022 これにて一件落着。……よね?
夏に活動報告を書いたきり、更新していないことに気が付いた今日この頃( ˊᵕˋ ;)。
三日くらい連続で更新できているけれど、また現行書き下ろし作業がストップするとこうもいかず……。
読者の皆様におかれましては、私の拙い作品をお読み下さって本当にありがとうございます(大変励みになります(*ˊᗜˋ))
末永く愛読していただけるよう、完結まで浸走って参りたいと思います!(それだけは絶対のお約束ですm(*_ _)m)
「ああ……。平和ねぇ……」
「何、ボケっとしてるんだ?」
「あー、煩いわね。余韻に浸らせてよ、お願いだから」
「ああ?」
波乱のセルゲイ誕生日パーティーから早1ヶ月。
時が経つのは早いわねぇ。
などと、のんびり窓辺で日向ぼっこしていた私の横に、ドカッと乱暴に腰を下ろした主が、私の平和への微睡みを妨害してきた。
おい、こら。
ここは私室よ。ムサい殿方は立ち入り禁止っ!!
「お前も相変わらず、王族に対していい度胸してるな。ほら、少しずれろ。俺の座る場所がないだろ」
「ぎゃっ!! なぁんで貴方まで私の部屋に出没してるのよっ!!」
「あ? そりゃ、俺はお前の婚・約・者だからだろう」
当たり前のような顔で頻繁に生活圏内に出没するもう一人の男───自称婚約者が、私を挟むようにもう片側に腰掛けてきた。
いくら長椅子とはいえ、今の様な座り方では窮屈なことこの上ない。切実にどっか行って欲しい。
というか……。
「その話はしないでちょーーだいってばっ!!」
「はははっ! 何回聞いても本当に面白いぜ!! なぁ、こいつが女装したときの絵とか書いてないのか?」
「あるもんですか、そんなもの!!」
不穏な事を聞いてくる師匠にキッパリ言い返した私の横で、何やらセルゲイが、懐をごそごそと漁っている。
「それがですね、折角の記念にということで母と叔母上が絵師に描かせたものが、ここに」
「なんである訳っ!? どうして持ってる訳っ!? いや待って、見せるものですか!!」
じゃじゃーんとばかりに、悪い笑みを浮かべた自称婚約者ことセルゲイが、これまた悪い笑みを浮かべているテルカ師匠になんか渡そうとしている。
私の預かり知らぬ所で、お母様ズによるとんでもないものが世に生み出されていたらしい。恐ろしや……。
ややっ、たまげている場合ではない。師匠の手に渡るのだけは阻止せねばっ!! 一生ネタにされるっ!!!
「っ!!」
しかし、僅かばかりに師匠の方が素早くブツを掴むことに成功し、届かないくらい高い位置に掲げてしまった。
「ぬああっ!!」
「はっはっは!! 遅れを取ったなぁ、レイっ。師匠である俺に勝とうなどとは千年早い! それはそうと。どれどれ、女装したレイの絵姿とやらは……」
「ぎゃーーーーっ!! 見ないでったら!! もうっ! 師匠のっ!! 意地悪っ!!」
届かない位置でヒラヒラと額縁を見せながら、ニヤニヤと笑う師匠相手に、私はピョンピョンとジャンプして手を伸ばす。が、絶妙に届かない。
ちっ。斯くなる上は……っ!
「なっはっはぁーー!! 意地悪で結構! こんな面白い物、見ないでどうすんだ」
「っ……。うっ……ふうっ……」
「ん。なんだ、レイ、泣き落としか? 生憎と俺には通用しな…」
「うううっ……。し、師匠のっ………意地悪っ……。絵……返してっ……!」
「ぐあっ、なんだ!? 胸に激痛がっ……まさか、電魔法っ!?」
「隙ありっ!」
「なあっ!」
ホタホタと汐らしく涙を流して師匠の袖口に縋り付くと、思いの外効果があった。
ちょっとくらい怯んでくれればいいなぁという打算だったのだけれど、何やらよく分からない事を曰いながら師匠が胸を押えて膝から崩れ落ちている隙に、例の絵を強奪する事に成功した。
いやぁ。この美少年のからだになってから、美しいものは時に人を動かすという前世の真理を体現する機会に恵まれている。流石の脳筋師匠も、エルフの如きこの美しさの醸し出す、渾身の泣き落としの前には、跪かずにはいられなかったらしい。
むふふん。
「この絵は没収よっ! 全く、油断も隙もないんだから」
危なかった。これは本棚の後ろにでも隠しておこう。
黒歴史を隠蔽すべく、鼻歌を歌いながら背を向ける私の後ろで、何やら二人が慰め合っていた。
「ぐうっ。俺とした事が、一生の不覚っ!」
「今のは仕方ない……と思います、テルカ公子殿下。ああいう時のあいつには、誰も太刀打ち出来ませんし」
「悔しいが、雷魔法とは油断したぜ……」
「我が家の者の半分は、あの天然人誑しに男女問わず骨抜きにされてますからね。弟もその一人ですが……。父上がボヤいていました」
「にしてもあいつ、俺に膝をつかせるとはやるな」
