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036 上から下への大騒動【前半:とある魔法士の呟き 後半:???視点】

久しぶりの更新となってしまい、読者の皆様にはご迷惑をおかけしております( ̄▽ ̄;)

色々ありましてかなりごたごたしておりましたm(*_ _)m

 その日自分は、研究室の一室に先輩と篭っていた。実験用の魔道具を弄りつつ、隣で作業する五年年上の先輩に話しかける。


「先輩、聞いてもいいですか。なんで今日、自分ら研究室待機なんすか」

「あー?」


 作業中は殆ど人の話を聞いていない先輩が、明らかな生返事を寄越す。無視しないだけこの人の優しさだと分かっているので、自分は自分でそのまま一方的な会話を続ける。まぁいつもの事だ。


「やーだって。なんかエルギさん達上級魔法士達が、昨日からやたらにそわそわしてるじゃないすか。

 それに聞きました? いつもは魔法研究が最優先事項で、風呂も一月に一度入りゃ上等だわ飯も真面に食わねぇわって連中が、皆まとめて塔の共同浴場に押し掛けたって話っすよ。一体全体どういう風の吹き回しなんだか。

 つか、基本研究室から出たがらないあの人達が今日は朝から塔の外に出てったのも、自分としちゃ違和感しかねーって話っす」


 そう。

 自分がボヤいているのは、魔塔の人間のおかしな行動についてだった。


 それもクラスが上級の魔法士に限り、なぜだかいつもは絶対しないような行動──風呂に入る&飯を食う──をやっているという目撃情報が多数見受けられたからだ。


 自分や先輩の様に朝起きて飯を食ってから研究を始め、日が暮れたらまた飯を食って風呂入って寝るという規則正しい生活をしている魔法士は稀な方で、大抵は寝食を忘れて目の下にクマを作り、魔力回復薬を食料替わりにかっ喰らっているのが日常茶飯事という有様だ。

 まあ、絵に書いた様な不摂生である。


 しかし、この魔塔にはそういう生きるのに最低限の行動しかとらず、あとは魔法研究に没頭したいという変人達が集まるので、あまりそれらを咎められることも無い。


 自分のように下位や中級の魔法士達は、研究室も狭く、研究道具や資料は共同で扱ったりしなければならない事もあるため、互いに研究室を行き来して道具の貸し借りやらをする。

 それに際し、多少見苦しくない程度の身繕いはするものの、これが上級魔法士になると話は変わってくる。


 潤沢な研究費用がおりる彼らの殆どが、個別で魔道具を扱い研究室のなかで完結した生活を送るため、部屋の外に出てくることさえない。

 それに、万が一何かのやり取りをしなければならなくなったら、全て魔法で行うという程の徹底具合だ。


 "そんな連中が、風呂に入った"


 そりゃあもう、何が起こったとしか表現のしようがない。というか、各々の研究室に備え付けのシャワー室はどうしたのだろう。まさか、シャワー室ですら改造して研究室と化したんで使えないとかなんじゃ……。


「なんだ、いつもは塔内の噂に敏いくせに、今回は知らないのか」

「あ、先輩。一段落したんすか、お疲れ様っす」

「そう耳元でごちゃごちゃ言われてちゃ集中なんぞ出来るか」


 心底怠そうな顔で椅子から立ち上がった先輩が、固まった首を解すように体を伸ばしている。

 それより、気になる事を言ってなかったか。


「なんすか先輩、噂って」

「あー? ああ、今日魔塔にお客が来るんだとよ」

「客? んなものに、上級魔法士達が興味持つわけ」

「公爵家の客だって話だぜ」

「ないじゃないすか……は? 公爵家? え、え?」


 ちょっと頭を過った可能性に思考がストップする。

 ビタっと硬直した自分を他所に、先輩は顔色も変えずに朝残して湿気たパンの残りを齧っている。焼き直しすりゃよかったって先輩、あなたついこの間それで調節間違えて支給品のローブ一枚駄目にしたでしょ……って違う。そこじゃない。

 ちょっと待ってくださいよ、公爵家って、もしかしなくても、あの?


