005 慣れてきたわよこの身体
「おい、レイ。フラフラするな、ちゃんと俺について来い」
「ああ、ごめんなさいアンフェル。ついつい目移りしちゃうのよね」
「ハンッ!! 仕方ねぇなほら手ぇ貸せ」
「あら、ありがとう」
──いやぁ、相変わらずツンデレのツンがツンツンだわ。
私の手をグイグイ引っ張りながら人混みを慣れた様子で進むこの男の子は、何かと気を遣ってくれるアンフェルという子だった。
──ほんとに。今世での記憶がまったく残ってないからどうしたものかなと思ってたけど、この世界の常識とか孤児院の人間関係とかアンフェルが教えてくれて助かったわ~。
初めはぶっきらぼうの物言いでいつも睨んでくる様子から、記憶が戻る前の関係は最悪だったのかしらと危惧していたけれど。
身体はともかく精神年齢は確実にこちらが上であると分かっていれば心にゆとりが生まれ、当たり障り無く観察し続ければ、アンフェルなど軽度なツンデレなだけなのだと分かった。
今現在だって──アンフェルと私の二人で買い出しに来ている所だが──こうしてはぐれないよう手をつないでくれる。
また記憶が戻ってすぐは、アンフェル以外ではマークという五歳ほどの男の子が(理由は知らないが)懐いてくれていた。
そのうち女の子達と刺繍や髪結いで仲良くなり、男子達は食事のおかずを少し分けてあげる事で懐柔できた。
──うん。子供って裏表が少ないから、相手するのが苦痛にならないわ。してあげたことに対して純粋に喜んでくれるのは、私も嬉しいしね。
「レイ。ここで買うもんはあるか?」
思考しているうちに、いつの間にか買い物リストにある店の一つの前に到着していたみたい。
シスターから渡された紙を見ると、確かにこの店で買うものがある。
「ええ、あるみたいよ。古着用の布を注文ですって」
「分かった。行くぞ」
最近知ったのだが、どうやら私は、この国と近隣数カ国の文字を読み書きできるようなのだ。
気が付いたのは偶然代筆屋──文字が書けない平民などに代わり遠くの街の親戚などに手紙を出したりする仕事──の存在を知り、近くにお使いを頼まれた時、空いた時間をよくそこで潰していたからである。
因みにこの街に本屋は無く、代筆屋の棚に少しばかり並べられているだけである。
それに代筆屋の老夫婦は本に興味のある様子の私を可愛がってくれ、暇な時に店の手伝いをする代わり貴重な蔵書を読ませてくれるという、とっても素敵な人達だ。
ただし、老夫婦にも読み書きできることは黙っている。
この世界の国々は日本と違って身分制度が残っている社会が殆どで、平民は商人以外では自国の文字でさえ、読めはしても書ける人はなかなか居ないのだそうだからだ。
孤児院町やシスターでさえ、自国の文字を少し書ける程度だと言えば、どれ程識字率が低いか理解出来る。
私の場合、ただ単に転生特典として出来たのか、はたまた生れてから孤児院に来るまでに高等教育を受けられるような場所にいたのか……。
──シスターの買い物メモを読めるから便利ではあるけど、人身売買とか奴隷商とか存在するような世界では何が起こるか分からないし。自衛出来るくらいになるまでは、周りには秘密にしておきましょう。
前世を思い出す前の記憶にバラツキがある為、どうしても慎重になってしまう。
前世の知識についても、出す時は選んだ方がいいかもしれない。
私が考えている間にもアンフェルはずかずかと店の中に入っていき、店主の男に話しかける。
私は彼に黙ってついて行き、二人の会話を聞いた。
「おう、アンフェルか。また古着がいんのか?」
「ああ。また追加で何着か頼みたい。今回は盛況だったから、布も多めに買う」
「俺ん所の奥さんも、お前達のバザーでレース編み買ってたぜ。聞いた話じゃどこの家も女房が、安くて腕の良い品だから買うって言って聞かねぇとよ。凄ぇじゃねぇか?」
「……まぁ、暫くは続くだろうな。それより……」
さり気なくアンフェルに見られたような気がするけど、視線はすぐに店主の方へと戻った。アンフェルの急いた様子に、店主は少し呆れ顔になる。
