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020 つまらぬもの

6分遅れはセーフっ!!!(汗)


いいね・ブックマークが増えておりました!

読者の皆様におかれましては、本当にありがとうございます(大変励みになります(*ˊᗜˋ))

末永く愛読していただけるよう、完結まで浸走って参りたいと思います!

「あははは、やだわぁ」



 私は、()()()()()()()()ポーンと高く放り投げた。


 伯爵家の弟とやらは、まだ何が起こったのか理解出来ないという顔で私を見詰めている。それがまた酷く滑稽で、笑いを誘った。


「尊い血だとか、雑種だとか。凄い言い様ねぇ、爵位すら持てない貴方が」

「なっ?! こっ、小娘が舐めた口をっ…がっ!?」

「あら、不思議ね。どうしたのかしら? 貴方、言いたい事があるなら、どうぞお喋りになっていいのよ?」

「がっ……うぐっ!!」


 男は、何故かもがいている。

 まるで、口を開こうにも開けないという様に。

 口や首の周りを締め付ける、見えない何かを解こうという様に。


 私はうっそりと微笑んだ。

 手元の扇を広げ、立つことすら叶わなくなった男を見下ろす。



「まぁまぁまぁ、どうなさいまして? よもや、こんな小娘のお遊びの様な魔法を解くことも出来ませんの? 尊い血筋の方が」

「ぐぅっ……!!がっ!」


 男に何が起こったか。

 単純な事だ。風魔法にて周りの空気を遮断しているのである。


 北訓練所の皆様や師匠との訓練で、教わった中には魔法の制御もあった。

 魔法を扱うには、本来、貴族院に行って学ばなければならない。……のだけれども、私の様に魔力暴走を起こした事のある子供は、感情の揺らぎでしばしば無意識に魔力を使ってしまうことがある。


 一応、公爵家に来た際に義父様から、制御魔石というものを頂いている。イヤーカフとして常時身に付けているそれは、私のなかに存在する膨大な魔力を整えて、体内に循環させる役目を担っているそうだ。


 貴族院に行けば自分で魔力を循環させて、魔法として発現させる方法を学べるけれど。高位貴族ではあまりにも多い魔力の為に、幾つも制御魔石を身に付けさせるよりは先んじて制御方法を教えることがあるのだとか。


 そんな訳で、私は貴族院に入る前ではあるものの、魔法の制御を学んだ。

 師匠なども、魔力が膨大すぎて制御に悩んだ経験がある。

 私も訓練中に防ぎきれない斬撃を躱そうとして、無意識に相手を吹っ飛ばしてしまうなどという事が頻繁に起こるのは悩みの種だった。


 然るに、師匠が私の魔力制御の訓練に付き合ってくれたのは自明の理である。


 いやぁ。大変だった。

 なんせ、師匠の指導は体術の時以上に体育会系だったのである。


『技は見て盗め』

『感覚で覚えろ』


 始終これに尽きる。まあ、教わる方も大変だった。

 その甲斐あってか、今こうして、短剣を忍ばせている不届き者にも遅れを取らないのではあるが……。



「まぁ私とした事が、御免遊ばせ? 無理な事だったわね。これでも私、公爵家相当の力はございますもの。同じ爵位持ちの家族の威光を借りるなら、私の方が上ですものねえ」

「ぐうっ?!」


 もがいている男の顔が驚愕に染る。


 それはそうだろう。私を格下と判断したからこそ、短絡的に行動したのだろうから。

 短剣で何をしようとしたのか、考えるのは簡単である。

 切り傷のひとつでも付けられれば、見事に婚約は御破算。そのように思考したのだろう。


 ──ま、私には関係ないけどね?



「あらあらまあまあ、知らなかったんですの? 本当に、どこまでも小物ですこと。叔父様が何処の馬の骨とも知れぬ女を、セルゲイの護衛にする訳ないじゃありませんか。少し考えたらわかるだろうに、哀れな奴」