「あのー、先輩。もしかしてなんすけど、もしかしなくてもその公爵家って、あれすか? あの、魔塔の人間にすらやばい連中の集まりと言わしめた、風の一族の公爵家すか」

「ああ」

「んでもって、もしかしなくてもその客って、何百年と謎のままだった家の色を受け継がない子供の謎をつい最近解明して、貴族界と魔法界を震撼させたハンスベルクの神童と呼ばれる方だったりします?」

「ああ」

「更にもしかしなくても、もしかしてその噂のお姫様が来るのが今日だったりします?」

「ああ」

「先輩」

「なんだ?」

「この縄解いて欲しいっすね」

「無理だな」


 一瞬のうちに。

 研究室の外へと続くドアへと直行しようとした自分と、その自分を捕獲用魔道具を使い一歩踏み出す間もなく捕まえた先輩という構図が出来上がった。


 全身を特殊な縄で簀巻き状態にされ、解いて欲しいという自分をこれまた面倒臭そうに見下ろしてくる先輩に、とうとう我慢が出来なくなる。


「先輩のいけず!! 自分がどんなにかそのハンスベルクの姫君に会いたいかって知ってるくせに、これを解いちゃくれないんすか!?」

「駄目だな」


 にべも無く一刀両断する先輩の非道な仕打ちに、柄にもなく悲鳴が漏れる。


「嘘でしょ!? こんな機会滅多にないんすよ!? 噂じゃ姫君は深窓の令嬢で、ハンスベルクの本邸に引き取られてから殆ど外出しないって話なんすよ!? しかも既に婚約者が決まってて、それはハンスベルク公爵家と超絶仲の深いラシュブルク侯爵家の五男って話じゃないすか!! 婚約者も決まってるような公爵令嬢に、家から勘当されて殆ど平民と同じ自分なんか一瞬たりとも会う機会なんかないんすよ!? それでも駄目って言うんすか!?」

「無理だな」

「ぎゃあああ、先輩の冷血漢、鬼、悪魔!!!」


 喚いてまな板の上の魚よろしくビッタンビッタンと暴れまくる自分を、先輩は心底呆れた目で見てくる。


「お前、そのテンションで件の姫君の所に行ってみろ、一瞬でお付の人間に消し炭にされるぞ。俺はまだ後輩を木炭にされる気はないね。だいたい、会った所で何て言うつもりだ」

「そりゃ勿論感謝ですよ!! 決まってんでしょ!? 自分は姫君の魔法論に救われたうちの一人なんすから!!!」


 鼻息荒く叫ぶ自分を見詰める先輩の目が、少しだけ揺れた。


 そうだ。

 先輩も知ってるんだ。


 自分が髪色を理由に貴族家だった家から追放されて、捨てられたって過去を。



 自分は貴族の家の生まれだったけれど、両親の髪色を引き継がなかった。

 貴族の家では、子供は皆男親の髪色を受け継ぐのが普通だ。けれど両親は始め、髪色の違う自分を大切に育ててくれた。そう、妹が産まれるまでの四年間は。


 まぁ珍しくもない話だ。自分は両親とは似ても似つかない髪色で、同じ母から生まれたはずの妹はしっかり家の色を持って生まれてきた。それだけの事。

 それだけの事で、状況はすっかり変わってしまった。


 自分はそれから、空気のように扱われた。居ないもののように、生まれてきたのが間違いとでもというように。妹が生まれるまでは確かにあったはずの信頼や愛情は、元々存在しなかったかのように消えていた。


 そしてその二年後、妹と同じ髪色の弟が生まれた次の日、目を覚ました自分は、自分が捨てられたのだと気がついた。



 自分は、両親の事も弟妹達の事も、別に憎んじゃいない。


 妹が生まれてから変わってしまった関係でも、それまでは確かな愛情を貰っていたことを知っている。居ないものとして扱われただけで、虐待されたわけでも殺されそうになったわけでもない。捨てられたのだって、人気のない遠い場所ではなく、この魔塔の前だった。


