仕事納め
次の日ー
内は二日酔いで重い頭を支えながら大掃除を始めた。
後輩達も手伝いに来てくれる予定だが、来る前にはある程度片付けておきたかった。
しかし思うように体が動かず九時から始めたが、十二時になっても片付かず後輩が来てしまった。
「全然片付いてないっすね」
そう言いながら、次々と片付けていった。
内は、ただ見ているだけで部屋がキレイになっていく。
後輩四人は頭や首にタオルをまき、そのタオルには汗が染み込み始めた。
三時になると、借り始めの時よりも部屋がキレイになっていた。
内は「ありがとな」と言いながら後輩達にビールを出した。
「ビールよりもアレ見せてくださいよ」
後輩達はテレビの前に座って画面を見ていた。
「中兄ちゃん、何してんねん?」
戸棚からホコリをかぶった段ボールの中から何かを探していた。
美優が段ボールの中を覗くと、昔のナカナカの漫才を撮ったビデオが沢山あった。
「何してんの?」
「ちょっと探し物…」
そう言って段ボールをひっくり返すと、ビデオテープが床に落ちた。
美優は唖然としながら中を見ていた。
中は、床に散らばったビデオテープをあさり「ヨッシャ~あった!」と言ってテレビに向かった。
「なんやAV探してたん?」
「違うわ!昔のオレらのネタのやつ探してたんだよ」
そう言って段ボールをひっくり返すと、ビデオテープが床に落ちた。
美優は唖然としながら中を見ていた。
中はデッキにビデオを入れて再生を押した。
画面には、【古本東西漫才合戦】と書かれたセットで漫才をするナカナカが映った。
「今時もトップで漫才やってさ~
ヒドかったな~ただ滑りでよ…」
悲しそうに美優に言った。
美優は笑いながら「知らんよ!」と言って中が散らかしたビデオを片付け始めた。
「まぁ~この前は兄ちゃん達が二番目におもろかったけどな…」
「一番じゃねぇのかよ」
中からさっきまでの悲しそうな顔が消え、ノートとペンを引き出しからだした。
一週間後ー
年の仕事納めー
2009年残り二日残して最後の仕事。
WMOのファイナリストも集まって新年に放送する番組の撮影だった。
楽屋に入ると、芸人がワイワイと騒いでいる。
中は騒いでいるなかに交ざって話し始めた。
内は端で静かにiPodのイヤホンを耳につけていた。
それから何組かまとめてリハーサルを行い、本番を向えた。
四十組出る中でナカナカは三十番目とほぼ最後の順番だった。
収録が始まると司会の、垣根が進行していく。
二十八番目が終わり、ナカナカは袖で待機していた。
田中中田が珍しくコントをして会場を沸かせていた。
漫才もコントも作り上げていて、芸人たちは感心していた。
「麺を足でこねて」
「誰がするか!!」
笑いが会場をつつむ。
楽屋でみている芸人たちも手を叩いていた。
「もうエエわ!!」
礼をして漫才かのように舞台を降りて行った。
そして、出囃子がなり内と中は勢いよくセンターに向かって行った。
「はいド~モ!!」
「WMOの4位です」
「言わなくていいよ!」
二人がアドリブで三十秒ほど漫才をして、本ネタに入っていた。
テンポ良くポンポン進んでいき、笑いもおきたが何か物足りなさを覚えた内。
「だから、どんだけ~なんですよ」
「んなわけねぇだろ!!」
また笑いがおきたが物足りない。
中は、絶好調に喋っていた、内の物足りなさには気付かずに、いつもより調子良く飛ばしていた。
「から、どんだけ~」
「には、ならねぇんだよ!!
もういいよ」
誰もが今日一番ウケた、と思っていたが、内はあまり納得していなかった。
「それでは今年一年もヨロシクお願いしま~す」
垣根が上にあるカメラに向かって、手を振りしめた。
カメラも止まり、出演者は「おつかれさまでした」と言ってスタジオを出た。
中は、プロデューサーと話していた。
内は、すぐに楽屋に戻って今日のネタを見直していた。
「何してんねん?」
田中がお茶を飲みながら、楽屋に戻って来た。
ネタ帳を閉じて田中に見せた。
田中は、お茶の缶をゴミ箱に捨て、「去年はWMO…点数で負けしもたけど今年は圧倒的に勝ったるからな」
敵意むき出しに言い、着替えて楽屋から出て行った。
「こっちだって負けねぇよ」
誰もいない部屋で一人で呟いた。
五分位たつと、中が入って来た。
今日のネタのウケ具合に満足しているようだった。
漫才用のスーツから、
普段着に着替えて「今日ウケよかったな」と言って出て行った。
「よかねぇよ…」
そのネタの部分を破り捨て、カバンにネタ帳をしまった。