「はぁ、なんで俺の従兄弟は天然人誑しなんだ…」
若干噛み合ってるんだか噛み合ってないんだか分からない会話を繰り広げている二人は、最早日常風景と化している。もっと酷い時にはセルゲイのお兄様ズまで、私の部屋に押し寄せて、もうしっちゃかめっちゃかな有様だ。
カオス過ぎる。
やいのやいのと煩い二人を他所に、私はまた、平和を微睡み初めた。
ああ、そうだ。
折角だから、あのパーティーの顛末でも掻い摘んで話そうか。
◆◇◇◆◇◆◇◇◆
「……。怪我はないか、セル。……問題ないわね」
「あ……ああ、お前は?」
「勿論、ないわよ」
ああ。ビックリした。
ビックリし過ぎて、若干言葉遣いが荒っぽくなっちゃったわ。いけないいけない。
今の私は、レリノレアよ。……よし。
私は深呼吸をしてから、床に庇って倒れ込んだセルゲイを助け起こした。
場は騒然となっており、悲鳴をあげて倒れた者もいた。
騒ぎの元は、件の伯爵家の弟だ。
今現在、ホールの真ん中──それも私達の目前にて、凍りついている男である。
何が起こったのかというと。
叔父様のスピーチの最中に、性懲りも無く私達に魔法で攻撃を仕掛けようとした男の様子に気が付いた、私を初めとする侯爵家の面々によって、一斉に掛けられた魔法が問題だった。
叔父様一家は水の魔法を得意とする。そんな面々が、一斉に男の攻撃を阻止しようとすればどうなるのかというと、この様に氷漬けになったのである。
──うーん。生きてるかな?
私はというと、取り敢えずボケっと立っていたセルゲイを突き飛ばして前面に立ったのはいいが、直前になって数秒
「やっぱりスプラッタは不味いだろうか」
「取調べの時には胴体と首が繋がっていた方がやっぱりいいだろうか」
とか考えいて出遅れた感がある。
気が付いた時には終わっていた。
咄嗟の判断で加減出来る(?)大人の面々には、素直に尊敬を覚える。
……なんか、この世界に生まれてから思考が物騒になった様な気がするけれど、気の所為だろうか。
気の所為だな、きっと。
まぁいい。何と言おうが、黒幕は片付いたのだ。
これで一件落着という事で、問題ないはずだろう。
……そのはずだろうね? そうよね?
◇◆◇◇◇◆◇
叔父様達が招待客達に事情説明などを行い、場を騒がせた詫びとして後日礼の品を送る旨などを伝えた後、パーティーはお開きになった。
危険だなんだと下の双子達に止められた計画というのが、これ。
一度捕まえた男の正体を、パーティー会場の面々に晒してしまおうという考えだった。
ああいう、短絡的かつ自分に間違いはないと信じきってそうな男ならば、自分が格下と断じた相手の幸せな様子や成功には我慢ならないだろうという予想で、見事にその通りとなった訳である。
少々どころかだいぶお粗末な計画ではあったけれど、乗ってくれた叔父様一家やお義兄様、影で協力してくれた使用人の方々のお陰もあって、無事、正真正銘の犯罪者として奴をお縄につける事となった。
他家に招待されて、祝いの場──それも他の貴族もいる中で攻撃魔法を使うという事は、貴族社会では重罪だ。それなりに重い罰が与えられ、法で裁かれることになる。
少なくとも、あの男やあの男の計画に乗った人間がセルゲイの前に顔を表す機会は、二度と訪れないだろう。
私が煽ったという点を抜きにしても、彼の浅慮な行動は貴族社会では致命的だ。取り調べにおいて極端な選民思想なんかも漏らしていた様だし、まあ自業自得なのではないだろうか。
セルゲイからすれば滅茶苦茶な誕生日パーティーになってしまっただろうけれど、意味のあるパーティーだったと思えるようになるといいと思う。
叔父様のスピーチを聞いた客達や、その周囲へ異色の髪に対する理解が深まれば、これからはもう煩わされることもなくなるはずだから。
叔父様によると、【魔塔】からも近々大々的な発表が行われるだろうとの事だ。研究結果と症例を元に、両親の髪色を受け継がない貴族子息令嬢達への偏見が、少しでも減る事を願う。
また師匠の話では、貴族院と【魔塔】、そしてこの新発見に携わった者達において、王族による表彰を検討しているとのこと。私こそ第一の貢献者として表彰式に望むべきだと、叔父様一家には強く勧められたのだけれど、私は謹んで辞退する事にした。
だって、私の望みは目立たずひっそりと生きる事なのだ。公の行事での表彰などとんでもない。
レリノレアとして話を受ける事も出来ないではなかったけれど、彼女は架空の人物だったし。それでなくとも、叔父様が大々的に婚約宣言してしまった為に各家々から探りが入っている状態なのだ。
「ハンスベルク家縁のご令嬢の出自や如何に?」
「ラシュブルク侯爵一家が目に入れても痛くない程に可愛がるご令嬢の正体とは?」
