015 わだかまりがほどけた日【ラシュブルク侯爵視点】
「ディアナ、お前達。私の話を聞いてくれるか」
無言で肯定を示してくれる愛する妻子達に、私は今日起こった出来事について、ありのままに話した。
セルゲイとまだ赤ん坊の末の息子は隣の部屋にいる。
話して行くにつれ呆気にとられていた皆の表情が、険しく鋭く変貌していく。
無理もない。私も同様になって、セルゲイを怖がらせる程だった。
一番上の息子二人が、にっこり笑って揃って同じ事をいった。
「大掃除しましょう、父上」
「私達に任せて下さい。なんなら、シュトラールの叔父上にも協力して頂きましょう」
「それいいな! 私達内の誰が叔父上の後を継いでもおかしくない。相応の対処だ」
「父上、お願いします」
私は今までに無く黒い笑みを浮かべる息子達に、存分にやれと兄上への手紙を渡して頷く。
それを見た二人は笑みを濃くし、意気揚々と部屋を後にした。
あの二人は、兄上仕込みの手腕を叩き込まれている。私が手伝わずとも、思っている以上の手腕を発揮してくれるはずだ。
「じゃあ僕達」
「餌をばらまく係かな」
「一匹も逃がさない」
「毒餌にしなくちゃね」
「「いいですか、父上?」」
下の双子達も、そっくりの顔でにっこりと笑みを浮かべながら、そう発言した。
息子達は、皆セルゲイのことを可愛がっている。だからこそ、弟を苦しめた者達には、相応の罰を下したいのだ。
私は後ろに控えていた、この家で最も信頼する執事長に目線で頷く。彼が息子達を引き連れて部屋を出て行くが、その背には静かだが揺るぎない決意がみなぎっていた。
我が家の現状について話わしたとき、長く傍らで支え苦楽を共にした彼は迷わず辞表の意を述べた。自身の監督不行き届きのせいで、危うく私達家族の決別を決定的なものにしかねなかったと、腹を切る勢いで。
我が子にいらぬ思いをさせた者達を全員この家から叩き出す事で償いをせよと説得し、自責の念をさらなる忠誠心に代えて尽くそうとしてくれている。
口さがない者のとばっちりなどで、有能かつ大事な執事を失うわけにはいかない。
「……私があの子を貴方と同じ髪に産んであげられていたら、あの子はきっと苦しむこともなかったはずなのに」
「大丈夫だ、ディアナ。もう、あいつは惑わされない」
「……駄目ね。私がこんなことをいつまでも口にすると、また誤解してしまうわね」
「そうだな。私達に出来ることは、今まで以上に、あの子達を愛していると伝えていくことだろう」
「ええ、そうよね」
妻がホロリと涙を零しながら、笑顔を浮かべた。
「まさか、私達の色を併せ持って生れてきてくれたなんて……」
私はその背を優しくさする。
愛しい妻は、ずっとセルゲイ一人だけ青い髪で産んでやれなかったと気に病んでいた。私も妻が不貞をしたからだ等とは考えも過ぎらなかったものの、当時は心ない噂がたったりして悔しい思いをした。
私達が婚姻を結ぶ際、神聖魔法を使用したのは誰もが知っている。不貞などと有り得るはずもないのだ。そうすると、今度は呪われているのではないかという者まで現れた。王族の影まで借り受けて噂の出所を探り、火消しをしても、紫色の髪であるという事実は消えない。噂はどこからともなく、何度でも立ちのぼった。
ただただ、腹立たしかった。
魔力を持つ者同士が婚姻を結ぶと、男親の色を持って生れてくるとされている。
仕組みは分からない。何故女親の家の色を受け継がないのか、理由は解明されていないからだ。
高位貴族で血統を保持していればしているほど、それは当たり前とされる。
だが、ごく稀に。
母親の色を継いで生れるものや、両親どちらの色も纏わず生れるものがいると聞く。
何故かは分からなかった。今までは。
───私と妻とで二等分……か。
女の子のように可愛らしい甥っ子が、光明を見いだしてくれた。
青と赤。混ぜれば美しい紫になる。
男親の魔力の色を受け継ぐという魔力持ちの仕組みは、正確に解明されてはいない。
ならば、私と妻と。
二人の色を合わせた子供がいたとしても、何ら不思議なことではないと思えた。
私達の色を受け継いでいる事を、セルゲイは受け入れることが出来たのだと。泣き笑いしながら、甥っ子に礼を告げる姿を見て確信した。
甥っ子は、金緑色の髪だった。
義弟であるハンスブルク公爵から、事情は聞いていた。
レイリアンは本当の甥ではない。
けれど、ミシェルが彼を我が子と認めるならば、私がとやかく言うことではないと思った。必要以上に関わることはしないだろうと思っていたのに、外見を告げられて私は、彼に会ってみたいと思った。
第一印象は、とにかく可愛らしいなということ。
思った以上にミシェルが気に入っていることと、兄弟仲が良さそうに見えた事もあり、私はムトアと同じように彼を甥っ子と認めた。
その後応接室で、義弟から彼の出生を教えられた。
驚くと同時に納得するところもあった。妹の婚約者につきまとう王女は有名だったし、彼の兄の存在も知っていたからだ。
けれどやはり、髪色を受け継がなかった理由は、公爵でさえ分からないようだった。だが、さして気にしていない様に見えた。
甥っ子は、公爵に似ている。つまり、彼の兄にそっくりなのだ。だから、髪色が違ったとしても、顔かたちで血族であると誤魔化せる。
セルゲイは妻に似ていた。
セルゲイが欲しいのは、自分が本当に私と妻との子であるという、確かな証拠だった。
もう、言葉で説得出来る次期は過ぎ去っていた。
もはやどうして良いか、分からなかった時。
何やら部屋の外が騒がしくなり、突然。応接室の扉がけたたましい音を立ててぶち破られた。
あの瞬間。
天使のような姿をした甥っ子が、私達親子のわだかまりをもぶち破りに来てくれたのだ。
しかも、身近な場所で長年悪意を吹き込んでいる者の可能性にまで、気が付かせてくれた。せっかくセルゲイとの誤解が解けたというのに、本末転倒になっていたかもしれない。
甥っ子には感謝しかない。
「そういえば、ミシェルの二番目の息子は…レイリアンといったかしら。どんな子なの? 私、直接お礼を言いたいわ」
涙を拭きつつ、ディアナがそう聞いてきた。
私は笑顔で応えようとし、少々言葉に詰まることになる。
───……。良い子ではあったな。それに、可愛いらしいが……。
よくよく思い返してみると、それだけではない。
何故か女の子のような話し方で、周りもそれに慣れているような……。
そこまで考えて、私はかぶりを振った。
甥っ子がどのような性格であろうが、関係ない。
セルゲイと私達家族の恩人。それで十分だ。
「今度は、うちに招待しようか。ムトアも一緒に」
「そうね、そうしましょう」
私とディアナは微笑み会い、愛する息子達に会いに行った。
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