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031 わたしは何でも屋じゃないわよ?

またまた、いいね・ブックマークが増えておりました!!

不定期更新も定常化してしまい、申し訳なさでいっぱいの所、本当に励みになります( > <。)


作者生きてるかな〜とお思いの方も多かったのではないでしょうか(すみませぬ……)

実は、人生で初めて風を引きました。


……いや。本当に初めてなんです。というより、風邪を引いて寝込んだのが初めてなのです。

本業の方が立て込んでいたのと色々あって、更新が遅れてしまいました(スライディング土下座)


お待たせしてしまった皆様、申し訳ありません!

至らぬ作者ではありますが、これからも末永く見守ってくださいますよう、皆様どうぞよろしくお願い致します(*´˘`*)

 王太子殿下の離宮に再び訪れてから、早くも一週間が過ぎた。

 こんなに時が経つのが早く感じるのは、珍しく、ベッドの住人となっていた事が原因だろう。


 あとのことを師匠に全て丸投げして、セルゲイ達と公爵邸に帰ってから自室で一息ついていたところ、何故か世界がぐるぐる回って視界がブラックアウトし、気が付いたらベッドの上だった。


 医者の診立てでは、疲れからくる風邪のようなものだそうで、思わずなんだそれはと絶句したのを覚えている。

 前世では、専らインフルエンザくらいでしか熱を出したことがないのに。


 前世の私は小学校から大学卒業まで皆勤賞で、徹底していた健康優良児だったからこそ、部長の無茶ぶりハードワークについていけたのだ。

 私のいた部署が特殊だったとはいえ、そうでなくては、誰があんな二十連勤連徹上等みたいなふざけた場所で生き残れるというのか。


 風邪引く暇があったら書類を仕上げろ、泣く暇があるなら企画を通せ、死ぬなら会議が終わってからだが部長の口癖だった。今思い返しても、あまりのブラックさに笑えてくる。


 しかも、言ってる本人はピンピンしてにこやかに膨大な量の仕事を捌いていくのだから恐ろしい。

 あの人の直属は私含め皆、何十日目かの夜には軍隊も裸足で逃げ出すような般若の形相で部長の席を睨み付けていたというのもご愛嬌だろう。


 やっぱり死因は過労に違いない。ううう……。


 そうして考えてしまうと、風邪ごときで熱を出してしまうこの身体は、もしかしなくても免疫的な面においてあまり強くないのかしら、と。

 思わず考え込んでしまった私、義母様の言った言葉に二度絶句した。


 曰く、男児はよく熱を出すものである。ムトアお義兄様も小さい頃はよく熱を出していた。私は寧ろ丈夫なくらいなのだから、気にしない方がいい。

 だそうだ。


「嘘でしょ!? これで丈夫な方なの!?」


 と叫んでしまったのは仕方ないと思う。


 そこではた、と思い付いたのは予防接種の存在だ。前世では国が幼児に受けさせなければならないと定めていたワクチンが沢山あった。私も受けたし、両親も受けていたから、今世と前世では持っている免疫抗体の数が比べ物にならないのだと思う。


 一方で、早めに分かって良かったとも思った。

 詰まるところ、この身体はこの世界では標準レベルかそれ以上に健康体ではあるけれど、前世の様な働き方や無理をすると、直ぐにぶっ倒れる可能性があるという事だ。


 恐ろしい。


 そんなこんなで一週間暇を持て余していた私が、ベッドから出ても良いという許可が出たのは、なんとそれからさらに三日後の事だった。


 本当に信じられない。


 その間、これまた珍しいことに、師匠からお見舞いの手紙が届いた。

 手紙では、王太子殿下のその後の経過報告については何故か一言も触れられずに、ただ熱を出して寝込んでいた私への、元気かどうかと訊ねる趣旨が書かれている。


 長い事───私の感覚ではそうだ───寝込んでいた割には、それ程大事には至らなかったこと。また、一週間寝たきりで身体を動かせなかった為、筋力と体力が僅かに落ちている事へのちょっとした愚痴などを書いて送ると、数日と経たずに師匠からの返信が届いた。


