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021 金緑色の化け物の夢【とある伯爵の弟視点】

いいね・ブックマークがなんと33件に増えておりました!

もう驚くやら、嬉しいやらで、感激に打ち震えております( ¯꒳¯̥̥ )︎

読者の皆様におかれましては、本当にありがとうございます(大変励みになります(*ˊᗜˋ))

末永く愛読していただけるよう、完結まで浸走って参りたいと思います!

 "伯爵家の次男”

 それが私の、唯一の肩書きだった。



 ギレッセル伯爵家に、何の取り柄もない二番目の男児として生まれたこと以外は、それなりに良い人生を送ってきたと思っている。



 四つ上の兄は、私と同じで可も不可もない人間。それなのに、生まれた順番が俺より先だったと言うだけで、ギレッセル伯爵の名を継いだ。


 それは別にいい。


 私達は貴族だ。

 能力に差程の違いがなければ、生まれた順番で爵位を継ぐのは当たり前な事だったから、気にはしていない。


 両親の言われるまま貴族院に行き、そこでちょっとした縁を築きながら、けれども人生を変える様な特別な出来事に見舞われることもなく、平凡な日常を送った。

 貴族院を出た後は、特にすることもなかった私に、兄が領地経営を手伝う様に言ってきたので従った。


 これも、別にいい。


 下級貴族達が家の位を上げるべく粉骨する様は見ていて暑苦しかったし、上級貴族達の将来国を動かすような方々の難しい会話には到底縁もなかった。


 魔法に関しては、はっきり言って端から期待していない。

 ギレッセル伯爵家は代々土魔法。

 王族のような華々しい火の魔法や、変人の集まりと言われるハンスベルク公爵家の様な風魔法等、私達には使えない。


 王宮務めの魔法士など、我が家から何人排出されたか、片手で数えられるほどしかいないのだから、仮に俺の魔法がそこらの下級貴族に劣っていたとしても、それは私のせいではない。



 私はいつだって、寛容でいられた。

 ギレッセル伯爵家の直系を示す、濃い茶色の髪が私の誇りであり、生きる意味だったから。



 では、なにがこんなにも私をイラつかせ、胃の腑がねじ切れそうなほどに滾り、奥歯を噛み砕かんばかりに不快にさせるのか。




 私の目の前には、みすぼらしい孤児院がある。

 一台の馬車に、これまたみすぼらしい子供が貴族らしい大人に優しく手を引かれ、薄汚い眼を輝かせながら乗り込んでいく。

 子供の髪は、手を引いている男と同じ色をしていた。



 貴族には、下々のものに施しをするという義務がある。

 孤児を引き取って仕事を与えるというのは、それは良い行いだと、隣に座る兄が褒めそやしていた。私も、なんと寛大な行いだと口にはしたが、別にそれ程興味を引く事でもなかったので、直ぐに視線を違うものに向けた。

 私達が乗った馬車は、孤児院の前に停まっていた馬車の横をすれ違って、そのまま私の記憶からも消え去った。



 けれど、それから数日が過ぎ、私は信じられないものを目にした。

 とある伯爵家の集まりに呼ばれ、私と兄は共に出席した。

 そこに、いつぞやの子供が、貴族らしい服を身につけて立っていたのだ。


 私は主催者の当主に、「下働きの者が盗みを働いて堂々としている。何故罰を与えないのか」と忠告しようとした。

 しかし、私が近寄った伯爵はとんでもない事を口走ったのだ。



「ああ、ギレッセル伯爵。それにライリー殿。今日はよく来て下された。あの子ですか? そうなのです。今日は皆様方に、あの子の事を紹介出来ればなと思いまして。


 ……ああ、ご存知でしたか。そうなのです。あの子は孤児院の出身でしてね……。お恥ずかしい話ですが、最初の子が病でこの世を去ってから、私共には長年、子が生まれませんでしたでしょう? 傍流の家から養子を取ろうかと思っていた所、あの子に出会ったのです。なんとも嬉しい偶然でした。あの髪色。我が家に迎えても、遜色ないと思ったのです。


 ……その通り、あの子自身は、私共とは確かに血の繋がりはございません。ですが、亡くしたもう一人の我が子との縁……とでも申しましょうか。同じ魔力を持っていてくれたのです。もし良ければ我が家に来ないか、と思わず聞いておりましたよ。とまあ、このような経緯でして……」




 照れくさそうな様子でそう語った伯爵は、まるで本当の我が子にするかのように、あの孤児の頭を撫でていた。



 眩暈がした。

 全世界がぐるぐる回って、天地がひっくり返ってしまったような心地がした。


 こんな事は、許されていいことでは無い。この伯爵の家は、ギレッセル家と同様に古きから尊い血脈を守ってきた家のはず。何故この様な、気の狂った当主の考えを誰一人止めようとしないのか!!


