表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第三章 俺と彼女が、王女の闇を祓うまで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/260

住み込み聖女

お読みいただき、ありがとうございます!

 ようやく王宮から解放されて後――。

 黎一は屋敷のソファに寝そべって、グランスに殴られた箇所をさすっていた。


(うおおおぅ……。まだいてえ……)


 マリーの回復魔法をかけてもらったのに、未だに頬の痛みと脳が震えたような感覚が残っている。子を持つ親の気持ちの重さとは、こういうものなのかもしれない。


(父さんも、こんな気持ちだったのか……?)


 ふと、父を想う。

 この世界で、穏やかに暮らせ――。父の声は、そう言った。


(父さんがいるのは塵界、なのか? ダイダロスもあの調子じゃ、全部を知ってるってわけじゃなさそうだし……)


「……そういえばさあ。マリーさん、これからどうするんだろうね」


 沈みかけた思考を、対面のソファでフィーロの髪を乾かしていた蒼乃の一言が引き戻す。

 今日の蒼乃は珍しく積極的だった。頬を腫らして戻ってきた黎一を見てからは、フィーロのお守りやら家事やらをすべて引き受けている。明日はきっと雨だろう。

 無言で視線を向けると、蒼乃は察したように口を開いた。


「ほら、住むとことかさ。王族を追放されちゃったんじゃ、もうお城には住めないでしょ? ギルド職員や国選勇者隊(ヴァリアント)まで除名される、って感じではなかったけど」


(たしかに。どうするんだろうな)


 ソファの上で寝返りをうちながら、ぼんやりと考える。

 王の居室を辞した後、階下に戻った黎一とマリーは召使いたちに迎えられた。去り際に、『色々と準備がありますから。それじゃ、また』と言われたきりである。

 沈黙から色々と察したのか、蒼乃がみるみるうちに呆れ顔になっていく。


「ちょっと……あんた、なにも聞いてないわけ? 一応、陛下に挨拶までしたんでしょ? さすがにどうかと思うんですけど」


(お前は俺の何なんだ。コブ付きで同棲してる今の状況もどうかと思うぞ)


 言葉の代わりに態度で示さんとばかりに、ふたたび寝返りを打ってソファの背もたれに顔を向けた。


「ま、いいけどね。私が気にしたところで、どうなるもんでもないし」


 ため息混じりに言う蒼乃の声を背で聞きながら、王宮でのやりとりを思い出す。よく考えると追放された後のことは、マリー本人はもとより他の誰も触れていなかった。


(まあ父親があの調子なら、なにもないってことはないだろう。斡旋宿とかだと色々アレだし、一の園(アインツ・ガルテン)のどっかに適当な屋敷もらって……ん? 屋敷?)


 聞き覚えのあるフレーズだ、と思った瞬間――。

 玄関の鐘が鳴る。来客だ。


「「……」」


 思わず起き上がり、蒼乃と顔を見合わせる。

 嫌な予感がした。そういえば一昨日の晩にチャイムが鳴ったのも、このくらいの時分だった。


「れーいち、おきゃくさんだよ!」


 ただひとり、フィーロだけはわふわふとした表情を浮かべている。誰とも限らず、訪客を喜ぶ性質(たち)の娘なのだ。

 立てかけてあった愛剣を鞘ごと引っ掴み、無言で玄関へと向かう。魔律慧眼(カラーズ)で見ると、やはり魔力(マナ)がふたつある。


「どちら様で……」


「あ、マリーで~す!」


 あまりに予想通りのアニメ声に、身体から力が抜ける気がした。ドアを開けると、そこにはいつもの桃色のガウンに身を包んだマリーが立っている。


「ごめんなさい、遅くなっちゃって……」


 言いながら微笑むマリーの足元には、ひと抱えほどもある大きな鞄があった。右手には、布にくるんだ棒状のなにかを携えている。おそらく、友の形見である長杖(スタッフ)だろう。