 落ちてしまった筋力などは直ぐに戻るので、心配せず基礎鍛練を怠らないことが重要である等と書かれている一文目に安堵し。

 次いで、北訓練所の皆には自分から連絡しているため、安心して体調を治すようにしろよとの一文に、意外にも気遣う言葉が多かったので驚きつつも嬉しかった。


 が。


 問題はその次の文章だ。気になることが書かれていた。

 何故だか、もう数日経った後でよいので、公爵邸に訪問してもよいかと聞くような文面があったのだ。


 今までの師匠ならば、報連相もなにもあったものではない突撃訪問が主だったのに。

 どういう心境の変化だろうか、と首を傾げながら一先ず了承の返事を書く。


 まぁ、こちらが病み上がりだから流石の師匠も気を遣ってくれたのだろう。

 師匠も成長したのだなぁ、などと呑気に思って待つ事数日。


 私は、自分の予想が甘かった事を知った。



 ◆◇◆◇◇◇◆



 ──なんか、また増えてるわ……。


 半ば停止しかけた思考で、ぼんやりとそんな事を思った。


 目の前には、なんか見覚えのある子供がとてもよい笑顔でこちらを見ている。

 私の記憶違いだったら、どんなにか嬉しいことだろう。

 確か、つい先日呪いという名の魔法が解けて、大人に戻っていなっていなかっただろうか。


「久しいな」


 おかしい。

 ひょっとすると、私はまだ高熱で寝込んでいて、幻覚か何かを見ているのだろうか。


「レイ、戻ってこい。現実だから」


 遠い目をしている私に、師匠が気の毒そうな声で現実逃避するなと遠回しに言ってくるのが聞こえる。


 いや、現実逃避のひとつもしたくなる。

 何故、()()()殿()()がこんな所にいるのだ。

 それも、子供姿で。


「熱で頭か視力、もしくは両方がイカれた様ですね。王太子殿下が子供の姿であそばすように見えます」


「いや大丈夫だ。皆そうだから」


「何ですって?」


 それじゃあ、どういうこと。

 まさか、また呪いにかかったとでも言うのだろうか。あれは自分の姿を認識出来ていれば、再び魔法にかかるはずがないはずなのに?


 いつものオネエ言葉も鳴りを潜めて只ひたすら混乱する私に向かって、王太子殿下(?)がニッコリと微笑む。


 うわぁ……。

 なんかその笑み、嫌な既視感があるわ。


「呪いは解けた。ハンスベルク公爵家が子息、レイリアン。君のお陰でね」


 バレてるわー。


 自己紹介した覚えがないのに身元が割れているとは、此は如何に。

 いえ、そんなに長い事隠し通せるとも思ってはいなかったけれども、それにしたって早すぎるわ。


 ──簡単にゲロっちゃうなんて、師匠の馬鹿!


 私はにこーっと笑みを浮かべつつ、殿下の後ろで明後日の方をむく師匠にギロりと視線を投げる。

 その間、王太子殿下はゆったりとした動作で、ソファに座る足を組みかえた。


 私が言えた義理ではないかもしれないけれど、目の前の殿下は子供の姿にも関わらず、纏う空気や仕草が子供のそれではない。

 一つ一つの動作から、油断のならない養父様や師匠の父親である王弟殿下の様な気配が滲み出ているのが分かる。


「いやお前も充分子供らしくないぞ」とかいうセルゲイのツッコミが聞こえた様な気もするけれど、生憎とその声の主はここにはいないので、完全に気の所為だろう。


 ───王太子として、最年少でその地位を授けられた第一王子、か。成程。確かにその片鱗は、消えてはいないわね。


 大人を相手にしている気分になる。それも、全く油断の出来ない類の大人だ。そんな人が、次期国王。


 ───さて。今日はどんなお話かしらね。


 本人の口で呪いが解けたと言っているという事は恐らく、呪いが解けた後に王太子殿下が自分でかけ直した魔法なのだろう。

 敢えて、呪いにかかったままと周囲に思わせたいのかもしれない。


「聡明な君の事だ。ある程度予想がついているのではないかな」


「王太子殿下に買っていただけるとは光栄です。が、身に覚えがありませ……」


「ははは、謙遜するな」


 言及せずに謙遜してみせた私を遮るかの如く、殿下はふふっと軽く笑みを零した。

 口な手を当てて微笑む様は、事情の知らないメリナ達が見ればなんと可愛らしい美少年かと思うかもしれない。


 でも私からすれば、獅子が獲物を前にゆったりと距離を詰めて歩いているようにしか見えない。

 獲物は私だ。


 ───ぎゃああああっ無理無理無理無理公爵様(おじさま)ぁぁぁっ!! 今この時この瞬間、このお腹ん中真っ黒黒に違いない笑顔恐怖な呪われた王子の相手を買って出てくれたらば、私もう一生涯公爵家の犬として過ごしますっ!!! 雑事だろうが諜報活動だろうが契約結婚だろうが、なんっっでもやりますっっ!!!