 あまりの事に胃の腑が逆流し、私は思わず口元を抑えるしかできなかった。


 そんな私の横で、兄や他の招待客達は、皆一様に手を叩いていた。

 賞賛していた。

 何に対してか。

 伯爵の、貴族として素晴らしい、寛大な所業についてだ。


 狂っている。

 なにが、ノブリス・オブリージュだ。

 なにが、人徳のある行いだ。


 何故、誰一人疑問を抱かない。

 平民にもなれぬ卑しい孤児が、我ら貴族の末席に名を連ねようなどという暴挙に対して。

 何故、許される。

 たかが髪色が同じと言うだけで、偶然同じ魔力をもつというだけで。


 何故、何故、何故っ!!!!!



「ライリー。我々貴族の努めは、家柄と血統を保持するだけではないよ。より優秀で、より強い魔法使いの血を残す事こそが、我々の使命だ。あの家のように継ぐものがいない家の救済となるならば、力のある者を───たとえ生まれは孤児だとしても、迎えた事を喜ぶべきではないか?」



 兄上。あなたは、私と同じだと思っていた。

 可も不可もなく、毒にも薬にもならない人間。

 我ら貴族の世界を支える、土台の石礫の一欠片だと。



 それは大きな間違いだった。

 危うく、貴族世界を瓦解させてしまう脅威を持つ、亀裂となる存在だったのだ。


 私は、危惧した。

 このままでは、いずれ貴族の世は代々守って来た血脈をも忘れ、侵食され、気が付くことなく淘汰される運命にあると。



 私は、自分の使命を知った。

 この危うい貴族社会を、私が救わねばと思った。

 だか、声を大にして呼びかけるには、私はなんの肩書きも持たない若輩者であった。

 貴族同士の約束は、家に利がなければ結ばれない。私の使命には家同士の結束が必要だというのに、私には家々の当主達を説得し、力を得る為の手札が何一つなかったのだ。



 けれど、神は私に味方なされた。

 幸いにも、私と志を同じとする者らがこの世にいたのだ。



 ◆◇◇◇◆◆◇◇◇◆




「して、ライリー殿。ここだけの話ですが、新たにラシュブルク侯爵家に生まれた赤子に面白い噂がある事を、ご存知ですかな?」

「存じませんね。ラシュブルク家がどうかしたのですか?」

「噂によると、かの家の五男が、父親であるラシュブルク侯爵とも、母親である元第四王女とも違う髪色なのだとか」

「……何ですって?」



 同士達の一人がその日集まりにて口走ったのは、とても有り得ない様な噂だった。

 ラシュブルク侯爵家といえば、王族の覚えめでたいシュトラール公爵家の次男が、元第四王女を妻に娶り興した新興の上級貴族である。当主は王女と神聖魔法にて婚姻を結んだとの話だが、その家の子供と言えば皆見事な青い髪をしていたはずだ。



 その家に、両親の髪色を引き継がない子供……?



「して、その子供は何色の髪をしているのだ?」

「なんでも、紫の髪であるという事ですぞ」

「紫っ!? なんっと不吉な!」

「確かに、どちらの色も継いでおられぬ様ですなぁ」

「という事は、王女が不義密通を……?」

「いや、しかし、神聖魔法での婚姻であるぞ? それは……」

「呪いではないのか? 聞いたこともない、紫の髪など」

「あの家の子供は、シュトラール公爵家の跡継ぎとなる可能性があるのだろう? そのような家に、何処の馬の骨ともしれぬ髪の子供が生まれるなどとは……」



 ───ダンッ!



