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016 公爵家の天使【ムトア回想】

順番的にムトア視点が抜けていたので急いで追記しました^^;

ムトアお義兄様の視点でレイリアンとの出会い回想となります(*´˘`*)

「はぁぁああああっ!!」

「甘いっ! もっと深く踏み込め!」

「ぐっ!」



 ズドンという体重からすれば有り得ない音と共に、弟の体が地面に叩き付けられた。体の周りの土が崩れ、目に見えて陥没している。


 けれど、弟は程なくして何事も無かったかのように飛び起き、そのまま目前に迫った拳を交わして相手に一撃を入れた。


 双方飛び退って後、一泊。

 緊迫した空気がゆるりと解けた。



「よし、休憩だ」

「……っはぁ」

「なんだ? 休憩つっても、いきなり気ィ抜くんじゃねぇ。もっと、ビシーっとしろ」

「うるっさいわねぇ、この脳筋馬鹿力師匠っ! 骨が曲がるかと思ったわよ! いいえ、折れたに違いないわっ」

「あ? ンなもん気合で治せ」

「馬鹿言ってんじゃないわよ無理に決まってんでしょっ?!」



 目の前で元気に口喧嘩をしているのは、私の義理の弟であるレイリアンと、カラム王弟殿下のご子息である、テルカ様だ。

 二人の年齢は十四も離れているはずだが、まるで同年代の様に気の置けない様子に見える。

 二人が師弟の関係になったのは、いつからだったか。



「レイリアン、こちらへ」

「はいっ、お義兄様!」



 私が呼べば、弟の顔はそれまでの微妙な表情と打って変わって、キラキラしたものになる。

 どうやら弟は、私を慕ってくれているらしい。


 私は弟の額をタオルで拭いてやりながら、彼と初めて会ってから今までの事を懐かしんだ。



 ◇ ◇ ◇



「今日からこれが、お前の弟だ。仲良くしてやれ」



 そう言って、あの日父上はレイリアンをこの家に連れて来た。


 事前連絡もなし。

 母上に相談もなし。


 正に青天の霹靂と言った具合で、私と母上とその他大勢の使用人達の前に引き出されたのは、美しくも、まだ幼い天使だった。


 そう。天使だ。



 ───父上、一体何処から攫っていらしたのですかっ?!?!?!



 思わずそう叫ぶのをグッと我慢して、私は生まれて初めて父上を睨み付けた。大きな声を出して、この子を怖がらせてしまってはいけないと思ったのだ。


 さらさらの金緑色の髪は緩く腰まで編み込まれ、整った顔は彫刻の様で神秘的だ。父上は弟と言ったが、どこか大人の女性の魅惑さ、妖しさをも併せ持つ様に感じるのは何故だろう。

 それでいて、私や父上と同じ翡翠眼からは、一族直系の風の魔力を強く感じた。


 血縁なのは分かる。一目瞭然だ。

 けれど、父上の子ではないのも断言できてしまう。

 ならばこの子は?



 ───父上が母上を裏切るのは、太陽が西から昇るようなものだ。という事は、叔父上か?



 幼い頃一度だけ、領地の別邸で出会った父上の双子の兄君。本来公爵位を継ぐはずだったのは叔父上だったが、病弱な為父上がその位を引き継いだと母上が仰っていた。儚げで、とても優しい方だったと記憶している。


 しかし。


 ───ご結婚されていただろうか?


 いや、そのような話は聞いたことが無い。


 ならば、彼の母親は?

 金の髪はこの国では珍しく、隣国に多いと聞く。恐らく母親は、隣国の出自という事。

 では父上が、自分の子として偽る理由はなんだ。



 分からない事ばかりだったが、少なくともこの天使には何も罪はない。父上が弟というのならば、そのように接していこう。


 そう、心に決めた矢先……。



「酷い冗談だわ、妻子に黙って余所で子供をこさえる様なフザケた男がアタシのパパンだなんて! 何かの間違い以外の何物でもないわ、アタシ実家に帰らさせてイタダキマス!」



 天使が険しい顔をして、父上を睨みつけた。


 ……。



 ───父上! どこが弟なのですか?! 妹の間違いでしょう?!