「今度はちゃんと、必要な分を間違わず言えよ? 前は追加で十着持ってく羽目になったからな」
「俺じゃなくてトーマスの奴に言ってくれ。それに、今回は大丈夫だこいつもいるし……」
「お、そういや……隣の嬢ちゃんはアンフェルの連れか? これまた偉く別嬪だなぁ」
視線を向けられたのでにっこりと笑って挨拶をする。
「こんにちは、おじ様。アタシはレイよ。おじ様の所の布は孤児院の皆でいつも愛用させてもらってるわ。どうぞよろしく! 注文はあれとこれと………」
私がメモを読み上げると店主はテキパキとカウンターに古着を積み上げ、布を裁断し始めた。
作業しながら話しかけられる。
「それにしても、俺を捕まえておじ様とは恐れ入った! 俺の倅があと10年若かったらな、嫁に来ないか誘うところだ」
「あら、うふふお上手ね!」
「……店主、…こいつは男だ……」
「またまた、おもしれぇ事言いやがってアンフェル、お前も冗談言うようになったんだな!」
「………」
「……マジか?」
「ごめんなさいね、おじ様」
「…こりゃ間違えちまって悪かったな。でも、お前さんがそうやって話してるとしっくりくるぜ」
「そうでしょ? あ、お代はこれで良いかしら?」
「おぅ! それじゃ、気ぃ付けて帰れよ。納品はいつも通り明日中には孤児院に届けてやるからな」
「ありがとう!」
お代を渡し、店主に愛想良く手を振りながら店を出る。
何となくアンフェルを振り返ってみると、なんでか知らないがもの凄く渋面になっていた。
「何よ? 苦虫噛み潰したみたいな顔して」
「良いのかよ、お前は」
「何が?」
「……女だって間違われんの」
アンフェルの不機嫌な理由が分かってスッキリするけれど、彼は女に間違われることに嫌な思い出でもあるのだろうか?
同僚(?)がこんな性別不詳でアンフェルには気の毒だが、私は寧ろ好き好んでこんな喋り方だ。女だと間違われるのも害がないなら別に気にしまい。
嫁に貰うというのもあくまでお世辞だろうし。
「あのねぇ、アンフェル。アタシ、言ってなかったかもしれないけど、どちらかって言うと男の人が好きなの」
「ああそうかよ……って、ん?……はあぁっっっ!?!?!?」
「それもね、年上の人が好きなのよ」
「ちょ、ま、待て待て待て落ち着け早まるんじゃねぇぇえぇ!!!!」
「落ち着いてるわよぉ~~」
慌てた切羽詰まった様子で首をガクガク揺さぶってくるアンフェルの様子に疑問が浮かぶも、すぐに理由に思い至った。
「あ。心配しなくても、孤児院の皆のことは大事だけど、守備範囲以外だから安心して良いわよ!」
「そこじゃねぇぇぇよっっっっ!!!!」
──じゃあどこなのよ?
アンフェルはまだ納得がいかないのか手をどけてくれないので、ちょっと困ってしまう。あんまり騒いでいると通行人に怪訝に思われるだろうに。
いや、こういう風に普段クールぶってるツンデレっ子が慌てているのを眺めるのも、楽しいと言えば楽しい。
「まぁ、アンフェル。ともかく、その話はまた今度にしましょ? 大通りで大っぴらに話す内容じゃないでしょ? それにまだ夕食の買い出しが残っているし、遅れたら皆に悪いわよ」
「……分かった、けどっ! 後で! 逃げるなよっ!」
「はいはい、分かったから、行くわよ~~」
これ以上の反論が出ないうちにアンフェルの手を握り、さっさと買い物を再開させよう。
──にしても、驚いたわ。あんなに過剰反応されるって事は、やっぱしこの世界の需要に"オネェ"や"薔薇"やら"百合"は存在してないのかしらねぇ。いやいや、分かんないわ。カリーナもツンデレっ子の百合気質だし、ニータとマーサは腐女子の素質があるもの。こういうのは女の子から広げていく文化だから、大丈夫よ。
自分で考えていて何が大丈夫なのかさっぱり分からないが、ともかく、そういう事である。
ああ、そういえば。
「マルクお兄さんが言ってたけど、何か最近、怪しい男が彷徨いてるんですって。小さい子供を探して回っているみたいだから、奴隷商かもしれないそうよ。アンフェルは知ってた?」