 塔の前で途方に暮れる自分を見つけて誘ってくれたのは、後に先輩と自分の師匠となる人だった。

 魔塔には、自分のように帰る家のない貴族の血を持つ魔法士も多くいる。魔塔では魔法だけが自分の存在をたらしめるのだと言って。そんな師匠の横には、先輩もいた。


 両親は、貴族に生まれた自分ならば魔法士として生きていけると考え、この場所に置き去りにしたのだと思う。


 だから恨んでなどいない。

 ただ、悲しかった。


 両親の色を持って生まれなかっただけで、家族じゃないとされたのが。

 生まれたばかりの弟は疎か、妹ですら自分に兄がいたことすら覚えていないだろうという事が。

 もう一生、家族に会う資格すらなくしたのだという事が。

 ただただずっと、悲しかった。


 だから。

 自分は、姫君に伝えたいんだ。


 直接会って、この声で、あの方に言いたい。

 どんなに分不相応でも、本当なら視界に入るのも烏滸がましいのかもしれなくても。

 伝えたい。


 感謝を。


 いつか立派な魔法士になった時、もしかしたら。自分がお兄ちゃんだよって。貴方達の息子は、元気にやっていますって。伝えられる日が来るかもしれないと思えたから。


 "もしかしたら"と考える資格すらないと思っていた自分に、チャンスをくれた事。

 姫君がくれた機会に、感謝を。



 ……っと、柄にもなく湿っぽくなった気がする。自分の事なんか今考えてる暇ないんだった。


 というか、そもそもこれは先輩が悪い。本当にそんな事ならもっと早く言って欲しかった。


 そりゃ姫君の来訪を知らされてる上級魔法士達がこぞって身綺麗にするわけだ。

 なんなら自分だって3日前から念入りに身支度して、服とローブの皺取りして、髪だって整えたかった。他の魔法士達よりはマシとしても、もしかしたら色々と貴族的にアウトな見た目をしているかもしれない。


 なんで姫君が来る事を……というより来ている事を知らされるのが今の今なんだ! 初対面で息の臭い人とか思われたらどうしてくれる! 先輩の馬鹿!


 段々と腹が立ってきた自分に、先輩はやっぱり面倒臭そうに頭を掻きながら、溜息をこぼした。


「お前が、件のお姫さんに感謝してるのは知ってる。まさに救世主みたいなもんだ。そして、そう思ってんのがお前だけじゃないことも、俺は知ってる。だから一旦落ち着け」


 落ち着けと言いながら、先輩は拘束の魔道具を解除した。訝しむ自分に、先輩は特大の溜息をはきながらジッとりと咎めるような視線で見てくる。

 何だっていうんすか。


「いいか。魔塔の大半はお前みたくお姫さんに感謝してる。だが、自覚あるのか。いい歳した大人に鼻息荒く詰め寄られたらな、それがたとえ感謝してる人間でも、普通のご令嬢ってのは恐怖で失神するぞ」

「……あ」


 考えも寄らなかったという自分の顔を見た先輩の眉間のしわが、更に酷くなった。


 いや、だって、暫く貴族の生活なんかしてなかったし。というか、そもそも魔塔にいたら子供なんか滅多にお目にかからないし。


 先輩は頭の痛そうな顔をしている。


「ったく、これだから魔塔の連中は。お前ですらそうなんだから、人間生活と対人技術(スキル)が終わってる他の奴らが大量に出迎えたらどうなるか、簡単に想像できるだろうが。

 そういう訳で、長からの命令で、今日一日は研究室の外に出るのを控えるようにとの事だ。特に、用もないのに中央階段の当たりを彷徨かないこと。いいな」

「ううう……あいつらの人間レベルが低すぎるばっかりに。上からの信用がこんな所でないなんて酷すぎる。こんな事なら普段から全員風呂に突っ込んどくんだった……」

「突撃訪問かまそうとしてた筆頭が何言ってんだ」


 心底どうしようもないなという視線が飛んでくるが、そんな事に今かまけていられないんすよ。


「こうなったらさり気ない風を装って、中央階段付近で資料整理してるふりでもしようかな……」

「阿呆。既に実践したやつらが、一ヶ月支給の魔法石量減量ってお達し付きで、部屋に謹慎させられてんだからやめろ。ついでに言えば、お姫さんはエルギが魔道昇降機を使ってとっくに案内した後だ。今更中央階段に行ったところで会えないからな。さっき諸々連絡があった」


 は?