「「「「「「!!」」」」」」



 思わず円卓を力強く殴っていた。

 場が静まり返り、同士達の視線が私に集まる中、私は怒りで我を忘れていた。



 出自が定かでない者が、またもや、貴族の名を継ぐかもしれない……だと?

 そんなもの、許せるわけが無い。




「皆様、私に一考がございます。お聞きになる?」



 その時、聞きなれぬ声がした。

 酷く若い、それも、女の声だ。

 皆の視線が声のした方を見ると、そこには小柄でフードを被った怪しげな人物がいるのを認識した。



「お主、どこから入ってきた! ここはお主のようなものの居てよい場所では……」

「あら、私は皆様の味方ですわ! それに、私のご主人様も……」

「何、主人だと?」


 同士たちは皆、その声の主を訝しんでいた。


 けれどもその声の主との出会いこそが、私にとっては救い主となるあのお方との、運命の出会いの始まりだったのだ。





 ◆◆◆◇◆◆◇◆◆◆




「……。……リー殿、ライリー殿?」

「……あ、ああ……?」

「ライリー殿、気が付かれましたか?」



 目を開けると、私は自分が長椅子で身を横にしていたのが分かった。

 何が起こったのか思い出そうとする前に、私を呼んでいた声の主が思考を遮る。



「ライリー殿、御気分はどうですか? 驚きましたよ、我が家に来た途端、急にお倒れになるものですから」

「……。やぁ、お恥ずかしい所をお見せしてしまったようで。……ラシュブルク侯爵」



 目の前でにこにことした柔和な笑みを浮かべているのは、パーティーの主催者である侯爵本人だった。


 ……そうだ。

 私は、パーティーに来ていたのだ。

 あの忌まわしい髪色の五男の、誕生祝いをする為に。



 身を起こして、何故かまだ鈍さの抜けきれない頭を軽く抑えながら、私は社交用の笑みを浮かべ直した。

 私とした事が、どうやら侯爵家に来た途端、気分を悪くして休んでいた様だ。ここは、侯爵家の控え室だろう。


 ──なんと、無様を晒したことか。


 あまりの醜態に気分を悪くした私は、侯爵に詫びながら他に何か恥ずべきことはないか確認しようとしてふと、袖口に付着した覚えのない土汚れに気が付いた。


 訝しんで直視し過ぎたのだろう。侯爵が、「ああ、そういえば……」と話し始める。



「倒れられた際、どうやら我が家の中庭の方へおられた様ですな。土が着いてしまったようだ。粗方はたき落としたはずと家の者が申しておりましたのに、申し訳ありませんなぁ」

「いや、お気になさらずに。わたくしこそ、醜態を晒してしまったようです。祝いの場を乱していなければ良いのですが」

「なに、心配なさるな。前座は終わりましたが、これからが本座ですからな。あなたも体調が戻ったならば是非、参加なさるとよろしい。私は先に広間へゆきますが、使用人が案内致しますので。では」



 そう言うや否や、侯爵は使用人に合図をして素早く部屋を出ていってしまった。

 私も、これ以上パーティー会場を離れるわけにはいかない。共に来た兄と姪も、私を探していることだろう。


 私は使用人に案内をさせて、早々に会場へと戻る事にした。

 道すがら、袖口の土塊を払いながら、私はまたズキと痛む顬を指で抑えた。


 それにしても、何故中庭になどいたのだろう。

 なにやら、忘れている気がするのは何故か。


 ──そう言えば、夢を見ていたような……?



 暴虐で圧倒的な力と魔力を纏う化け物を前に、為す術もなく這い蹲り、絶望するような夢。

 その夢の化け物は、金と緑の色を併せ持つ、美しい狂気を宿していた。




「こちらが会場でございます。それではお客様、どうぞごゆるりと、お楽しみくださいませ」




 そう。まさに、会場の最奥──それも侯爵達の一番近くで、輝かんばかりの笑顔を見せる、あの令嬢のよう……な?



 そこで私は、猛烈な違和感を覚えた。

 おかしな事に、私はその令嬢を知っている気がしたのだ。

 否、間違いなく知っているはずだと、そう思った。


 ……違う、そんなはずはない。会うのも見るのもこれが初めてのはずだ。侯爵達の近くにいるということは、それだけ上位貴族に近しい令嬢のはず。

 だが、あんな髪色は見た事がない。


 ───なんだ?……誰なのだ? あの令嬢は……?



