二人の格差
収録終了後…
「おつかれさまでした」
勝った芸人も負けた芸人も明るく挨拶をして出ていった。
「すいません!歴代最高得点の感想お願いします」
ナカナカにコメントを求めて繰るカメラマン。
「やりましたね~」
明るく言う中。
それに対して冷たく「もう少しイケたと思うんですよね」と言い戻っていった。
中もカメラに手を振りながら内の後をついて行った。
二人は楽屋に入ると漫才をした後にいつもやる反省会をしていた。
「何か言うことはないか?」とキツく言う内、中は明るく「最高得点でよかったじゃん」と答えた。
「お前がツッコミかまなければもっと言ってたんだよ!」
「ワカンネ~じゃね~か!」
ちょっとずつ二人とも口調が荒くなっていく。
周りの芸人も冷や冷やと二人を見つめていた。
「いつになったら噛まなくなるんだよ!」
「ワリィな……」
ふて腐れたように中が言う。
「なんだよその態度は!」
内が中の胸倉を掴んで言う。
「すぐに暴力かよ」
「そうだよ!!」
内が中の顔面を殴る。
殴られた中は楽屋の椅子に突っ込んでいった。
スタッフが楽屋に入った時には、二人とも周りの芸人に止めれ、顔は痣だらけだった。
芸人達が集まってると思えないほど静かだった。
「またかよ…」
スタッフは呆れながら呟いた。
マネージャーは遅れて楽屋に入って来た。
「お前らまたかよ!」
マネージャーは二人の腕を引っ張りながら出て行った。
周りの芸人はナカナカの悪さを目の前で実感した。
「なにも殴り合いまで…」
「だから…」
マネージャーに言いかけて黙る内。
中はまだふて腐れた様子だった。
「二人の問題はちゃんと解決しろよ」
ため息混じりに言って局から出て行った。
二人は気まずい空気のまま各自家に帰って行った。
「ただいま~」
内は自分の住むアパートの部屋に帰って来た。
「おかえり~」
内と同棲している岡田 裕子 の声がキッチンから聞こえる。
「ご飯作ってるからちょっと待ってて」
内は何も言わずにテーブルの前に座った。
5分くらいたつと、裕子が内の好きなオムライスを内の前に置いた。
「芸人になってから晃之さ、毎日楽しそうだね」
裕子は微笑みながら言った。
内もそう思っていた。
ただの不良だった内は、裕子に勧められOSS入ったが誰も柄の悪い内とは絡んではくれなかった。
そんなとき、中だけが内と絡んでくれたのだ。
ちょっとした些細なことだが内にとっては嬉しいことだった。
「そうだな…」
内は笑いながら呟いた。
中は、家で今日の漫才のビデオを見ていた。
大事な落ち前に噛んでしまう今に始まったことではない。
しかし中々治らないのだ。
「また迷惑かけちまった…」
一人の部屋でポツリと呟いた。
ネタを書いている内の何にも役にたてていない。
そんな思いが知らないうちにプレッシャーになっていた。
「明日は劇場か…」
ホームのはずの劇場ですら緊張するようになって来た。
緊張を取るために一杯だけビールを飲んだら顔が真っ赤になって寝入ってしまった。
次の日
劇場ー
「はいど~もナカナカです」
「ヨロシクお願いします」
いつも通りのナカナカの漫才が始まった。
小気味好い掛合いを見せ、お客から笑いが起こる。
しかしハプニングが起きた。
中がネタを飛ばしてしまった。
内は慌てずそれに合わせてアドリブでボケて行く。
中も動揺していてが、内のアドリブに合わせてツッコミをいれる。
「もういいよ」
失敗を客に気付かせることなく漫才を終えた。
舞台裏に入ると内が中の顔面を殴った。
「おい!昨日は大事なとこ噛んで…今日はネタ飛ばして…」
「ワリィ…」
中は泣きそうな声で呟いた。
「はぁ…もういいよ…」
投げ捨てるように言って楽屋に戻って行った。
中は端でうずくまって劇場が終わるまで動かなかった。