「謎に包まれた令嬢とハンスベルク公爵家の繋がりに迫る!」
そんな風な噂もあると、メリナ達がルンルンで教えてくれた。
どうせろくな噂ではないにしろ、これ以上、変な噂はいらないのである。
「ハンスベルク家の隠された次男、女装癖持ち?! なんとかのご令嬢は男だった!!!」
とかいう噂が出てみろ。翌日には私の首と胴体はなき別れである。
誠実にやめてくれ、頼むから。
ちょっと余韻に浸りすぎていた私を他所に、そういえば、とセルゲイがボヤいた。
「でも、一つだけ引っかかってる事がある」
「何が。騎士団の取り調べでも、乳母の名前や、直接の原因とまではいかなくても噂の薪を焚べていた連中に関してよ吐いたんでしょう? 他に何かあった?」
「覚えてないか? 最後に男が放った魔法」
「ああ、私が貴方を突き飛ばしたあれね」
「それに関しては忘れろ。そうじゃなく、あの男は土魔法──それも、極弱い魔力しか持たなかったと、取り調べで分かったと」
ああ。確かにそれは気にはなっていた。
「そうね。それは私も、気になってたわ。騎士団の調べでは、あの場で検知された魔法は、不明。土魔法を発動していたなら、そう記録が残るはず……って話ね?」
「ああ、変だろ」
「変ねぇ」
師匠が長椅子からのっそりと上体を起こし、会話に加わる。
「ああ、その話な。俺も、騎士団の仲間に相談されたぜ? なんでも、不明魔法の媒体に、魔石の嵌った腕輪をしてたらしいんだよな。しかも、発動と同時に証拠隠滅される類のやつとかで、証拠のサンプルがねぇって唸ってたわ」
「腕輪?」
「あー、なんか、趣味の悪い腕輪してたわ。そういえば」
「なんで覚えてるんだ、そんなもの」
なんとも言えない視線をセルゲイが寄越すけれど、私はケロッと返す。
「エスコートされた時にね、目に入ってきたのよ。まぁビックリするくらい気持ち悪い蛇の腕輪よ」
「蛇?」
記憶を手繰り寄せては嫌な顔をする私に、師匠が問い返す。
令嬢姿で誘き寄せている時に、偶然目にして印象に残っていただけなのだが、まさか魔道具の類とは思わなかった。
道理で気味悪い……いやこれは偏見だわね。
「どんな感じの蛇だった? 詳しく話せるか?」
あら、珍しく真剣なご様子ね師匠。
仕方ない。ここは、私が袖を捲るとしましょ。
「そうねぇ。強いて言うと……」
「「言うと?」」
「気持ち悪い」
ずっこける二人。
仕方ないでしょ。第一印象がそれなんですもの。
師匠が心底呆れたという表情でで額を押えた。
「あのな。それはもう、聞き飽きてんだよ」
「そうじゃなくて、本当に気持ちが悪い感じなのよ。色も黒と赤で斑模様だし、なんか頭がいっぱいあるし、目の錯覚だろうけど動いてる様にも見えたし……」
「待った。頭はひとつじゃないのか?」
「ええ、もう、前世で言うところのヤマタノオロチかってくらい沢山頭が……ああこれじゃ分かんないわよね。兎も角私なら絶対つけないわ。大体、蛇を象るならもっと神々しくなきゃダメよね。あれじゃ邪神よ。うわぁヤダ、思い出しちゃった! 鳥肌がたちそう……。師匠聞いてる?」
わざわざ気持ち悪いアンティークの記憶を穿り返させたのだから、しっかり聞いているのだろうと思いきや、何やら上の空だった。
もう。
それにしても、蛇のアンティークとは何故ああも邪っぽさが出てしまうのだろう。
前世日本人であった私からすると、白蛇は神様の使いという迷信があった一方で、ヤマタノオロチのように悪さをする存在としても知られていたことから、どちらにも解釈される生き物という認識だ。
であるならば、やっぱり自然溢れる大地(田舎)で食べ物を沢山食べて肥太った蛇様(青大将)の真ん丸つぶらな瞳の前には、ちょっかい出さなければ良いお友達説を信じていた私である。
ばったり道端で鉢合わせて、お互いに驚いて目を見合わせても、こちらが何もしないでいれば噛み付いてくることもない何とも穏やかな気性。毒もないし。
お辞儀をすれば偶に返してくれるような礼儀正しさ(?)があることも知っているので、あんまり蛇が邪な存在の様に捉えられるのはちょっと悲しい。
蛇も十人十色なのだろうけど。
話が逸れた。
そんな訳で、私にとってはあの腕輪はどうにも、怖いというか嫌ぁな感じのデザインだったから、評価が気持ち悪いで染まってしまっているのだと思う。
──こればかりは仕方ないのですわ、お師匠。
「蛇……ねぇ?」
何やら物憂げに思考しておられるそこのお方。
聞いておられますか、師匠?
本当に、仕方のない人である。
読んで下さり、ありがとうございました!
良いね・高評価★★★★★頂けると、作者もとても嬉しいです( * ॑꒳ ॑*)




