014 男は外見じゃなく中身、つまりは筋肉
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読者の皆様におかれましては、本当にありがとうございます(大変励みになります(*ˊᗜˋ))
末永く愛読していただけるよう、完結まで浸走って参りたいと思います!
「さあ、好きなところに座って。くつろいで頂戴。ああ、メリナ。お茶の準備をお願いね」
「かしこまりました」
私は微笑みを崩さないよう客人を椅子に座らせ、部屋にいたメリナにお茶の準備を頼む。ジルベールとカサーラには他の使用人達と共に部屋に入らないよう伝えた。一応護衛には部屋の外に控えておいてもらい、サムとイルバーニにも同じく下がっていてもらう。
さて。
これならば話しやすいだろう。
程なくしてお茶の準備が整い、部屋が良い香りで満たされた頃。
ようやく目の前の客人は口を開いた。
「……どういうつもりだ」
「あら、何のことかしら」
カップをソーサーに戻しながら微笑んで聞くと、また黙り込んでしまう。
いや、なんか怖いご令嬢みたいな返答になってしまった。悪いとは思う。
でも、それ以外返しようがなくないか。どれに対するつもりについて聞いているのか分らないもので…。
別に沈黙は苦痛ではないので、相手がじっくり考えるのを待っていると、業を煮やしたように僅かに眉間に皺が寄った。
「どうして、わざわざこの部屋に連れてきた。何を考えている」
「別に。ただ、こちらの方が話しやすいかと思って」
何の気なしに答えると、何故か呆気にとられたような顔をされた。
───うん? 案外表情は多いわね。お義兄様や義父様みたく、表情筋が死滅している訳ではないのかしら?
それなら大分、分りやすい事だ。五歳同士で腹の探り合いをしなければいけないのかと身構えていた分、かなり拍子抜けである。
まあ、貴族の五歳だからか前世の幼稚園児よりかは大人びていると思う。私が言えた話ではないにしろ。
「もしかして……お前も…なのか?」
「……さあ。どうかしらね?」
ごめん。何が?
ちょっと、咄嗟に「分ってますよ」風な返事をしちゃった処大変申し訳ないけれど、どこら辺に共通要素を見出されたのか皆目見当も付きません。
おい、五歳児。
もう少し言葉多めに、説明プリーズ!!
「お前も気が付いているだろう。俺達に向けられている、視線の意味に」
「……ほう」
苦々しく話す彼を見て、取り敢えず私は、適当な相槌を打つだけに留めた。
私の気の抜けた相槌を肯定と取った彼は、自分の置かれている境遇について語り始めた。
お茶のおかわり欲しいな。
あ、自分で淹れないと駄目か。
「この世界は、魔法が全てだ。魔力が万物動かし、私達貴族はその魔力を宿す者としての責任と、ある程度の地位を約束されている。魔力は血に宿り、血は継承され受け継がれていく。それは、例えば髪や瞳の色となり、一族の魔力が受け継がれた証となっている。そこまではお前も知っているだろう」
うーん。自分で淹れると味が落ちるなぁ。
前世はティーバッグでちょちょいだったから下手も何もなかったけど。
───あれって、文明の賜物だったのね。いかに便利な世の中だったかよく分るわ。うんうん。
前世を思い出して深く頷く。
しみじみと、文明の偉大さに感じ入っていた私は、端から見たら神妙な顔をしているように見えただろう。
「強い魔力を持つ一族は、貴族の中でも高い地位を保持している。王族は赤。武勇の誉れ高き炎の一族だ。ハンスブルク公爵家は緑。気高く何者にも縛られない風の一族。そして、父上の生家シュトラール公爵家は青。誇り高く厳格な、水の一族だ。直系であるほど血が濃い事から、より深い魔力の色を宿して生れてくると……されている」
「そうね」
「だがっ!!! っ………」
まだ何か葛藤した様子の彼を、私はじっと見つめた。
まあ、その辺は大まかに習っているけど。
何故この話を私に今するのかって事よ。
私は三杯目のお茶を自分のカップに淹れ直す。相手にも「おかわりは?」と言うように目線で聞くと遠慮がちに頷かれたので、失礼して注いであげた。
子供が遠慮するものではない。
暖かいお茶を口に含んで少しは落ち着いたのか、若干乱れていた呼吸が落ち着いたように思う。
「……だが俺は、シュトラール公爵家の青を持たない。兄上達も叔母上も、皆が青き貴色を持つというのにっ!」
「ええっと、叔母様の髪は……」
「赤だ。第四王女だったからな」
「ふーん?」
「それに、弟も見事な青い髪だ。家族の中で異色なのは、俺だけということになる」
──赤と青ねぇ……?
