033 釣りは餌が重要
いつの間にかブックマークが50件を超えておりました!!
100件超えたらお祝いの閑話を出させて頂こうかと考えています(笑)
こんなに不定期更新を極めてしまっているのに、暖かく見守ってくださる読者の皆様、本当にありがとうございます:( ;´꒳`;):
更新を楽しみにして下さっている方々の為にも、しっかりと書き起こし作業を遂行していきたいと思いますm(*_ _)m
「さてと。説明をして貰おうか」
「……ハイ」
分かってた。こうなることは。
ピクリとも動かない氷の美貌の裏側で、心底愉快げな雰囲気を隠そうともしない養父様の顔を見た瞬間から。
──絶対に事情説明をさせられるって分かってたわよ!!! 監視役から報告が行ってるんでしょうに、わざわざ私の口から喋らせたいのは単純に、王太子殿下に目を付けられてパシリにされた不手際が面白くて面白くて仕方がないからってねっ!!!
今私がいるこの部屋の人間には、共通点がある。と言っても、私と公爵様の二人だけしかいないのだけれども。
兎も角、どちらも顔の表情と心の精神状態が正反対という点で変わりない。
公爵様は相変わらず、吹雪を背負った目線だけで人の背綿を抜きそうな氷の美貌の割には、眼球に殺気が籠ってないし。
私もニコニコと笑顔を保とうとしているけれども、内心「養父様の馬鹿おたんこなすっっ!!肝心の、腹黒王太子から実質不可避命令されてる時は不在で何もしてくれなかったなかったくせにぃぃ! そもそもテルカ師匠が上手い所騙かしてくれてればこんな事にはなってないのよぉぉおおお!」と叫びまくっている点では、顔面と精神状態の乖離具合はいいとこ勝負だろう。
王太子殿下によるテルカ師匠と謎の『護衛兼案内役のレン様(?)』を連れだっての突撃訪問を受けた翌日、ようやく嵐が過ぎ去ったとばかりに一呼吸ついていた私にジルベールから告げられたのが、公爵様からのお呼び出しだった。
セルゲイの件でも離宮の件でも静観を決め込んでいた公爵様のくせに、今回に関してはいよいよ本人を呼んでの詳しい説明を聞きたいとの事らしい。
そこはこのままスルーしてて欲しかったわよ切実にねっ!!!
やっぱり、例の『護衛兼案内役のレン様(?)』が暫く公爵邸に出入りするのが不味かったのだろうか。
と最初は思ったりもした。
彼は王太子殿下の伝令役も兼ねているとかで、殿下の密命を私が完遂できるまでは、基本公爵邸に出入りして殿下の指示を伝えたり、色々とされるらしい。
それって半永久的に公爵邸からの情報が漏れるって事なんじゃあ……?
とか思っても、私如きがどうやって王族の命令に逆らえると言うんだ。
無理。
無理無理無理。
それも、呪いも解けて晴れて未来の王の座を約束されたも同然の次期国王からの命令だわよ、無理に決まってんでしょうが、バカ言ってんじゃないわよ!?
……ケホン、ケホン。
そんな訳で。
王族直属の『護衛兼案内役のレン様(?)』が白昼堂々公爵邸へ入り浸る原因を作ったことか、はたまたここ短期間で高位貴族相手に暴れ回り過ぎた事か。
一体何をどれだけ絞られるのか、はたまたこの際目障りと言わんばかりにプチッと潰されるのか。
あれこれ思い当たる節が多すぎる近状にようやく我に返った(遅すぎる)私は、公爵様に呼び出されて執務室に向かうまでの間に今更ながらあれこれ言い訳を(本当に遅すぎる)考えていた訳だが……。
生きた心地のしない中人払いをされて、改めて死刑宣告を受けるような覚悟で公爵様と向かい合った瞬間、悟った。
───お、面白がってるっ、、、!
取り敢えず、今すぐ病死か変死じゃない事には喜ばしいとしても、何だか納得がいかない。非常に納得がいかない!!
これでは、何の為にこれから捌かれるまな板の上の鯉の様な気持ちでいたというのか!無駄に恐怖と覚悟を味わったではないの! なんか悔しい!
──そういえばこの人、思慮深げな顔しながら私が甥なのか姪なのか分からずに、初対面で挨拶もなく突然人の下履下ろす様な頓珍漢男だったわっ!?!? 顔面のせいで怖いイメージ着いちゃってるけど、よく考えたらよくよく突拍子もない事するような一面もあるのよ!!