 無意識に一歩、部屋に踏み出した。

 そんな私を、令嬢の美しい二つの緑の眼が、捕える。その瞬間───。




「ぐっ!?」




 耐え難い恐怖と悪寒が。

 肺の中にあるはずの空気が全て奪われたようなあの感覚が。


 鮮明に蘇り、我が身を襲う。



 夢などでは、なかった。現実だった。

 齢六つほどの令嬢などどうにでもなると、少しばかり脅す為、婚約者で居られなくなるようにする為に、差し向けた刃は懐から出した次の瞬間には空を舞っていた。

 そして私は、抗えぬ力の前に無様に膝を折り、空気を求めて喘ぐ事になったのだ。



 あの、金緑色の化け物のせいで───!!





 令嬢は、この世の何より魅力的であると、誰もが口を揃えて言うであろう美しい笑みを浮かべている。

 硬直した私の周りでは、その様に評されていた。


 誰もが微笑ましげに頷き合い、称賛を送る中、侯爵がかの令嬢の肩に手を置き、曰った。



「今日、我が子セルゲイの生誕祝いにご臨席下された皆様方には、お伝えしたき良き知らせがございます。というのも、我が子セルゲイと、こちらの令嬢レリノレアとの、婚約を結んだという大変喜ばしい旨にございます。


 ご存知の方も多いでしょう。我が子セルゲイと我々家族は、長年その髪色の為に心無い噂に苦しめられて参りました。


 ですが、ここにいるレリノレア嬢のお陰で、セルゲイの髪色の秘密を知ることが出来ました。それは、両親どちらの魔力をも受け継いだ子供は、どちらの髪色をも引き継ぐということです。セルゲイの紫の髪は、私と妻、どちらの色をも受け継いだ証であると、レリノレア嬢が発見してくれたのです!」


「なんとっ!? それは本当ですか!?」

「それでは、セルゲイ殿は二属性もちと?!」



 騒めく招待客達を前にしても、侯爵は落ち着いたあの笑みをくず崩さずにいた。



「驚かれるのも無理はありません。

 しかし貴族院を初め、魔法の権威である【魔塔】の研究士達にこの理論を説明したところ、十分に可能性のある話であるとのお墨付きを頂くことが叶いました。


 また、貴族院にて魔力測定をさせた所、セルゲイには実際、火と水、どちらの魔力にも高い適性があると診断して頂いたのです。


 これは、長年不思議と謎に包まれてきた魔法の解明、ひいてはあらゆる魔法士達の研究に、大いなる貢献をもたらす事でしょう!」


「なんと!!」

「いやはや、めでたい!!!」

「なんて素晴らしい話でしょう!!」

「我らの未来は明るいですな!!!」


 侯爵の話に、招待された貴族達は驚きと共に納得の色を見せた。そして、口々に素晴らしいと讃え、喜色を顕にした。



「ラシュブルク侯爵家よ、永遠なれ!!」

「我ら貴族の未来に栄光あれ!!」

「未来ある若人たちの出会いに幸あれ!!」



 数々の歓声と賞賛の嵐が、パーティー会場を覆い尽くした。


 こんな……。

 こんなはずでは、なかった……。


 何を間違えた? 私はただ、あの何処ぞの馬の骨とも知れぬ出生の卑しい侯爵家に寄生する子供を使って、侯爵家を正そうとしただけだ。

 どこから間違えた? 娼婦のくせに適切な避妊も後処理も出来ない馬鹿女が産んだ子供を哀れんで、計画の一駒に加えた事か。


 あのお方の立てた計画は完璧だった。

 私の采配に狂いなど無かったはずだ。

 それなのにっ!!!!


 ──何故っ、あの卑しい子供が、幸せそうに笑っているんだっ!!!!!!!!



 呆然と立ち竦む私の視界で、あの化け物が、嘲笑う様な笑みを浮かべた。



 ──……そうだ、あいつが……。あいつさえ、いなければっ!!!!




「……っ化け物……っ!!!」





読んで下さり、ありがとうございました!

良いね・高評価★★★★★頂けると、作者もとても嬉しいです( * ॑꒳ ॑*)

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