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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第三章 俺と彼女が、王女の闇を祓うまで

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沈む影の果て【マリー】

お読みいただき、ありがとうございます!

 マリーとロベルタは、基部の通路を奥へと進んでいた。時折、壁や床を突き破って出てくる黒棘を目印に黙って歩き続ける。


(どのくらい、経ったかしら……)


 いつしか水路は消え、壁や天井を這う金属質な管に覆われた通路へと姿を変えていた。管の合間から見える溝が発光しているおかげで、明かりがなくていいのがせめてもの救いだ。


(お腹、減ったなぁ……)


 先ほど携帯食料を流しこんだばかりの腹をさする。昼ごろからずっと、暗い地の底にいるのだ。いくら活力回復の魔法があるとはいえ、さすがに心にくるものがある。

 先ほどまで話しかけてくれていたロベルタも、気の滅入った顔で黙々と歩くだけだ。金髪のロールヘアが、今は妙に萎れて見える。


(あぁあぁ~、城下町のご飯食べたいよぉ……。まだ食べてないお店、たくさんあるのに)


 もはや叶わぬ夢なのは分かっていた。これから向かう場所は、まぎれもなく死地なのだから。


(全部のお店とは言わないから、せめて有名店の限定品だけは制覇したかったな……。できれば、あの人と……)


 たらればばかりね、と口の端を歪める。

 あれだけ手を伸ばしても。顔を背けた先に回り込んでも。結局、微笑んでくれることはなかった。

 常に傍らにいる黒髪の少女も、無関係ではないだろう。戦いの中での二人の呼吸を見れば、嫌でも分かる。


(一応、初恋だったんだけどなぁ。もうちょっと時間かければ、可能性あったかも。……ってこれ以上、迷惑かけるわけにいかないか)


 ひょっとしたら今ごろ、増援を引き連れてここに向かっているかもしれない。だが万霊祠堂(ミュゼアム)の縛りがある以上、他の者たちの前で望郷一縷(アリアドネ)は遣えない。手探りでここに辿りつくことは、容易ではないはずだった。


(わたしたちで、終わらせるんだ。あの子を追い詰めたのは、わたしたちなんだから……)


「……マリー! 出口ですわよっ!」


 取り留めのない思考を、ロベルタの甲高い声が遮る。声に顔を上げてみれば、折れ曲がった通路の先がわずかに明るい。


「行きましょ、ロビィ」


 自分自身に言い聞かせるように言って、歩を進める。

 角を曲がると、先ほどまでとは違った景色が目に飛び込んできた。ぱっと見は、人の手が加わっていない大空洞だ。だが高い天井や剥き出しの地面には、依然として大量の金属管が這わされている。床には管を中継するように、錐形の機具が造られていた。

 と、その時。床の地面を破って、黒棘が姿を現す。


『はい、お疲れ様。ここまで来たら、あとちょっとよ』


「ラーレ……」


 変わらぬにやけ面に、皮肉のひとつも浴びせようかと思った矢先――。

 不意に、地面が揺れた。洞窟の奥のほうから、大きな気配が音を立てて近づいてくる。


「ちょっ、なんですの⁉」


『あ、そうだ。言うの忘れてたけど……』


 黒棘もといラレイエの言葉が終わる前に、それは姿を現した。

 牛の頭部と筋骨隆々とした人間の体躯を掛け合わせた全身は、血のごとき赤色に染まっている。


『……ここ、魔物出るから』


牛人鬼(ミノタウロス)ッ!!」


「あの赤い身体、強化種ね」


 各々で大斧や鉄の棍棒を持った牛人鬼(ミノタウロス)たちは、マリーたちを睨みつけた。荒い鼻息に合わせて鼻孔から炎が立ち昇るあたり、おそらく火の属性を持っているのだろう。その数、三体。