 おっと、いけない。素が出てしまった。気を付けねば。

 煽っているうちに本性がまろび出てしまうなど、三流以下だ。

 私は少しばかり(かぶり)を振って、気を取り直した。



 ──さて。そうは言っても、コイツどうしようかしら? このまま叔父様に引き渡すのも良いけれど……。



 どうせ、大した裁きにはならない。精々、家同士の取り決めで優位に立てるとか、そんなものだ。

 しかも、この男自身は伯爵ではなく、伯爵家当主の弟というだけだ。下手をすると、大した賠償金も払わず尻尾を切られるなんて言う事も十二分に考えられる。

 ……。


 ───なんか、むかっ腹が立つわね。



「よし。ここは、一芝居打つとしましょう。あなたも、偶には人の役に立つことしたいでしょうし?」



 私は、足元で芋虫よろしく無様にもがいている男を見下ろし、それはいい笑顔で言い放った。




 ◇◆◇◆◆◆◇◆◇




「一体全体、どうしてこんな事になってるんだ」

「まぁ、セルゲイ。耄碌するにはまだ早すぎなんじゃないの。今説明したばかりでしょ」

「だから! その説明を聞いても意味不明なんだよ! 何をどうしたら乳母の父親とやらが、気を失って寝っ転がってる羽目になるんだ! 俺の部屋に!!」



 セルゲイがあんまり興奮して捲し立てるものだから、煩くて思わず耳を覆った。


 あれから私は、風魔法で男を拘束したまま気絶させ、セルゲイとお兄様ズ、そしてお義兄様を密かにお呼びした。簡単にその場で事情説明をし、叔父様夫妻には時間稼ぎを頼んでいる。

 あのまま人気のない所で作戦会議というのも考えたのだけれど、万一誰かに見つかった場合、疚しい事もないのに煩わしい噂の一つも立てられてしまう。

 という訳で、セルゲイの部屋に場所を移したのだ。


 セルゲイの肩に手をやりながら、お兄様ズはお腹を抱えて爆笑している。



「やぁ、本当にレイリアンは」

「予想もつかないことをする」

「まさかこんな幼い子に」

「してやられるとは思うまい」

「あら。わたくしの実力でしてよ? セルゲイのお兄様方」

「「「ははははっ!!」」」

「ムトアも大変な弟を持ったなぁ!」


 笑いながらお兄様ズの一人が私の背後を見ると、そこにはぶすくれた雰囲気のお義兄様がいた。

 勿論、顔は安定の無表情である。


「レリィ……心配だ。こんな……無茶をするなど」


 ぎゅーっと抱きしめられた状態はそのままに、お義兄様をよしよしして宥める。


「ごめんなさい、お義兄様。でも、仕方ないですわ。刃物を持ち出されたら、手加減などできませんもの」

「……刃物?」

「あっ…」

「レリィ……」



 おっと。慰めることに気を取られて、話さなくて良いことまで言ってしまった。

 皆には、「尾行した挙句、ベラベラ自分の悪事を喋った阿呆がいました。取り敢えず魔法で黙らせたので、これどうしましょう?」としか、説明していない。忍ばせていた短剣で襲いかかってきたのを反撃したという旨は、掻い摘んでいる。