改めて目の前の客人──もとい従兄のセルゲイ──を眺める。
言われて今気が付いたけれども、確かに彼は、見事な紫の髪をしていた。それに、思い返してみれば彼のお兄さん達や侯爵様は皆、青い髪に青い瞳だったように思う。
ただ正直、それがなんだ、という感想だ。
前世日本人で、髪が傷むと言う理由から髪を染めた事も一度しか無い私からすれば、黒以外の髪色は全部ファンタスティックカラーだ。
大学生時代に見かけた有り得ないような奇抜で鮮やかな色合いは、この世界では当たり前である。
魔力だかなんだか知らないが、一族で同じ色が必ず遺伝するというのも、前世の記憶をもつ私からすれば違和感だらけだ。メンデルのインゲン豆は、この世界では仕事をしないらしい。
というか、五人兄弟で…失礼、六人兄弟で一人も違う色にならないのが当たり前とは、どういう了見だ。
母親は王族の赤というらしいし、そんなに簡単に王族の赤が淘汰されて大丈夫なのか。
寧ろ、王族の血の遺伝の弱さが心配になってくる。
これは、あれだろうか?
王族あるある、先祖が近親婚ばかりして、遺伝子が弱くなっているとか。
うわ、どうするんだ。
「俺は、多分……父上と母上の、本当の子では無いと思う」
「ちょっと待ちなさい、どうしてそういう発想になるわけ?」
「お前も、そう思ったことはないのか。一族にない色をもつ事を、疑問に思う事は?」
ええー。それを言われると、私は確かに義父様と義母様の子供ではないけども。
一応、義父様の双子の兄(緑)と隣国の王女(金)との間で二等分……?
金緑色だし。
混ぜたらこうなりましたって感じだろうな。
……。ん? 混ぜたら二等分……?
うん?
青と赤で……混ぜたら……?
───紫よね。あら? 別に何の問題も無くない?
「俺は、本当の息子でもないのにあの家にいるのは心苦しい。気を遣って優しくして下さる兄上達にも申し訳ない」
「こじらせてるのねー」
「何か言ったか?」
面倒くさい。実に面倒くさい。
これは多分、完全に、すっかり、さっぱり、ただの誤解で間違いない。
というか、普通に暮らしていてそんな発想浮かぶものだろうか?
まだ五歳だぞ。
幼稚園児が、それもあんなに家族仲の良さそうな──勘だけれども──家族に囲まれて暮らしているであろう子供が、「自分はもらわれ子かも」だなどという考えをチラとでも頭に過ぎるものか?
思春期でもあるまいに。
───思春期ならね。こんな親の元に生れてくるんじゃなかっただの親ガチャ失敗しただの、言ってる同級生は見たことあるけど。
特に男子。
何があったかは詳しく知らないし知りたくもないけど、一言言ってやりたいなと常々思っていた。
私立の高校学費払ってもらって、大学生になったら一人暮らしの資金出してもらって、週に何度も物資お金仕送りしてもらって、友達との遊び代は軍資金で。思いっきりおんぶに抱っこな状態で大きな口叩くなよと。
そんなに親の言いなりが嫌なら、一人暮らし代も携帯料金も自分でまかなえと。
お前が彼女に自慢しているその車は親が買った物だと。
その人の家庭がどんな状況か、体感することも本当の意味で理解する事など出来るはずもないけれど。少なくともこれだけは確かだと思う。
毎日ご飯を作ってくれて、服も寝る場所も用意してくれて。
朝起きておはようと言ったら返事が返ってきて、帰ったらただいまが言えて。
喧嘩することがないとは言わない。互いに言われたくないことを言ってしまうことがあって、家を飛び出すことがあっても。
それでも、帰る場所を残してくれるなら。
それはもう親として、最低限、良くやってくれているんじゃないのか。
うん。
まあ、いつもこんなことを考えているわけじゃないからな。
私も偉そうなことは言えない。
さて何の話だったか。ああ、思い出した。
幼稚園児らしからぬ、発想。
周囲に、五歳児の情操教育に良くない影響を及ぼす、お喋り鳥がわんさかいるとしか思えないんだが。
「セルゲイ、ちょっと、付いてきて」
「……なんだ」
私は、問答無用でセルゲイの腕を掴み、引っ張っていく。ついでにあるものも持って行く。
セルゲイは私の後ろで「おい、今度はどこに連れて行くつもりだ」などと訝しんでいるが、抵抗などはせずに付いてきてくれる。
それでいい。
下手に抵抗されると、あまりの面倒くささにぶっ飛ばしてしまうかもしれない。
この手の事は多少強引にさっさと解決するに限る。
頭の中に、某魔法魔術学校の看護師が「(骨の)治療は荒療治です」というシーンが浮かぶ。
全くその通りだ。私の取る手段はカボチャジュースのように甘かないぞ。