『じゃ、早くいらしてね。光の王女様』


 黒棘のニタニタとした面が、地面へと引っ込む。それを合図に、牛人鬼(ミノタウロス)たちが真っ赤な塊となって、轟然とマリーたちに突っ込んできた。

 赤い身体の強化種は、王国内どころか大陸内の迷宮(ダンジョン)でも目撃報告は数えるほどだ。だがその力は、黄金(ゴールド)(・ランク)編隊(パーティ)であっても容易ならざる相手と聞く。


「こっち、ですわよっ!」


 ロベルタが、掌くらいの大きさのなにかを足元に投げつける。すると瞬きほどの間をおいて、人の奇声に似た耳障りな音がする。


「「「ンモォッ、オオオッ!!」」」


 牛人鬼(ミノタウロス)たちの顔が、一斉にロベルタへと向いた。

 ――挑発魔石(プロボック・ストーン)

 地面や壁に叩きつけると奇声らしき音とともに魔力(マナ)を散布し、周辺の魔物たちを引きつける効果を持つ魔法道具(マジック・アイテム)だ。


「ンブルモォッ!!」


「燃ゆる我が意思、この身を守る盾とならん! 昂霊神盾(ウィル・イージス)!!」


 ロベルタがかざした凧型盾(カイト・シールド)に火が灯り、牛人鬼(ミノタウロス)の一匹が振り下ろした大斧を受け止める。その脇から二体が鎚や蛮刀を振り回すが、中空に現れた炎の盾に防がれた。

 どうやら盾の性能を向上させるだけでなく、盾の残像を出して多角的に防ぐ魔法らしい。


「おいきなさいッ! マリーッ!」


「そんなこと……ッ!」


「あなたの地属性の魔法では不利ですッ! 今はラレイエの元にお行きなさいッ!」


(また友達を見捨てて逃げるなんて……できるわけ、ないじゃないっ!)


 持ってきた鞄の中から、握り拳程度の大きさをした青い石を取り出す。

 ――水瀑石(アクア・ストーン)

 使用することで水の魔力(マナ)を解放し、一定範囲を攻撃する魔法の道具(マジック・アイテム)である。

 マリーはそれを、ロベルタに群れている牛人鬼(ミノタウロス)たちに向けて放り投げた。


「水、風雪となりて、かの者どもを縛めよっ!」


 投げた石から青い魔力(マナ)が解き放たれ、真っ赤な牛の巨人たちを一瞬で凍てつかせる。

 いくら弱点属性とはいえ、魔法の道具(マジック・アイテム)ひとつで強化種を仕留めきれるとは思えなかった。それを踏まえて、わずかに風の魔力(マナ)を一緒に放出することで効果を氷へと変化させたのだ。


「モォ、ッ! モオオッ!」


(用意しておいてよかった! レイイチさんから属性の話を聞いてなかったら、ここまで気が回らなかったかも……!)


 身を縛められて暴れる牛人鬼(ミノタウロス)を見て、胸を撫で下ろす。

 マリーが得意とする地属性の魔法は、同じ地属性や弱点である火属性の敵にはどうしても効果が薄い。故にこうして、弱点を突ける手段を用意しておいたのだった。


「助かりました……わっ!」


 逃れてきたロベルタとともに、洞窟の奥へと駆け出す。

 所詮は市販の魔法の道具(マジック・アイテム)にすぎない。とどめを刺している間に効果が切れたり、後続が来ても厄介だ。今は逃げの一手である。


「ロビィ、約束して」


「なんですの? 改まって」


「ここから先、無茶しないで。あともう見捨てていけなんて、言わないで」


 ロベルタは少しだけきょとんとした顔をした後、すぐに微笑んだ。


「はいはい、分かりました。無茶しどおしの貴女に言われると、色々と思うところがありますけれど」


 釣られて微笑んだ時、洞窟の奥に黒棘が現れる。

 水を差されたことに苛立ちながらも、マリーは黒棘の姿を追って走り続けた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

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