023 貸しを作るのは性にあわない
更新が心電図の様で本当に申し訳ありませんm(_ _)m
作者都合でなかなか決まった日に更新という任務が遂行できておりませんが、読んでくださる皆様、誠にありがとうございます。
「そういや、レイ。今日来たのは、この話をする為じゃねぇんだよ」
徐に、師匠がそう切り出した。
私は、最早完全に部屋に居座ることに決めたらしい二人の為に、サムにお茶の準備を頼んでから、一人用の椅子に座り直した。
勿論、これ以上サンドイッチ状態で座りたくないからである。
「なによ。またお忍びに付き合えとかだったら、ちゃんと予め予定を開けてその上で……」
「ちげぇよ。お前にちょっと、会ってもらいたい奴がいるんだよ」
程なくして運ばれてきた茶器を手元に寄せながら、話の見当を付けたが、どうやら違うらしい。
はて。なにかしら。
「会ってもらいたいやつ? 喧嘩と女性関係の揉め事には巻き込まないでもらいたい所存で……」
「お前ん中で、俺は一体どういう存在なんだ?」
「失礼な殿方」
私がごく自然な顔でそう答えたのを見て、師匠は苦虫を噛み潰したような顔になる。ちょっとくらいは心当たりがあるといいけれど!
この評価は妥当だと思う。初対面で老婆呼ばわりされたこと、簡単には忘れてない。
というか。その後の師匠の行動を見ていれば、誰でもそういう評価になってもおかしくないんじゃないかしらね。
師匠ときたら、度々「市場調査」だの「実地訓練」だのと理由を並べて、私を問答無用で街に引っ張っていく。
それも嵐のように突然公爵邸へやって来ては、「それじゃこいつ借りてくぜ」などという捨て台詞と共に首根っこを掴まれて。そうかと思えば、あっという間に認識阻害魔法を掛けられて、次の瞬間には建物の外にいる。
初めの内は、目の前で消えた私を探すカサーラ達が半狂乱になっているのを尻目に行われた蛮行だったけれど、そりゃもう所構わず、予定もへったくれもない程に日常風景と化した事により、誰も動じなくなってしまった。
最近では、行ってらっしゃいませなどと言って、笑顔で送り出される始末だ。
報連相? んなものクソ喰らえである。師匠には馬耳東風でしょうよ。
前世の上司が見たら、泡を吹いてぶっ倒れること請け合いだ。前世の私が見てもきっと真っ青になるだろう。間違いない。
やぁやぁ、私も随分と寛容になったんじゃないかしら。
寛容を通り越して神経が麻痺してきただけなのかもしれない……なんて事は頭を過ぎるだけで気が付かなかった事にしよう。(色々手遅れ)
前世で言う所の立派な誘拐じゃないのかという疑問でさえも、三日待たずに消し飛んだ。
貴族社会においては、上の身分の者が黒と言ったら白でも黒になる。それが身分社会というわけ。
つまり、王族である師匠が私を借りてくと言ったら、否を唱えられる者などこの公爵邸には居ないという事だ。
いや。義父様──公爵その人は言えるかもしれない。面白そうと言うだけで許可を出しそうなので、全く当てにはならないこともまで想像がつくけれど。
というか、事実今現在何にも言われてない事からも、静観しているのは単に身分社会に揉まれてこい、とでも思っているからかもしれない。少なくとも面白がっていることは確かである。
───まぁ、義父様も大分表情が読めるようになってきたわよね。最初の頃とは大違いよ。
ここに来て暫くは、表情と言動の乖離が甚だしいのと、ぶっ飛んだ思考回路のせいで突飛な発言を──主に私がそう思ってるだけかもしれないけど──される度にツッコミをいれてしまうケースが多発していた。
というか、私以外で養父様に対して意見する人がまずいない。
お義兄様はそもそも口数の多い義父様に慣れていらっしゃらないし、義母様はあれで通常運転の義父様に対して「最近よく喋るようになったわね。感心感心」くらいにしか思っていなかったのだ。
レイリアン様がいらしてから【沈黙】という言葉は公爵家から消え去りました、などと使用人一同に涙ぐみながら言われた日には、もう返す言葉もなかった。
どんだけ喋らなかったのよ、あん人は。
こちらとしては、怖いくらいの無表情だなということ以外、思案顔の次には意味不明の提案が降ってくる要注意人物であるという評価なだけで、まぁまぁ普通の人だった印象だっただけに、微妙な心境だった。
それなりに常識的な行動をとっていると思われ、、。
……。
いや待った。よくよく思い返してみれば、義父様も突然来て突然私を連れてったという面で、私を誘拐している前科がある。
その後孤児院へのフォローをしているという点では、師匠とは違うかもしれないけれど、でも十分報連相がなってない人だ。
今気が付いてしまった新事実!
