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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第四章 俺と彼女が、剣士の秘密に触れるまで

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冷厳なる王

お読みいただき、ありがとうございます!

ヴォルフは、突き立てた剣の柄に両手を置く姿勢で立っていた。溶岩洞に浮かぶ台座の真ん中に立つ姿は、威風堂々というにふさわしい。

 紋様を描いた革防具と毛皮の外套(マント)には、おそらく冷却魔法の紋様が施されているのだろう。得物は洞窟の中ゆえか斧槍(ハルバード)ではなく、長剣(ロングソード)になっている。


(後ろの奴らは……会談の時と同じか)


 黎一は敢えて得物を納めず、ノスクォーツの衛士たちを観察する。

 不遜な笑みを浮かべる赤逆毛の男の装備は、紋様つきの革防具と両手の拳闘具のみ。

 人を食った表情の水色髪の女は、腰間の短杖(ワンド)に紋様を描いた長衣(ローブ)と魔法士風だ。

 無表情の茶髪の中年、モルホーンも似たようなものだが、発動体らしき得物が見えないのが気にかかる。


(しかしこいつら、なんでここで待ってる……?)


 競争の勝利条件は、先に迷宮(ダンジョン)を攻略することだ。相手を待ったところでなんの利点もない。それどころか道によっては、先回りで迷宮核(ダンジョン・コア)に到達される恐れすらある。

 

(あるとすれば共闘の申し入れくらいだが……。ちと早すぎねえか?)


 思案を巡らせはじめたところで、ヴォルフの双眸がレオンを睨みつけた。


「顔色が優れんようだな。その身体は変わらず、か」


 その口調には、嘲りの色が混じっている。

 級友たちから聞いた話だと、レオンは身体に宿す魔力(マナ)の量が極端に少ないらしい。先ほど戦闘の最中に何度か水薬(ポーション)を使っていたので、余力もあまりないだろう。

 しかしレオンは大して気にした風もなく、涼しげな笑顔を浮かべた。


「ああ、こればかりは天からの贈り物だからね。しかしヴォルフ……」


 笑顔の質が変わる。口調とは裏腹に、なにかを見透かしたような冷徹な笑みだ。


「わざわざ待っているなんて、キミらしくないじゃないか。昼食の約束など、した記憶はないのだがね」


「……フン、愚問だな」


 ヴォルフは隠す気などないと言わんばかりに、長剣を眼前に構える。


「レオン・ウル・ヴァイスラント。今この場で、貴様に決闘を申し込む」


「「『……は?』」」


 思わず出た間抜け声が蒼乃と、青い鳥を介して聞こえる小里と重なった。

 声量の制御が効かないというのは、なんとも厄介な話ではある。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! なんでそうなるんですかっ! 勝ちたかったら、さっさと迷宮(ダンジョン)攻略すればいいじゃないですかっ!」


 攻略競争のルールは、二国間の正式な会談によって決まったものだ。仮にヴォルフが決闘に勝ったところで、ノスクォーツ側の勝利とはならないだろう。

 しかもこのやりとりは、小里の能力(スキル)によってヴァイスラントの冒険者ギルドに筒抜けになっている。背信行為はもとより、万が一レオンが斃れでもすれば国際問題は免れない。


「あ、ひょっとして迷宮主(ダンジョン・マスター)が出てきたはいいけど、倒せなくて待ってたとか? だったら共闘だって……」


「……黙れ、小娘」


 敢えて茶化したのだろう蒼乃の言葉を、ヴォルフの威厳に満ちた声が遮った。


「私は元より、迷宮核(ダンジョン・コア)など目指してはいない。最初からこの場を目指して来たのだ。我らの決闘にふさわしい、この台座をな」


「なっ……⁉」


 蒼乃が顔をひきつらせた。

 滅多に感情を顔に出さないアイナすら、わずかに顔をしかめている。


(なるほど、ね)


 思わず、苦笑いがこみ上げてきた。

 今の言葉は、ある事実を物語っている。しかもヴォルフは、それを隠そうともしていない。

 対するレオンは笑みを崩さぬまま、一歩前に出て口を開いた。


「おかしいと思ったんだ。いかな”大陸最強”とノスクォーツの精鋭とはいえ、我が国選勇者隊(ヴァリアント)がそう遅れを取るとは思えない。しかもキミたちの装備はどうだい。傷はおろか、ろくに汚れてすらいないじゃないか」


 立て板に水を流すような言葉に、ヴォルフの獰猛な笑みが一層深くなる。


「……先駆けて立ち入り、調査や魔物の掃討をしていたわけだね。氷穴は元より、迷宮(ダンジョン)の内部まで。大方、迷宮核(ダンジョン・コア)の在り処も分かってるんだろう?」


 レオンの声は紡がれる言葉に反して、激しく糾弾するものではなかった。まるでゲームでズルをしたことがバレた友人を嗜めるような、そんな声だ。

 ヴォルフも悪びれるどころか、鼻を鳴らして口を開いた。


「知る必要のないことは知らんさ。迷宮(ダンジョン)の露払いに関しても勘繰りすぎだ。我が武を以てしても、この迷宮(ダンジョン)の探索は容易ではないからな」


(するってえと……あいつか)


 黎一は、ヴォルフの背後に控えるモルホーンを見た。

 地層や魔力(マナ)の乱れが発生しやすい迷宮(ダンジョン)の深部では、通信端末を遣っての指示には限界がある。おそらくモルホーンの能力(スキル)である追憶記晶(アウター・メモリー)に、台座に至るまでの道筋が刻み込まれているのだろう。


「そこまでして勝ちたいんですか……? 今のやり取り、この鳥を介してヴァイスラントの冒険者ギルドに伝わってますよ?」


「だからなんだというのだ? 私の望みはもとより決闘のみ。戦もこの余興も、すべてはそこに至るための手段にすぎぬ」


 蒼乃の言葉を斬り捨てたヴォルフが、一歩前に出る。


「さあ、レオン・ウル・ヴァイスラント! 我が決闘を受けよッ!」


 狼の遠吠えのごとき叫びに、呼応するように――。

 赤き溶岩洞の大気が、轟と渦を巻いた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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