「先輩、自分、今からエルギさんの研究室に洗濯用魔道具(改)仕掛けてきますけど、良いっすよね? これこの前暴走してうちの研究室水浸しにしてからなんも改良してないんすけど、良いっすよね? 姫君の案内させて貰える分際で前日に風呂入る様な人には、研究室丸ごと洗濯されるのがお似合いだと思うんですよ」


 詰め寄る自分を、先輩が嫌そうに押しのけた。


「目の(ハイライト)消しながら詰め寄ってくんな。だが、エルギの研究室は確かに汚かったな。あいつに貸した資料にコーヒーが溢れてたことも一度や二度じゃない…。よし、存分にやれ」

「先輩大好きっすよ!」


 個人的な恨みの為に上司の研究室を汚しに行くという自分に、なんだかんだ言いつつ先輩は悪い笑みでゴーサインを出してくれた。

 これだから先輩は尊敬できるんだ。後でこの前ボロボロにしたシャツ(つくろ)ってあげますからね!



 さぁ待ってろよと言わんばかりに、魔道具を携えて部屋を出に向かう自分は研究室の隅の移動陣に足をかける。

 その僅かの間に。一瞬早く移動陣が光ったかとおもえば、驚いていた自分の額に連絡用の魔道具らしきものが物凄い速さでぶち当たった。あまりの痛さに悶絶して蹲る。


「どうした、エルギか?」

「は? なんて、エルギさんすか?」


 先輩の声に顔を上げると、やっぱり連絡用の魔道具がふわふわと浮いていた。確かにエルギさんの魔力を感じるけれど、今は姫君の案内をしているはずなのに、何故移動用の魔法陣からこれが出てきたのか。


 変に思いながら、魔道具に魔力を流して起動させた。すると、魔道具から焦った様なエルギさんの声が聞こえた。


「イヴェート、そこにいるのか?! すぐ、例の改良中の魔道具を持って私の部屋に来てくれ! それと、他の研究室の連中も応援に寄越せ!」

「おいおい、落ち着け。お前今、公爵家の姫さんの案内中だろう。何があった」


 先輩はエルギさんとは同期だ。だから、二人とも気安い口調で話すのだが、今は様子がおかしい。慌てた感じのエルギさんに、先輩のゆったりした声が問いかけるも、エルギさんは全く落ち着く様子がなかった。

 それだけではない。続いて聞こえたエルギさんの話に、空気が凍りつく。


「姫君が待機室を出てしまった! それだけでなく、探せない!」

「何だって?!」


 先輩と自分は思わず顔を見合わせる。

 先輩が少しだけ苛立った様子で魔道具に向かって話し掛けた。


「探せないとは、どういう意味だ。探索の魔法はどうした、お姫さんの魔力は登録したんだろう?」

「それが、まだしていなかったんだ! ゼファーが魔力適性を検査する為の魔道具を持って来る筈だったのだが、予定の場所におらずさがしていた。待機室でお待ち頂くよう伝えて、念の為迷子になるから無闇に出歩かない様にとお伝えもしたのだが、何を思ったか部屋を出てしまわれたらしく……」

「迷子って……お前それ、子供が一番反感持つ言葉の一つじゃねぇか。というかな、子供っていうのは駄目って言われたらやりたくなる生き物なんだよ。分かってねぇな」

「そうなのか!? 私のせいなのか!?」


 先輩の呆れた様な声に、益々途方に暮れた声でエルギさんが慌てているのが聞こえる。

 いやそこじゃないだろ。


「いやあのお二人共、相手はあの思慮深い貴族家筆頭の姫君っすよ。お付きの人だっているんだろうし、そんじょそこらの腕白な市井の子供と一緒に考えちゃだめでしょ。さっき自分に令嬢がどうとか言ってた人が、真面目くさって何言ってるんすか。先輩もたまに抜けてるんすから、困ったもんっすね」

「「…………」」


 黙りこくった二人を他所に、自分はふと疑問を零す。


「にしても、エルギさん。おかしくないっすか。今日は長達が出払ってるから、魔塔内部の魔力持ちは無条件で全員識別される魔道具が起動してるはずっす。エルギさんの案内で塔に入る時は切っていたとしても、その後は起動し直してるだろうし。

 そうでなくとも、待機室があるのは研究棟内部なんで、バリバリ常時警報識別区域ですけど。まだ魔力登録のない姫君が出歩いたら、即警報が鳴るはずっよね。自分達今日は、()()()()()()()()()()()()っす」