「はっ。奴隷商がこんなあからさまな商売するかよ」
「何か言った?」
「いや、トーフェの縄張りで好き勝手出来る奴隷商はいねぇ。少なくともこの国の奴らなら知らねぇのは変だろが」
「ああ、そういえばそうね」
ボソッと呟かれたものだから聞き逃してしまうじゃないの。
というより、トーフェのおじ様ねぇ。
「トーフェおじ様って正に、正真正銘の悪って感じよね。それも、少なくとも自分では悪になりきってるつもりな方の」
「あの男をそんな風に例えられるのは、それこそお前くらいだよな」
トーフェとは、王都周辺の広範囲を縄張りとする裏家業の頭に座す男だ。
(何故か)孤児院長に恩があるとかで、度々手下を引き連れて情報渡しに孤児院へやってくる。
顔はほぼ悪人面だし、目つきや人相の雰囲気が凄まじく怖いので、半径三メートル圏内に出現した途端赤子は泣き叫び、年長組のギイやアンフェルでさえ怖がっている節がある。
しかしながら──。
──とぉおおおおってもイケメンなのよねぇぇ!!!! 上腕二頭筋とか腹直筋とかもぉぉぉ涎が出そうな立派なモノをお持ちだし笑ったときの凶悪顔とか可愛くってヤバいのよっっっ!!!
そりゃもう好みの範囲だった。
前世の平々凡々一般庶民だった常識からすれば暴力とか喧嘩とか関わりたくない世界だと思う断トツ一位だったけれど。
今は男だし、何なら普通に生活していくコネや権力がこれっぽっちもないし、失うものも特にない。何よりもあの孤児院長のお友達なのだから、信用できる。
──所変われば品変わるじゃないけど、考え方も変わるものよ。それに、悪と言っても女子供には優しいし、生粋の良い人という訳ではないけれど人身売買ややり過ぎた水商売は取り締まってくれるもの。
許容範囲じゃない?
「トーフェおじ様って彼女いるのかしら? 」
「ブハッッッッッ!!!! ゲホッゴホッゴホッ!!!!」
「ちょっと、大丈夫?」
「んでもねぇよっ!!!!!」
思考が口から漏れていたらしく、アンフェルが盛大に咳き込む。顔が赤いけど、熱でもあるんじゃなかろうか?
ま、本人が大丈夫と言っているから深追いはしないけど。
──孤児院に風邪薬はあったかしら。シスターに聞いてみよっと…。
その後もとりとめの無い会話をしつつ全ての買い物を無事に終える。
さぁ帰ろうとしているところへ、足早に近づいてくる者がいた。
「おぉ~~い、君達!」
「そういう訳で、純粋なマークにその手の冗談は通じないという事をトーマスは学んだのよね」
「憐れな奴。マークに後で良くやったと言っておくか」
「君達! ちょっと、待ちたまえ!!」
「「?」」
まさか自分たちを呼び止めている声だとは知らず歩き続けていると、突然肩をガシッと掴まれる。
アンフェルと訝しみながら目を合わせ、振り返ると見知らぬ中年の男がいた。
どことなく胡散臭い顔の、特に可も不可も無い顔の男だったことで疑問が生じる。
アンフェルと目で「知り合い?」「ちげぇよ」と会話する間も、胡散臭い男はペラペラと喋り続けている。
しかも、さり気なく人気の無い場所に引っ張られているような………。
「ああ、良かった! こんな所にいたんだね。本当に、あちこち探し回っていたんだよ一体どこへ行っていたんだい心配してたんだよ。ともかくここでは何だから早く戻ろう……」
まだ周辺には行き交う人がいるけれど、日が暮れてきたこともありこちらを注目している大人は少ない。
また、美少年二人に話しかける怪しい男に怪訝な顔を向ける大人もいたが、なんだ知り合いかという風にすぐに目線が外れてしまう。
──なんか、ヤバくない? こういう時は……。
「きゃぁぁぁぁああああああっっっ!!!!! 変態痴漢ロリコン馬鹿野郎離してっっっ!!!」
「「!?!?!??!」」
叫ぶに限る。
男(と何故かアンフェル)が驚いて固まっているうちに手を振りほどき、猛然とダッシュを試みた。
目指すは自警団!!!
──孤児院にこんな不審人物連れて帰る訳にはいかないわよ!!!
