良いことづくめ……
全国総勢2558組が初代チャンピオンを目指して、自慢の漫才で勝負する。
まず一回戦は全国7か所で二分のネタを披露する。
ナカナカは営業の関係で東京ではなく、仙台予選に来ていた。
「仙台で百組以上か…」
「…あぁ…」
会場の前で入るために並んでいた。
ギリギリに来たため、ほぼ最後尾になってしまった。
みんなエントリー番号がついている札をつけていることに中は気付いた。
「なぁオレたち札なくていいのかよ」
「…これだよ」
内がカバンから札をだし中に渡す。
その番号を見てまた腰が抜けそうになった。
「1番かよ……」
つぶやいている間にもドンドン時間は迫っていた。
「撮りま~す」
今は番号と一緒に写真を撮られている。
一番なのでネタの順番も一番最初らしい。
中の体は緊張でドンドン固くなっていく。
開演まで残り三十分どこを歩いてもネタ合わせしているコンビがいる。
「……なぁ内、オレたちも」
「大丈夫だって、今までやって来たやつだろ」
中の言葉を遮って内が言った。
内も人には見せないが、スゴく緊張していた。
もうタバコは、一箱開けてしまった。
見せない緊張をしている内のケータイがなった。
ケータイを開いて見ると2通メールが来ていた。
一通はプロパチンカーになりませんか というイタメ。
そして、もう一通は…裕子からだった。
ケータイの画面を見て表情が固くなる。
そして立ち上がり、「ネタ合わせすっぞ」と言って中を廊下に連れ出した。
「いらねぇって…」といいながらも中は売れしそうだった。
司会のエイティンフィフティンがお客さんを暖めていく。
「さぁそろそろいきましょうか
一組目どうぞ」
中と内が出ていくと客席からビックリような歓声が聞こえる。
「ど~もナカナカです」
「ヨロシクお願いします」
トップバッターはお客さんが固いというが、笑いが絶えず好印象のまま漫才を終えた。
舞台裏でエイフィフが笑っていた。
「おもろいな~お前ら~」
岡部が小さい体を震わせて笑っていた。
矢村も笑顔で腕を組んでいた。
「決勝いけるんちゃうん」と初めて会うのに話しかけてくる矢村。
岡部は喋らずナカナカがいなくなるとリラックスしたようだった。
中は東京に帰る準備をして、内は客席の方でキョロキョロしていた。
中は会場から出て駅に向かった。
アパートの前につくとケータイがなった。
マネージャーからの電話に恐る恐る出て見ると、「いや~おめでとう
初戦突破じゃん」
中はホッと肩を降ろした。
「あとな、初戦突破の祝いにもう一個良いことあるぞ」
「えっマジすか?」
中は明るく言う。
そのとき丁度、部屋のドアを開けていた。
「冠番組が決まったぞ」
「えっ!!」
中は腰を抜かして下駄箱にものすごい音をたてて、頭をぶつけた。
「なにしたん?大丈夫?」
美優はスウェット姿で出て来ると、玄関で腰を抜かしている中がいた。
美優に大丈夫だと示して話を続けた。
「明日打ち合わせな」
「はい、わかりました」
「ゴールデンだからな
頑張れよ」
電話を切った中を心配そうに美優は見つめていた。
中は笑って「ワリィけど肩かしてくれ」と美優を呼んだ。
「しゃ~ないな~」
中を支えながら、居間まで連れて行く。
途中で「重いな~」と何回も笑顔で呟いた。