私の周り高位貴族の男性陣、お義兄様以外はゴーイングマイウェーな人ばっかりじゃないの!
うわー!
「レイも大概根に持つタイプだよな」
「何か仰って?」
「根に持つどころか、度々掘り返してくるものな」
「そこの自称婚約者。お黙り」
セルゲイが明後日の方向を向きながら、しれっと悪口を零した。私の鋭い睨みを真正面から見るつもりはない、とばかりの態度である。
まったく。
──ご令嬢達の群れに、縄でぐるぐる巻きの状態で放流してやりたくなるわね。
誰の為に、女装まで引き受けたと思っているのだろう。この女嫌いには、一度本物の女子の怖さというものを体験してもらいたい気もする。私の根に持つ様など、どれ程可愛らしいものかがわかるに違いない。
ん? 前世は私も女じゃないかって?
それとこれとは別である。
だがしかし、この話をこれ以上続けていても埒が明かないではないか。
「真面目な話、誰ですのよ。その、会わせたい人物とらは」
私が本題に戻すと、師匠は一瞬面食らった顔をして、ややあってその人物について話し始めた。
「ん? ……なんだまぁ、ちょっとばかし気難しい所もあるが、悪い奴じゃないぞ。その、ほんのすこーしばかり、排他的なだけで……。
そうだ、セルゲイも一緒に会わないか? あんまし友人って呼べる様な奴も出来ない境遇だから、二人に会えたら喜……びはしないだろうが、良い刺激になると思う」
「おおう、なんでしょうね。物凄く、逢いたくないって気持ちがぶわぁぁぁっと押し寄せてきたわ……」
「奇遇だな。俺もだ……」
話の途中から微妙に視線を逸らし初めた師匠をじーっと見据え、私達は同じ様な感想を抱いたようだった。
そんな私達を見て、師匠が慌てた様に取り繕う。
「だ、大丈夫だ! 本当に悪い奴じゃない、俺が保証する! でも、そうか! 二人とも、会ってくれるんだな!」
焦った様に言い募られると断りたくなるのは、前世日本人の性だろうか。
けれど、この様に必死な師匠もまま珍しい事ではある。
仕方ない。この話、引き受けようじゃないか。
「もう。最初から、会わないって選択肢は用意されてないんでしょ。まぁ、いいわ。師匠にはお世話になってばかりだしね、会うわよ。セルゲイはどうする?」
「当然、一緒に行く。……というかだな、公爵令息であるお前に断れない事が俺に断れる訳ないだろ」
「あら、そういうの気にするタイプだったのね。意外」
「何か言ったか?」
「いいえなんでもないわよ」
さて。師匠が会わせたい人とは誰かしら。
一生の友となるのか、はたまた、ただの知り合いで終わるのか。
私はチラリと師匠の顔を盗みみた。
柄にもなく安心した様な、ほっとした様な表情を隠そうともしない師匠の様子から察するに、余程大事な人なのかと思う。
まぁ、貸しを作るのは性にあわないし。たまには恩返しでも、しておこうかしらね。
あら?
でも、待ってよ。師匠の知り合いなんて、普通は同年代の方よね。それで友達を作りづらいって……。
まさか私、また面倒な事に首を突っ込んじゃったりしてないでしょうね???
読んで下さり、ありがとうございました!
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