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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第四章 俺と彼女が、剣士の秘密に触れるまで

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凍れる怨嗟

お読みいただき、ありがとうございます!

 フィリパに駆け寄るケリスを尻目に、黎一は決闘する二人に視線を移した。

 先ほどまでは剣劇のみだったヴォルフとレオンの戦いは、攻撃魔法を交えたものに変わっている。ヴォルフの放つ魔法と斬撃の応酬を、レオンは光を纏った剣でいなしては反撃を仕掛けていた。


「……ねえ。あれ、ちょっとまずくない? レオンさん、顔色悪いよ」


 いつの間にか寄ってきた蒼乃が、顔をしかめて言う。

 たしかに均衡を保っているように見えるが、レオンの顔はやや青ざめている。魔律慧眼(カラーズ)で見ると、光を顕す白い光が小さくなっていた。魔力(マナ)が尽きかけている証拠だ。


「手出し無用、とは言われたが……。これでレオン殿になにかあれば事だぞ」


(それなんよなあ。競争が勝ち確なのはいいんだけど)


 アイナの言葉に、黎一はわしわしと頭を掻きつつ思案する。

 ノスクォーツ側の編隊(パーティ)が半壊したことで、ヴァイスラント側は大幅なリードを約束された。あの調子では水薬(ポーション)を使って回復するにも、しばらくかかる。攻略競争の軍配は、ヴァイスラント側に上がったと見ていい。


(このままいったら、レオン殿下は確実に負ける。迷宮(ダンジョン)攻略したって競争に勝ったって、レオン殿下が倒れたら意味がない)


 魔力(マナ)がなくなれば、生体が魔力(マナ)を消費した時に起こる目まいや気絶――魔力枯渇症(マナ・ロスト)が待っている。そうなればどうなるかは考えるまでもない。ヴォルフもおそらく、それを狙っているのだろう。


「……決闘を止めよう。わりいけど、レオン殿下の安全が優先だ」


「だよね。てかマジで意味ないもん、あの決闘」


 蒼乃の声を聞きながら、剣に風の魔力(マナ)を纏わせる。

 二人が間合いを取った時を見計らい、愛剣を切り上げるように振るった。


風伯刃(ふうはくじん)(しょう)!」


 溶岩洞の熱気を割いた白雲の弧が、レオンとヴォルフの間に降り落ちる。念のため打ち消しの効果もつけたが、杞憂だったらしい。


「ぬっ!」


「ヤナギ殿……⁉」


 黎一はゆっくりと、剣呑な視線を向けてくる二人の間に立った。


「そこまでにしましょう。すでに命かける状況でもないっすよ」


「なに……っ⁉」


 ヴォルフはようやく、自身の衛士たちの状況に気づいたらしい。

 まともに動けるのはケリスだけ。モルホーンは身を起こしているが、フィリパは未だに目覚めていない。


「バカな……。我が精鋭たちが、こうも簡単に……!」


「ちょっと荒削り過ぎましたね。ま、それはさておき……まだやります?」


「ぐっ……!」


 ヴォルフが、口惜しげな表情を浮かべる。

 その間、レオンは青い液体が入った試験管のような瓶を呷っていた。

細管魔力水薬(スリム・マナエキス)という水薬(ポーション)の一種で、魔力(マナ)を瞬時に回復できるうえに携行性にも優れる代物である。一本で庶民がひと月は生活できるほどの、値段の高さだけが難点だ。


「貴様ッ! まだ決闘は終わって……」


「いいじゃないか。第一戦は引き分けということで、休憩時間だよ。それに……」


 レオンは軽く口許を拭いながら、ヴォルフに笑いかける。


「キミの部下たちがあの調子では、大勢は決まったも同じだ。まだ()りたいと言うなら、つきあってもいいが……。時と場所を改めたほうがいいんじゃないかい?」


「フッ……愚問だッ! 私ひとりでも最後まで戦う! 名にし負う国選勇者隊(ヴァリアント)の力、見せてもらおうッ!」


(おいおい。正気かよ、この王様……)


 剣を構え直して吼えるヴォルフを前に、黎一は唖然とした。

 この状況で、ヴォルフが戦いに拘る必要はまるでない。むしろ火の魔力(マナ)の供給確保など、外交の手番を考えるべき時だ。一介の戦士ならいざ知らず、国王たる者が取るべき判断ではない。

 レオンもまた、呆れ半分の笑顔で口を開く。


「いい加減にしないか、ヴォルフ。キミの私怨に、部下や民たちを巻き込む気か?」


「「……えっ?」」


 レオンの口から出た意外な言葉に、黎一と蒼乃の声が重なった。


「し、私怨って……。お二人、ご友人じゃないんですか?」


「いかにも友人だよ。彼は戦争が止んだ時期、ヴァイスラントの士官学校に留学してきたんだ。私の数少ない、親友のひとりさ」


 蒼乃の問いに答えながらも、レオンの表情は悲しげなものに変わっていく。


「じゃあ、なんで……」


「彼の怒りは、私も分かるんだ。その親友に、実の父親を目の前で討たれたのだとしたら……。私も同じ気持ちになるのだろう、とね」


「へ、っ……?」


 間の抜けた声を上げた蒼乃の代わりに、アイナが口を開く。


「ノスクォーツの先代が、ヴァイスラントとの戦で命を落としたとは聞いていましたが……。まさか……」


「ああ、峻厳王(しゅんげんおう)ドレミディッツ……彼の王を討ち果たしたのは他でもない。この、私なんだ」


(なるほどね、戦場あがりだったのか。しかも国王を討つとか……。道理で強いわけだ)


 レオンの悲痛な声をよそに、黎一は別の角度で得心していた。

 文官あがりなのかと思いきや、武人としても滅法強いことを不思議に思っていたのだ。


「だが若くして王位を継いだヴォルフは、魔力(マナ)の力の可能性に賭けてくれた。戦で疲弊したノスクォーツを復興するために……」


 ヴォルフは、なにも言わない。水薬(ポーション)を遣うでもなくただ剣を構える姿からは、雄々しさを感じる青い魔力(マナ)が立ち昇っている。

 レオンは片刃剣(サーベル)を納めると、ヴォルフのほうへとゆっくり歩み寄った。


「火の魔力湧出点(マナ・スポット)を巡る軋轢(あつれき)は、封じ込めた私への恨みを晴らすための、絶好の機会であっただろう。だが……もう終わりにしないか、我が友よ」


 なおも無言のヴォルフに対して、レオンは両手を広げて言葉を続ける。


「悔恨を棄て、互いの国を盛り立てようと誓ったではないか。それを忘れたとは言わせんぞ、ヴォルフッ!」


 熱気よりもなお熱いレオンの言葉が、溶岩洞に響き渡った。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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