廊下をずんずんと進んでいく私の鬼気迫る様子に、すれ違った使用人達が驚いた顔を見せる。これでも、普段は可愛子ぶりっこしている身だ。この際致し方ない。
「レイリアン様、どうかされたのですか」
「ああ、サム。丁度良いところに。お兄様とセルゲイのお兄様方を呼んできて頂戴。応接室で待ってるから」
「ええ? り、了解致しました」
「お願いね。急ぎよ」
「はっ」
走り過ぎざまにすれ違ったサムに言伝を頼んで、私は義父様達が歓談中である応接室に向かう。
応接室は程なくして見つかり、扉の前に立って私は深呼吸をした。
隣でセルゲイの慌てている様子が伝わって来るが、軽く無視だ。
「お父様ぁああああお母様あああああぁあああ!」
「!?!?!?!?」
「「「……」」」
扉がバチィーンと音が鳴るほど体当たりして、私は驚いて声も出ないセルゲイを引き摺ったまま応接室に転がり込んだ。
中で給仕をしていた使用人達が目を丸くして出迎える。
流石に義父様達はポーカーフェイスを貫いていたようだけれど。何かを察した義母様が、使用人達を下がらせたのを見届け、私は、さらなる混沌を投下した。
「聞いて下さいましっ!!! 私つい先程、セルゲイにあり得ないことを言われてしまいましたのっっっ!!!」
「なっ! ち、違っ……!!」
「私とセルゲイが、お父様とお母様の本当の子供じゃないと言われました!!!」
「おまっ……なnっ……!!」
頭がフリーズしているセルゲイは、まともな言い訳が出来ないでいる。その隙に、私は言いたいことを捲し立てた。
「理由は髪の色が一族の持つ色を受け継がなかったからだそうですっ! でも! それって全然関係ないと思いましたっ! セルゲイはどうっ見ても叔父様の子供でしかないですもの!」
「や、やめろそれ以上…………え?」
「…どういう事かな」
「これを見て下さいませっ!!」
私は逃げないようがっしり掴んでいたセルゲイの手を離し、もう片方に持っていたもの──画材道具──を、応接室のテーブルの上に広げた。
その中からパレットと筆と絵の具をだし、赤と青の絵の具をパレットの両端にたっぷり出す。
そして、二色を豪快に混ぜた。
三色の散らばるパレットを掲げ、私はハキハキと説明する。
「青と赤の絵の具ですわっ!! 混ぜると、紫になりますっ!!! 叔父様は青、叔母様が赤っ!!! セルゲイとおんなじですわねっ!!!」
「なんだとっ!?」
セルゲイはひったくるようにして、パレットを覗き込んだ。
まるで信じられないとでも言うように、首を横に振って「嘘だ」「だって」「魔力は父親の」「一族の色は」等と呟く。
その彼の背に、いつの間にか側に来ていた叔父様が優しく手を添えた。
「セルゲイ…」
「嘘だ、こんな……」
「信じられないかい? お前は私の息子だし、お前を生んだのはディアナだ。嘘偽り無く、そうだと言えるよ。名前に誓ったって良い」
「!」
神聖魔法の一種に、真実か偽りかを審議する魔法がある。主に貴族の裁判などで使われるそうで、この魔法を使用されている間は、嘘がつけない。権力の圧力や身分の差によって、弱い立場にあるものが虐げられる事のないよう編み出された魔法なのだそうだ。これを行使する際、貴族は名前を魔法で縛られ、名の下に嘘偽りない事を話すという誓いを立てるのだそうだ。
その他の神聖魔法に、結婚の際にするものもある。こちらは、配偶者を裏切らぬように名で縛るというものだ。
つまり、叔父様の言う名に誓うとは、神聖魔法を使ったとしても真実を話すと誓うという意思表示である。ということは、やはりセルゲイは叔父様の子供であるということだろう。
「すまない。お前が髪の色で悩んでいるのは知っていた。ただ、私もディアナもどう伝えれば良いのか、どう伝えればお前が信じてくれるか分らなかったんだ。情けない有様ですまない」
「父上達が悪いわけでは! 俺が…」
「ええ皆悪いですわねっ!!!」
「「!!」」
口を挟んですまないが、私のテリトリーに面倒ごとを持ち込んだからには目一杯、思うことを述べさせて頂こうではないか。
第一、悪いのは俺いや私は何の解決にもならない。
私はまず、セルゲイに向き直った。
深呼吸して、にっこり笑う。
「まず、セルゲイ! あなた……。
被害妄想も甚だしいわよっ!!! 初めて会った私でさえ、あなたのお父様とお兄様方があなたを本気で愛していることなんかお見通しだったわっ!!! それにっ、仮にもし貰われ子だったとして叔父様もお兄様方も、あなたを家族の一員として認めてるのだからまぁああああったく関係ないわねっ! というか! あなた、自分の家族が髪の色なんて些末ごとであなたを邪険にするような尻の穴の小さい人達だと思っていたのかしらっ!捻くれるのも大概にしなさいよ!?