て事は、今日呼び出したのは本当に事情徴収なんだわっ!!
ってな事をコンマ三秒程で逡巡し、冷静さを取り戻した私はにこやかな笑みを貼り付けて、言われた通り"事情説明"をした。
「なるほど、そういう件で目をつけられたのか」
「そのようで御座いますねえー」
「馬鹿だな」
「ははははは……。で、私はどうしたらよいでしょう」
今度こそ完全に面白がっているのを感じて、思わず目が死んで乾いた笑いが漏れてしまう。いけないいけない。
一先ず、公爵家の意向を聞いておかなければ、動くに動けない。
王太子殿下に"使える奴"判定をされた身ではあるが、私の現時点での保護者兼上司は公爵様である。分かりやすく言えば、私を駒として使う権利はハンスベルク公爵家にあるという事だ。
つまり、その家長である公爵様にある。
派手に動くにしろ地味に動くにしろ、それは公爵様延いてはハンスベルク公爵家に利のある範疇でなければならない。それが出来ないなら、そもそも目の上のたんこぶである私の存在を生かしておく必要が、公爵様には無いからだ。直ぐにでも、私は居なかったことにされるだろう。
そんなのは、心底御免こうむる。
いくら公爵家よりも王家の方が権力が強いとはいえ、そこら辺の線引きをしなければ、私は生きていけない。だから目立ちたくなかったのだが……。
ただ、私にも、選択肢がある。
これがもし、表舞台に戻った王太子殿下による、王家からの勅命として、私に課せられた依頼だったとしたら、私には断る事が出来なかった。それが例え公爵家にはなんの利益もない事でも、あまつさえ不利益を被る事だったとしても。
けれど、今回に関しては非公式の依頼であるし(その割に笑顔の圧が強かったのはここでは気にしないでおきたい)、だからこそ、公爵家としての判断を仰ぐ事が出来る。
そしてもし、私がこの依頼を遂行出来たなら、王太子殿下本人に、絶対的な"貸し"が生まれるのだ。
──というか、多分それが狙いよね、養父様の。今思い返してみても、養父様は王太子殿下が離宮にいる事もそれが王族の特有魔法によるものだということも、絶対知ってたはずよ。
私がお師匠様の頼みを聞いて離宮に行った時、止められなかったのは、王太子殿下との繋がりを得られるきっかけになると思ったのかしら。
それも、私が失敗してその他大勢の様になったら得られなかった繋がりだ。まあ、私という手駒を失っても養父様には痛くも痒くも無い事だろうけれど、結果的には上手くいっているのだから良い賭けだったといえる。
今回、王太子殿下から依頼された内容は、『魔塔内での裏切り者を見つけ、関与の証拠を明らかにせよ』ということだ。
詳しい事はよく分からないのだけれど、王太子殿下によると、最近起こったセルゲイの誕生パーティーで某伯爵家の弟が所持していたとされる魔道具が、入国時の記録にはないはずの物だったらしい。
だけれども、魔道具はその用途と性能から出入国時の監視が厳しく取り締まられているもので、それを担っているはずの機関は件の魔道具について把握していなかった事がわかった。
これらの事から、魔塔内に某伯爵家の弟に協力もしくは関与した者がいる事が明らかになったという訳だ。
……というか、もしやそれもあって私は目をつけられたんだろうか。
にしても……。
「これ、私じゃなくても王家の密偵とか騎士団とか、もっと専門の方々にお任せした方が、色々早いんじゃないかと思うのですけれど?」
問題はそこだ。
誰でも、少し順序だてて考えれば魔塔内に事件関係者がいる事くらい分かる。
騎士団に命令して魔塔内を捜索させた方が、余程大々的な捜査が出来ると思うのだ。
何故わざわざ密やかにことを運ばなければいけないのかが、いまいちよく分からない。
私の疑問に、公爵様は淡々と答えてくれた。
「知らないのも無理はないな。魔塔と騎士団は仲が悪いのだ。それに彼らはプライドがとても高く、仲間意識が強い。一般に捜査といっても、快く協力などしないだろう」
「え!? そんな事が許されるのですか。国の命令で動く騎士団の調査に協力しないなんて、後暗いことがあると言ってるようなものですが」
驚いて聞き返すと、若干遠い目をした養父様が続きを話し出した。
「それでも許されていた訳がある。
知っての通り、魔塔は国の魔道具供給の面だけでも独自の利権を有しているだろう。その他にも、魔法に関するあらゆる面で優遇されているが、それは、それだけ彼らが力を持っているという意味でもある。
国としては、魔塔そのものを敵に回すより、ある程度の権利を与えて好きにさせる方が得策だという方針である故に、基本不干渉としているのだ」
はあ。つまり、魔塔はやりたい放題してても国から……と言うから王家からは苦情を入れるくらいで、強制する事は何も言えないって訳ね。
これってかなりまずいんじゃない?
