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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第三章 俺と彼女が、王女の闇を祓うまで

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夜天の聖女

お読みいただき、ありがとうございます!

 勇者紋(サイン)から放たれたまばゆい光が、大空洞を照らした。

 右手の甲から溢れた光は、矢のごとく天井へと放たれた後、マリーの身体に飛び込でいく。


「う、おっ⁉」


 あまりの眩しさに、思わず一瞬だけ目を覆った。

 次に見た時、光はマリーの身体を包んでいた。だが光の中でなにが起きているのかは、杳として知れない。


(ほっといていいのか、近くにいなきゃいけないのか……)


 初めてのことゆえに戸惑っていると――。


『ウィフィフィフィフィ……!』


 聞いたことのある声は、台座から聞こえた。

 見るとラレイエの立っていた位置に、異形の姿があった。棘のある蔦が絡まってできた黒い大樹の頂に、黒く染まった女体が生えている。女体のシルエットからして、おそらくラレイエを取り込んだのだろう。


(なんだありゃ……! ラレイエが力を制御できなくなったのか?)


 魔律慧眼(カラーズ)で見てみると、藍色の魔力(マナ)が幹のあたりから立ち昇っている。

 まずは動かなければ、と思った矢先。

 女体の頭部が動き、顔の位置に赤い三日月が現れる。それが笑みの形なのだと気づくのに、数瞬の時を要する。

 顔が向いている先は、黎一ではなく――片膝をついている、ロベルタだ。


「……ッ! ロベルタさんッ!」


 疲労ゆえか、ロベルタは意図を汲み取りきれていない表情を向ける。

 その間にも黒の大樹から、数本の蔦がロベルタへと伸びた。鋭く尖った先端に貫かれればどうなるか、想像するまでもない。


(ええいっ、間に合えっ……!)


 未だ光を放つ右手で、愛剣を振るおうとした時。

 足元にあったマリーの形をした光が、ゆっくりと立ち上がった。


「……勇紋権能(サインズ・ドライヴ)全々全花(オール・ジ・オール)


 ぽつりと、声が聞こえる。光は錫杖を拾い上げたかと思うと、ロベルタへと襲いかかる蔦を払うように振るった。

 甲高い音とともに、黒い蔦の軌道が曲がる。次の瞬間には、光がかざした手から放たれた光弾によって、そのことごとくが半ばから灼かれていく。


(ちょっと待て、今なにした⁉ 間合い関係ねえじゃねえか……!)


 光が収束し、マリーの姿を形作っていく。衣服こそ血と穴でぼろぼろだが、あれだけあった傷口はすべて消えていた。その左手には黎一と同じ、夜空に浮かぶ月の勇者紋(サイン)が刻まれている。


「ラーレ……いいえ。魔女、ラレイエ」


 聞こえる声は、たしかにマリーのものだ。だがその声には、ほんわかした雰囲気にあった緩さはない。流血と痛みが、彼女の中に在った少女を押し流したとでも言うのだろうか。


「貴女を、討ちます」


 伏せていた目が開かれる。かつての友をひたと見据える瞳には、以前にはなかった芯や覚悟があった。


「貴女の罪も業も……すべて、わたしが受け止める!」


 言葉とともに、錫杖を突きつける。

 ラレイエの表情が変わった。三日月の形に歪んでいた赤い口が、憤怒を示す山なりの形となる。


『ウィ……ウィフィイイイイイイイイイイイイッ!!!!』


 怒りとも苛立ちともつかぬ叫びとともに、周囲にいくつもの黒棘が生えて出た。棘の根元から湧きあがった藍色の靄から、無数の不死者たちが這い出してくる。


「……レイイチさん」


 マリーが、右手を差し出した。


「わたしにも、力をください」


 その言葉の意味を察し、左手でマリーの手を握る。脳裏に現れた祠堂の中から、ひとつの石碑に意識を伸ばした。

 渡したのは、地巧結界(デフト・グラウンド)。周囲の地の魔力(マナ)を強め、炎の魔力(マナ)を弱める能力(スキル)である。


「無茶はしないでくださいよ」


 守護属性が地であるマリーが使えば、地属性魔法の威力はもちろんこと、身体能力の強化も期待できるはずだった。不死者に効く炎の属性が弱まるのがネックだが、光の剣魔法で戦えば阻害される要素はない。


「もうっ。それ、今さら言っちゃいます?」


 マリーは困ったように笑うと、不安げに近づいてきたロベルタに視線を移した。


「マリー、あなたまさか……」


「……うん。こんな日が来るなんて、思ってなかったけどね」


 困り顔で左手の勇者紋(サイン)を見せるマリーを、ロベルタは無言でひしと抱きしめる。

 その間にも、不死者たちは藍色の靄から続々と現れている。もはや数えるのもバカバカしくなる数だ。


「ロベルタさんは、ここから動かないでください。俺たち二人でやります」


 自身の能力(スキル)魔律慧眼(カラーズ)に切り替えながら、未だマリーを抱きしめるロベルタに告げる。


「わたくしとて、まだ……!」


「ロビィ、お願い」


「しかし……!」


「大丈夫。ラレイエのことは、任せて」


 ロベルタはなおも口ごもっていたが、やがて腰間の剣を抜いて捧げるように構えた。


「……ご武運を」


 一言だけ告げると、後ろへと下がる。

 黎一とマリーが顔を見合わせた時、愛剣の鍔にある歯車ががちりと鳴った。


『うおおおぃ。ようやく顔出せるようになったと思ったら、気持ち悪ぃ魔力(マナ)ぶちまけてんなぁ。……ってか、そっちの嬢ちゃん。少し雰囲気、変わったか?』


 唐突に聞こえ始めたダイダロスの声に、マリーはくすりと笑う。


「ふふっ、どうでしょうね」


「ちょうどいいところに出てきたな。相手が相手だ。ちょっと力とか知恵とか、色々貸せや」


『ケッ、しょうがねえなぁ。毎度毎度、変なもん引きやがって……』


 身体に力が漲る。ダイダロスが、身体強化のギアを上げたのだろう。

 光を灯した愛剣を構えると、黒き樹上に在るラレイエの身体が震え出す。


『ウィ……フィイイイイイイイイイイイイッ!!!!』


 人の理の外に在る異形の声が、戦いの始まりを告げた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

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