭い一撃だ。辛うじて躱すと、一瞬の合間を縫ってふたたび能力(スキル)を切り替える。


近接戦(インファイト)は好きじゃねえが、仕方ねえっ!)


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)万霊祠堂(ミュゼアム)! 一心深観(ディープ・フォーカス)!」


 能力(スキル)を使うと、魔力(マナ)を色で表す魔律慧眼(カラーズ)の視界が消えた。代わりに現れるのは、青銀髪の動きを予知する残像だ。


「また……っ!!」


「キミは一体いくつの……!」


 ヴォルフとレオンの声が聞こえる。

 だが青銀髪は意に介さず、間合いの外で構えを取った。剣を矢に見立て、弓を引き絞るような構えだ。


(あの構えは……!)


「――穿刻(せんこく)


 鋭い突きとともに、渦巻く衝撃波が黎一へと放たれる。

 アイナの技と、まったく同じだ。


(だが、読める!)


 衝撃が届く寸前、射程から外れた位置に脱した。

 青銀髪は、すでに次の動きに入っている。左手の片刃が、冷気を纏うのが見えた。


(また、間合いの外か!)


「――青月(せいげつ)


 青い三日月のごとき剣気が飛ぶ。これもまた、アイナと同じ型だ。

 だが黎一もまた、剣に風の魔力(マナ)を纏っていた。先ほど立ち昇った吹雪のごとき魔力(マナ)の色から、属性のあたりはつけてある。


風伯刃(ふうはくじん)(しょう)!」


 愛剣から放った風刃が、青い三日月と衝突した。数瞬のせめぎあいの後、双方が砕けて溶岩洞の熱気へと散っていく。

 だが青銀髪は寄ってこない。距離を取り、剣に氷を纏わせる。身体能力は勇者(ブレイヴ)並みと言っていい。


(こいつ、動きが読まれてるのが分かってるのか?)


 その時、青銀髪が口を開いた。

 表情が、心なしか柔らかいものに変わっている。


「アイナッ! こっちへ来い!」


(はっ……?)


「オレは迎えに来たんだ! お前に危害を加えるつもりはないっ!」


 正面から意識を逸らさぬように、アイナを見た。

 剣を抱くように立ちすくむ様は、祈りを捧げる乙女を思わせる。


「今来れば、こいつらにも危害は加えないっ! さあ、来いッ!」


 青銀髪は熱を帯びた声で、なおも言い募る。

 だが動いたのは、アイナではなかった。


「……事情は知らぬが、ずいぶんな物言いだな? ()れ者よ」


 苛立った声を上げたのはヴォルフだった。

 剣をだらりとぶら下げ、青銀髪にじりじりと詰め寄っていく。青銀髪の表情が、一転して冷たいものへと変わる。


「ちょっと黙っててくれない? こっちの用事、お望み通りに終わらせようとしてるんだ」


 先ほどの熱っぽさはどこへやら、声までダウナーに戻っている。

 ヴォルフの双眸が、つり上がった。


「不意を打ち、国事をかき乱した挙句になにを言い出すかと思えば……。我々全員を相手取って、勝てるつもりか?」


「そう言ったつもりなんだけど、伝わらないかな。ていうか、あっさり背後を取られた分際でよく言うよね」


「ハッハッハ。なかなか面白い御仁だ」


 レオンが、笑みを浮かべて歩み寄る。

 その右手には、すでに抜き放った片刃剣(サーベル)が握られている。


「すでに貴殿らだけの話ではないのだよ。いたずらに国事へと介入し、場を乱したのだ。色々と話も聞きたいし……すまないが、ご同行いただこうか」


「ずいぶん呑気な頭してるんだね。王侯貴族(てっぺん)の人らがこれじゃあ、大陸(こっち)もたかが知れてるな」


「なるほど。なおのこと、お帰り頂くわけにはいかなくなったね」


 青銀髪が二人に気を取られている隙に、黎一はふたたびアイナを見た。


「アイナさんッ!」


 茫然自失とした姿に向けて、口を開く。


「言いましたよねっ! 力になるって!」


 アイナが、ハッとした表情で黎一を見た。

 切れ長の目が、見開かれる。


「今が……その時ですッ!」


 言いきって、正面を向き直る。

 それを待っていたかのように、隣に蒼乃が立った。


「ホント、ごくごく稀にかっこいいこと言うよね。あんた」


(うるせえ、ほっとけ)


「けどそういうとこ、嫌いじゃないよ」


 言いながら構えた左手には、青水晶があしらわれた鉄紺色の短杖(ワンド)が握られていた。右手の黄水晶の短杖(ワンド)とあわせて、バトンのように手で遊ばせる。

 その時。後ろから、アイナがゆらりと歩いてきた。


「私は……お前など、知らぬ」


 青銀髪の表情が、変わった。

 なにかがすり抜けたような、そんな表情だ。


「私は、私は……アイナ・トールだッ!」


 アイナが、片刃の剣を抜き放った。

 青銀髪は表情そのままに、視線を黎一へと向けた。


「お前、名は?」


国選勇者隊(ヴァリアント)所属、レイイチ・ヤナギ」


「そうか、お前が……」


 周囲の気温が、下がった。

 火の魔力(マナ)を押さえつけるほどの水の魔力(マナ)が渦巻いているのが、魔律慧眼(カラーズ)でなくとも肌で分かる。


「まずは……お前から斬り払うっ!」


 怒りを帯びた咆哮を合図に――。

 猛者たちが、一斉に青銀髪へと殺到した。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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