 問い詰めるような気配と視線を頭頂部にビシバシ感じるけれど、これ以上何も言うまい。

 セルゲイからも心底呆れ返ったという視線が飛んできた。


「俺はいつかやるんじゃないかと思ってたんだ」

「予想出来てたんなら、驚くこともないでしょ」


 愚痴愚痴とうるさいなぁ、などと思っていると、セルゲイの一喝が飛んでくる。


「誰も、魔法で大の大人を伸してくるとは思わないんだ!!」

「乏しい想像力ねぇー」


 おやおや。全く。

 セルゲイのボディーガードを引き受けたからには、私が態々接触してきた敵をみすみす逃がす訳ないじゃないか。

 セルゲイったら、まだまだ私という人間の理解力が足りていないようだ。お姉ちゃんは心配です。


 セルゲイが頭を掻き毟って叫ぶ様子を見ながら、呑気にそんな事を考える。



「お前が人の想像の範疇をぶち壊すからだろっ!!」

「やっかましぃわぁ〜ね。結果オーライなんだから良いでしょ。そんな事より、作戦会議よ」

「このっ、どの口が言うんだどの口がっ!!」

「まぁまぁまぁ、落ち着けよセル。兎も角、レイリアンの作戦とやらを聞こうじゃないか」


 セルゲイのお兄様の一人が、こっちに向かって来ようとするセルゲイをどうどうと宥めている。


 ふむ。

 これを見るに、セルゲイにはカルシウムが足りてないんじゃないかなと思う。カルシウムが不足すると怒りっぽくなると聞くし。


 若い頃から短気なのは宜しくないと思う。友人として、セルゲイの食生活に一言物申したいものだ。



 と、話が逸れてしまった。

 私は改めて佇まいを治し、思い付きの作戦を皆に披露することにした。

 皆の反応は三者三様であるけれど、理解は示してくれた。



「成程つまり、レイリアンはこの男を使って」

「セルの名誉を挽回したいってことだね?」


 セルゲイの上の双子のお兄様方が、揃いのポーズで思考する。私が頷くと、二人とも成程と乗り気な様子を見せた。


「私は面白いと思うよ」

「私もそう思う」


 一方で、下の双子達はいまいち乗り気でないようだった。


「確かにその作戦だと、セルゲイの名誉は回復するかもしれないけれど…」

「危険だよ。僕はムトアの弟にそんな危険な事させたくないな。何かあった時、」

「「ムトアに顔向けできないし…」」


 心配そうな四つの目が、私を見つめた。

 その気持ちはとても嬉しいけれど、私はきっぱり首を横に振った。



「いいえ、お兄様方。私は、そんな事は怖くありませんわ。油断していたとはいえ、あの男は私に遅れを取り、その後も風魔法の拘束から抜け出せませんでしたもの。驕るつもりもありませんが、自分で出来ると思いますの」

「「……でも」」


 食い下がる様子の二方の手を取り、私は微笑む。なるべく、安心して貰えるように、余裕の笑みで。


「お気持ち、とても嬉しく思います。お義兄様を気遣ってくださる事も。でも、心配なさらないで。お義兄様が同じ立場なら、きっと何を差し置いても、私の名誉を回復する方法をとると思いますもの。そうでしょう? ムトア兄様」

「無論だ」

「ほら、大丈夫ですわ!」



 振り返れば、力強い首肯が返ってくる。

 しかし、お義兄様は頷いてから慌てた様に付け足した。


「だが、危ないことに……変わりない。私達が守護するが……無茶だけは……するな……」


 表情だけはピクリとも変わらないのに、しょげかえる耳が見える様で本当に可愛らしい。私のやる事を本心では止めたいのに、それでも守ると応援してくれるお義兄様に、心がじんわりと暖かくなる。


 今度はお義兄様の手を握りしめて、私はしっかりと頷いた。



「勿論ですわ、兄様。信じて下さってありがとうございます。それに、ここだけの話ですけれど、正直私にお守りは荷が重いんですのよ。将来は騎士団に入る予定ですし。セルゲイにはさっさと問題の元凶を取っ払って差し上げて、上手い舵取りのできる友人か婚約者か見繕って、しっかり目を見張らせてもらった方がいいと思って……」



 ここだけの話と、お義兄様の耳元に顔を寄せてコソコソ話をしていたはずなのだが、何故か聞き咎めたセルゲイがキャンキャンと吠えている。


「おい、聞こえてるぞっ!! それに、なんだ騎士団って」

「そうか……、レリィにも……、考えがあるのだな……」

「はい。ですから、協力してくださいませね?」


 セルゲイの声はまるっと無視して、私達はそっと頷き合った。お義兄様の目が少しばかり弛む。


「分かった……。確かに……つまらぬものに……レリィが煩わされるのも……業腹だ…」

「はい、兄様! つまらぬものは、ここでブチッと潰しておきますわね!」



 良かった。お義兄様の了承を得られた。

 これで問題なく、あの小物を潰せるというものだ。


 そんな風に満足気に顔を見合せている私達は、後ろの方でなにやら微妙な顔をして顔を見合せている兄弟の会話についてはよく聞いていなかった。





「なんか、セルゲイ……」

「もしかして、ムトアに……」

「どうかしたんですか? カル兄上、カラ兄上?」

「いや、まぁ、頑張れって事だよ」

「うん、話は聞いてあげるから…」

「何ですか、ロルフ兄上やラルフ兄上まで? 何の事ですか?」

「「「「うーん、何でもないよ……」」」」

「????」








ブラコンなムトア兄様から見ると、大好きな弟を煩わせるものは全部有象無象なようです( ̄▽ ̄;)

セルゲイはもう少し頑張ろうっ!!

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読んで下さり、ありがとうございました!

良いね・高評価★★★★★頂けると、作者もとても嬉しいです( * ॑꒳ ॑*)

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