「でも、今回の件は不干渉とはいきませんでしょう? 明らかに魔塔内に犯罪者の協力者がいるのですから」
「無論。だからこそ、王太子は密かに調査させたいのだろう」
「そんな重要なこと、尚更王家の暗部とかに任せるべきじゃないかしら」
「魔塔はその敷地内に、許可されていないものが踏み入れれば、どこの誰か分かるようになっている。仕組みは知らないが、国境で魔道具の出入りを感知するものと同じなのだろう。だから、"影"は入れん。身元が割れる」
「げっ……。それ、私が聞いても大丈夫な事ですの?」
「……」
勘弁してちょうだい!
薄く笑みを浮かべた公爵様の顔を見て、私は口角が引つるのを感じた。
暗部と言うくらいなのだから、しっかりと国内の貴族──つまりは魔力保持者なのだろうという当たりは着いていた。
でも身元が割れて困るという事は、それはつまり、普段は別人として普通に生活しているという事だろう。それも、国の内政を司る行政に属する人間か、もしかすると魔塔と仲が悪いという騎士団にも、"影"の人員がいるかもしれないという事になる。
そんな情報知りたくなかったわっ。
益々疑心暗鬼に拍車がかかるじゃないのよ!!
いや、落ち着こう。
行政もしくは騎士団内に"影"の表の顔として属する人間がいるとするならば、しょっちゅう王家の用事で呼ばれては仕事をサボらなければならないような人間、まず目立つはずだ。
そんな本末転倒な事を許すはずがない。
という事は、"影"の隠れ蓑として表の顔を担う組織がある可能性が高くなる。そしてそれが比較的可能なのは、行政より騎士団なはず……。
──うーん。私、もしかすると将来知らぬ間に、"影"の同僚が出来たりしないわよね?
普段の行動が逐一王家に流れてるかもしれない、また流しているかもしれない同僚と仕事なんて出来るのだろうか。
実際に知り合ったとしてその人がそうとは分からないから、関係ないのかも知れないが。実際、離宮で"影"を相手にしていた師匠を見ればわかるけれど、師匠は多分知らないのだろう。
──今世はブラックワークにならないような職場に就きたいと思って騎士団に憧れたけれど、早まったかしら?
ああ、悩ましい。
腐っても貴族の柵とは、かくも面倒なものである。
なんとかして、公爵様の信頼を勝ち取るもしくは貸しを作るかして、貴族生活とおさらばしたい。願わくば、お世話になった孤児院の皆と穏やかに暮らしたいものだ。
トーフェおじ様の所で用心棒として雇って貰えないかしら。
一番手っ取り早い貴族社会とのさよならの方法は、平民と結婚して貴族籍を抜ける事になる。継ぐ家もない者が貴族でない相手と家庭を作るとなれば、明らかに勘当ものだ。子供までいたら尚良い。
だが今世の私は男なので、相手は女性ということに……な、る。
無理、無理無理無理。
無理無理無理無理無理無理無理、無理。
うっかり考えて吐きそうになった、うぐっ。
貴族籍を抜ける為に家庭を作るという発想がそもそもダメだし、自分が女性とどうこうしているのを想像したら犯罪臭がすごい。
気持ち悪い。二年かけてようやくトイレに慣れてきたのに、そんな事まで今考えたくない。
というか、それをやったら私の場合普通に消される。
家の役にも立たない醜聞まみれの厄介血族なんて、本当に問答無用で消されてしまう。
───産みの母親との決着が着いたら、市井に降れないか公爵様に話してみよう。何年かかるか分からないけれど、堂々と貴族籍を抜けられるようにしよう。そして、静かに暮らすわ。
そう考えると、やっぱり高位貴族に貸しを作っておくのは得策だ。王族にも、それが王太子殿下ならば尚更、貸しを作っておくのは大事かもしれない。
「ハンスベルク公爵家としては、どちらでも構わん。王太子に貸しを作るもよし、他を当たれというもよし。好きにすればいい。が、あの王太子に恩を売っておく方が得策だと思うぞ」