 だからヘルプミーっ!!


 そう心の中で叫ぶくらいには、関わりたくない感じの笑顔を向けられている。

 前世の鬼畜悪魔鬼部長と同レベルの気配が漂っている王族になぞ、これ以上関わり合いたくない。

 本気で(マジで)


「そんな聡明な君に、是非とも力になって欲しいのだが、どうだろうか」


「わたくしめなど、どのようなお役に立てることや…」


「君以外、私の呪いを解く方法を思い付いた者も、義理だけで解こうとあの離宮に訪れた者もいない。それに、こうして私と普通に話せるほどには肝が据わっている」


「……」


 駄目だ。

 どうあっても反論を封じられる。


 私は観念した。

 今一度、申し訳なさそうな顔をして身振りで謝ってくる師匠を笑顔で睨み付けてから、王太子殿下の話を聞くことを決める。


 私が渋々ながらも観念した気配を察してか、殿下の笑顔の威圧が心做しか引っ込んだ気がする。

 依然として、逃れられる雰囲気ではないけれど。


「私の事情について、ある程度はテルカから聞いていると思う」


 殿下の表情を伺いつつ、私は今まで聞いた事を述べていく。


「多くではありません。殿下が王太子の儀を行った次の日には、もう既に呪われたという噂が広まっていたことくらいです。王宮魔術師や魔塔の魔法使い達によっても解呪がなされず、以来、王太子は病気のため隣国にて静養している事と、陛下がしたと伺いました」


「概ねその通りだ」


 ───概ね、か。


 私はチラッと師匠を一瞥した。その顔は従兄の言葉の意味を考えあぐねているかに思える。


 テルカ師匠が私に協力を求める上で、嘘を言ったとは思えない。という事は、テルカ師匠も知らない事情がまだあるという事だろう。


 私が視線を戻すと、殿下は続きを話しだした。


「実は、私がこの国にいることを、陛下はご存知ない」


「えっ!?」


「なっ!?」


 ちょっと待って、どういう事!?


 私は驚いて表情を崩す。

 視線の先では、師匠も同じく初めて知ったという顔で驚愕に目を見開いていた。


 陛下が殿下を離宮に送ったのではない?

 なら、誰が。

 ……あ。


「カラム王弟殿下ですか?」


「はぁ!? 親父が!?」


 思い当たる可能性について聞くと、師匠の驚く表情と無言の笑みで肯定する殿下の様子が見えた。


 それはそうと、どうして陛下には知らせないのだろう。

 そんな私の疑問は分かりやすく顔に出ていた様で、殿下は落ち着いた様子で順番に説明してくれた。


「まず一つ目の問題として、呪われた私は……ああ、少なくともあの時点ではそう思い込んでいたという話だが、周りの者は近付くことすら叶わなかった。例外として同じ認識阻害の魔法を使いっぱなしだったテルカと、一部の部下達だけが近寄る事が出来た訳だが」


 同じ魔法を使える師匠が、ピンピンした様子で離宮を走り回っていたことを思えば、殿下の言うことはそうなのだろう。


 それに師匠も、膨大な魔力のせいで幼少から、自分の意思によらず認識阻害魔法を発動してしまう体質だったと聞く。

 それも、そこに実際は居るのに居ないものとして認識される、という阻害方法だ。


 師匠と初めて訓練所で出会った時も、初めからいた師匠に誰も気が付かなかった。

 つまり、ややこしい事だけれど、認識阻害魔法を常時使用している師匠には、殿下の魔法は通じなかったということだ。


 一部の部下というのも恐らく、離宮で師匠が妨害していた姿の見えない団体様だと思う。多分、王家に仕える直属の組織ってやつではなかろうか。どういう原理かは知らないが、彼等も師匠と似た様な魔法を掛けっぱなしにしていられるのだろう。


 ……ん? とすると、もしかして。


「……魔塔の魔法使いや王宮魔術師達は、殿下に近付く事は出来なかったのですか?」


「そうだ。彼らが来た時、既に私は”自分が呪われた”と思い込んでしまっていた。だから、私の周りにいた者たちが認識に強い阻害を受けて発狂しているという事は分かっていても、それが私自身の”呪われた”という認識から来ることも、どうやって周りに作用していたのかも、誰一人として掴めなかった」


