闇の中の邂逅
少し読みにくいと思います。
すみません。
きにナッた。
かくしテもわかルカら。
ボくガえるフだかラまヨッてるっテ。
でモきみハちガった。
マよいナンてなカッた。
ドうしテ?
どうシて?
ぼクハえルふなノニ。
ボクであルマエにえルフなのニ。
どうシテきミハぼクヲキにしナいノ?
もシカしテ。
ボくをきニシなイキみナら。
ぼクヲエるふとシてではナク。
ぼくトシてみテクレる?
耳からではなく直接内に響く言葉を、聞き取りにくいがどうにか理解したリー。
おそらくこれが、自分がここにいる理由。
シングラリアとしてではない。主体に取り込まれたエルフの自我が、自分を引き込んだのだ。
そして同時に思う。
自我があるなら、助かるかもしれない、と。
「名前、言えるか?」
そう問うが返事はなく、ただひたすらに思いの丈が伝えられる。
人を絆すエルフの性。
否応なく向けられる厚意。そこにある事実はただエルフであることのみ。
個人であることは、そこにはあらず。
人に興味を持ち村を出た『ぼく』は、初めこそ人の優しさを素直に受け入れていた。
しかし、ある日気付く。
そこにあるのは自分への厚意ではなく、種に対する条件反射なのだと。
自分がどんな態度を取っても許される。その事実に落胆した。
人は自分のことなど見ていない。
エルフでありさえすればいいのか、と。
人の優しさを信じられなくなってしまった『ぼく』は、人の世から逃げるように故郷を目指し。
その途中で靄に捕まった。
穏やかに堕ち、自我を手放したはずなのに、ふと感じた違和感に己の望みを思い出した。
何事もないように黒い体を斬るあの男も、揺れを使命で押さえ込んでいるというのに。
この人にはその揺れが見えない。
エルフだからというためらいがない。
どウシて?
伝わる疑問に、リーはわからないと首を振る。
「俺はエルフから見てもちょっと変わってるって言われてるけど…」
その理由は自分にもわからないので説明のしようがないし、自分がほかと違うと言われても何がどう違うのか自覚もない。
確かにメルシナ村やエンバーの町人たちのエリアとティナへの様子や、食堂に集う請負人たちのラミエへの態度に行き過ぎたものを感じたこともあるにはある。しかしそれらがすべて、三人がエルフだから、という理由からのものではないと思うのだ。
食事を残すのは悪いからと言ったアーキスにしてもそう。もしラミエがエルフでなかったとしても、彼なら間違いなく同じ行動を取る。
そう、思うから。
「…でも、それってホントに俺だけなのかな」
つい、疑問が洩れる。
ざわざわと、周囲の闇が蠢いたような気がした。
「…俺の想像でしかないんだけどさ。俺以外の人だって、エルフだから優しいのかもしれないけど、それだけじゃないかもしれないだろ」
初めはエルフとしてだったかもしれない。しかし知り合って日が経つにつれ、それだけの理由ではなくなったとしても不思議ではないのだ。
行動の理由がひとつだとは限らない。
『ぼく』のことを知って、新たな理由を抱いていたかもしれない。
もちろんそれを知る術はない。しかしだからこそ、そう思うこともできるはず。
「……そっちの気持ちとはちょっと違うのかもしれないけど、自分として認めてもらいたいって気持ちだったら、俺にもよくわかるけどさ…」
リー自身、守られるだけの故郷にいられずに出てきた者であるのだ。自分自身を認めてほしいという気持ちは嫌というほどわかっている。
「……やれること、やるしかないから」
人からの気持ちは自分にはどうしようもないから。
自分にできるのは、そう思ってもらえるよう足掻くだけ。
足掻いて足掻いて、認めてもらえたと思える自分になれるよう、誇れる自分になれるよう。
ただがむしゃらに、頑張るだけ。
「だからさ、まずは一緒にここを出よう。出たらまずは名前から教えて?」
見えない手を前に伸ばす。
「あとはいっぱい話そう。俺でいいならいくらでも付き合うからさ」
伸ばせているかもわからぬ手には、取られた感触もなく。
「昔のことも、今からのことも、いっぱい話して。そしたらきっと、何か見つかるって」
自分さえ助かるかどうかわからないこの状況だが、それでも。
自分と似たような思いを抱えて迷い続けた『ぼく』を助けたいと、強く思った。
デきたラいイネ。
暫くの静寂の後、伝わる気持ち。
前向きなそれに、これならと思う。
「できるって―――」
ツレてきテごメんね。
ぼクハもウ厶り。
きミダけデモ。
リーの言葉を遮る思考。
何をと言いかけるが、声が出なかった。
身体の感覚がすべて消える。
見えぬ暗闇の中、あると思い込んでいた己の身体が虚像であったことを悟る。
自分は既に闇に呑まれ、闇に紛れていた。『ぼく』と同じ、意識だけの存在と成り果てていたのだと。
愕然とすると同時に、再び見えるようになった糸に気付く。
暗闇の中続く金の糸。
感覚はないのに、うしろから押されたような気がした。
ふっと、残る意識が沈む。
あリガとう―――。
遠ざかる声に、何も返せなかった。
ゆらり、と主体が立ち上がった。
なんの抵抗もしなかった主体の突然の動きに、レジストとフェイは距離を取る。
「ァアアァアァァアアアァッッ」
主体が初めて声を発した。何かに抗うように宙を彷徨わせた手を、ずぶりと胸元に突っ込む。
「何を…」
突然の凶行にレジストが声を洩らす。
「アァアアァァアァアアァッ」
ゆっくりと引き抜かれる手には靄の塊。ズルズルと胸元から引きずりだされていく。
はっと、フェイが目を瞠った。
「リー?」
「なっ?」
驚くふたりを見もせずに、引き抜いた靄の塊をその場に落とした主体が再び吼える。
落とされた塊からは僅かに靄が立ち昇り、徐々にあるべき色を取り戻していった。
「リーっ!!」
まだ心配半分のエリアの声を背に受けながら、レジストがリーの身体を主体の傍から引き離す。
「ミゼット!」
かけられた声に我に返ったミゼットにリーを託し、レジストは再び吼え続ける主体へと向き合った。
前回、今回と短めなので早く書けました。
これでペースが戻せればいいのですが…。




