営業の後って……
中は歩いて一戸建ての古めの家の前にいた。
表札には 会田 とかいてある。
「久し振りだな…ここ来るの」
戸を開けて家に上がる。
しかし、誰もおらず水の音が聞こえそうなくらい静かだった。
「おじゃましま~す」
言っては見たが返事は一切ない。
家中探したが人は見つからなかった。
あきらめてテレビを見ていると、ケータイが鳴った。
ディスプレイには美優の名前が出ていた。
「もしもし、どうした?」
『もしもし、中兄ちゃん』
美優の明るい声がした。
「なんだよ」
『そっちに母さんとかおる?』
「いないよ」
『やっぱり~旅行行くってゆうてたもん』
中はため息をついて一言も言わずに黙っていた。
『そんな訳なんで
ほなね~』
美優が電話を切るとまた家中がシンとなった。
中は何気なくテレビをつけると爆バトのファイナルが入っていた。
「そっか今日が放送日か…」
オリジナルレイディオがネタをしていた。
「………ぷ…やっぱ面白いなこいつら」
一人の部屋で呟いた。
そして、パリブーツが出て来て漫才を始めた。
優勝者だけに毒舌なボケが笑いを誘った。
そして何より遼のツッコミが鋭かった。
中も気付いていた、ナカナカの漫才が1位になれない理由を。
他の漫才コンビのツッコミが鋭いから自分のツッコミがダルく見える。
内がどれだけボケても消化不良で終わる。
内に迷惑をかけてばかりかけている。
そう思う日々が続く中。
「若手マンザイ王座戦か…」
次の日ー
駅でマネージャーとナカナカの二人は待ち合わせをしていた。
「はぁ…遅いですね…」
「あぁ…」
「……」
爆笑チャーハンが待ち合わせ時間に来ずにまっている三人。
ナカナカが爆笑チャーハンのマネージャーに電話する。
「えっ…本当ですか?」
マネージャーが驚いたように聞き返した。
電話の向こうで謝っているような声が聞こえる。
「わかりました」
マネージャーは電話を切って、内と中に新幹線に乗るように指示する。
「チャーハンさんは?」
「もう大阪に帰ったそうです」
内は黙って新幹線に乗る準備を始めた。
「チャーハンさんらしいっすね」と中は笑っていた。
マネージャーも「そうだね」と言って駅のホームに歩き始めた。
夜八時ー
内は渋谷駅に来ていた。
美優が歌ってるのを遠くから見ていた。
裕子との事を思い出しながら……。
「ありがとうございました~」
美優は大きな声で周りの人にお礼を言った。
そして、ギターをしまい内の方に近付いてきた。
内は顔をフッと逸した。
内の横をスーッと通り過ぎって行った。
ホッとしたが心の中に残念というか言葉に出来ないモヤモヤが出来た。
渋谷の駅前で腰をかけて座って空を眺めはじめた。
五分くらいたった頃に中が駅に向かうのを見つけた。
ずっと中のことを見ていると、中も内に気付いたようだ。
そのまま駅から帰っていった。
「なにしてんだよ…」
一人で呟いて笑っていた。