滅茶苦茶に喚きながらアンフェルを引き摺って街中を爆走する私は、だいぶ注目を集められている。
後ろなんか振り返らずに一心不乱に走り、時折「どうしたレイ?! 何があった?!」と聞いてくる大人には「変な男が追いかけてくるの!自警団に行くわ!」と返してそのまま通り過ぎる。
あとから思い返して良くやったな自分と褒めてやりたい長距離爆走を完遂した私は、ヘロヘロになりながらも自警団の詰所に辿り着き、扉を蹴り破る勢いで中に入った。
「うわっ何だっ! ?!っと……危ない」
本当に物凄い勢いで突っ込んだせいで、入口にいた大柄な衛士に体当たりしてしまう。
相手も驚いただろうに、私とアンフェルを受け止めてくれた。
息継ぎができるようになるのに5秒くらいかかって深呼吸する私に、衛士が落ち着くように言う。
「落ち着いて、ゆっくり話すんだ。お嬢ちゃん……いや、僕か? 僕達、何を慌てていたのか話してごらん」
「へ、(平々凡々な顔の見知らぬ)変な男が、お…追いかけてきて……アタシ達……こ、(孤児院にまで付いてこられたらと思うと)怖くてここに……(喚きつつ全速力で)走ってきたの……」
「なっ!? こんな可愛い子供を追いかけ回すとは、なんて奴だ!」
「しかも……も、物陰に……引きずり込まれ(そうになっ)て……アタシ……助けてお兄さん(仕事してよ! 白昼堂々変質者が出現するなんて聞いてないわ!)……」
「ッ~~~~!!!!!わ…かったっ!! 心配するな僕、我々に任せろ!!!!」
「良かった(よし、任務完了! 後はよろしく頼んだわよ!)……」
如何せん、年少組の子供や幼少組の子供のお守りをしているから体力はあるというのに、持続的に肺を酷使するのに慣れていないせいで言葉は途切れ途切れになり、生理的な涙が浮かぶ。
ちゃんと伝わって良かったと微笑むと、衛士の顔が瞬間的に赤くなった。
──どうしたんだろ、顔が真っ赤だわ。あ、真っ赤になって怒るくらい親身になってくれたのかしら。そうならなんていい人なの!
端から見ると、まだまだ子供とはいえ美少女と見紛う美少年に縋り付かれ、頬を上気させ目を潤ませて上目遣いされている。そんな状態の衛士の内心など、私には考えも及ばなかった。
何処となく熱を孕んだような暑苦しい視線になりかかってるのは気の所為として……。
──うーん。受け止めてくれた事には感謝してるけど、ちょっと苦しくなってきたな。そろそろ離れたい……。
「おい、おっさん。そろそろ離れろよ」
それまで黙っていたアンフェルが、少々強めに抱きとめられかかっている私の腕をグイッと引っ張り、自分の方へ引き寄せた。
「アンフェル? ああ、ごめんなさい! いきなり走り出したりして、驚いたでしょう?」
今度はアンフェルに抱え込まれる状態になった事で、今更ながらにアンフェルを振り返り謝罪する。
不審者から逃げるのに精一杯で、ちょっとばかし存在を忘れてたことは秘密だ。
「………………………別に」
自分から近くに引き寄せたと言うのに、(何故か)物凄い顔を逸らされて言われた。
耳が赤いので、もしかしなくても存在を忘れてたことがバレてるかもしれない。
ここは一つ、年長者として機嫌を取らねばなるまい。
「勝手しちゃってごめんなさいね。ただ、あんな不審者を孤児院にまで連れて帰る事はしたくなくて……その、怒ってる……?」
しゅんと項垂れて見せる事で、精一杯反省している事をアピールしてみた。
暫く沈黙していたアンフェルだったけれど、ややあって溜息が聞こえたので顔を上げる。
直後、デコピンが額を襲った。
「ん!?」
「ばぁあああか、怒ってねぇよっ!! だけどなレイ、お前もあんまし誰彼構わずニコニコ笑いかけてんじゃねぇ。そんなだから、変質者に付き纏われるんじゃねぇか」
「あ、じゃあ、許してくれるの?」
「…………まぁ、咄嗟に自警団に行くって考えられたのは、上出来なんじゃねぇの……」
ぶっきらぼうに聞こえるが、これは多分褒めている。
ツンデレなアンフェルなりに。
不覚にもちょっと可愛いなと思ってしまい、私はアンフェルをギューッと抱きしめた。
