爆バト最終決戦!
二週間後ー
内はビジネスホテルに泊まっていた。
「……よし……」
舞台用のスーツを持って部屋を出た。
今日は爆バト最終決戦の日。
いつも顔には出さない内もやる気が表情に出ていた。
中は自分の地元が会場だったので実家に泊まっていた。
両親は共働きで家にはいなかった。
「しゃあ!!」
気合いをいれて最終決戦の舞台へと向かった。
北海道函館市ー
本番前のリハーサルを終えて芸人達は楽屋で緊張をほぐしていた。
ナカナカの二人はスーツに着替えお互いの肩を軽く殴った。
それを見てた芸人達は、
思ったより仲悪くねぇじゃん
と口にはしないが思っていた。
「ヨォ~何かいつもと違うじゃん」
三田村が相方の 遼 と一緒にやって来た。
中は笑顔で「負けたくないっすから」と答えた。
「オレら追われる側だもんな」
パリブーツは爆バトの十七代目のチャンピオン、今日だれよりもプレッシャーがかかっている。
「お互い頑張りましょうよ」
中はそう言ってトイレに向かって行った。
遼もそれに続いて行った。
中がいなくなったのを見て内に聞く。
「お前さ、中とケンカばっかだろ」
「まぁ……そっすね…」
「ホントに珍しいコンビだなお前らって」
そう言い残して三田村は他の芸人の輪に交ざっていった。
内は何が言いたいのかよく分からなかったが、言われて悪い気はしなかった。
本番五分前ー
周りの芸人の緊張が高まっていく。
パリブーツの二人は特別な入場があるらしく何処かへ行ってしまった。
「ナカナカさんは十番目だから…………一番最後の入場になります」
スタッフが説明をしていく。
それを聞いた内はネクタイ締め直し、中はちょっと緩くした。
そして本番が始まった。
「今季4勝を達成したバトラー達が今年一番になるためにしのぎを削ります
さぁ爆バト最終決戦スタートです!!」
アナウンサーの紹介とともに次々芸人達が出て行く。
「緊張してんのか?」
中が笑いながら聞いてくる。
内は笑いながら「するわけねぇだろ」と言った。
そしてナカナカの入場の番が来た。
「番組史上最高得点保持者
今季は全て九十点越え
今大会の優勝候補
ナカナカ!!」
二酸化炭素ガスが出て客席の奥からナカナカの二人が出て来た。
客席から歓声が聞こえる。
手を振りながら舞台に向かって行く内。
筋肉アピールをしながら歓声を受けている。
二人が舞台の上に並ぶと元々薄暗かった明かりがさらに暗くなる。
「そして第十七代目チャンピオン
漫才界の毒舌王
パリブーツ!!」
後ろのセットが分かれてチャンピオンベルトを背負った二人が出て来た。
内は三田村と目が合ったがフイっと違う方を見た。
そんな内を三田村は笑顔で見ていた。
「順番はくじ引き抽選で決めてもらいましょう」
そう言うと目の前に十一個の箱が並べられた。
一斉に箱を選び出す。
芸人らしいノリを交えつつ順番が決まった。
ナカナカは一番最後、その前にパリブーツ。
三田村達の漫才の後はどんな芸人だろうとやりにくい。
ナカナカはさらに緊張感が増していった。
舞台裏にくると一時的に緊張が解ける芸人たち。
「いや~アイツらがオレらの後か……」
三田村は頭を書きながら遼に言っていった。
遼は笑いながら「まぁいんちゃうんか」と三田村の肩を叩いていた。
「ご愁傷様です~」
ナカナカに後輩のオリジナルレイディオの藤林が嫌みっぽく言う。
「何がご愁傷様だよ
お前もパリブーツの前じゃねぇかよ」
中は藤林をヘッドロックしながら言った。
相方の中澤は「前と後じゃ違いますよ」と言った。
騒いでるなかで内は誰かと電話をしていた。
明るい感じではなかった。
「………わかったよ、じゃあな…元気でやれよ!」
切った電話を少し眺めていた。
そしてトップバッターのネタが始まった。
「中!!ネタ合わせするぞ!!」
内は後輩とふざけている中を呼んだ。
中はヘッドロックを外して内のいる方に向かった。
次々と進んで行き、オリジナルレイディオもネタを終えて戻ってきた。
「そろそろだな…」
中は緊張した面持ちで呟いた。
袖から舞台を見ていた。
「緊張するな……」
内は一人で呟いたつもりが中にまで聞こえていた。
中は内が声に出すほど緊張している姿をはじめて見た。
パリブーツのネタが終盤に差し掛かり、客も盛り上がっていく。
見ている限り今日一番の笑いの多さだった。
ネタが終わりアナウンサーからインタビューを受けるパリブーツ。
「ナカナカさんスタンバイお願いします」
スタッフが幕のそばまで案内する。
内の落ち着きがいつもよりない。
「最後のチャレンジャーは……
ナカナカ!」
二人とも勢いよくマイクまで飛び出していく。
「ナカナカです
ヨロシクお願いします」
いつもどおり漫才が始まる。
ネタは新ネタだが自信を持ってできるそう確信している中、それに対して今一つ漫才に集中仕切れていない内。
「それと同時にお前の鼻毛がドーン!」
「ならねぇよ!!見たことねぇだろそんなやつ!」
掛け合い漫才が順調に進んでいるように思えたが……内に僅かに勢いがなかった。
「もういいよ」
「って言ったら鼻毛がドーン!」
「ならねぇって!!」
二人とも客に一礼してアナウンサーが進行するのを待つ。
その夜ー
乾杯!!
爆バトの打ち上げをする芸人達。
中はパリブーツと話しながらお茶を飲んでいた。
「結局パリブーさんの二連覇ですか」
「まぁな」
三田村は笑いながら勝利の酒を飲んでいた。
結局三点差でパリブーに敗れたナカナカ。
内はショックだったのか打ち上げにくることはなかった。
ドンチャン騒ぎは閉店時間まで続いた。
その夜ー
内は自宅に帰って来た。
テーブルの上に置き手紙があった。
【私には芸人の妻、嫁として勤めることが出来ないみたいです
晃之と一緒に………】
涙でにじんでこれ以上は見れなかった。
ずっといると思ってたものを失うのは、こんなに悲しいんだ。
内は初めて体験した思いに涙が止まらなかった。