 私達は、弟(妹?)と父上が物凄い速さで言い合うのをポカンとした様子で見ていた。それはそうだろう。

 父上がこの様に饒舌なのを、今まで見た事がないのだから。



 父上は、滅多に口を開かない。そして、笑わない。

 一日の殆どを執務室と王宮を行ったり来たりしているせいで、毎朝家族で朝食を摂るとき以外お目にかかったことさえない。

 そんな父上が、母上との記念日だけは絶対に何がなんでも休みを取るから、恐らく母上の事は愛しているのだと、子供心に思った。


 けれど、私には愛しているや期待しているなどと、優しい言葉をかけて頂いたことは、ただの一度もなかった。



 私はそれでも良かった。

 父上が私に関心がない分、母上が。

 厳しくも愛情深く、ハンスベルク公爵家の嫡男として恥ずかしくないよう育てて下さる。

 家の使用人達も、私が健やかであるよう努めてくれている。

 だから、寂しいと感じたことなどない。



 では、この子は?


 顔貌のあまりの可愛さに気を取られて、気が付くのが遅れてしまったが。


 よく見れば手足は薄汚れて、服も着古したものだ。肉付きだって酷い。私が少し強く握っただけで折れそうな、なんとも儚げで頼りない。

 とても、今まで順風満帆に暮らしていたとは言えないだろう。


 父上が弟と言うからには本当に男なのだろうが、話し方や身振りは少女にしか見えない。父上にあれ程物怖じせずに物を言えるのも、気が強くなければ、そのように振る舞わねば生きてこられなかったからだとすれば?


 私はこの時、誰に言われるでもなく固い決意を抱いた。



 ───この子には、頼る事の出来る父母も兄弟もいなかったのだ。これからは私が、この子の拠り所となってやらねば。



 まず、私は母上にお願いをした。

 聡明な母上のことだから、恐らくあの子が父上の子ではない事を知っていたであろうけれど、それでも気にかけてやって欲しいと頼み込んだ。


 母上が気にかける姿を見せれば、少なくとも使用人達におかしな気を回す者はいなくなる。

 それでも、何処の馬の骨とも知らない子供故に目障りだと、鬱憤を晴らす様な気を起こしかけた者には、この際だから暇を出した。


 母上が思いの外あの子を気に入り、レイリアンと名付けまでしたのは嬉しい誤算だった。

 父上は静観していた。



 けれど、レイリアンは居心地が悪そうだった。

 いつもどこか遠くを見ている。元いたという孤児院に帰りたいのかもしれない。

 必要以上に出しゃばらないよう、気を遣っている。

 無邪気な笑顔を浮かべてはいても、どこか無理をしているように見える。


 どうすれば信頼してくれるだろうか。

 せっかく出来た、天使のように愛らしい弟。

 もっと頼って欲しいのだが……。



 ◇ ◇ ◇



 夜、レイリアンはひっそりと部屋を抜け出した。

 それに気がついたのは偶然だ。


 たまたまその夜目が冴えてしまって、月を眺めていたところ、庭で動く人影に気が付いた。

 それはよく見れば弟で、星々の煌めきの下一心不乱に素振りをしていた。

 その手に持つのが洗濯に使う棒だったのには閉口したが……。



 小さな体であるはずなのに、何故だろう。

 その身体に見合わぬ程、大きな闘志を秘めていた。


 静かで、それでいて荒ぶる獣を内に抱える様な。

 私達が今まで見た事のない、鋭い眼差しで。


 日が昇る直前まで鍛錬をして、何事も無かったかのように部屋に戻る。そして朝食の席で、レイリアンは変わらぬ無邪気な笑顔を見せた。


 何故。

 慈しまれ、真綿で包むように護られるはずの子供なのに。



 私も公爵家嫡男として、剣を嗜んではいる。

 高位貴族の子息令嬢は、狙われる事があるからだ。誰もが、一定の年齢まで武術を習う。

 けれどそれは、あくまでも保険。

 周囲を囲む護衛に護られて、凶手の刃がその身に届くことは無いに等しい。



 私よりも幼く、周りを頼って良いはずの年頃のレイリアンが、何故そこまで必死な気迫をもつのだろう。





 ◇ ◇ ◇




 庭に出てみようとしたこともある。

 けれど、父上にとめられた。


 父上は、彼が一人、夜中に抜け出していることも、鍛錬していることも知っていた。



「何故ですか。レイリアンは、仮にも父上の子として皆が認識しています。護衛もそのつもりのはずです。レイリアンがあの様に幼い時分から武芸を嗜む必要など、ないではありませんか」



