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030 お前ってそういう奴【セルゲイ視点】

暑さの厳しくない日にずばばばばと溜めていた続編を手直ししながら更新しております( ̄▽ ̄;)

皆様、如何お過ごしでしょうか。

「はぁ……」


 うっかり溜息が大きく零れ、慌てて口を閉じ目の前で深い寝息を立てる従兄弟を確認する。


 良かった、起きなかった。


 セルゲイは少しだけホッとして、今日も今日とて無茶をした従兄弟の安眠を妨げないよう姿勢を変えた。


 馬車はまだ到着しない。

 漸く眠れた彼を起こすのは、もう少しばかり先になりそうだと考えた。


「……」


 特に見るものもなく、ふと自分の座る場所から音も立てずに寝こけている自分の従兄弟の顔を観察する。


 うん。

 相変わらず、整っているな。


 眠っているとまるで神か精霊かという程の整った造詣のレイリアンは、何故か起きている時は女口調だ。

 そして、それがまたストンと違和感なく納得出来るので、いつもテルカ殿下が首を捻っているのをセルゲイは知っている。


 かと言って、レイリアンにドキドキするかと言うと、そんな事は無い。いや、たまにあの整いすぎて怖いくらいの顔で無自覚な攻撃を受ける事があるにはあるけれど、なんて云うか、そういうのではない。

 テルカ殿下も同じかは怪しいけれど。


 それに。

 起きている時のレイリアンは、どこか大人びている。


 どちらかと言うと、セルゲイ自身も歳の頃よりかは大人びている方だと思う。けれどそれは、上にいろいろ面白がって教えてくる兄達がぞろぞろいるからだと思っているし、俗に「下の子は早熟」という一般常識があるからには、それ程珍しいことでもないだろう。


 だけど、何というか、レイリアンはそういうのとは何かが違う気がする。

 どこかちぐはぐで、自分とは違う。そんな気がする。


 それが悪いとは思わないけれど。



 レイリアンは、セルゲイの本当の従兄弟ではないらしい。それは本人の口から聞いたから、知っている。


 そしてレイリアンは、家を出たがっている。


 傍で見ていて、レイリアンは公爵家の義家族から認められていると思う。レイリアン自身もそれは分かっているようなのに、それでも騎士になるつもりだと聞いた時、「ああ、家から出たいんだな」と何故か理解した。


 それは、昔セルゲイ自身が、家を出ようと考えていたから分かったことなのかもしれない。


 家族を信じられなくて、自分も信じられなくて。

 どこか漠然と、家を出なければならない気がして。

 でも家族が好きだから、自分じゃどうしようも出来なくて、悩んで苦しんでいた時レイリアンと出会った。


 あの時から、レイリアンはセルゲイの大切な恩人で、従兄弟になった。

 だけど、自分で思っている以上に心のひびは大きくて、どうしてもまたレイリアンに助けて貰う事になった。



 本当なら呆れられて拒否するような事だろう。

 女装して婚約者のふりをしてくれ、なんて。

 でも、レイリアンはしょうがないわねぇと言って引き受けてくれた。頼んだこっちが驚くくらい、呆気なく。


 レイリアンは知らない。

 セルゲイが当たり前のように見せる普通の子供みたいな振る舞いが、レイリアンと家族、そして僅かな使用人の前だけでしか取れないことを。

 それ以外では素直にふるまえないどころか、まともに笑うことすら出来なくなっていることを。


 誰より信じていた存在が。

 自分と大切な家族に悪意をもって接していたのに、微塵も間違ったことなどしていないという笑顔で隣にいたことも。

 案じているというその口で。

 愛してくれる家族に気が付かないセルゲイの滑稽さを嘲笑っていたことも。

 黒いインクみたいに、心に染み付いて消せなかった。


 だから、父上から婚約者をと言われた時。

 どうしようもなく、怖くなった。


 誰もがセルゲイの事を嵌めるわけじゃなくても。そんな事考えもしない子がいるはずだと知っていても。頭で分かっていても、心が耐えられなかった。

 僅かでいい、猶予が欲しかった。


 また知らないうちに家族を傷つける存在にならないように、させられないように。見極められる目を養えるだけの、時間を。


 家は兄達が継ぐ。セルゲイはどこかの家の婿に行かなければならない。ならば早めに縁を結ぶのが得策だとわかっていても、どうかまだ。


 甘えだとわかっていても、取り戻した家族の絆を噛み締めていたかった。



 その猶予をくれたのは、またしてもレイリアンだった。


 ──俺は、どれだけお前に借りを作れば良いんだろうな。レイ。


 無茶ばかりする、俺の従兄弟(レイリアン)

 いつだって、自分の為よりも他人の為に無茶をして。

 今日だって、恩返しだからと言って、王太子殿下の呪いを解く為離宮までとんでいった。


 王宮魔法士達も、魔塔の権威者達でも解けなかった呪いなのに。それでも解けたのは、レイリアンだったからだと思う。


 疲れたといって馬車まで戻ってきた時は、本当に疲労が顔に滲み出ていた。


 当たり前だ。

 当代随一といわれる王族の、それも精神に作用する魔法を浴びたのだ。馬車で待つことしか出来なかったセルゲイとは違って、どれほどの負荷がかかった事かも分からない。


 でも。


 ──お前って、そういう奴だもんな。


 いつだって存在自体が無茶苦茶で、無茶ばかりするレイリアンだからこそ。

 セルゲイは救われて、今日また救われた者がいる。


 そんなレイリアンが、もし。

 人には言えない秘密をもっていたとしても。どうしてもあの公爵家を出たいと思う訳があるのだとしても。

 セルゲイだけは。


 ──俺自身は。


 何があっても、味方になってやりたいと。

 そう思うから。


「寝とけよ、レイ。今だけは。俺が起こしてやるからさ」


 おやすみと。

 小さく呟いた囁きに、ふにゃりと寝ながら笑うレイリアンを見て。


 微かにだけれどセルゲイは、心からの笑みを浮かべた。







ずっと信頼していた人に裏切られたトラウマってそうそう吹っ切れないよなぁ……などと思う今日この頃。

それでも前向きになる為の時間は人によりけりでも、手を差し伸べてくれる人や悩みを相談できる身近な人がいるって、幸せな事ですよね。

レイは無意識にセルゲイのトラウマを理解しているので、普通に接しつつも過剰には同情とかはしていません。

またセルゲイの家族も同様に、飽くまでも自然に、セルゲイが乗り越えられるのを見守っている感じです。


﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊ ﹊

読んで下さり、ありがとうございました!

良いね・高評価★★★★★頂けると、作者もとても嬉しいです( * ॑꒳ ॑*)

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