 それこそ……と殿下は続ける。


「テルカが私の状態を正しく理解していないにも関わらず、君やラシュブルクの令息を安易に連れてきたりするまではな」


 そう締めくくる殿下の、師匠を見る眼差しは厳しい。


 確かに、結果オーライとは言っても、私もセルゲイも実質危ない橋を渡っていた。殿下を元に戻せたのは、単に運が良かったからだ。

 最悪二人とも廃人になっていた可能性だってある。というより、その可能性の方が高い。


 しかも私たちは、嫡男ではないにしろ高位貴族の令息で、そうなれば、師匠は公爵家と侯爵家というふたつの家をいっぺんに敵に回すことになったかもしれない。


 そういう事なんだ。


 ──そりゃ、手放しに喜べないか。


「カラム叔父上は、私の呪いの正体を理解していた様に思う。だが、対処法までは分からなかった。だから、国外へ療養している事として、私を離宮へ移してくれたのだ。後は、君達の知っての通り」


「そうだったのですね」


 話し終えた王太子殿下の後ろで、師匠が漸く合点がいったいう様子でと顎を摩っている。


「そうか、陛下は知らなかったのか。通りで親父にしょっちゅう隣国の話を聞くわけだ。演技派だなぁって思ってたが、あれは素でやってたのか」


「そうだ。だからな、テルカ。お前が私の離宮に度々訪れる度、私は本当にどういうつもりなのかと」


「だぁっから、悪かったって! 説教はもう勘弁してくれシル兄上! 何事も無かったんだから、それでよしとし……」


()()()()()()()? テルカ、お前の認識はまだ大分弛んだままのようだな? だいたいお前はいつも私やオルカの言う忠告を悉く無にし……」


「だああああっ! シル兄上! 今は、レイもいるんだから、本当にそこまでにしてくれっ!!」


 冷え冷えとした笑顔で、師匠に滔々(とうとう)と説教を始めた王太子殿下だったが、その師匠が私の方を指さして大声で遮ると、はたと我に返った。

 私の存在は忘れていたらしい。


 一瞬だけ彷徨った視線がまた胡散臭い笑みに変わってしまうまで僅かの間に、私はそれら一部始終を悉に観察していた。


 成程。

 王太子殿下は、師匠の能天気というか何も考えていないというか、細かい所に囚われない気質に大いに気を許しているらしい。

 それも、うっかり私がいる場で日常的に行われていたであろう説教を聞かせてしまうくらいには。


 まぁ私は、なんとなく師匠と王太子殿下の間の絆みたいなものを感じていたから、そこまで急いで胡散臭い顔に戻る必要は無いと思う。

 これは別に、王太子殿下の胡散臭い笑みに嫌な予感を覚えているとかではない。既視感があって寒気がするような……などとは思っていないのだ。

 そんな不敬なこと、考えてない。うん。


「……それで、私は改めて、君に調査を依頼したい。ハンスベルク公爵家のレイリアン殿」


 先程のやり取りは幻だったのかというくらい自然な様子で話を戻した王太子殿下に、私も居住まいを正す。

 そこには、気安い雰囲気もなければ呪いを受けた子供の姿もない。

 紅い長髪を肩口に靡かせ、王太子然とした凛々しい美丈夫がいるだけだ。


 雰囲気に呑まれないよう、「チッこれが美形の視覚効果というやつか」などとどうでもいい事を考えながら、真面目くさった顔を作る。


「それはどの程度の拘束力をもつお言葉でしょうか」


「依頼と言ったが、命令と言い換えてもよい」


「理解しました」


 間髪入れずに"命令"という単語が出てきて、ため息が出そうになるのをぐっと堪える。

 この質問も予測されてたらしい。

 殆ど命令に近い依頼。断る事は不可と。


 ──それなら……依頼として受ける方がいいわね。


「この件にさしあたっての報酬と、それに伴う危険手当を求めます」


「許可しよう。危険手当は事前に、報酬は三分の一を前払いでどうか」


「否やはございません。私では分からぬ場所もあるかと」


「問題ない。案内と護衛はつけよう。他には」


「紙面で残す事は」


「不可。約束は守る」


「ならば、これ以上は何も」


「結構。それでは、詳しい説明といこう」



 あああああ、もうっ!!!

 私は、何でも屋じゃないわよっ!!!!






作者の学生時代の友人にはインフルエンザですら人生で一度もかかった事がないという猛者が何人もおりました( ̄▽ ̄;)

学級閉鎖になると『あっそぼ〜』というメールがよく来たものです笑。


﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊

読んで下さり、ありがとうございました!

良いね・高評価★★★★★頂けると、作者もとても嬉しいです( * ॑꒳ ॑*)

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