 それとも、レイリアンの護衛はレイリアンを護ろうとしない腑抜けた者なのだろうか。

 もしや、私や母上の感知せぬ場所で、レイリアンは虐められでもしているのだろうか。

 そのような、公爵家の使用人としての心得が出来ぬ不心得者が、まだこの家に居たのだろうか。


 許せぬ。

 あの様にか弱く、小さな天使である我が弟を虐める輩め。



「ムトア。お前存外、私に似たのか」

「?……父上?」



 見下ろす父上の顔が、苦笑いしているように見えた。

 父上の静かな声が言葉を紡ぐ。



「ハンスベルク家の男は、一度護るべきものと認識した存在には、事の他弱い。甘やかし、囲い、守ろうとして、却ってそれを駄目にしてしまう事も少なくは無い。そういう(さが)として生まれる」

「……。父上は、母上を駄目になどしません」

「ミシェルが強いだけだ。あれは強く、優しい。お前もミシェルに似たと思っていた」


 性と言われ、ストンと納得した。自分が何故、これ程まで彼を気にかけるのか、その理由がわかった気がして。


 それに、どうした事だろう。

 生まれて初めて、父上と会話らしい会話をしているような。

 半分以上母上への惚気だという事には、この際目をつぶるとして。


 父上が片眉をあげ、じっと私を見下ろしている。


「あれを弟として()()()のだな」

「はい。父上がそうせよと仰るので」

「悪いとは言っていない。ただ、少し早かったな」

「……可愛いでしょう。懐かない猫のようで」

「そんな(ひねく)れた所ばかり私に似なくてもよい」



 今度こそ父上は呆れた様な顔をした。父上の表情がこれ程変わるのも珍しいと思考し、そういえばレイリアンが来てからは増えたなと思い直した。



 つまり、そういう事だ。

 私は、レイリアンを弟だと思っている。そして、護るべきもの者として認識したのだ。

 もう、その席はレイリアンで埋まっている。

 父上が母上で埋めたように。


 だから、頼られないのが悲しい。

 レイリアンにとって、私がまだ他人の域を出ないのだという事が分かるので、寂しいのだ。



「どうすれば、レイリアンは私を兄と思ってくれるのでしょう。私はまだまだレイリアンの事を知らなさすぎる」

「ふむ。案外、単純な性格やもしれんぞ。芯は通っているが」


 父上が顎に手をやりながら、鍛錬をする弟に視線をやった。

 つられて私もそちらを見る。



「一歩後ろを歩いて場を読み、当たり障りの無い笑顔と愛嬌で俗世を渡るは女の性。与えられた安寧に腰掛けるだけで満足せず、自ら道を切り開こうと足掻(あが)く様は男の性。どちらの性を持ちえているから、一見掴み所の無いように思うのだろう。中身が歳以上に早熟なのも原因であるか……」

「どちらの性も…?」



 父上が愉しげに口の端を上げた。



「気が付かないか。あれは公爵家の次男という肩書きに関して、目立たず害にならずを志している様だ。普通の子供であれば、権力に対する欲を捨てきれまい。次期公爵であるお前の邪魔となり、うっかり私の逆鱗に触れて、プチッと殺される事を恐れている様だぞ」