「えっと……なんの、御用で?」


「えっ? 嫌だなぁ、もう王女じゃないんですから。そんなにかしこまらなくたっていいのに。ともあれ、今日からよろしくお願いしますね」


「……はい?」


 最後の一言に、わずかな間だけ思考が停止する。

 その間隙を縫って、背後に控えていた蒼乃が黎一の横から顔を出した。


「よろしく、って……なにを?」


 あくまで笑顔で、しかしげんなりした声で問う蒼乃に向けて、マリーは満面の笑みを浮かべる。


「今日から、わたしもこの屋敷に住まわせていただきます」


「は、はあっ⁉」


「こうなっちゃった以上、嫁入りと同じですし。お父様とお兄様には話してあります。それに宿暮らしとかだとお金が、ねぇ……」


 素っ頓狂な声を上げる蒼乃を尻目に、マリーは笑顔で言葉を続ける。蒼乃の表情を見て、愉しんでいるとしか思えない。


「どっか適当に小さな屋敷とかもらえばいいじゃないですかっ!」


「ちょうどいいところ、ないんですよぉ。ここなら部屋もたくさんあるし、フィロちゃんの様子も見れますし……願ったり叶ったりです」


 蒼乃とマリーがやり合う足元で、今度はフィーロが顔を出した。


「マリー、ここにくるの⁉」


「ふふっ。そうですよぉ、フィロちゃん」


「おおぉぉ~!」


 マリーに頭を撫でられたのも相まってか、フィーロが目を輝かせる。

 すると、今までマリーの背後にいた人物がフードを上げた。言わずと知れたロベルタだ。


「さて、わたくしはそろそろ引き上げますわよ」


「うん! ありがとう、ロビィ」


「まったく、このわたくしを荷物持ちに使うなど……。大陸広しと言えど、貴女くらいのものですわ」


 苦笑するロベルタの脇には、マリーが持っているものと同じくらい大きな鞄が、左右にひとつずつ置かれていた。

 昨日の今日で夜分に出歩いているあたり、天下のカストゥーリア公も娘には甘いのかもしれない。


「疲れてるのにごめんね。今度、甘味オゴるから」


 愛おしげに抱擁するマリーを、ロベルタもひしと抱きしめる。王族を追放されても友情は変わらないらしい。微笑ましくはあるが、残念ながら今はそれどころではない。


三の園(ドライ・ガルテン)のお店は初めてですからね……。楽しみにしておきましょう。それではヤナギ様、アオノ様。ごきげんよう」


 ロベルタは簡易な礼式を取ると、踵を返して門へと歩いていく。

 その時、狙い澄ましたかのように黎一の端末が震えた。


「はい……」


『やあ、私だ。マリーはそちらに着いたかい?』


 疲れた声で応じた途端、レオンの鷹揚な声が聞こえてくる。悲しいかな、予想通りの相手だ。


「……今、まさに」


『ちょうどだったか。まあそういうことになった。よろしく頼むよ』


「いや、ちょっと、さすがにそれは……」


『父上も了承済みだ。よもや、断るとは言うまいね?』


 レオンの口調には、有無を言わさぬ圧が込められている。たとえ生まれた腹が違おうと、追放されようと、妹ではあるのだろう。血は水よりも濃い、とはよく言ったものだ。


「……はい」


『うむ。餞別を持たせておいたから、必要なものがあればマリーに言いたまえ。もっともキミたちも、そう不自由はしていないだろうがね。では邪魔にならんよう、これで失礼するよ』


「……ハイ。お疲れっす」


 そのまま通話が途切れる。あとに残るのは、げんなりした蒼乃と、笑顔のマリーとフィーロだ。


「そんなわけなのでぇ……とりあえず、荷物運びこんでいいですか? あ、お部屋は一番小さいところで構いません!」


 蒼乃の顔が、ゆらりと黎一を向いた。

 この動きは経験上、良くない。非常に良くない。


「……あんた。空いてる部屋、掃除してきて。どこでもいいから」


「は……?」


「いいからっ! フィロもれーいちのお手伝いっ!」


「えぇ~⁉ やだぁ、マリーとおはなしするの~」


「……フィロ、行くぞ。お話はあとでも明日でも、たくさんできる」


 その場から離れなければいけない、なにかを感じる。

 黎一は有無を言わさずフィーロを抱きかかえると、そそくさと二階へと立ち去った。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