「!! ま、待て調べてくる!! おい、イヴェート、そこを動くなよ…!」

「……」


 慌てて通信を打ち切ったエルギさんの声が途絶え、連絡用の魔道具が床に転がった。

 頭を押えて絶句する先輩の横で、自分は淡々と部屋中の役に立ちそうな魔道具を掻き集めていく。


 先輩は今日長がいない事をすっかり失念していたらしい。そういえばさっき、長からの言いつけを破って姫君を見物しに行った魔法士が、数人謹慎させられたという話だった。


 魔法士の謹慎に関わる命令は、普段は長が出している。今日は不在だけれど、誰が出したんだろうか。あの様子ではエルギさんは案内で精一杯だったみたいだから、他の上級魔法士が代わりに伝えたんだろうか。それとも……。


「長達がいないって事を忘れるなんて、どうかしてたな俺。しかも、こんな時に識別用魔道具がちゃんと作動してないとは、ついてなさすぎる」


 ややあって再起動した先輩が、手に負えないとばかりにボヤく。頭の痛そうな顔をしているが、魔道具を選りすぐる手はちゃんときちきち動いているのだから、やっぱり先輩は出来る人だ。


「単に導入源を入れ直し忘れたって話なら、良いんすけど。もし誰かが切ってたなんて事になったら…ちょっと嫌な感じっすね」


 度々外部からの脅威に晒されてきた歴史を持つ魔塔の人間としては、警報機が作動していないというだけで良くない想像をしてしまう。


 しかも同時期に姫君が迷子だなんて。この魔塔内部は関係者でも迷ってしまうくらい複雑な区域が多々ある。今頃心細くて泣いてないだろうか。心配だ。


 諸々終わったら、やっぱりエルギさんの研究室をいっぺん丸洗いしてやる。

 そんな事を悠長に考えていた自分達は、再び起動した連絡用魔道具から聞こえたエルギさんの声に、それどころではなくなった。



「大変だイヴェートっ、魔力識別の魔道具と外部連絡用の魔法陣が壊されていた! このままでは外出中の長達とも連絡がつかん!!

 全魔法士達に緊急招集、非常事態だ!!」




 ◆◆◆◇◆◆◇



 その時、私は焦っていた。

 誰もいない通路をいつもより足早に歩きながら、伝達用魔道具が光るのを横目に苛つきながらローブの奥ポケットにし舞い込んだ。


 あれは何か連絡事項がある際、全魔法士に一斉に送られる一方的な伝達特化の魔道具だ。有事の際のみ、上から全員の持つ携帯用魔道具へと一斉に同じ文章を送ることが出来るという画期的な魔道具。

 だが今は、連絡が来るという事実が私を苛立たせる。


 ───私が識別用魔道具の起動を切った事が、こんなにも早く知られるとは。早すぎる……何故だ? いや、落ち着こう。まだ私だと知られたわけじゃない。識別用魔道具の復元には相当時間がかかるはずだ。


 私がやった事だと知られていたら、一斉送信された連絡内容にそのような記載があったはずだ。だが、その様な内容は読み取れなかった。


 ───くそっ。あのハンスベルクの子供が大人しくしていれば、これ程早く知られるはずもなかったものを。忌々しい事この上ない。大体今日に限って来客などと、なんと間の悪い!


 待機室に仕掛けた盗聴魔法を介した魔道具からは、一度は部屋を抜け出そうとしていたらしい令嬢の声と、それを窘める様な従者の声が聞こえた。その後部屋で話を続ける様子が聞こえた為問題ないと思い、魔道具に注意を払っていなかったのがいけなかった。


 いつの間にか部屋を出た令嬢と、部屋に戻ってそれに気が付いたエルギが警報の鳴らないことに気が付いたせいで、この有様だ。

 全く計画が狂ってしまった。


 ───今日を逃せば、長が不在の日は一年は来ない。何としても、今日やらなければ。それに、幸か不幸か今ならばハンスベルクの子供に目が向いている。まだ大丈夫なはずだ。


 自分に言い聞かせるように思考し、私は落ち着きを取り戻した。

 そして塔の上へと続く階段を、息を潜めて登り始めた。






潜入捜査中のレイリアンと王家の影レン(?)様。

そして、そんな二人が調査する魔塔内部の裏切り者。魔塔の人間たちの中でも、何かが起こっていることに気付いた様子の人物がちらほら出て参りました。




読んで下さり、ありがとうございました!

良いね・高評価★★★★★頂けると、作者もとても嬉しいです( * ॑꒳ ॑*)

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