「父上のせいですか?」

「……本当に私に似たのだな」



 いけない。うっかり殺気を出してしまった。

 深呼吸して気を落ち着ける。が、やはり父上がなにか要らないことを、あの子に言ったのではないだろうか。


 疑いの眼差しを感じとってか、父上が咳払いをする。



「ミシェルに似た顔のお前にそのような顔をされるのは堪えるので、一応弁解しておく。あれの思考回路は初めからだぞ。ついでに言うと、女人の言動なのも初めからだ。あれは素でやっている気がする。興味深いだろう?」

「素……。そうですか」



 不思議な子だ。可愛いので今のままでも一向に構わないが。



「分かりました。取り敢えず、餌付けをしてみます」




 ◇ ◇ ◇



「今日はご一緒させて頂きありがとうございますっ!!」

「天気も晴れ! 風が気持ちいいですわね!!」



 目の前で元気にはしゃぐ義弟をみながら、私は内心父上に感謝をしていた。

 なんでも、レイリアンは剣術に興味があるのだそうだ。

 年相応に楽しく笑っている義弟を見て、私は安堵していた。



「お義兄様は騎士候補生達の訓練にご一緒すると聞いて、沢山作ってきましたの! サンドイッチですわ!! お口に合うとよろしいのですけれど。お義兄様は苦手な物など御座いまして??」

「………………。ない……」

「まぁ、素敵ですわっ!! 私はキャロッテがあまり好みではありませんの。お義兄様は大人ですわねっ!!」



 この気配りの出来る、愛らしい弟を誰か見てくれ。


 レイリアンは知るまい。

 私が今どれほど喜びに打ち震えているか。

 あまりにも酷く顔面が緩みきって仕舞いそうなのを、兄としての威厳と矜持だけで抑え込んでいる事を。


 実の所、義弟と会話をするのはこれが初めてで、何を話して良いか分からない。

 私はそれなりに自分を優秀な方だと思っていたが、その評価は正しくないだろう。


 自分がこれ程までに朴念仁だとは、初めて知った。



「…………疲れないか、そんなにはしゃいでいると」

「全く問題ございませんわ!! 心配して下さってありがとうございますっ!!」

「…………そうか…」



 気の利いた返しも出来ない私に、レイリアンはニコニコと返してくれる。

 それだけで救われた気持ちになるのだから、私の弟は凄い。


 せめて、レイリアンが今日の外出を楽しく過ごせるよう、私は気を引き締めた。






 ◇ ◇ ◇





 ……そのはずが。


 私の可愛い弟は、どこだ?



 つい先程まで観客席にて可愛らしい声援を送ってくれていたレイリアンの姿が、どこにも見当たらない。

 私の侍従とレイリアンの侍従が傍に付いていたはずだろうに。



「何があった?」

「それが……」



 レイリアンの侍従から凡その説明を受け、私は納得と同時に訝しんだ。

 本当だとするならば、その方は何故……。



「見間違いではなく、()()()だったのだな? その方が、レイリアンを追って行ったのだな?」

「間違いございません」



 さて、どうしたものか。


 赤い髪とは、この国では王族しか持ちえない色だ。

 つまり、レイリアンが一緒に観戦していたらしいその人物は、王族の方の誰かということになる。



「恐らく、王弟殿下のご子息のテルカ様ではないでしょうか」

「なぜそう思った」

「レイリアン様が見破り為さるまで、かの方は認識阻害魔法を掛けていらしたようなので。どうやら魔法を見破ったレイリアン様に興味を抱かれて、それで姿を現しなさった様でした」

「成程」




 これはいけない。

 王族が可愛い私の弟に目を付けたようだ。

 やっと兄弟の語らいというものを出来るようになってきたというのに、王族なんぞにちょっかいだされては堪らない。

 弟が減る。


 いやしかし……。



 ───王族さえも魅了してしまうとは!! 私の弟はなんて素晴らしいのだ。




 私は内心喜びと葛藤がせめぎ合いながら、従者達を引連れて弟を捜索する事になった。




そうなのです。ムトアお義兄様は、極度のブラコンです笑

兄弟格差や喧嘩はこの二人にはございませんっ!!悪しからずm(*_ _)m



読んで下さり、ありがとうございました!

良いね・高評価★★★★★頂けると、作者もとても嬉しいです( * ॑꒳ ॑*)

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