それにねぇ、何ですって? 髪っ!? 髪の色がなんだってのよっ、男は中身よ筋肉よっ!!! 馬鹿言ってんじゃないわっ外見になんか拘ってるから変な噂に惑わされるのよ情けないわね!!」
「うっ、そ、そんなことは……」
「次に叔父様っ!!!」
「な、なんだいっ?」
ごちゃごちゃ言うセルゲイはまるっと無視して、今度は叔父様に向き直る。
若干及び腰になっているような気もしないではない。
侯爵様ともあろう人が、五歳児の剣幕におびえるはずもないから……。
まあ、気のせいだろう。
「いいですかっ!
思春期前の子供というのは普通親の言うことは絶対、親が全ての刷り込み卵の雛状態な筈です!!!叔父様やお兄様方の様子を見ていれば、普段からセルゲイに対しても愛情を持って接しているのでしょうけれど!! にもかかわらず、あそこまでセルゲイが思い詰めたり貰われ子等という勘違い甚だしい妄想「も、妄想……」が発想として出てくるっ!!!!! 異常です普通なら絶対有り得ません、日常的にそういう事を囁く姦しい人間が近しい場所にいないとすればっっ!!!!」
「なっ!! セルゲイ、本当なのかッ!?」
「え、……はい。確かに、俺が貰われ子ではないかと話す使用人は…いるけど…」
「誰だっ!? そんなふざけたことをお前の耳に入れたごみはっ!?」
「えっ!?」
叔父様は普段のあの穏やかさからは想像も出来ないほど、背景に噴火した火山を背負ってワナワナと震えている。あまりの剣幕に、セルゲイは呆気にとられてポカンとしている。
叔父様は気が付いたのだろう。
セルゲイが自分の出生に疑問を持つようになった、そもそもの発端を。
恐らくだが、いたのではないだろうか。
きっかけは、何故自分だけ髪の色が違うのかというような、些細な疑問だったとして。
普段から、まるで漆を塗るように言葉の毒を上塗りしている者が。
一人、あるいは何人も。
果ては、大好きな家族の言葉さえ信じられなくなる程の、強い疑念や不信感を抱かせた。
そういう存在が。
───その人物が侯爵家の不仲を狙ったのかは知らないし、もしかしたら、単純に口さがない噂のつもりだったのかもしれないけれど。聞かされた方はたまったもんじゃないからね。まあ、叔父様もそのままにはしないでしょう。
人の噂も七十五日とは言うけれど。
明らかにそんな期間で終わっていない噂なら、故意に流した者がいるということだから。
まあ、年貢の納め時ということで?
無難にクビじゃないかな。
───無責任な噂をばらまくような使用人、いらないものね。口は災いの元だよ、うん。
なんだかんだ誤解が解けた様に見える親子を見ながら、私はうんうんと頷いた。
すると、そんな私の頭をヨシヨシする手がある。いつからいたのか。そっと隣に立っていたのは、お義兄様だった。
よくよく見ると、扉からよく似た顔を覗かせる双子達もいる。
そういえば、呼んだのだった。
「レイリアン。何かしたのか」
「何も。ただ私は、お義兄様が大好きって事ですわっ!!」
「私も大好きだよ」
うん。
やっぱり、本当の親子や兄弟であることは、それほど重要じゃない。
私がお義兄様の弟で、お義兄様も私を弟として愛してくれていると分かる事。
そっちの方が重要だなと。
相変わらず鉄仮面な表情は変らないけれど、優しく頭を撫でてくれるお義兄様を見て、そう思った。
読んで下さり、ありがとうございました!
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