001 エピローグ
新連載開始しました(すみません!ネタを閃いてしまってから勢いで書いたので所々おかしいです……m(*_ _)m)
他の作品の合間に書くので、更新は遅めかもしれませんが、どうぞお楽しみ下さい。
「今日からこれが、お前の弟だ。仲良くしてやれ」
自分を指さし、目の前のまだ幼さの残る青年に厳かに告げる男。
青年と男は容貌がよく似ていて、お揃いの深緑の髪に、同じ色の目をしている。青年の傍らにはその母親と思しき、優しげな雰囲気の女性が美しい顔を困惑に染めて立っていた。
青年も初めは困惑や戸惑いという感情を見せていたが、やがて事態が呑み込めたのか怒りや憎悪といった感情に上書きされたようで、射殺すような目でこちらを睨め付ける。
それはそうだろう。
何せ、異母兄弟との対面なぞ青天の霹靂だろうから。
だとしても、安心してほしい。
──アタシは異母兄弟になるつもりなんか無いからね!
「酷い冗談だわ、妻子に黙って余所で子供をこさえる様なフザケた男がアタシのパパンだなんて! 何かの間違い以外の何物でもないわ、アタシ実家に帰らさせてイタダキマス!」
「お前の実家はここだが?」
「アタシの実家は元いた孤児院に決まってんでしょう?! その顔で笑えない冗談いつまでも言ってんじゃないわよ!」
「この顔はお前と同じだが?」
「アタシとアンタの表情筋コンクリートを一緒くたにしないでちょうだい?!
よくもまぁ、あんなにお美しい奥方様を泣かせるようなことが出来るわね、いっぺん死んだら?」
「何を言ってるのか分からないが、私はミシェルさえいれば良いのでなんの問題もない。泣かせる? なんの事だ?」
「この鉄面皮鈍感ニブチン男がっ! 産んだ覚えのない子供を夫が連れてきて、いきなり今日から家族だなんて言われるストレスがアンタに分かるもんですかっ!」
「ふむ、一理あるな? 今度から事前に知らせておくとしよう。ミシェル、悪かったな」
「い、いえ。あの……、そちらの子供は、男の子……なのですよね?」
全く話の通じないアタシの自称”父親”は、これまた全く頓珍漢な謝罪を美しい奥様にした。
可哀想に、奥方様は益々困惑してしまっている。
──これだから顔だけ男は!
アタシは奥方様のしているだろう困惑を解くべく、向き直って姿勢を質した。
「奥方様、驚かせてしまい申し訳ありません。仰る通り私めは生物学上”男”ですが、心は純粋な”乙女”でございますればカテゴリーとしては”オネェ”とさせて頂きたく。が、私めがこちらにご厄介になる事などないと思います。今すぐに回れ右して御身の視界から消え失せますので悪しからず」
「まぁ……」
「こらこらさらっと出ていこうとするな」
「離せ変態! 初対面でいきなり下履き脱がされた恨みは忘れてないわよ!」
「あなた? 幼気な子供に何をなさっているのです?」
「誤解だミシェル」
「父上?!」
丁寧にお詫びを入れると、奥方様のアタシを見る目が少しだけ感心したようなものになる。そのお陰か、自称父親の暴挙を知って庇う姿勢を見せてくれた。
なんて素敵な奥様だろう。
ご子息はと言うと、またもや驚きを飲み込んだように目を白黒させていた。
まっ!
明らかに貴族然とした父親と、昨日まで孤児だったぽっと出の自称弟が──アタシは名乗ってないけど──有り得ない軽さで言い争っていたら、そりゃあ驚くわよね!
これでも初めは何枚も分厚い猫かぶってたのよ?
でもほとんど拉致のように連れてこられた馬車の中ではもぉー、取り繕ってる場合じゃないわと思って!だって、殆ど人攫いと同じよ此奴!人の事情もクソもなかったわ、文字通り、問答無用って感じね!
本当は貴族に「アンタ」なんて言ったら打首だと思うんだけど、なぁんかこの男、アタシの喋り方がツボに入ったみたいで……。咎められないし。
人間、一度大丈夫って思ったらその後はどーでも良くなる生き物よね?
「ミシェルと私とで偉く態度が違うではないか?」
「シャラップっ!!!さぁさぁ、とっととアタシを元いた場所へ返して頂戴! ちびっこ達のご飯を調達しないといけないんだからねっ!」
うるさいんだからこの男は!
よく考えてみなさいよ!
見るからに高位貴族の家族。
キラキラの豪邸。
エントランスに並ぶ大勢の使用人たち。
それに比べて─、
───アタシをご覧なさい! いくら美少年だからって、今まで孤児だったのよ! そんな存在、半分血が繋がっていようが(?)いまいが、普通は受け入れられないはずよ!
いびられ続ける日常なんて真っ平!
よしんばこの家族に受け入れられたとしても、貴族社会が私の存在を許すとも思えない。
それだったら、毎日の生活が苦しくても孤児院でちびっこ達の為に働いてる方がいいわよ。
流石にこの男も家族から反対されれば、無理やり養子なんて出来ないでしょう?
鼻息荒く了承の言葉を待っていると、漸く根負けしたのか自称パパンが溜息をついた。
しかし、次いで言われた言葉は希望通りのものではなく……。
「お前のいた孤児院には援助をしておいた。もうお前が子供の面倒を見る必要などない。分かったら、レイモンド! これを風呂に入れよ。あとの者は、これが暮らす部屋を整えておけ」
「ちょっとっ?!」
「はっ。メリナ、カサーラ。ご子息を湯殿へ。東館の者、急ぎ部屋の準備を」
「「「「「「はいっ!」」」」」」
レイモンドと呼ばれたのは初老の男性だ。
燕尾服をビシッと着こなし、片目にモノクルを掛けた如何にも使用人たちのトップといったオーラを漂わせている、ロマンスグレーのおじ様だった。
そのレイモンドが何人かの使用人たちに指示を出し、名指しされた侍女らしき二人に、アタシは有無も言わさず引き摺られていく。
最後まで抗議の目を向けていたアタシが見たのは、それまでの軽いやり取りなど感じさせないほど厳格で他を寄せつけぬような雰囲気をした男と、彼に追随する大勢の使用人の姿だった。
「今一度言うが、あれは正真正銘私の息子だ。下手な扱いなどせぬように」
『畏まりました、旦那様』
使用人全員が、一糸乱れぬ動きでお辞儀をする様を最後に扉が閉められる。
───もおぉぉ!一体全体、どうしてこうなっちゃったのかしら?!