私が考え込んでいると、まるで思考を読んだかの如きタイミングでそのような事を言われた。
確かに、ハンスベルク公爵家としてはどちらでも構わないだろう。非公式であるが故、私が断ったとしても王太子殿下の私に対する心象が悪くなるだけだし、仮に話を受けた場合、もし上手くいかなかったとしても「王太子の為に動いた」という点ではあちらに恩が売れる。
どちらにせよ、公爵家そのものに損はない。だから、私に任せるという事だろう。
本当に、事情を聞きたかっただけなのだな、と溜息が出そうになった。
「で、養父様はどちらがよろしいですか」
「……まだレイリアンを表に出す気はない」
「畏まりましたわ。それでは失礼しても?」
心底満足気な雰囲気の公爵様が、無言で侍従に合図を送った。それを見た侍従が、執務室のドアを開けて控える。
出ても構わないという事だろう。
私は立ち上がって礼をすると、自分の部屋に戻った。
部屋に着いた瞬間どっと疲れが出る。
そんな私にメリナが浴槽の準備が整ったと告げ、私はそのまま浴室に直行する羽目になった。
髪を洗われながら目をつぶって考え事をしていると、カサーラが心配そうな声で聞いてくる。
「大丈夫ですか、レイリアン様。旦那様から何か、お咎めでも? まさか、この前のテルカ公子からの無茶ぶりについてですか?」
カサーラ達は、流石に離宮のことや王太子殿下の事は知らないまでも、ある程度私がしている事を把握している。
セルゲイの為に女装する羽目になった事も、この前も師匠に連れられて引き回された後、帰ってきてぶっ倒れて寝込んだ事も、昨日また師匠が(お忍びの王太子殿下と一緒に)訪れて、帰ったあと私がぐったりしていたのも知っているから、お師匠様関連で私が色々大変なのを心配しているのだろう。
「いいえ。でも、またレリノレアになる必要があるわ」
「まあっ! それでは、此度も腕によりをかけて仕上げさせて頂きますわっ!!」
「お任せくださいまし、レイリアン様! きっと道行く殿方全員が振り向く様な、レイリアン様の美しさを最大限活かす装いをさせて頂きますわっ!!」
「……お願いね」
「「お任せください!!!」」
普段ならば程々にと告げる所だけれど、二人の勢いに呑まれてつい了承してしまう。
メリナとカサーラの目の輝きが凄い。キラキラを通り越してギラギラしている。
───まぁ、目立った方がいい事に変わりはないから、いいわ。今回は、それが一番大事だし、ね。
養父様の話では、魔塔には"影"は入れないという。
無断で入れば、それが誰か分かってしまうから。
だが、王太子殿下は私に"影"の案内役を寄越した。
それが意味するところは、即ち──、
───魔塔は、入るものと出るものしか、感知できない。一度中に入ってしまえば、探す事は出来ないと言う事よ。
何百人もの魔法使いが出入りし活動しているのだから、その全てを把握するというのは、どんな魔法にせよ簡単ではないだろう。探索魔法の類なのだろうが、永久的に対象の動きを追えるということはないはずだ。
恐らくこの仕掛けのからくりは、入るものと出るものを監視するのが目的。それも、許可のないものに限る。
つまり。
──私の役割は、許可を得ずに堂々と魔塔の中に入り、あの『護衛兼案内役』の"影"の人が動きやすい様時間稼ぎをし、魔塔から出る為の、言わば囮。
魔塔が長年解明できなかった、両親の色を持たず産まれてきた貴族の子供の秘密を読み解いた者。
ハンスベルク縁の姫君。けれど、その噂は限りなく少ない。
そんな存在が、魔塔に訪れればどうなるか。
「さて。魔塔は、上手く私という餌に食いついてくれるかしらね」
読んで下さり、ありがとうございました!
良いね・高評価★★★★★頂けると、作者もとても嬉しいです( * ॑꒳ ॑*)