「うふふ、ありがとう!」
「だァァァァァからァァああああっっ!!! 直ぐに抱き着いたり笑ったりすんな男のくせにっ!!!! 可愛いっかっ……っこ悪いだろっ!?!? はーなーれーろー!!!」
──離れろとか言う割にあんまり嫌そうじゃない感じとか、本気で押し退けたりしてない所が本音を物語ってるわよ〜〜。強がってるけど、アンフェルったらまだまだ人肌が恋しいお年頃なのね〜〜。
思わず昔弟にしていたようにアンフェルの頭を撫でてしまい、アンフェルは更にムスッとした顔になってしまった。
詰所にいた大人たちは、そんな私達のやり取りを微笑ましげに見ていたが、落ち着いた頃を見計らったように、不審者についての質問をしてきた。
職務に忠実な彼らの様子に心の中でひっそり安堵した私は正直に、あった事について話した。
見知らぬ中年男性に突然呼び止められた事。
知り合いの振りをして何処かに連れて行こうとしていたこと。
慌てて大声で助けを求め、自警団まで走ってきた事を一通り答えると、調書を書いていた衛士が頷いて言った。
「ふむ。聞いていると、最近近隣の孤児院を彷徨いている怪しい男の特徴にそっくりだな。君達がここへ来たのは正しい判断だったと思う。まだ男の目的はわかっていないが、街の大人たちにも注意喚起しよう、孤児院周辺の見回りも強化した方が良さそうだな……」
「狙われてるのは孤児院の子供なんですか?」
私が質問すると、衛士は少し間を置いて答える。
「まだ分からないが、特定の誰かを探しているようだそうだ。ここ二三週間辺りで新たに孤児院に来た子供がその対象らしい」
「二三週間…………」
「それに……。ここだけの話なんだが、男が隣国の貴族と関わりがあるかも知れないという情報もある」
「貴族?」
身近でない言葉に、アンフェルが訝しんで聞き返す。
私も思いがけない情報に身構えた。
「その場合、この国と違って隣国には奴隷商があるから、正当な手段でなくても攫われてしまったらこちらは手が出せない。君達も十分注意してくれ」
「分かりました」
衛士の一人に孤児院まで着いてきてもらい、私たちは帰宅した。
帰りの遅い事を心配したシスターが玄関まで来ていて、衛士を連れている事に驚かれる。
「二人とも、帰りが遅いので心配していましたよ。何かあったのではないかと……」
「シスターこの二人は、不審者に付き纏われていたんです。詰所の方に来ていたので」
「何ですって?! 二人とも、怪我はありませんか?!」
酷くビックリしているシスターに、衛士の男性が仔細を説明した。
私は心配をかけたことを謝る。
「ごめんなさい、シスター。帰りが遅くなってしまって…」
「無事ならば良いのですよ、レイ。アンフェルも、よくレイを、守りましたね。咄嗟に自警団まで行ったのは賢い選択でしたよ。ここは人通りが少ないですからね。大通りを行けば、大人の目も多かったでしょう」
「俺じゃねぇ、レイの判断だ」
「まぁ、レイの?」
「いいえ、シスター。アンフェルがいなかったら、アタシも動けなかったかも……。アンフェルが一緒だったから、勇気が出たのよ」
「あらあら、まあまあ! ふふふ。では、二人ともよく頑張りましたという事にしましょうね」
互いに手柄を譲り合う私達に、シスターが安心したように笑みを零す。
衛士の男性はもう一度注意喚起をすると詰所に戻っていき、私達も漸く人心地着くことが出来た。
それからは自警団の注意喚起のお陰もあってか、暫くの間は街の大人たちが昼間は子供の様子に目を光らせていた。
私達も、買い出しは絶対に昼間に男子3人以上で行い、年長組が年少組や年中組の傍に着いていたので、不審者と遭遇することも無かった。
次第に怪しい男の目撃情報もなくなり、街は以前の平穏を取り戻したかに思えた。
それ故に、私は忘れていたのだ。
不審人物が目的の子供を探す事に、どれ程執念深かったのかを。
読んで下さり、ありがとうございます!
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